スクリーニング発見後の 先天性甲状腺機能低下症診療の実際 平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業) 「成育疾患のデータベース構築・分析とその情報提供に関する研究」(研究代表者:原田正平) 保護者向け講演会(2009.11.1)名古屋市立大学医学部臨床研究棟2階臨床セミナー室 スクリーニング発見後の 先天性甲状腺機能低下症診療の実際 名古屋市立大学 小児科 水野晴夫
甲状腺はどのようにしてできるか? のどができてくる部分の下側にあるふくらんだところから妊娠3週頃より発生。 甲状腺憩室として下向きに発育。 くびをゆっくり下降し、妊娠7週頃までに正常の位置に到達。甲状舌管は消失。 (Moore人体発生学:第3版)
正常の甲状腺は? 左右両葉とこれを結ぶ狭い峡部からなる。
甲状腺ホルモンはどのようにしてできるか? 下垂体 視床下部 TSH受容体 ヨードの有機化 無機ヨード ヨードの濃縮 Tg I- Tgの水解 MIT DIT T4 T3 (甲状腺ペルオキシダーゼ) 甲状腺濾胞細胞 ヨードチロジンの 脱ヨード化
クレチン症の原因は? ほとんどは、甲状腺そのものが調子が悪い 甲状腺欠損または低形成 異所性甲状腺 ホルモン合成障害 まれに、下垂体、視床下部の中枢の異常
甲状腺検査をどう解釈するか? (甲状腺性で、フィードバックの異常がない場合) 甲状腺機能低下の程度 軽い 中等度 重い TSH FT4 FT3
臨床症候 黄疸遷延 便秘 臍ヘルニア 体重増加不良 皮膚乾燥・落屑 不活発 巨舌 嗄声 四肢冷感 浮腫 小泉門開大 甲状腺腫
(河野, 小児内科, 30 901-905, 1998)
実際の対応は? 満期産、成熟児で元気に生まれた。 生後5日目施行のマススクリーニングで、TSHが異常高値と高値を指摘、生後10日目に受診した。黄疸が少し残る程度で、明らかな症状は認めなかった。 大腿骨遠位端骨核はきわめて小さく、超音波検査では、甲状腺の低形成を認めた。採血で、TSH異常高値、FT4も明らかな低値で、チラーヂンS内服開始。 主にTSHを正常に保つように投薬量を調節。 3歳時、知能検査で正常。 →程度の強い機能低下の児でも、早く治療を開始すれば元気に育つ。
TSHがそれほど高値ではないが、正常化しない・・ 満期産、成熟児で元気に生まれた。 生後5日目で採血したマススクリーニングで、初回、再検ともTSHが10-20μU/ml、病院で精査をしたが、TSHの下降傾向はあったが、以降もTSH若干高値、FT4 1.1 ng/dl(年齢相当の正常平均値以下)、TRH負荷試験でTSH過剰反応。 チラーヂンS内服中、1歳以降にTSHの上昇あり、内服量の増量を余儀なくされた。 →TSHの上昇が軽度であるからといって、一過性の機能低下とは限らない。
内服開始の判断について その子の発育・発達を脅かす可能性があると判断した時点で内服を開始するのが安心。 判断材料は?(年齢相当の正常値を考慮するべき。) TSH基礎値 FT4が正常の場合でも、正常のどの位置にあるか? 正所に存在しない、明らかな腫大があれば、超音波検査も重要。 TRH負荷試験も判断の助けになる。 新生児期・乳児期は診断と治療は別、と考えたほうがよい。
病型診断・再評価 どこかで、薬を中止して、病気をしっかり見極める。 チラーヂンSを中止して、甲状腺シンチグラム(パークロレイト放出試験)、超音波検査、TSH、FT4、FT3、サイログロブリン、TRH負荷試験 場合によっては、遺伝子解析。 この時点で正常であった場合は一過性甲状腺機能低下症となるが、新生児期に明らかな原因のないものでは、再び機能低下になる可能性もあるので、必ず経過を追う必要がある。
一旦正常化した甲状腺機能が、数年後に再び機能低下が明らかになる児がいる。 特に、合成障害性、甲状腺腫性の場合は注意を払う必要がある。これらの場合、同胞にも特に気をつける必要がある。
まとめ 小児の発育・発達における甲状腺ホルモンの重要性を念頭に置く必要がある。 甲状腺機能は、月齢・年齢とともに変わりうるものであり、形態や位置に明らかな異常がある場合には永続的機能低下が存在する可能性が高くなるが、それ以外の場合には、最終的に異常か正常を判断するためには丁寧に甲状腺機能を追跡することに頼らざるを得ない。 開始の判断をする時点では「診断と治療は別」と考えるが、あくまでも再評価をすることが前提である。