X線で探る ブラックホール(BH)とその周辺

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X線で探る ブラックホール(BH)とその周辺 MAXI 「すざく」 X線で探る ブラックホール(BH)とその周辺 磯部直樹 (京都大学宇宙物理学教室; n-isobe@kusastro.kyoto-u.ac.jp) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

自己紹介 氏名 : 磯部 直樹 (n-isobe@kusastro.kyoto-u.ac.jp) 生年月日 : 昭和49年4月10日 (36歳) PhD : 東京大学 理学系研究科 所属 : 京都大学 理学研究科 宇宙物理学教室 身分 : 特定研究員(G-COE) : 要するにPD (9年目に突入) 夏の学校13年ぶり、コンパクトオブジェクト分科会は初体験 鈴木座長へ感謝 : “永遠の若手の一人として迎えさせていただきます” 専門 : X線天文学, ジェット, ブラックホール 活動銀河中心核ジェット 電波銀河ローブによるジェットのエネルギー測定 ブレーザーの活動世の研究 超光度X線源(ULX)の正体  中質量BH候補 全天X線監視装置MAXI  電波銀河3C 452 (Isobe et al. 2002) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

なぜBHの研究を始めたのか? NGC 4945銀河 赤外線 X線「すざく」 0.5 – 10 keV 2005年8月 2006年1月 赤外線 X線「すざく」 0.5 – 10 keV 「すざく」によるNGC4945銀河の観測で、新しいBH天体(ULX)を発見 Suzaku J1305-4931と命名(Isobe et al. 2008) じつは、BH研究ではかなりの”若手”である (BH歴4年) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

BHの分類 今日の内容 恒星質量BH 中質量BH(候補) 巨大BH 質量 (5 – 15) M☉ GRS1915+105 14±4 M☉ (Matsumoto et al. 2001) M82のX線画像 質量 (5 – 15) M☉ GRS1915+105 14±4 M☉ 重たい星(>30M☉)の進化で出来る 質量 (106 – 109) M☉ ほぼすべての銀河の中心に存在 (Miyoshi et al. 1994) (数10 – 1000) M☉ 21世紀の初頭に “発見” 本当に存在する? 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

系内BHのスペクトル状態 X線光度LX/LEdd GRO J1655-40 LEdd : エディントン限界 (重力 = 輻射圧) MAXI X線光度LX/LEdd 「すざく」 XIS HXD Slim disk状態 Tin > 1 keV Slim disk 状態 1 Very High状態 2<G<3 Very High 状態 High/Soft状態 Tin ~ 1keV 0.1 High/Soft 状態 Low/Hard状態 光子指数 G = 1.5 G ~ 2 0.01 Low/Hard 状態 GRO J1655-40 LEdd : エディントン限界 (重力 = 輻射圧) (Done et al. 2007) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

High/Soft状態と標準降着円盤 ∝E4/3 E FE 最内縁半径 Rin 温度 T ∝ r -3/4 標準降着円盤 (Shakura & Sunyaev 1973) 降着⇒熱⇒輻射 光学的に厚い、幾何学的に薄い 降着円盤多温度黒体輻射 Multi Color Disk (MCD)/DiskBB 観測量 内縁温度 Tin 光度Ldisk =4 p s Rin2 Tin4 内縁半径 Rin Schwarzschild (無回転) BH 最終安定軌道(ISCO) : 3RS=Rin Schwarzschild 半径 RS = 2GM/c2 = 2.95 km (M/M☉) (M/M☉) = Rin / 8.86 km 最内縁半径 Rin 温度 T ∝ r -3/4 BH E FE [keV(keV/s/cm2)] ∝E4/3 黒体輻射 (Makishima et al. 1986) 光子のエネルギー E(keV) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

