第20章 舵を取る人類 惑星の文脈における人類文明

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第20章 舵を取る人類 惑星の文脈における人類文明 ホモ・サピエンスの進出以前にありふれていた大型哺乳類の例.(a) マンモス,(b) 剣歯虎,(c) メガテリウム 第20章 舵を取る人類 惑星の文脈における人類文明

人類の衝撃 CO2とメタンの濃度は,過去70万年間,温度と同期して変動した 産業革命後,この変動幅を著しく超えて上昇している 図20―1:南極ドームC 氷柱から得られたメタン濃度,温度,CO2 濃度の時間変化.これらは,過去60 万年の間,歩調を合わせて変化したことを示す.すべてのパラメータは,短い間氷期に高く,氷期に低い.(European Project for Ice Coring in Antarctica (EPICA), project members, 2006) 南極ドームC氷柱におけるメタン,温度,CO2の変化

人為起源二酸化炭素の増加 火山によるCO2放出は,0.2〜0.5 Gt.2008年の人類による放出量は30.0 Gtで,自然の放出量の150倍 大気中酸素濃度の減少は,CO2の増加に対応している 化石燃料の燃焼 大気中CO2の炭素同位体組成は,一様に軽くなっており,有機炭素の燃焼を示す CO2増加の原因は,人類活動である 図20―2:大気中CO2 の増加は,人類による有機炭素の燃焼が原因であることを示す証拠. (a)炭素の燃焼は,O2 を消費し,CO2 をつくる.したがって,炭素燃焼は,O2 を減少させる.実際には,O2 の減少量は大気中CO2 の増加量から推定されるよりも大きい.これは,燃焼で生じたCO2 の多くが,海洋と生物圏に取り込まれたことを示す.この観測結果は,簡単な収支計算と一致する.大気に蓄積された量のほぼ2 倍のCO2 が,化石燃料の燃焼によって生じた.O2 の2 つの曲線は,2 つの異なる場所のデータを示す. (b)化石燃料の有機炭素は,重い炭素同位体13C に乏しく,δ13C 値が低い.この同位体的に軽い炭素が大気に加わると,大気のCO2 のδ13C が減少する.これが観測されている.縦軸のδ13C の目盛は上下逆になっていることに注意.(©2007 IPCC AR―4 WG1, chap. 2, fig. 2.3)

その他の人為起源温室効果ガス 図20―3:南極の氷柱における過去250,000 年のメタンの変動.メタン濃度は,前世紀にほぼ3倍に増加した.(Data from Loulergue et al., Nature 453 (2008): 383―86, and Etheridge et al., J. Geophys. Res. 103 (1998): 15, 979―93) メタン濃度も氷河期サイクルにともなって変動していたが,人類活動(家畜,ごみ処理場,天然ガス開発)により 2倍以上となった 二酸化窒素 (NO2) クロロフルオロカーボン(CFCs) ,ハイドロフルオロカーボン(HFCs) これらのガスは微量だが,温室効果が強い

1850〜2005年の陸表面温度 図20―5:1850 年から2005 年までの全球陸表面温度の変化.1961~1990 年の平均を基準とする.(Modified after ©2007 IPCC AR―4 WG1, chap. 3, fig. 3.1) 温度上昇率は,1850〜1950年には10年あたり約0.035°C,1950〜1980年には10年あたり約0.067°C,最近30年には10年あたり約0.177°C 最近10年間は,記録上最も暖かかった.温度は,1880年から約1.2°C上昇した

2000〜2009年の平均温度 温暖化は,海洋よりも大陸においてより顕著であり,特に北の高緯度で著しい 1951〜1980年(気候研究で一般的な参照期間)の平均温度に対する,2000〜2009年の平均温度の変化 図20―6:1951~1980 年(気候研究で一般的な参照期間)の平均温度に対する,2000~2009年の平均温度の変化を示す世界地図.最も極端な温暖化は,濃い灰色で示され,北極で見られる.アフリカと南極海の一部の白い領域は,温度の記録がない.南極近くの小さな領域は,わずかに寒冷化している.(NASA images by Robert Simmon, based on data from the Goddard Institute for Space Studies) 温暖化は,海洋よりも大陸においてより顕著であり,特に北の高緯度で著しい 海洋はより大きな熱容量を持ち,平衡に達するまでにより長い時間がかかるため

1993〜2003年の氷,雪,凍土の変化 1980年以降の温度上昇とともに,北半球の海氷,凍土,氷河,および積雪の面積は,すべて大きく減少 図20―7:全球温度が上昇した1993~2003 年における氷,雪,および凍土の変化のまとめ.(Modified from ©2007 IPCC AR―4 WG1, chap. 4, fig. 4.23) 1980年以降の温度上昇とともに,北半球の海氷,凍土,氷河,および積雪の面積は,すべて大きく減少 この効果は特に北極で著しい これらの結果,平均海面は0.6〜1.8 mm/yだけ上昇した

