放射性物質を閉じ込める多重のバリア ガラス固化体 オーバーパック 緩 衝 材 岩盤 ・放射能が人間に影響を及ぼさないレベルに下がるまで放射性物質を長期間閉じ込めるために、 多重のバリアを施す。 ・多重バリアは、ガラス固化体、オーバーパック(金属製容器)、緩衝材(締め固めた粘土)からなる 人工バリアと、厚い岩盤による天然バリアから構成。 地下深部の 特徴 酸素欠乏の世界で、ものの腐食や溶解 が極めて起こりにくい 地下水の動きがきわめて遅い 地表の戦争や自然大災害の影響を受け ない、人が入ってくる心配もない 放射性物質をガラス構造に取り込む 水に溶けにくい 地下300メートル以深 ガラス固化体 緩衝材 岩盤 人工 バリア オーバーパック (金属製の容器) 放射能が高い期間、地下水とガラス固化体の接触を阻止 では多重バリアとは何か、ご説明します。 地層処分を安全に行うためには、高レベル放射性廃棄物を人間の生活環境から隔離して、長い間閉じ込め、近づけないようにすることが求められます。そのために施されるのが多重バリアです。 ・まず、高レベル放射性廃棄物を、科学的に安定したガラスで固めたガラス固化体にします。 ・次に、金属製の容器(厚さ19㎝)のオーバーパックに封入します。これにより、放射能レベルが高い処分当初のうち、少なくとも1000年間はガラス固化体が直接地下水と接触しないようにします。 ・さらに、その周りを厚さ70㎝の緩衝材で覆い、地下300mより深い地層に処分します。緩衝材に含まれるベントナイトは地下水を通しにくく、また、仮に放射性物質が溶け出してきた場合に、これを吸着して動きを遅くする働きをします。 ・これらのしくみを人工バリアと呼びます。 ・人工バリアの材料には、ガラス、鉄、粘土といった、それぞれ天然にも存在する材料を活用しています。 ・また、人工バリアの外側の岩盤は、地下水の流れが極めて遅く、また物質を吸着する性質があり、天然バリアとして放射性物質の動きを抑え閉じ込める働きをします。 ・更に地下深部は酸素が非常に少なく、金属が腐食しにくい環境にあります。 ・仮に放射性物質が溶け出したとしても、地表に達するまでには極めて長い時間を要し、その過程で放射能レベルは私たちの生活に影響を与えないレベルまで減っていきます。 低透水性 放射性物質を吸着し、移動を遅延 緩 衝 材 締め固めた粘土) 天然 バリア 放射性物質を吸着し、移動を遅延 岩盤 処分施設 地下深くの安定 した地層に処分
①ガラス固化体の役割(人工バリア) 100万年前の火山ガラス ◆ガラス固化体は、放射性物質を閉じ込める役割を持つ ・ガラスは分子構造の中に放射性物質を閉じ込めることが可能で、 割れても放射性物質が漏れ出すことはない ・ガラスは水に溶けにくい(ガラス固化体が全て溶けるのに約7万年と評価 ※) ガラス固化体 100万年前の火山ガラス 【ガラス固化体の仕様例】 材質:ガラス 寸法:高さ 約1.3m 直径 約40cm 重量:約500kg ガラス容積:約150ℓ ※ガラスの溶け出しに対する評価 <評価条件> ・ガラスの溶ける速度 長期間模擬地下水などに浸した試験結果をもとに設定 ・ガラス固化体の状態 ガラス固化体の表面積が10倍になったものが地下水に接触していると仮定 ガラス固化体1本が溶解する時間は約7万年 更に詳しくご説明します。 ガラス固化体は、放射性物質を閉じ込める役割を持ちます。 ガラスというと、通常は壊れやすいイメージがあると思いますが、色ガラスが割れても色が失われないように、ガラスは網目状の分子構造の中に放射性物質を閉じ込めておりまして、非常に溶けにくく、安定した物質です。 例えば、千葉県では,泥の層に埋まった火山ガラスというのが見つかっており、このガラスは実に100万年前から、ほとんど溶け出していないことが確認されています。 このように、ガラスは長期間放射性物質を閉じ込めるのに適した材料です。 およそ100万年前に堆積した泥質層の中に埋まった「火山ガラス」からは、ガラスの成分の溶けだしがほとんどないことが確認されている(千葉県にて産出) (核燃料サイクル開発機構 (現 日本原子力研究開発機構)パンフレット 「地層のことを考える」) ガラス固化体は網目構造の中に放射性物質を取り込み長期間安定な状態を保つ