High/Soft状態と標準降着円盤 BHのHR図 ULX 1039 ergs/s High/Soft状態 Lbol ∝Tin 4 Makishima et al. 2000 ULX 1039 ergs/s High/Soft状態 Lbol ∝Tin 4 (Rin 一定) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Disk wind : 「すざく」による4U 1630 - 472 H-like, H-likeのFe吸収線 XIS HXD High/Soft状態 Fe吸収線 MCD成分 PL成分 Kubota et al. 2007 H-like, H-likeのFe吸収線 Blue shift ~ 1000 km/s He-like H-like 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Low/Hard状態 Disk成分が弱い PL成分が強い コロナ G = 1.5 E~100 keVに折れ曲がり Low/Hard状態 逆コンプトン散乱 (Comptonize) Low/Hard状態 PL成分 ISCOまで 伸びない 電子温度 Te ~ 100 keV コロナ 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

「すざく」によるGRO J 1655-40も同様 (Takahashi et al. 2008) Low/Hard state 「すざく」によるCyg X-1のスペクトル (Makishima et al. 2008) 反射 鉄輝線 コンプトン 二成分のコンプトンコロナ Te ~100 keV t1 ~ 1.5, t2 ~0.4 時間的 or 空間的 ? それぞれのコンプトン成分が反射成分(+鉄輝線)を伴う Disk成分 Rin ~ 10 RS Tin ~ 0.2 keV 1 10 100 keV 「すざく」によるGRO J 1655-40も同様 (Takahashi et al. 2008) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Slim disk状態 : XTE J1550-564 XTE J1550-564のHR図 RXTE衛星によるスペクトル Lbol ∝Tin2 (Rin ~ Tin-1) MCD PL High/Soft状態 Lbol ∝Tin 4 MCD PL (Kubota & Makishima 2004) 1998年9月に発見されたBH連星 M = (8.4– 11.2) M☉ (Orzo et al. 2002) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Slim Disk モデル ∝ E4-2/p ∝E4/3 温度 T ∝ r –p (0.5 < p <0.75) Slim disk (Watarai et al. 2000) 降着率が高い 移流優勢 光子捕捉 (Ohsuga et al. 2005) 幾何学的に薄くない 3RS(ISCO)の内側からも放射 Disk内の温度分布がフラット ”p-free” disk近似(extended disk black body) 温度分布 T(r) ∝ r-p 0.5 < p < 0.75 Slim diskスペクトルをMCDで近似すると、Rin ∝ Tin-1 XTE J1550+564の場合 p = 0.6 – 0.75 BH 温度 T ∝ r –p (0.5 < p <0.75) E FE [keV(keV/s/cm2)] ∝ E4-2/p ∝E4/3 MCD (Makishima et al. 1986) 光子のエネルギー E(keV) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Very High状態 : XTE J1550-564 PL-dominant なスペクトル コンプトン化された分も補正 XTE J1550-564のHR図 PL-dominant なスペクトル PL (2<G <3 ) MCD コンプトン成分 (Te ~20 keV, t =1-2) コンプトン化された分も補正 コロナ Te ~20 keV, t=1-2 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Very High状態 : XTE J1550-564 Strong Very High状態 PL-dominant コンプトン化されたDisk光子の効果を補正しても、傾向から外れる Tinが低い、Rinが大きい Diskが内側に伸びない(Disk truncation) 光学的に厚い (t>>1) コロナ XTE J1550-564のHR図 コロナ (Kubota & Done 2004) Te ~20 keV, t>>1 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

スペクトル状態と降着円盤, コロナ 降着率 Slim Disk 状態 Very High 状態 Low/Hard状態 High/Soft Te ~ 20 keV t >>1 Very High 状態 Te ~ 20 keV t ~ 1- 2 Low/Hard状態 High/Soft 状態 Te ~ 100 keV (Kubota & Done 2004) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

「すざく」によるGRS 1915+104 Hybrid Compton corona 熱的コンプトン成分 非熱的 コンプトン成分 Stable : Very High 状態(Ueda et al. 2010) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

「すざく」によるGRS 1915+104 「円盤の自己遮蔽」 円盤の内側が分厚い Slim diskの証拠 「すざく」による光度曲線 5-9 keVのスペクトル(Ueda et al. 2010) Limit-cycle Oscillation Stable Osc-H 輝線 あり 吸収線 なし 輝線 なし 吸収線 弱 H M L Osc-M Osc-L 輝線 あり 吸収線 強 「円盤の自己遮蔽」 円盤の内側が分厚い Slim diskの証拠 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