過去25年の北極の最小氷面積 この期間に北極の氷の最小面積は30%も減少した 図20―8:過去25 年における北極の最小氷面積の変化.全球温度が上昇するとき,その影響は北の高緯度で最大となる.これは,北極の氷を夏季により大きく融解する.図は,この期間に氷の最小面積が30%も減少したことを示す.(©2007 IPCC AR―4 WG1, chap. 4, fig. 4.8) この期間に北極の氷の最小面積は30%も減少した

海洋酸性化 二酸化炭素は,水に溶けると炭酸(H2CO3)を生じ,水の酸性度を上げる(pHを下げる) CaCO3は,酸性の水では不安定になる 海洋のpH低下は,炭酸カルシウムの殻をつくる生物に大きな影響をおよぼす マウナロア山の大気中CO2濃度(ppmv),熱帯北太平洋の表面海水のpHおよび二酸化炭素分圧(pCO2)の変化 大気中CO2濃度と海水のpHの関係

大型哺乳類の絶滅 人類はアフリカで誕生し,45,000〜20,000年前に他の大陸へ移住した 約45,000年前,氷河作用によって平均海面が低下し,アボリジニがオーストラリアへ到達した.タスマニアタイガーや多くの有袋目哺乳動物が絶滅した 約12,000年前,人類はベーリング海峡を越えて北アメリカに渡った.アメリカには,剣歯虎,マンモス,長角バイソン,ラクダ,ジャイアントオオカミ,レイヨウ,バク,および多様な大型鳥類が生息していた.今では,南北アメリカの大型哺乳類の70〜80%が絶滅した マダガスカルとニュージーランドでも,同じような絶滅が起こった 図20―12:過去数十万年の大型哺乳類の減少.おそらく新しい大陸や島へのホモ・サピエンスの進出が原因である.その直後に,急速な絶滅が起こった.かつて北アメリカの大型哺乳類は,現代のアフリカよりも大きな多様性を有していた.(Modified from E. O. Wilson, ed. Biodiversity (Washington, D.C.: National Academy of Sciences, 1988))

森林破壊 生物多様性の地球最大の貯蔵所は,熱帯雨林である 現代の技術は,きわめて効率的に森林を破壊する そこに生息する多くの種は,まだ知られてさえいない 現代の技術は,きわめて効率的に森林を破壊する 熱帯雨林は,1年あたり40,000 km2が切りはらわれている 図20―13:現代の森林破壊.(a)アマゾンの熱帯雨林の1 年あたり破壊面積.これは,全球の雨林破壊面積の半分以上を占める.全球の1 年あたりの減少は,40,000 km2 である. (b)この面積をアメリカ北東部の地図上に表したもの.これと等しい面積の雨林が,毎年破壊されている.(All figures derived from official National Institute for Amazonian Research (INPA) figures) アマゾンの熱帯雨林の1年あたり破壊面積.全球の雨林破壊面積の半分以上を占める 全球の1年あたりの森林破壊面積をアメリカ北東部の地図上に示したもの

GDPとエネルギー消費量・CO2排出量 各国の国内総生産(GDP)は,エネルギー消費量と密接に相関している 図20―15:(a)各国の全一次エネルギー(1 年あたり一人あたり石油換算量,トン)と国内総生産(GDP)の関係.(b)各国の1 年あたり一人あたり全CO2 排出量と全一次エネルギーの関係.(Data from International Energy Agency, Key World Energy Statistics, 2009) 各国の全一次エネルギー(1年あたり一人あたり石油換算量,トン)と国内総生産(GDP)の関係 各国の1年あたり一人あたり全CO2排出量と全一次エネルギーの関係

各国のCO2排出量 北アメリカとヨーロッパは,1800〜2000年のCO2積算排出量の70%を排出した GDP 1ドルあたりのCO2排出量にも大きな格差がある.資源の豊富な旧ソ連と中東は,GDP 1ドルあたり最も多くのCO2を排出する アメリカは,世界人口の約5%を占めるに過ぎないが,過去2世紀にわたり最も多くのCO2を排出し,現在も一人あたりCO2排出量が最大である.先進国のうちでエネルギー効率が最も低い CO2排出量の「成長」は,発展途上国で起こっている.アジア(日本を除く)は,2001〜2010年のCO2排出量増加の70%以上を占めている 図20―16:(a)各国の1 年あたり一人あたりCO2 排出量. (b)各国のGDP1 ドルあたりCO2排出量. 単位は,kg CO2/ドル.(Data from International Energy Agency, Key World Energy Statistics, 2009) 各国の1年あたり一人あたりCO2排出量 各国のGDP 1ドルあたりCO2排出量.単位は,kg CO2/ドル

