電波ローブからのX線 ~ジェットのエネルギーを測る~

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電波ローブからのX線 ~ジェットのエネルギーを測る~ 磯部直樹(理化学研究所基礎特別研究員) 田代信(埼玉大理)、牧島一夫(東大理/理研)、 金田英弘(ISAS/JAXA)、伊予本直子(GSFC/NASA)

本題の前に 全天X線監視装置MAXI をよろしくお願いします。 2008年度に、国際宇宙ステーションに搭載します。 GSC : 大面積比例計数管 SSC : X線CCD(国産) 約90分ごとに、X線で全天をスキャンします。 史上最高の感度を持っています。(1 mCrab/week) 2 weeks

電波ローブからのX線 ~ジェットのエネルギーを測る~ 磯部直樹(理化学研究所基礎特別研究員) 田代信(埼玉大理)、牧島一夫(東大理/理研)、 金田英弘(ISAS/JAXA)、伊予本直子(GSFC/NASA)

FR II型の電波銀河 Cygnus A (4.9 GHz, Perlay et al. 1984 ApJ) 電波銀河のローブ ホットスポット ローブ ジェット 中心核 FR II型の電波銀河 Cygnus A (4.9 GHz, Perlay et al. 1984 ApJ)

電波ローブからジェットを探る 電波ローブは ジェットの運搬したエネルギーの巨大な貯蔵庫 ジェットの過去の活動の痕跡 エネルギーの担い手は、粒子(電子)と磁場 どうやって測定するのか? シンクロトロン電波 : 電子 vs 磁場 逆コンプトン(IC)X線 : 電子 vs 種光子 種光子は? ×シンクロトロン光子(いわゆるSSC) △中心核からの光子(小さいローブで有効, Brunetti et al. 1997) ○宇宙マイクロ波背景放射 (CMB, Harris & Grindlay 1979) 電波ローブをX線で観測して、 ジェットのエネルギーを測定したい

電波ローブからのX線 ~「あすか」による「発見」~ アイデアは簡単 現実は、困難だった 電波ローブからのIC X線は 非常に暗い 高感度・高空間分解能が必要 銀河団中では、不可能 明るい中心核に埋もれる スペクトルがハード(aX ~ 0.7) 広いエネルギー帯域が必要 「あすか」がはじめて克服 (ROSATでも「発見」, Fiegelson et al. 1995) Fornax A (Kaneda eta l. 1995, Tashiro et al. 2001)

電波ローブからのX線 ~「あすか」による発見~ 4C 73.08 Centaurus B 10分角 5分角 大きいローブ(~5分角以上)でなければならなかった。

電波ローブからのX線 ~Chandraによる「発展」~ 超高空間分解能(~秒角) ⇒ 視野角の小さな(i.e. 遠くの)ローブも観測できる。 ⇒ 中心核や明るい背景天体に埋もれることがない 3C 452 (Isobe et al. 2002) 2分角 3C 427.1 (z = 0.571) 等高線:電波 カラー : X線

電波ローブからのX線 ~XMM-Newtonによる発展~ 大有効面積 高感度 広いエネルギー帯域 暗いローブも検出できる 3C 98 (Isobe et al. 2005) グレー : 電波 等高線 : X線 Fornax A (Isobe et al. 2006) 等高線:電波 カラー : X線

Chandra, XMM-Newtonにより、多数の電波ローブからX線が検出されている。 3C 219/Chandra (Brunetti et al.2003 ) 等高線:電波 カラー : X線 XMM-Newton (Croston et al. 2004) 3C 284 Chandra, XMM-Newtonにより、多数の電波ローブからX線が検出されている。

X線が検出された電波ローブ すでに20個以上の電波銀河のローブからX線が検出れている。 赤方偏移の分布 0 < z < 2.12 (Isobe et al. 2001, 2005, 2006, Brunetti et al. 2002, Comastri et al. 2003, Croston et al. 2004, 2005, etc) 0 < z < 2.12 スペクトル指数の分布 サイズの分布 Size < 1 Mpc 0.6 < a < 1.1

