2013年5月25日土地改良新聞 小水力発電と水利権 早稲田大学名誉教授 農林中金総合研究所客員研究員 堀口健治 メデイアで紹介される事例

Slides:



Advertisements
Similar presentations
水力発電 2007 S 13. 京都府京都 市: 蹴上発電所 明治24年 水力開発の幕開け 富山県下新川郡: 黒部川第四発電所 昭和38年 大規模水力開発の時代 岡山県真庭郡: 寄水発電所 平成3年 環境に配慮した 水力開発の時代 時代の流れ ~水力発電の流れ~ 日本初電気事業用 水力発電所 日本一の高さの.
Advertisements

3 雇用調整 雇用調整・・・企業の労働サービス需要の量と質の変化に対応できるよ うに サービス供給量とその質的な構成を変更する施策のこ と。 数量調整賃金調整 労働者数と労働時間を削減する賃金などを削減する 新規採用削減 退職者不補充 出向・転籍 希望退職者募集 解雇 残業抑制 など 賞与の削減 ベースアップの水準削減.
メガソーラー設置による 収益計画 エス・ジー・ケイ有限会社 神奈川県平塚市ふじみ野2-20-1 TEL 0463-58-2696.
アーガス・メディア社 顧問 (元慶應義塾大学 産業研究所) (元東京ガス総合企画部) 吉武 惇二
道路運送法改正後における バス政策について
コア企業:株式会社篠田興業(標津郡標津町:一般土木建築工事業)
News Release 「地域MEGAおひさまファンド」募集開始! 固定価格買取制度へ対応しつつ長野県内外の他地域にも事業展開
業務用消滅型生ゴミ処理装置        のご紹介 専務取締役  岩城 和男.
エネルギーの分類 - - (出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギーガイドブック2008」)
太陽光を利用した発電について Generate electricity from the Sun
2012.1.14-15 脱原発世界会議(パシフィコ横浜) 持込企画:発送電分離プロジェクト 全国市民オンブズマン連絡会議
レンタサイクル実用化に向けた シミュレーション
消費税10%導入の是非                    肯定派 大岸・福田・山田.
森町まち・ひと・しごと 人口ビジョン概要 15/08/31【資料1】 森町人口ビジョン(抜粋) 総合戦略へ向けた、現状・課題の整理(案)
第3章 実態経済に大きな影響を及ぼす金融面の動向
高架台/低架台 メガソーラーを活用した アグリ・ソーラー計画
+ 延焼遮断帯整備促進事業の制度創設について (密集市街地区域内の都市計画道路の重点的な整備) 新たな制度 「延焼遮断帯整備促進事業」
宇都宮環境革命 ~ごみ袋から始まるエコライフ~
御国の光の作り方 明治大学2年 星野浩樹.
大阪市は固定資産税、都市計画税、法人市民税、事業所税について府と同様の軽減を予定
18章マイクロワールド③ ケース紹介 11期 ペヤング.
熊本県のハートフルパス が 全国31府県で利用可能に!
京都・神戸のみならず国内外拠点との差別化が難しい
資 料 4 介護報酬の地域区分の考え方(社会保障審議会介護給付費第81回分科会資料より) 平成24年度からの地域区分
LCAを用いたパレット運用における総合的な環境影響に関する研究
④新規用途開拓による地域農林水産物の需要拡大、ブランド向上
固定価格買取制度(FIT)による 地域での小水力発電開発促進
どっちの言い分ショー!! ~どうなる日本の電力自由化~
電力のパッケージ化 13T0228H 菖蒲直 人.
電力班 小松・早川 藤丸・松浦 電力自由化に伴う 電力価格の変化.
日本の原子力政策の現状と課題 c 大谷紗代.
電力自由化の是非 肯定派.
電力自由化の是非 否定派 相原 成田 紙崎 保立.
人と農地の問題を解決する「未来の設計図」 地域の実情に即した「人・農地プラン」の作成に向けてVer.2(たたき台)
発電事業の担い手 市町村 パイロットプロジェクト(採算性を必要としな い)段階で一定の役割 量的拡大の担い手にはなりきれない デベロッパー
グローバル人材に求めること グローバル人材セミナー(京都第1回) (もしくは求められるであろうこと) 2012年3月22日
大家さん必見! 火災(地震)保険と太陽光 発電と節税全般
「運営協議会」の設置及び施策の推進のための要請
回覧 猿払村温暖化対策ニュース 第30号 発行日:平成29年12月29日 発行元:役場住民課
平成30年度第1回 基山町都市計画審議会 (H30.7.5) 資料
人口46,566人の“まち”の取り組み 社会福祉法人三浦市社会福祉協議会 地域福祉課主事 杉崎 悠子 平成25年7月17日
文章解読 ー 台北 ー.
