物理網構成を考慮したハイブリッド型 P2P 動画像ストリーミング配信機構の評価 2004/02/26 物理網構成を考慮したハイブリッド型 P2P 動画像ストリーミング配信機構の評価 末次 信介 大阪大学 基礎工学部 情報科学科 ソフトウェア科学コース 4年 村田研究室 e-mail: suetugu@ics.es.osaka-u.ac.jp それでは、 「 P2P 通信における物理網構成を考慮した動画像ストリーミング配信機構の評価」 というタイトルで特別研究報告を始めさせて頂きます。 村田研究室の末次信介です。 よろしくお願いします。 特別研究報告
研究の背景と目的 動画像ストリーミング配信 サーバクライアントモデルにもとづく配信機構 P2P 通信による動画像ストリーミング配信機構 2004/02/26 研究の背景と目的 動画像ストリーミング配信 映画の予告編、ニュース映像など 動画像データを受信しながら再生 サーバクライアントモデルにもとづく配信機構 サーバ、サーバ近傍のネットワークに負荷が集中 P2P 通信による動画像ストリーミング配信機構 日本電気株式会社の提案(共同研究) 提案機構の評価 機構の有効性の検証 問題点の明確化 近年、インターネットにおいて、映画の予告編やニュース映像などの 動画像コンテンツの配信が普及してきています。 動画像データを取得する際、 データ全てをサーバからダウンロードしてから再生を行うと、 視聴を開始するまでにかなりの時間、待たなければなりません。 そこで、ストリーミング配信という技術を用いれば、 データを受信しながら同時に再生を行うことができ、 この待ち時間を大幅に減らすことができます。 ところが、現在のストリーミング配信機構は全て、 サーバクライアントモデルにもとづいています。 サーバクライアントモデルでは、 サーバやサーバ付近のネットワークに、負荷が集中してしまいます。 そこで、日本電気株式会社が、新しい動画像配信機構を提案しました。 本報告は日本電気株式会社との共同研究であり、 この機構の評価を行い、機構の有効性を検証するとともに、問題点を明確化します。 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
ピラミッドブロードキャスティングスケジュール 2004/02/26 P2P 通信による動画像ストリーミング配信 ピア ピアがデータを複製 P2P マルチキャスト P2P ネットワーク ピラミッドブロードキャスティングスケジュール まずは、提案機構の概要を述べます。 提案機構は、P2P 通信による動画像ストリーミング配信機構です。 P2P 通信とは、左上の図のように、ホストとホストが サーバの仲介なく直接通信を行う、新しい通信アーキテクチャです。 P2P 通信における仮想的なネットワークを P2P ネットワークといい、 P2P ネットワークに参加しているホストをピアといいます。 P2P 通信を用いて動画像配信を行うには、 まずは、どのピアからどのピアへ動画像データを送信するかを決める、 配信ツリーを構築します。 サーバは、配信ツリーに従って動画像データをピアへ送信します。 動画像データを受け取ったピアは、データを複製することで、 より先のピアへこれを送信します。 このような配信方法を P2P マルチキャストといい、 P2P マルチキャストを用いることで、サーバの負荷を軽減することができます。 また、動画像は、下の図のように、セグメントと呼ばれる塊に分割されます。 それぞれのセグメントは、異なるチャネル、チャネルとは通信路のことです、 異なる通信路を用いて送信されます。 配信スケジュールは、クライアントの要求に関係なく、あらかじめ決定されています。 ある時間にクライアントから動画像の要求が到着すると、 (クリック)最も近い時間に配信されるセグメントを選択し、 (クリック)受信、(クリック)再生をします。 このような配信スケジュールをピラミッドブロードキャスティングといい、 再生開始までの待ち時間を減らし、かつ 再生が途切れないような配信が行えます。 t 2004/02/26 動画像データ 特別研究報告 特別研究報告