BH天体の状態遷移 Very High状態 High/Soft 状態 Jet Line Low/Hard 状態 Fender et al. 2004 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

MAXIによるBHの状態の監視 XTE J1752-223 D,E F 2-4 keV 4-10 keV10-20 keV MAXI 3講演(諏訪,早乙女,薄井)参照 (昨日) (http://www.maxi.riken.jp) (Nakahira et al. 2010) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

MAXIによるBHの状態の監視 XTE J1752-223 電波の増光 (Brocksopp et al. 2010) ⇒ Jet (Nakahira et al. 2010) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

BHの回転 ISCO Disk Line 無回転 3Rs 極限回転 ~0.6 Rs Disk反射に伴うBH鉄輝線のLine profileからRin を測定 Disk line micro quasar の高い Tinは、回転(Kerr BH)か(Zhang et al. 1997) GRO J1655-40 GRS 1915+105 ULX Suzaku J1305-4931 (Isobe et al. 2008) Disk Line ドップラーシフト 重力赤方偏移 回転大 (小嶌,天文月報 2010年3月号) (Laor et al. 1991) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

BHの回転 : AGN の場合 MCG -5-23-16 : 回転小 MCG -6-30-15 : 回転大 Disk Lineの”発見”は、 「あすか」 (Tanaka et al. 1995) 連続成分に対する比 連続成分に対する比 (Miniutti et al. 2006) (Reeves et al. 2006) 「すざく」プレスリリースhttp://www.astro.isas.ac.jp/suzaku/flash/2006/1005/ 実は、連続成分のモデルに強く依存する 対抗説あり(海老沢 et al. 天文月報 2010年6月号) ASTRO-Hへの期待(広帯域+高エネルギー分解能) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

BHの回転 : 恒星質量BHの場合 BHが回転なしで、データを説明できる (Yamada et al. 2009) 「すざく」によるGX 339-4のスペクトル 幅の広い鉄輝線 Spin パラメタ a = Jc/GM 2~ 0.9 連続成分に対する比 狭い鉄輝線でもOK (Miller et al. 2008) データ解析に不備あり CCDのpile up, Telemetry Saturation BHが回転なしで、データを説明できる 精密にデータを再解析 連続成分(Comton corona)のモデルによっては、細い輝線でも問題ない 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

中質量BH候補天体 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

超光度X線源の正体 Ultra Luminous X-ray sources; ULXs NGC 2403銀河の画像 LX=1039-41 ergs/sの明るいX線源 LX = LEdd(重力=輻射圧)を仮定すると M~(10–1000) M☉ LEdd = 1.5 x 1038 ergs/s (M/M☉) 多数の近傍銀河に存在 (Fabianno & Trinchieri 1987) 我々の銀河にはない 銀河の中心核ではない 発見から 約30年 正体は未確定 Src 3 可視光(DSS) 「すざく」 0.5 – 10 keV (Isobe et al. 2009) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

ULXの正体の論争 ULXがBHの一種であることを疑う人は、たぶんいない MCD型, PL型のX線スペクトル, 状態遷移 Quasi Periodic Oscillation 超光度(1039-1041 erg/s)を説明するためのアイデア 恒星質量BH(M~10M☉) @ 降着率 >> LEdd (超臨界降着) LEdd : 重力 = 輻射圧 (球対称なら、輻射で降着が止まる) 中質量BH (M>>10 M☉) @ LX < LEdd 中質量BHは、どうやってできるのか ? どちらにしても、降着率の高いBHである可能性が高い 理論と観測の共存, 共栄による発展 私の立場 中質量BH説 (~1000M☉と思っているわけではない) 系内の恒星質量BHのどの状態に対応するのか? 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