あなたにも届けたい。串間のめぐみ、 串間のぬくもり。串間の魅力を。 平成27年度決算 串間市連結財務諸表を公表します。 本市都井岬にて撮影.
水道施設のあらまし 電気・計装編 水道には電気が使われているよ。どこで使っているのか、 みんなで勉強してみましょう!
中国電力の脱原発の可能性 アカデミー6班 2年 川島 昭紀 (大東・経済) 久保田 藍 (大東・経済) 白根 秀一 (日本・経済)
(新)ふくしまアグリイノベーション実証事業【水田メガファームモデル事業】
地球温暖化防止に必要なものは何か E 石井 啓貴.
九州気候区の高専における太陽光発電 ◯葉山清輝,大山英典 (熊本電波高専) 中川重康 (舞鶴高専) 仲野 巧 (豊田高専)
地域からの再エネ導入事業募集! 兵庫県では、バランスのとれた再生可能エネルギーの導入拡大に向け、地域団体等による小水力発電の立ち上げ時の取組、基本調査・概略設計等の経費の一部を補助しています。   また、小水力発電や小規模バイオマス発電など全県的なモデルとなり得る地域団体等の取組に対しては、(公財)ひょうご環境創造協会と連携して、発電設備の導入経費の一部を無利子貸付により支援します。
非対称リンクにおける ジャンボフレームの性能評価
7基 12基 16基 7基 18基 原子炉設置 変更許可済 新規制基準への適合性審査中 適合性審査 未申請 稼働中 廃炉決定済 ※
席田用水の歴史 席 田 小学校 平成27年6月5日(金)本巣市立席田小学校4年生60名を対象に
地域低炭素投資促進ファンド事業 国 民間 資金 低炭素化プロジェクトの実現 (SPCによる実施) 平成25年度予算 ○○百万円 イメージ
小規模ソーラー設置による 収益計画 エス・ジー・ケイ有限会社 神奈川県平塚市ふじみ野2-20-1   TEL 0463-58-2696.
離島の再生可能エネルギー・蓄エネルギー導入促進事業
平成27年度財政運営検討W・Gとりまとめ(案)(概要)
今年の冬の厳寒期における 四国電力管内での電力の需給状況 四国電力 アカデミー7班 1年 後藤 友彦 (日大・産業経営) 小林 航
10kwからの企業用太陽光発電 ソーラーパワージャパン (商標登録出願中).
耕作放棄地を活かして地域を元気にしよう!
「全国ご当地エネルギー市民ファンド」の取組み始まる! 「おひさまファンド7(SEVEN)」募集開始!
環境・エネルギーでは、 持続可能な社会に向けて どのような取組が必要なのだろうか。
ISO23950による分散検索の課題と その解決案に関する検討
AiSEG スマート分電盤 HEMSを取り巻く環境について.
まちづくりと交通 (株)ライトレール 阿部 等
地域低炭素投資促進ファンド事業 国 民間 資金 低炭素化プロジェクトの実現 (SPCによる実施) 平成25年度予算 ○○百万円 イメージ
サハリン開発と天然ガス 新聞発表 5月14日 上野 雅史 坂中 遼平 松崎 翔太朗 河原塚 裕美 .
東京・愛知ヒアリングまとめ(事務局 6.11,14) 資料2 【課 題】 項 目 大阪(府・市) 東京(都・特別区) 愛知(県・名古屋市)
高架台 メガソーラーによる シーサイド・ソーラー計画 災害時の仮設避難場所にもなります
発電方式別の二酸化炭素排出量
(Environmental Technology Verification)
Presentation transcript:

2013年5月25日土地改良新聞 小水力発電と水利権 早稲田大学名誉教授 農林中金総合研究所客員研究員 堀口健治 メデイアで紹介される事例 早稲田大学名誉教授 農林中金総合研究所客員研究員 堀口健治   メデイアで紹介される事例 4月25日号の本紙に「農林業と自然再生エネルギー」を執筆したが、とくに土地改良関係者から小水力発電について質問が多く寄せられた。新聞に載る小水力発電の成功事例では水利権の関係はどうなっているのか、と。 もっともである。この点の説明が無いものが多い。4月25日の日経新聞夕刊(神奈川県)の記事も同様である。鹿児島県で活躍する(株)九州発電は、地元肝付町と協力し、鹿児島銀行の融資を受け最大出力1600kWの小水力発電を展開すると述べている。さらには同じ大隅半島でもう一か所開始することを述べている。山梨県では総合商社の丸紅が小水力発電を北杜市と協力し開始したのを手始めに、多くのか所に増やしたいと報道されている。 だがこれらに共通しているのは、いずれも水利権をめぐって国交省の出先機関と河川協議をしなければならないケースではないことである。河川法の適用を受けない普通河川や河川法の2級河川の準用は受けるが市町村長が管理する準用河川、さらには沢や湧水など河川ではないもの、といった水利権協議に関係せず物事を決めることができる対象としての発電所である。