動画像ストリーミング配信機構 配信ツリー構築・管理機構 スケジューリング機構 障害回復機構 物理網構成にもとづく階層化 サーバの負荷を軽減 2004/02/26 動画像ストリーミング配信機構 配信ツリー構築・管理機構 物理網構成にもとづく階層化 サーバの負荷を軽減 ネットワークの負荷を軽減 スケジューリング機構 ピラミッドブロードキャスティングスケジュール 再生開始までの待ち時間を短縮 障害回復機構 障害時の動画像の再生の途切れをなくす 提案機構は、以下のような機構から成り立っています。 まずは、配信ツリーの構築・管理機構があります。 物理トポロジにもとづいて、物理ネットワークを階層化することで、 サーバの負荷やネットワークの負荷の軽減を狙います。 また、再生開始までの待ち時間を短縮し、 動画像の途切れをなくすスケジューリング機構、 さらに、利用者が途中でサービスから離脱するなどの障害に備え、 障害回復を行う機構が含まれます。 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
配信ツリーの構築 (1/2) 拠点代表 ツリーサーバ 動画像を要求 接続要求 拠点代表 動画像サーバ 拠点代表に任命 拠点 子の情報 2004/02/26 配信ツリーの構築 (1/2) 拠点代表 ツリーサーバ 動画像を要求 接続要求 拠点代表 動画像サーバ 拠点代表に任命 拠点 子の情報 拠点代表 子の数に制限 子の数に制限 ピア数やネットワーク規模に対するスケーラビリティを考慮して、 物理トポロジにもとづいて、ネットワークは (クリック)あらかじめ拠点と呼ばれる単位にグループ化されています。 それぞれの拠点から拠点代表と呼ばれるピアが選ばれ、 動画像サーバを根とする、拠点代表間の配信ツリーが構築されます。 配信ツリー構築の様子を、左上の拠点を使い説明します。 今、左上のクライアントのうち1つが、 (クリック)動画像を要求を送信したとします。 要求は、ツリーサーバと呼ばれる、配信ツリーを管理するサーバに送られます。 このように、ある拠点内で最も早く要求を出したピアが、 (クリック)拠点代表に任命されます。 また、同時に、動画像サーバのアドレスの通知を受けます。 (クリック)拠点代表、動画像サーバに接続を試みます。 (クリック)ところが、動画像サーバには、持てるこの数に制限があります。 制限を超えてしまう場合は、 (クリック)その子を紹介します。 (クリック)ピアは、紹介された子に接続を試みます。 (クリック)ところが、各ピアにも、持てる子の数に制限があるため、 (クリック)ピアは、さらに子の紹介を受け、接続をこころみます。 このようにして、動画像サーバ根とする、 拠点代表 間でのツリーが構築されます。 拠点代表 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
配信ツリーの構築 (2/2) ツリーサーバ 拠点代表 動画像サーバ サブネット代表 サブネット代表 拠点 サブネット代表 サブネット 2004/02/26 配信ツリーの構築 (2/2) ツリーサーバ 拠点代表 動画像サーバ サブネット代表 サブネット代表 拠点 サブネット代表 拠点内は、さらにサブネットと呼ばれるグループに分けられています。 サブネットでは、拠点と同じく、サブネット代表が選ばれ、 拠点代表を根とするサブネット間ツリーが構築されます。 (クリック)サブネット内で最も早く要求を出したピアが サブネット代表に任命され、 動画像サーバではなく、拠点代表に接続を試みます。 以下同様に、持てる子の数の制限を超える場合は、 子を紹介され、子に接続します。 このようにして、拠点代表を根とするサブネット間ツリーが構築されます。 サブネット内では、同様に サブネット代表を根とした配信ツリーが構築されます。 この後、時間の都合上詳しく話すことはできませんが、 障害回復などといった作業を各階層内で行うことで、 サーバやサーバ付近のネットワークの負荷を軽減することが可能になります。 サブネット 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