電波ローブのスペクトル aR = aX IC X線 Fornax A 電波のスペクトル aR = 0.68±0.05 X線のスペクトル S1keV = 86 -9 nJy + 0.24 +18 aR = aX IC X線 (Isobe et al. 2006) 29.9 MHz, 100 MHz : Finlay & Jones (1973), 408 MHz : Robertoson (1973) 843 MHz : Jones & McAdam (1992), 1.4 GHz : Ekers et al (1983), 2.7 GHz : Ekers (1969), 5.0 GHz : Kuhr et al. (1981)

電波ローブの観測量と物理量 観測量 電波フラックス SR Jy @ fR Hz X線フラックス SX Jy @ fX Hz (eX/1 keV = fX/2.42x1017 Hz) スペクトル指数 a (aX = aR) 赤方偏移 z 体積 V cm3 (見かけの大きさから推定) 物理量 : CMB が種光子とすると (Harris & Grindlay 1979) 磁場 B1+a ∝(SR/SX) (fR/fX)a (1+z)a+3 磁場のエネルギー密度 um = B2 / 8p 電子数密度 N(g) ∝ (SX/fX)0.5 g -(1+2a) V-1 (1+z)2 電子ローレンツ因子 g = 1070 eX0.5                  = 104 (fR/120 MHz)0.5 (B/1mG)-0.5 電子のエネルギー密度 ue = ∫(mc2g) N(g) dg (ここでは“見えている”電子だけ積分 : g = 103 - 105)

電波ローブ中のエネルギー密度 5桁 30mG  3mG 0.3mG 電子優勢 : ue=10um

電波ローブ中のエネルギー密度 電子優勢 : ue=10um 進化・発展 小さな/若い ローブ (<100 kpc) 中程度のローブ 巨大な/年老いた ローブ (>> 500 kpc) 電子優勢 : ue=10um

電波ローブ中のエネルギー密度 電子優勢 電子優勢 BIC~0.7Bme ue ~ 5 um Log (B/Beq) FX / Feq FIC : 観測されたIC X線のフラックス Feq : 等分配での予想フラックス (Croston et al. 2005) B : 観測されたIC X線のフラックス Beq : 等分配での予想磁場 (Kataoka & Stawarz 2006)

ジェットの力学的パワー ローブ中の電子や磁場のエネルギーは、ジェットが運搬し供給したのものである ローブの全エネルギーと電波銀河の年齢から、ジェットの力学的パワーを評価できるはず Ljet =(ueV+umV)/Tagex(1+k) Tage : 電波銀河の年齢 k :”見えない”粒子

電波ローブ中の全エネルギー 全エネルギーにすると、2~3桁のばらつきしかない ueV = umV 電子のエネルギー ueV [1060 erg] 磁場のエネルギー umV [1060 erg] 全エネルギーにすると、2~3桁のばらつきしかない

中心核活動とジェットのパワー 拡大 ジェットパワー Ljet [1040 erg s-1] 中心核のX線光度 LX [1040 erg s-1] ジェットパワー Ljet [1040 erg s-1] 拡大

中心核活動とジェットのパワー 中心核のX線ルミノシティー LX と、ローブのエネルギーから求めたジェットのパワーLjetには、相関が見られる。 中心核は、質量降着で輝いていると考えられる。 ジェットも、質量降着で駆動していれば、自然な結果ではないか? Ljet=(ueV+umV)/Tage ジェットパワー Ljet [1040 erg s-1] 中心核のX線光度 LX [1040 erg s-1]

中心核活動とジェットのパワー ローブの当分配エネルギー シンクロトロン年齢 (Rawlings & Saunders 1991) ◎ FR I ★ FR II ▲ BLRG ■ RG ( z > 0.5) □ quasar (Rawlings & Saunders 1991)