だから固定買取制度に合わせて短期に話をまとめることができたのであろう。そうした事例が成功例として喧伝されているかのようである。 従属発電なら届け出でよい小水力発電 そうしたことができる対象を有効に使い発電所を設けるのもよい。だが主力として1,2級河川からの利用を考えねばならない。日本の河川利用は、歴史的にも現在でも、農業用が主たる部分を占める。農業用の重力かんがいは歴史的に作られてきた仕組みであり、だからこそ落差があるので小水力発電に結びつく。その場合、展示的な水車発電も含め、どのような規模の発電でも新規の水利権申請が必要であり、河川の流量調査による長年月のデータ集積や漁業を含む関係者との協議が整っていることが、河川協議の際、求められる。それだけでも通常は数年以上を要することになる。 それを避けるために以下の緩和がなされている。農業用水路で取水された農業目的の水の範囲内で発電機に利用するならば協議は不要で、少ない資料を用意することで届を受け取り終了になる。従属発電の仕組みでありこのことは知られている。 土地改良の関係者が知りたいのはその先である。稲のかんがい目的で得た許可水利権の多くが、冬場の非灌漑期はわずかの取水量が認められているか、あるいはゼロである。この時期の発電をどうするかであり、現状では発電機の大きさを最大取水量(代掻き時期や夏場の時期)に合わせるのではなく、水量の少ない時期に合わせざるを得ず、期待するほどの電気や収入が得られないことを知っているからである。稲作では非灌漑期の冬も、慣行水利権から許可水利権に切り替えるときに地域用水といった広い概念で取水量を確保したところや、あるいは畑地かんがいなどの他の農業目的で取水量の枠を余計にとっているところは、ゼロと比べると発電機をそれなりのもので用意できる。20年も前から先駆的に小水力発電に取り組んでいる那須野ケ原土地改良区連合の発電はそれを有効に使っている。第1号機は20年前の建設だがここ数年の間に取り組んでいる小水力発電も皆そうである。なお先駆的に取り組んだがゆえに、ごみ問題への対応も同連合は苦労して策を考案し、今や全国にひろまっている「やな方式」を編み出した。スクリーンでごみを除去しているだけではごみの除却を頻繁にしないと水が流れず発電機が止まってしまう。それに対して編み出した方式は水の流れに対して簀子の角度をあげることで、水が流れながらアユが簀子の上を押し上げられるのと同様に、ごみは自動的に押し上げられていく。そして近くの土地改良区の組合員が時間のある時にたまったごみを除去するだけで済む。こうした工夫で多くの発電機を設置できている。 新規の発電用水利権を取った富山の山田新田 固定買取制に合わせて発電ができるようになった山田新田用水発電所は地域用水環境整備事業として取り組み、非灌漑期の低い取水量と稲作期の最大取水量の差を新規の発電用水利権を取った事例として注目される。しかしこの協議が整うためには3年半の時間を要した。小水力発電は非消費型であり汚さないで元の河川に戻すわけだから、大胆に協議の期間を短縮することが期待されるのだが、そうした事例は少ない。 固定買取制の下では従来のkW9-10円の水準を大きく超えた価格で購入されるので、期待される発電が行われば土地改良区の組合員が払う賦課金を減らすことができる。那須野ケ原土地改良区連合の例では経常賦課金が反当5千円から発電のお蔭で今年は2千円におさまるとのことであった。 そのため効率の良い安価な近年の発電機を設置し、非灌漑期の低い取水量やゼロの取水量(この期間は発電機が止まるのできめ細かな保守が必要)の下でも採算点を求めながら、従属発電の範囲内でまずは発電の検討を勧めたい。並行して非灌漑期等の低い取水量を引き上げる方向で河川協議を行うことが求められる。未使用の維持流量を利用する発電を電力会社は工夫し始めたが、一方では流れ込み方式の農業用水路で4台の発電機がありながら非灌漑期は1台しか稼働せず、設備利用率が4割以下にとどまる事例もあるくらいでこの分野の取り組みは遅れていると言わざるを得ない。 都市からも期待される小水力発電 小水力発電は効率的な再生エネルギーの一環として市民も注目している。消費者生協のパルシステム東京は那須野ケ原の1号機、さらには湧水利用の発電を契機に町をあげて環境維持にまい進する栃木県塩谷町から小水力発電の電気を直接購入するという。農産物の産直からエネルギーの産直への展開として固定買取価格にkW当たり数円を上乗せして買い取り、組合の事業活動にその電力を使用してグリーンエネルギーの拡大を支援する。このように他の再生エネルギーと比べ効率的で安定した小水力発電の一層の展開が期待されるが、そのためには水利権協議の柔軟・迅速な対応、さらには必置の資格の電気技師も土地改良区の県連合会で用意しリモート管理で対応するなどの対応も求められる。