シミュレーション 評価項目 様々な条件の下でのシミュレーション サーバの負荷 ネットワークの負荷 再生開始までの待ち時間 再生の途切れ時間 2004/02/26 シミュレーション ピアの到着率: 毎秒 30 拠点数、拠点内サブネット数: 5 障害発生率: 毎秒 1/250 動画像の長さ: 186 秒 動画像のサイズ: 23.25 Mbyte 評価項目 サーバの負荷 ネットワークの負荷 再生開始までの待ち時間 再生の途切れ時間 様々な条件の下でのシミュレーション 拠点数、拠点内サブネット数の変更 (5~20) ピアの到着率の変更 (毎秒 10~90) 障害発生率の変更 (毎秒 0~1/200 の確率で障害) 動画像の長さの変更 (90~762 秒) 提案機構を評価するため、計算機によるシミュレーションを行いました。 ここでは、ツリー構築、スケジューリング、障害回復といった機構が うまく動いているかどうかを調べるため、 サーバやネットワークの負荷、 再生開始までの待ち時間、再生の途切れ時間を測りました。 また、右上のように標準的なパラメータを与え、そこから ピアの到着率や拠点数や拠点内サブネット数、 障害発生率、動画像の長さなどを変え、 様々な条件の下でシミュレーションを行いました。 シミュレーションにより得られた結果のうち、いくつかを紹介します。 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
ピア数による再生開始待ち時間の変化 障害頻度による再生の途切れ時間の変化 2004/02/26 ピア数による再生開始待ち時間の変化 障害頻度による再生の途切れ時間の変化 平均: 0.003 秒 ピア数が増えても 再生開始待ち時間は増えない 左の図は、ピア数を変化させたときの 再生開始までの待ち時間の変化の様子を表しています。 横軸がピアの到着率、縦軸が、 要求を出してから動画像の再生が開始されるまでにかかる時間を表します。 ピアごとにこの値をはかり、最大値、最小値、平均値を調べました。 ピア数が増えても待ち時間は変わらないことがうかがえます。 右の図は、障害発生率を変えたときの、 再生の途切れ時間の変化の様子を表しています。 横軸が障害発生率、縦軸が、 動画像の再生が途中で途切れてしまった時間の合計を表しています。 最大値は不安定な結果を示していますが、平均値は約 0.003 秒ほどであり、 途切れを経験したピア数が少ないことを示しています。 障害発生率が高くなっても 再生の途切れ時間は増えない 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
拠点間物理リンクの負荷の時間別変化 動画像サーバ 動画像サーバ ハブ 変動が大きく、偏りがある 拠点 2004/02/26 この図は、拠点間の物理リンクの負荷を表しています。 今、右上の図に示すような配信ツリーが構築されたとします。 しかしこのネットワークは、あくまで仮想的なネットワークであり、 実際は、例えば右下の図のように、ハブを中心とした 物理リンクで接続されています。 配信ツリー上を、(クリック)このように動画像が流れた場合、 実際の物理ネットワーク上では、(クリック) このように動画像は流ています。 各拠点から出ているリンクA~Eに、流れているデータの量を 時間別に見たグラフが、左の図です。 横軸が時間を、縦軸がリンクの負荷になっています。 ある時間に注目すると、負荷に偏りがあることがうかがえます。 変動が大きく、偏りがある 拠点 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告
まとめと今後の課題 まとめ 今後の課題 P2P 通信における動画像ストリーミング配信機構の評価 2004/02/26 まとめと今後の課題 まとめ P2P 通信における動画像ストリーミング配信機構の評価 再生開始までの待ち時間は、ピア数の影響を受けない 再生の途切れ時間は、障害発生率の影響を受けない ネットワークの負荷に偏りがある 今後の課題 物理網トポロジを考慮した、さらに効率的な配信を行うための配信ツリー構築 では、本報告のまとめに移りさせていただきたいと思います。 本報告では、日本電気株式会社提案の、 P2P 通信における動画像ストリーミング配信機構を評価しました。 その結果、ネットワークの負荷は軽減できていましたが、 負荷に偏りが存在することが分かりました。 今後の課題と致しましては、負荷を分散できる配信ツリーの構築が考えられます。 以上で私の特別研究報告を終わらせていただきたいと思います。 ご清聴ありがとうございました。 2004/02/26 特別研究報告 特別研究報告