ローブの電子の冷却時間Tcool = 1.6x108年前以内に、 中心核は活動を弱めた (Iyomoto et al. 1998) 中心核活動とジェットのパワー 中心核のX線光度 LX [1040 erg s-1] ジェットパワー Ljet [1040 erg s-1] Fornax A 昔はこのくらいの明るさで 光っていたに違いない。 ローブの電子の冷却時間Tcool = 1.6x108年前以内に、 中心核は活動を弱めた (Iyomoto et al. 1998)

⇒より高エネルギーのIC X線の検出が必要 今後の課題 “見えている”電子 IC X線 : g = 103 (0.5-10 keV ⇒ g=500-3000) シンクロトロン電波 : g = 104-105 より低エネルギーの電子を観測したい エネルギーの総量は低エネルギー電子が支配 ( 電子スペクトル N(g)∝g2a+1) ⇒IC可視光の観測が重要 X線と電波で“同じ”電子を観測したい。 電子のローレンツ因子の上限を決めたい。 ⇒より高エネルギーのIC X線の検出が必要

課題克服のために ~「すざく」~ 現在稼働中の、日本の第5代X線天文衛星 低バックグラウンド/高感度を特徴とする検出器を搭載 XIS : 0.5 – 10 keV HXD : 10 – 600 keV 電波ローブからのX線を50 keV程度(g=7000)まで、検出で来る可能性がある ただし、十分な大きさが必要である (>5 分角) いくつかの天体の観測提案が採択されている。 Fornax A (AO1,AO2) 3C 326 (AO2) 10分角(880kpc) 3C 326 (1.4 GHz)

課題克服のために ~NeXT~ 次世代X線観測衛星 2012年頃の打上げを目指す 4種類の検出器を搭載 高エネルギー分解能 適度な角分解能 SXS/SXI/HXI/SGD 高エネルギー分解能 適度な角分解能 高い感度 広エネルギー帯域 SXS : 0.3 – 10 keV SXI : 0.5 – 12 keV HXI : 5 – 80 keV SGD : 10 – 300 keV Fornax A East Lobe 3C 452 NeXTの点源感度

課題克服のために ~GLAST~ 2008年秋に打ち上げ予定のg線観測衛星 20 MeV~300 GeV GLAST 2008年秋に打ち上げ予定のg線観測衛星 20 MeV~300 GeV 1990年代に活躍したEGRET衛星の30倍の程度の高感度を持つ。 Fornax A (Cheng 2006) (Sambruna 2007 @ GLAST Symposium) 約1年間の観測の シミュレーション画像

まとめ 我々は、世界に先駆けて、電波銀河のローブからのIC X線を検出した。 ローブ中の電子と磁場の全エネルギーから、ジェットの力学的なパワーを推定した。その結果、ジェットのパワーは、現在の中心核の活動と相関していることを明らかにした。 今後、「すざく」, GLAST, NeXTなどにより、さらに研究が進むと考えられる。 本研究は、電波とX線の協力が非常に有効である。

付録

エネルギーの空間分布 ueの分布 ∝ SXの分布 umの分布 ∝ SR / SXの分布 ローブの平均的・積分的なエネルギーを考えてきた。 エネルギーの空間分布は分からないか? ローブの生成・発展に重要な情報のはず。 電波強度 SRの分布 : ue x um の分布 IC X線強度SXの分布 : ue x usoft の分布 CMBなので一様 ueの分布 ∝ SXの分布 umの分布 ∝ SR / SXの分布

エネルギーの空間分布 3C452 軸方向に投影 SX分布 SR分布 ue B ue / um

エネルギーの空間分布 Fornax A SR,SXの分布 Centaurus B ue/um 分布 ローブの端で磁場が 強まることを示唆。 (Tashiro et al. 2001) Centaurus B ue/um 分布 (Tashiro et al. 1998) 3C219のイメージ X線が電波よりも 中心核によっている (Brunetti et al. 2003) ローブの端で磁場が 強まることを示唆。