分子医学の急進展:遺伝子を中心として
1 研究小史 19世紀中葉をすぎると、核の中に染色体chromosomeが発見された 1 研究小史 19世紀中葉をすぎると、核の中に染色体chromosomeが発見された 1865 Mendelが遺伝の基本法則を発見し、遺伝子の概念を提唱 1869 Miescher バーゼルの病院で膿=白血球からDNAを発見、核酸nucleic acidと命名 1900 メンデルの再発見、変異体の作成など実験遺伝学が始まる 20世紀前半は酵素の研究が主、核酸は重要とされなかったが、DNAとRNAがあるとわかった
研究小史(続) 1944 Averyはニューヨークの病院で遺伝子の本体はDNAであることを証明(ほとんど無視された) 1950頃 Todd(英)が核酸の化学構造を決定 Chargaff(米)はDNAの塩基組成の間にA=T、G=Cが成立することを発見 1952 Harshey、Chaseがファージを使い遺伝子はDNAであることを証明 1953 WatsonとCrickによるDNA二重らせん構造の発見、X線回折像と並んでChargaffの法則がカギだった
細胞内ではB型が主 右巻き、逆平行ラセン 5’ 1ターンは10塩基対 長さは3.4nm、 だからヒトの染色体(全部で30億塩基対)の全DNAは3億回転、 (3X109/10=3億) その全長は約1メートルの長さである 3’ 5’ 3’
遺伝子は正確に複製される 鋳型合成
研究小史(続々) 1964 HollyがtRNAの塩基配列を決定することに成功(初の核酸の一次構造決定) 1972 遺伝子工学=遺伝子操作技術の完成 1974 DNA組み換え実験の停止 1975 Sanger ファージΦX174の遺伝子DNAの全塩基配列を決定 1982 transgenic遺伝子移入型動物、 マウス受精卵の核にラットの成長ホルモンの遺伝子DNAを注入 1990 ヒトゲノム計画開始 2001 2月 ヒトゲノム計画の事実上の完了 2003 4月 ヒトゲノム終結宣言
ヒトゲノム計画 2001 2月 セレラ社の介入によりヒトゲノム計画の事実上の完了 2003 4月 ヒトゲノム終結宣言 2001 2月 セレラ社の介入によりヒトゲノム計画の事実上の完了 2003 4月 ヒトゲノム終結宣言 当初の予想より小さく32億塩基対からなる 遺伝子の総数は3万-3万5千と推定 個人差は0.1%、300万塩基 → 遺伝子診断、テーラーメイド医療 最近は1個人のゲノムも決められる
3 遺伝子操作・遺伝子工学 1 切り出す:制限酵素 2 つなぐ:リガーゼ(酵素) 3 増幅する:PCR法(DNAポリメラーゼ) 3 遺伝子操作・遺伝子工学 1 切り出す:制限酵素 2 つなぐ:リガーゼ(酵素) 3 増幅する:PCR法(DNAポリメラーゼ) 4 導入する:ベクター(プラスミド、ウィルス)
PCR法の利用 基礎研究に不可欠な研究手法である 配列決定、遺伝子操作に不可欠 遺伝子診断 遺伝子治療 新品種の作成 親子判定 配列決定、遺伝子操作に不可欠 遺伝子診断 遺伝子治療 新品種の作成 親子判定 生物分類学、生態学 犯罪捜査 遺跡研究
問題点 1 感度がよすぎる=汚染の問題 かって恐竜の遺伝子DNAと思われていたのは実験している人のDNAだった? 2 塩基対のエラーが生じる いろいろな手法が開発され改善されきている 3 試料毎に最適条件が異なる
4 遺伝子診断 現代の主要な病気は遺伝子病 遺伝子上の書き誤り → 変異 → 多くは“正常” 時に致死的 まれに先天性異常 4 遺伝子診断 現代の主要な病気は遺伝子病 遺伝子上の書き誤り → 変異 → 多くは“正常” 時に致死的 まれに先天性異常 例 鎌形赤血球貧血、フェニルケトン尿症
遺伝子診断 PCR法による遺伝子DNAの増幅 Blot法による変異の検出 SNPS 一塩基多型 個人ごとの遺伝子の違い お酒に強い人、弱い人 胃潰瘍の治療薬オメプラゾールはシトクロームP450の遺伝子のG→A変換で副作用が違う β3アドレナリン受容体 Trp64は肥満しにくいがArg64は倹約型
テーラーメイド医療 個人の遺伝子に応じた医療 疾病の予防 副作用のより少ない投薬、効果的な投薬 疾病の予防 副作用のより少ない投薬、効果的な投薬 すでに個人のゲノム情報を決めることは始まっている 問題点 個人情報、経費
5 遺伝子治療 1980 Klein 初の遺伝子治療 1990 正式に遺伝子治療開始 NIH ADA症 1995 北大ADA欠損症の治療 5 遺伝子治療 1980 Klein 初の遺伝子治療 1990 正式に遺伝子治療開始 NIH ADA症 1995 北大ADA欠損症の治療 問題はベクター
倫理的制約・技術的制約 生殖細胞の加工はしない 審査 → 公開 追跡調査 ベクターなど技術的な制約が多い
6 ピジェネティクスEpigenetics エピジェネティクス:遺伝子が変化して同じ遺伝子でも性質が違ってくること DNA配列の変化を伴うことなく後天的な作用により変異が生じる機構があり、同じ遺伝子を持っていても個体や細胞は個々に違った性質を持つようになる 主要な機構として、①DNA塩基のメチル化による遺伝子発現の変化、②ヒストンの化学修飾による遺伝子発現の変化 などが知られている エピジェネティクスの変異は同じ個体内での、部位や個体の発生や分化に関する時間軸上の違いを生じる エピジェネティクスによる遺伝子の発現調節は、ガン、ある種の遺伝病(例 Angelman’sシンドローム)と深く関連