無線LAN関連の 研究アクティビティ紹介 千葉大学 大学院工学研究科 都市環境システムコース 塩田 茂雄 千葉大学 大学院工学研究科 都市環境システムコース 塩田研究室 無線LAN関連の 研究アクティビティ紹介 千葉大学 大学院工学研究科 都市環境システムコース 塩田 茂雄
無線LAN関連の研究テーマ ■無線マルチホップネットワークにおけるクロスレイヤQoS制御 (黄重陽君) (黄重陽君) ■ IEEE802.11ベース無線LANの性能解析法 (黄重陽君) ■ レイトレーシングの高速化技法 (日下美穂さん)
無線マルチホップネットワークにおけるクロスレイヤQoS制御
クロスレイヤQoS制御 ■複数のレイヤのQoS制御機能を組み合わせることで,単一レイヤより高効率なQoS制御を実現する. ■NW層での制御例 CW小(送信待機短) CW大(送信待機長) VO VI BE BK MAC層(IEEE802.11e) NW層 MAC層(IEEE802.11) NW層 Priority Non-Priority 品質の絶対保障可 PQ 問題点 品質の相対保障(品質差別化)はできるが,品質の全体保障ができない
クロスレイヤQoS制御 ■トランスポート層での制御例 アクセスポイント 優先端末 MAC層(IEEE802.11) NW層 非優先 PQ Priority Non-Priority 非優先 端末 PQ PQによる抑制 品質の絶対保障可 端末からのフレーム 送信(TCP ACK)も 同時に抑制される
無線マルチホップNWへの拡張 シングル無線LANと同じ制御方式を 無線マルチホップにも適用できるか? メッシュポイント (MP) メッシュ AP(MAP) メッシュ AP(MAP) シングル無線LANと同じ制御方式を 無線マルチホップにも適用できるか?
無線マルチホップNWへの拡張 ■考え方 ①MP,MAPのネットワーク層に優先パケット,非優先パケット別にバッファを用意する ②Priority Queueにより,優先パケット用バッファから優先的にパケットを取りだし,MAC層に渡す ③MAC層(+物理層)にはIEEE802.11 DCFを適用する ④MP,MAPの優先バッファのキュー長を観測し,観測結果に基づきMAPで適応的ROCを非優先端末に適用して,非優先パケットを抑制する.
無線マルチホップNWへの適用例 ■制御なし ■制御あり(クロスレイヤ制御) 0.1% Packet Loss Ratio 0.001 0.01 0.1 1.0 1.0x10-4 1.0x10-5 1.0x10-6 0.001 0.01 0.1 1.0 1.0x10-4 1.0x10-5 1.0x10-6 0.1% Packet Loss Ratio Packet Loss Ratio Number of TCP Flows Number of TCP Flows
クロスレイヤQoS制御 ■制御あり(IEEE802.11e) ■制御あり(クロスレイヤ制御) 0.1% Packet Loss Ratio 0.001 0.01 0.1 1.0 1.0x10-4 1.0x10-5 1.0x10-6 0.001 0.01 0.1 1.0 1.0x10-4 1.0x10-5 1.0x10-6 0.1% Packet Loss Ratio Packet Loss Ratio Number of TCP Flows Number of TCP Flows
IEEE802.11ベース無線LANの性能解析法
IEEE802.11 ■ランダムアクセスプロトコル(共通のネットワークリソースを端末が自律分散的に共有・利用して,通信を行うためのプロトコル)の一つ ■特徴 ①フレームを送信する前にキャリアセンスする. ②キャリアセンスして,誰かが使っていれば,タイマ(バックオフタイマ)をセットしてタイマが切れるまで待つ.タイマが切れたら直ちにフレームを送信する. ③フレーム送信に失敗したら,やはりタイマをセットして,タイマが切れるまで送信を控える.タイマが切れたら再送する.
IEEE802.11の性能解析モデル ■スロットベースモデル ・IEEE802.11では時間はスロット単位に離散化されている. G. Bianchi, ”Performance Analysis of the IEEE802.11 Distributed Coordination Function,” IEEE Journal on Selected Areas in Communication, vol. 18, no. 3, 2000. ・IEEE802.11では時間はスロット単位に離散化されている. ・端末のバックオフタイマ,バックオフステージが次のスロットでどのように変化するかをマルコフ過程でモデル化し,定常状態を求める. 例1:バックオフタイマが3,バックオフステージが0のとき. 次のスロットでは,確率1でバックオフタイマが2,バックオフステージが0になる. (通常はこのように単純な遷移で済む)
IEEE802.11の性能解析モデル ■スロットベースモデル(続き) マルコフ過程の定常状態確率は陽に計算できる. 例2:バックオフタイマが0,バックオフステージが0のとき. 次のスロットではフレームを送信するが,送信に成功するか否かで遷移先が分かれる. ①送信に成功する場合(送信に成功する確率= (1−𝜏) 𝑁−1 ) バックオフタイマは0から31のいずれか バックオフステージは0 ②送信に失敗する場合(失敗する確率= 1−(1−𝜏) 𝑁−1 ) バックオフタイマは0から63のいずれか バックオフステージは1 マルコフ過程の定常状態確率は陽に計算できる.
