日本語統語論:構造構築と意味 No.2 構造と意味解釈 上山あゆみ(九州大学)
14:50 になったら Moodle 画面の上部の「出席をとります」をクリックして、 黒板のキーワードを入力して送信してください。 今日のブロックにある「名簿作成のために協力してくださ い」をクリックして、所属を記入してください。 今日のブロックにある「復習テスト1」をやってください。
今日の目標 「構造が意味を決める」とは、どういうことなのか、そのイ メージを(まずはざっくりとでよいので)理解すること 統語論のための「意味」の表示方法の基本を知ること。 TreeDrawer の使い方を知ること
観察 白いギターの箱 ギターの白い箱 「ギター」が白いという解釈で容認可能 「箱」が白いという解釈で容認可能 「ギター」が白いという解釈では、容認不可能
白いギターの箱 「ギター」が白いという解釈 「(ギターの)箱」が白いという解釈
ギターの白い箱 「箱」が白いという解釈 「ギター」が白いという解釈にはならない
構造と意味解釈 このように、どの要素とどの要素がどのように組み合わされ るかによって解釈が変わる。 そして、許されない「組み合わせ方」の解釈はできない。
derivation(派生) Numeration とその組み合わせ方(derivation)が 決まれば、出力(=<PF, LF>)が決定する。 どんな derivation が可能で、どんな derivation が不 可能かは、Lexicon と Computational System に よって決まる。 Computational System LF Numeration PF Lexicon 意味表示
理論構築の目標 生成文法の目的:Lexicon と Computational System の仕組みを解明すること =「こんな語順でこんな解釈ができる」という観察と合致する derivation が可能で、「こんな語順でこんな解釈はできない」とい う観察と合致する derivationが不可能なように、システムを構築 しなければならない。 ok であることを示すためには、うまくいく derivation が1つ存 在することを示せば十分であるが、* であることを示すためには、 どういう組み合わせで何をしてもダメであることを示す必要があ る。 → シュミレーション可能な理論でないと、検証が難しい。
統語論の研究 出発点:次のような minimal pair(最小対)を見 つける 「*」 ... 容認されないことを表す印。 「*」 ... 容認されないことを表す印。 例)(「ギター」が白いという解釈で)*ギターの白い箱 「ok」 ... 容認される場合。何も印を書かないことも多い。 例)(「ギター」が白いという解釈で)ok白いギターの箱 この文は(日本語の)文として成り立つ この文は(日本語の)文として成り立たない この文ではこの解釈ができる この文ではその解釈ができない
minimal pair の例 この文は(日本語の)文として成り立つ この文は(日本語の)文として成り立たない (1) a. ok白いギターの箱 b. *白いのギターの箱 c. ok白のギターの箱 (1a)(1c)のような語順になる適格な derivation が存在し、 (1b)のような語順になる適格な derivation が存在しないよう に、Lexiconと Computational Systemを考える。 この文は(日本語の)文として成り立つ この文は(日本語の)文として成り立たない
意味解釈が関わる minimal pair の例 (2) a. (箱が白いという意味で) okギターの白い箱 b. (ギターが白いという意味で) *ギターの白い箱 c. (ギターが白いという意味で) ok白いギターの箱 (2a)(2c)のような語順と意味になる、適格な derivation が 存在し、(2b)のような語順と意味になる、適格な derivation が存在しないように、Lexiconと Computational Systemを 考える。 この文ではこの解釈ができる この文ではその解釈ができない
統語論の研究と意味表示 意味解釈が関わる minimal pair を取り上げる以上、 意味表示がなければ、仮説構築の目標を表現すること ができない。 これまでの生成文法では、樹形図そのものが意味を表すかのよう に想定されてきた。しかし、樹形図は derivation を表しているの であるから、説明対象としての意味を表現するための手段は、樹 形図とは別に必要である。
『統語意味論』で提案された意味表示 {<x1, {<Kind, ギター>, <白い, _>}>, <x2, {<Kind, 箱>, <α, x1>}>} {<x1, {<Kind, ギター>}>, <x2, {<Kind, 箱>, <白い, _>, <α, x1>}>} ←「白いギターx1」と「x1 と何らかの関係のある箱 x2」 ↑ 「ギターx1」と「x1 と何らかの関係のある白い箱 x2」
『統語意味論』で提案された意味表示 {OBJECT の集合} が意味表示となる。 x1, x2, ... は、OBJECT の指標で、<x1, ...>,<x2, ...> は、それぞれ1つの OBJECT を表している。 それぞれの OBJECT は、指標と{property の集合} のペアと して表わされる。 1つ1つの property は、<attribute, value> (=<項目名, 値>)という形式で表す。 文脈がなければわからない「意味」は、「_」や「α (アルファ)」など を使って無指定にしておく。 例: 白さの度合いはわからないので、<白い, _> 例: ギターと箱の関係はわからないので、 <α, x1> {<x1, {<Kind, ギター>, <白い, _>}>, <x2, {<Kind, 箱>, <α, x1>}>}
意味解釈が関わる minimal pair の例 (2) a. (箱が白いという意味で) okギターの白い箱 b. (ギターが白いという意味で) *ギターの白い箱 c. (ギターが白いという意味で) ok白いギターの箱 (2a)の語順で、<白い, _>が<Kind, 箱>と同じ OBJECT に含まれる適格な derivation が存在し、 (2c)の語順で、<白い, _>が<Kind, ギター>と同じ OBJECTに含まれる適格な derivation が存在し、 (2b)の語順で<白い, _>が<Kind, ギター>と同じ OBJECTに含まれる適格な derivation が存在しないように、 Lexiconと Computational Systemを考える。
TreeDrawer Add Daughter Edit Node Remove Node Toggle LineWidth Change Parent Shift Left Shift Right Save と Load
TreeDrawer の仕組み 6,7 12 ,R,"A" 7,,0,"B" 12,8 9 ,1,"" 8,10 11 ,0,"D" 10,,0,"F" 11,,0,"G" 9,,1,"E" A列 B列 C列 D列 6 7 12 R A 7 B 12 8 9 1 8 10 11 D 10 F 11 G 9 E
今日の目標と次回までの課題 「構造が意味を決める」とは、どういうことなのか、そのイ メージを(まずはざっくりとでよいので)理解すること 今日の自由参加課題:この話題のどこかの部分について「反 論」してください。「いちゃもん」でもかまいません。 統語論のための「意味」の表示方法の基本を知ること。 見慣れない表記方法で圧倒されるかもしれませんが、焦らなくて も、だんだん具体例を通じて、慣れていってくれれば十分です。 TreeDrawer の使い方を知ること 今日の実践課題:スライド p.5 にある2つの樹形図を自分で 作成し、Word 文書に貼り付けて提出すること。