温度変化の予測 CO2濃度が産業革命以前の2倍(560 ppm)になると,全球の平均温度は約3〜5°Cだけ上昇する 温度予測の全球地図.A1Bシナリオのモデルの結果.このシナリオでは,CO2排出の増加を減速する有効な対策がとられ,排出量は2050年以降減少する.1980〜 1999年の平均値に対する温度差 CO2濃度が産業革命以前の2倍(560 ppm)になると,全球の平均温度は約3〜5°Cだけ上昇する ニューヨークの気候は,ジョージア州アトランタのようになる CO2濃度をこのレベルにとどめるには,今後数十年にCO2排出量を削減する大きな努力が必要.その努力がなされなければ,CO2濃度はさらに2倍(1,020 ppm)となり,さらに3.5°Cの温暖化が起こる ニューヨークは,フロリダの気候となる 図20―17:温度予測の全球地図.年平均表面温暖化(表面温度変化,℃).A1B シナリオに対する多数のモデルの結果.このシナリオでは,CO2 排出量の増加を抑制する有効な対策がとられ,排出量は2050 年以降減少する.予測は,3 つの時間期間に対するもの.2011~2030年(左),2046~2065 年(中央),2080~2099 年(右).1980~1999 年の平均値に対する差を示す.(©2007 IPCC AR―4 WG1, chap. 10, fig. 10.8)

降水量変化の予測 地球が暖かくなると,降雨は熱帯に集中する.乾燥地はいっそう干からびる 氷河は今後も縮小する モデルによる降水量の平均変化.1980〜1999年と2080〜2099年の年平均の差 地球が暖かくなると,降雨は熱帯に集中する.乾燥地はいっそう干からびる 氷河は今後も縮小する 融解水を供給する氷河がなくなれば,水不足が深刻化する 世界の山岳氷河の融解は,平均海面を上昇させる.グリーンランドの氷床が融解すれば,平均海面はおよそ6 m上昇する.南極西部の氷床の融解は,平均海面をさらに6 m上昇させる 図20―18:降水量変化の予測.(a)多数のモデルによる降水量の平均変化.変化は,1980~1999 年と2080~2099 年との年平均の差(©2007 IPCC AR―4 WG1, chap. 10, fig. 10.12)

間氷期の気候変動 現在の温暖期は,きわだって長く,安定していた 食物の生産と供給の間には微妙なバランスがある 完新世には本当に巨大な火山噴火や衝突が起こっていない 食物の生産と供給の間には微妙なバランスがある 耕作に適するほとんどの土地は,すでに耕されている 食物生産と消費の差は,1〜2%に過ぎない.10億人は,栄養不足である.世界の食糧備蓄は,2か月分しかない 現代文明がそれ自身を養うことができるのは,温暖な気候のおかげである 1550~1850の小氷期の後,例外的に温和な気候が訪れた.その結果,1850〜2010年に人類人口は増加した 図20―19:完新世と過去430,000 年の間氷期における全球温度の時間変化の比較.完新世の長く安定した温度に注意.それは,人類文明の興隆を支えたが,最近の地球史においてはきわめて異常である.それぞれの横軸のタイムスケールは,約40,000 年である.(Data from the Vostok ice core) 完新世と過去430,000年の間氷期における全球温度の時間変化.それぞれの横軸のタイムスケールは,40,000年

解決策 省エネルギー,持続可能なエネルギー源の開発 CO2の捕集と貯留 エネルギー消費の削減,および風力発電と太陽光発電へのシフト 石油資源獲得の必要性を低下させ,費用のかかる軍事介入を減らし,巨額の国費が外国に流出するのをくい止める 土壌の保全:持続可能な農業,ベジタリアン化 生物多様性の保全:森林・草原の育成,生態系の保全 人口増加の抑制,子供の数の制限 環境コストを含めた経済モデルの創造 発展途上国における食糧不足と貧困に取り組む

人類代? パウル・クルッツェンによれば,私たちは地質学上の新しい「人類新世」に生きている.完新世は人類文明が始まったときに終わった 人類は,ひとつの種による最初の全球集団をつくり,数十億年にわたって蓄えられた資源を消耗し,大気の組成を変化させ,第四のエネルギー革命を起こし,大量絶滅をまねいた 生命の起源あるいはO2濃度の上昇に匹敵する大変化 私たちは,代あるいは累代を替えた? 新生代・顕生代から人類代へ 過去の代は,数億年以上続いた.私たちは成功し,生き残れるか? 人は,惑星とそのすべての生物のために,知性と意識を惑星規模で働かせることができる.そうでなければ,人類代は失敗した早産の変異に終わる.知性を持つ種は,自分自身と環境を破滅させるだろう もし,私たちが失敗すれば,数千万年のうちに別の知的生物が現れるだろう.彼らは,惑星の資源がほとんど空であることを見いだす.惑星の二度目の文明化は,より困難な努力となるだろう