ULXはどの状態 ? X線光度LX/LEdd GRO J1655-40 LEdd : エディントン限界 (重力 = 輻射圧) Slim disk状態 Tin > 1 keV Slim disk 状態 1 Very High状態 2<G<3 Very High 状態 High/Soft状態 Tin ~ 1keV 0.1 High/Soft 状態 Low/Hard状態 光子指数 G = 1.5 G ~ 2 0.01 Low/Hard 状態 GRO J1655-40 LEdd : エディントン限界 (重力 = 輻射圧) (Done et al. 2007) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Slim disk/Very high状態による解釈 NGC 2403 Src3 のスペクトル NGC 1313 X2 のスペクトル Newton (Isobe et al. 2009) 「すざく」2005 (MCD型) p = 0.6 - 0.75 Te = 20 keV, t ~ 1 のコンプトンコロナ p = 0.6 – 0.75 G = 1.8 -2.5 Suzaku (MCD型) Chandra (MCD型) Newton (MCD型) Chandra (PL型) 「すざく」2008 (PL型) 遷移光度Ldisk = 2 x 1039 ergs s-1 M ~ 15 M☉h-1 遷移光度Ldisk = 8 x 1039 ergs s-1 M ~ 50 M☉h-1 遷移条件 h=LT/Ledd = 0.3 – 1 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Slim disk/Very high状態による解釈 Lbol ∝Tin2 (Rin ~ Tin -1) ULX (Mizuno et al. 2001, Tsunoda et al. 2006) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

理論と観測の矛盾(?) 理論側 Slim diskは、超臨界降着(降着率 >> LEdd/c2 ) 観測事実 系内BHでは、Slim disk状態, Very High状態が出現するのはLdisk = (0.3 – 1) LEdd (Kubota & Makishima 2004, Abe et al.2005) 観測的には、slim disk は super critical accretion の証拠とは言えない(のか ?) XTE J1550-564 M = (8.4– 11.2) M☉ LEdd = (1.3 – 1.7) x 1039 ergs/s 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

新状態 : Ultraluminous State 低温(T < 10 keV), Optically thick (t>>1)コロナとして観測される 代表的ULXのスペクトル Outflow Disk放射 コンプトン化 降着率 >> LEdd/c2 (Kawashima et al. 2009) (Gladstone et al. 2009) 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Low-temp., Optically-thick corona : Holmberg IX X-1 Swift, XMM-Newtonによるスペクトル Lbol = (0.6–2)x1040 ergs/s Te = 1.5 – 10 keV = 3 – 10 Tin (Tseed) = 0.2 – 0.5 keV (Vierdayanti et al. 2010) 明るくなると tが上昇 Teが減少 光学的に厚い低温コロナ disk Super critical accretion の証拠か? Holmberg IX : 3.4 Mpc に存在する矮小銀河 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

Low-temp., Optically-thick corona : GRS 1915+105 MCD+Compton corona によるHR図 Compton Coronaの Te とt □ Compton dominant ★Disk dominant Strong Very High New track Low Temp. Optically thick 1 2 Tin [keV] 10 20 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

ULXの正体の”真”の解明 Very High状態のスペクトル (100 – 200) M☉@ LX~LEdd 硬X線(E >10keV)の重要性 「すざく」硬X線検出器 2010年8月7日にIC 342 X1, X2の観測(予定) “弟子”募集中 「すざく」による M82 X1の硬X線スペクトル Lbol = (1.5 – 3) x 1040 ergs/s (Miyawaki et al. 2008) 5 10 keV 20 Very High状態のスペクトル (100 – 200) M☉@ LX~LEdd これまでのULX研究 (20-30)M☉ (Okajima et al.,2006) super-critical accretion 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会

ASTRO-H衛星への期待 Holmberg IX X-1の予想スペクトル 2014年打ち上げ(予定) SXS : 0.3 – 10 keV (Vierdayanti et al. 2010より) 2014年打ち上げ(予定) SXI HXI (top layer) HXI (all layer) SXS : 0.3 – 10 keV DE = 7 eV@7 keV SXI : 0.3 – 16 keV HXI : 5 – 80 keV 2010年8月3日 2010年夏の学校コンパクトオブジェクト分科会