IEEE802.11eへの対応 ■スロットモデル(Bianchiモデル)は,AIFSによる品質差別化(AIFSが小さいほどリソースをつかみ易い)がうまくモデル化できない. ■フレーム送信サイクルモデル DATA FRAME ACK タイマー再開 サイクル先頭での 端末の状態をマルコフ連鎖でモデル化 AIFS小 AIFS大 AIFSの違いに伴うタイマー停止期間 ith cycle (i+1)th cycle I. Tinnirello and G. Bianchi, “Rethinking the {IEEE}802.11e {EDCA} Performance Modeling Methodology,” IEEE/ACM Transactions on Networking, vol. 18, no.2, 2010.
IEEE802.11eへの対応 ■フレーム送信サイクルモデルでは,サイクルの開始時点におけるバックオフタイマ,バックオフステージの値が次のサイクル開始時点でどのように変化しているかをマルコフ過程でモデル化する. タイマー再開 AIFS小 AIFS大 AIFSの違いに伴うタイマー停止期間 ith cycle (i+1)th cycle スロットモデルよりマルコフ過程の遷移は複雑になるが,AIFSの違いがきちんと考慮できる.
IEEE802.11eへの対応 ■数値例(複数のVoIPをWLANに多重) 上下フローの不公平性を解消するため,上りフローはBEクラス,下りフローはVOクラスで運んだ場合. 0.07 Downlink 0.06 0.05 Uplink 0.04 Throughput [Mbps] 0.03 0.02 Simulation 0.01 Proposed model 5 10 15 20 25 30 Number of wireless stations
レイトレーシングの 高速化技法
電波伝搬特性の解析 ■ 無線LAN用電磁波の屋内伝搬特性の解析 レイトレーシング法(レイランチング法,鏡像法) FDTD(Finite Difference Time Domain)法 屋内の特徴:壁や什器が,側壁・天井・床に平行または垂直に配置されている場合が多い
電波伝搬特性の解析 ■ 屋内伝搬特性の解析例 (床から210m, 170m, 130m, 90m, 50mの位置)
レイトレーシング法 ■電波を光(Ray:レイ)とみなし,送信点から受信点までの伝搬路を追跡することで伝搬特性を推定する方法 ■伝搬損失(等方的なアンテナの場合) 直接波のみ 𝐿= 𝜆 2 (4𝜋𝑟 ) 2 𝜆:波長, 𝑟:発信点からの距離 電場ベクトル 反射波が一つある場合 𝐿= 𝜆 2 (4𝜋𝑟 ) 2 + 𝜆 2 𝑅 2 (4𝜋 𝑟 2 ) 2 + 𝜆 2 𝑅 2 (4𝜋𝑟 𝑟 2 ) 2 𝑒 1 ∙ 𝑒 2 cos ( 2𝜋 𝜆 𝑟− 𝑟 2 ) 干渉項
鏡像法 ■発信点から受信点に至る経路(レイ)を幾何学的に見つける方法 反射面の組み合わせとその反射順序を選択 鏡像点を計算 選択した反射面の組み合わせ通りに,実際に反射して受信点に至るレイ(経路)が存在するかを確認
鏡像点とレイの見つけ方 壁1で反射して,受信点に到達するレイ 直接,受信点に到達するレイ 壁1,壁2の順序で反射して,受信点に到達するレイ 壁1に対する鏡像点 壁1→壁2に対する鏡像点 壁1 発信点 壁1で反射して 到達するレイ 受信点 壁1と2で反射 して到達する レイ 直接波 壁2 障害物(什器)の数が増えるに従って,反射壁の組み合わせの数が爆発的に増大する.
高速化のための工夫 ■レイを探索する「反射壁の組み合わせ」の候補を絞りこむ. 同じ鏡像点を生成する反射壁の組み合わせを避ける 利用される可能性の低い壁を除外する
高速化のための工夫Ⅰ ■同じ鏡像点を生成する反射壁の組み合わせを避ける 面1 発信点 面2 同じ鏡像点を生成 受信点 面1→面2の順で反射するときの鏡像点 面1 面2→面1の順で反射するときの鏡像点 発信点 面2 同じ鏡像点を生成 受信点 反射面が互いに直交する場合,鏡像点はその反射順序に依存しない レイは 面1→ 面2の順序の経路 にしか存在しない (1つの鏡像点に対してレイは高々1つしか存在しない)
■反射面の履歴をとり,反射面の候補を絞り込む 高速化のための工夫Ⅱ ■反射面の履歴をとり,反射面の候補を絞り込む ある一定の反射回数までは 全ての面 を考慮 反射回数がしきい値を超えたら,反射面として使用された 履歴のある面のみ 反射面の候補とする 例 反射回数最大6回・履歴を保存する反射回数4回 反射回数1~4回まで:すべての面を対象としてレイを探索 反射回数5回以降:反射回数4回までに反射面となった面のみを反射面の候補とする
シミュレーション評価例 反射と透過を考慮 構造物の数:39個 送信アンテナの高さ: 天井から50㎝下 天井から50㎝下 構造物の絞り込みによる高速化は,反射回数4回までに使われた壁のみ,その後のシミュレーションに利用 発信点 受信点 評価対象フロア 30m 12m 2.5m
シミュレーション評価例 壁での反射+透過が最大6回まで行われる経路(レイ)を考慮する場合 単純な探索方法 65分 鏡像点の重複回避 25秒 シミュレーション方法 シミュレーション時間 単純な探索方法 65分 鏡像点の重複回避 25秒 +反射面の絞り込み 10.1秒 壁での反射+透過が最大5回まで行われる経路(レイ)を考慮する場合 シミュレーション方法 シミュレーション時間 商用シミュレータA 鏡像点の重複回避 2.26秒 1分59秒 +反射面の絞り込み 1.04秒