鉄は酸素がない環境ではほとんど腐食しない ②オーバーパックの役割(人工バリア) ◆オーバーパックは、ガラス固化体と地下水の接触を、 放射能が大きく減る1000年間遮断する役割を持つ ・地下の深部では酸素が少ないため、金属の腐食は極めてゆっくりとしか進まない (長期腐食実験の結果、1000年間におけるオーバーパックの腐食量は、地下深部の環境条件の不確 実性などを考慮して大きめに評価しても約3cm程度) オーバーパック 長期腐食実験などを踏まえて、1000年間の腐食量は大きめに約3cmと想定 鉄は酸素がない環境ではほとんど腐食しない 出雲大社境内遺跡から出土した鉄斧 (730~750年前) 粘土で覆われた状態で発見され、その表面が薄い錆で覆われていたが、完全な形を残していた 【オーバーパックの仕様例】 材質:炭素鋼 寸法:高さ 約1.7m 外径 約80cm 内径 約40cm 厚さ 約20cm(※) 重量:約6トン ・そのガラス固化体を取り囲むオーバーパックは、ガラス固化体と周囲の地下水の接触を、放射能の減り方が大きい、少なくとも1000年間は遮断する役割を持ちます。 一般に、金属は錆びてボロボロになるイメージがありますが、地下の深部は酸素がほとんどなく、実は金属の腐食は極めてゆっくりとしか進みません。 オーバーパックについて言えば、長期間の腐食実験の結果などから推定すると、1000年間の腐食量はせいぜい約3cm程度と想定しており、これを十分上回る厚さとすることで、少なくとも1000年間は腐食などによって破損することなく、ガラス固化体に地下水が接触するのを防ぐことができると考えています。 【参考】 ・島根県出雲大社から約750年間埋まっていた鉄製の斧が出土したが、粘土に覆われた酸素の少ない環境では、さびは表面部分のみで内部には進展していなかった。 ・これはオーバーパックの材料である鉄が長期間安定に存在しうることを示す事例。 ・オーバーパックの設計 厚さ190mm 腐食量32mm/1000年 ・古代ローマ軍の要塞跡から出土した鉄釘は、酸素がない状態で埋まっていたため,1900年もの間、ほとんど腐食せずに残っていました。 ガラス固化体 ※図中の①~⑥は錆の厚さを 内部X線CT調査した断面位置 ※外からの圧力に対する安全性や、オーバーパックを透過する放射線に よる影響の低減などを考慮して、 必要な厚さを約20cmと設定した 写真提供:核燃料サイクル開発機構(現 日本原子力研究開発機構) これまで考古学で出土した鉄製品の長期腐食事例からは、1000年間の鉄製品の腐食深さは 0.1~1.4cm
③緩衝材の役割(人工バリア) ◆緩衝材は、オーバーパックへの地下水の浸透や、放射性物質の移動を遅らせたり、放射性物質を吸着する役割などを持つ ・緩衝材は、天然の粘土(ベントナイト)が主成分 ・ベントナイトは吸水すると膨らみ、粒子間の隙間を埋めることで水を通しにくくする性質を持つ 堺市下田遺跡から発掘された銅鐸 粘土の中で、1800年間腐食がほとんどなく、金属光沢が保たれていた 70cm 水 緩衝材 オーバーパックを覆う緩衝材にも使われるベントナイトは、水を吸うと粒子の大きさが何倍にも膨らむというユニークな性質を持っており、地下水が浸透してくると、この図のように粒子が膨らんで、粒子どうしの隙間を埋めて、水が極めて通りにくくなります。 この特徴を利用して、緩衝材は、オーバーパックに地下水が接触することを遅らせたり、また将来的に放射性物質が地下水に溶け出したとしても、この移動を遅らせる役割を持っています。 また、緩衝材自身がろ過機のように放射性物質を吸着する性質を持っているので、この吸着効果によっても放射性物質の移動を遅らせることができます。 砂の粒子 ベントナイト粒子 ベントナイトの 吸水による膨らみ 【緩衝材の仕様例】 材質:ベントナイト70%、ケイ砂30% 寸法:高さ 3.1m、外径 約2.2m、内径 約80cm 厚さ 約70cm 吸水により膨らんだ ベントナイト粒子 ベントナイトに 吸着した放射性物質 写真提供(財)大阪府文化財センター
④ 岩盤の役割(天然バリア) ◆岩盤は、人工バリアから漏れ出した放射性物質の移動を遅らせる役割を持つ ・地下深部の岩盤では地下水の流れは遅く、かつ岩盤は放射性物質を吸着する ・ガラス固化体から長時間かけてすこしずつ溶け出した放射性物質は、数万年~数十万年後に地表に達すると考えられる 最後に岩盤は、地下深部では地下水の流れが遅いこと、また岩盤自身が放射性物質を吸着する効果もあることから、人工バリアから放射性物質が漏れ出しても,地表に届くまでには何万年単位の非常に長い時間がかかります その間に放射能レベルは十分減衰していると考えられます。 ※断層破砕帯 断層の動き (岩盤のズレ)によって、岩石が押しつぶされて出来た帯状の部分。角張った岩石くずになっていることが多く、一般に水を通しやすい。