原子論的自然観の確立を目指す 2012年10月6日(土) 上小教研理科分科会 上田高校 渡辺規夫

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 宇宙は何からできてくるか ? 理学部 物理 森川雅博 宇宙を満たす未知のエネルギー:暗黒エネル ギー 局在する見えない未知の物質:暗黒物質 銀河・星・ガス 何からできているか … 2006/7/25.
Advertisements

物理科3回 尾尻礼菜 ブラウン運動 ブラウン運動のシミュレーション。黒色の媒質粒子の衝 突により、黄色の微粒子が不規則に運動している。
関西学院大学オープンセミナー 2010年6月12日.  決定論的現象 天体の運動のように未来が現在により決 まっている現象  偶然的現象 偶然的な要素が加わり、未来の予測が不可 能な現象 気象、地震、災害、事故、宝くじ 株価、寿命、 … … … … … … … ….
原子が実在する根拠 岡山理科大学 理学部 化学科高原 周一. <質問>  なぜ原子論を信じるのですか?  原子論(=全ての物質が原子から できているという説)を信じます か?
1 関西大学 サマーキャンパス 2004 関西大学 物理学教室 齊 藤 正 関大への物理 求められる関大生像 高校物理と大学物理 その違いとつながり.
リスーピアシンポジウム 「いま必要な科学教育と は」 パナソニックセンター東京 10 周年記念 教育シンポジウム 2012 年 10 月 28 日 東京理科大学 川村 康文.
< 3 日目内容> 班分けとテーマの確認 HP 更新内容の確認 課題 4 ~ 6 について ( i-sys ) 今後のスケジュール 原発の是非について討論 プレゼンテーション方法論の講義 ネタ探し,班討論.
基礎ゼミ:電子と光と物質 多元物質科学研究所 上田潔・奥西みさき・高桑雄二・虻川匡司・佐藤俊一 大学とは何か? 大学で学ぶとはどういうことか? 大学:人類の遺産としての知識の伝 達 未知のものへの挑戦! 基礎ゼミの特徴:学生が積極的に授業に参加する。 自分で考え、自分で工夫して調べ、教室で発表する。
< 3 日目内容> 出席点呼 班分けとテーマの確認 HP 更新内容の確認 課題 3 ~ 5 の説明 ( i-sys ) 今後のスケジュール プレゼンテーション方法論の講義 ネタ探し,班討論.
1 今後の予定 8 日目 11 月 17 日(金) 1 回目口頭報告課題答あわせ, 第 5 章 9 日目 12 月 1 日(金) 第 5 章の続き,第 6 章 10 日目 12 月 8 日(金) 第 6 章の続き 11 日目 12 月 15 日(金), 16 日(土) 2 回目口頭報告 12 日目 12.
熱と仕事.
研修のめあて 授業記録、授業評価等に役立てるためのICT活用について理解し、ディジタルカメラ又はビデオカメラのデータ整理の方法について研修します。 福岡県教育センター 教員のICT授業活用力向上研修システム.
FUT 原 道寛 名列___ 氏名_______
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
環境表面科学講義 村松淳司 村松淳司.
熱力学Ⅰ 第1回「熱力学とは」 機械工学科 佐藤智明.
相模原理科教室 2011 Y字振子で絵を描こう 理科で遊ぼう会.
2009年4月23日 熱流体力学 第3回 担当教員: 北川輝彦.
理科教育法ー物理学ー 羽部朝男 物理学専攻.
宇 宙 宇宙観の変遷.
日本語統語論:構造構築と意味 No.1 統語論とは
中学校における理科教育の目的と目標について
数理論理学 第1回 茨城大学工学部情報工学科 佐々木 稔.
流体のラグランジアンカオスとカオス混合 1.ラグランジアンカオス 定常流や時間周期流のような層流の下での流体の微小部分のカオス的運動
重力レンズ効果を想定した回転する ブラックホールの周りの粒子の軌道
地政学2 「新しい地政学」の登場 政治地理学の理論と方法論 第3週.
<4日目内容> 今後のスケジュール HP更新内容の確認 課題の確認 (i-sys) 高原のプレゼン 2回目
成績は、小テストと期末のレポートによって評価 (1/3以上欠席の場合は不可とします)
原子核 atomic nucleus (陽子+中性子) 電子 electron e e- b線 陽子 proton H+
<3日目内容> 出席点呼 班分けとテーマの確認 HP更新内容の確認 課題3~5の説明 (i-sys) 今後のスケジュール
科学的方法 1) 実験と観察を重ね多くの事実を知る 2) これらの事実に共通の事柄を記述する→法則 体積と圧力が反比例→ボイルの法則
原子が実在する根拠 岡山理科大学 理学部 化学科 高原 周一.
統計学の基礎と応用 張 南   今日の話:序   論          履修の注意事項.
人工知能特論2007 東京工科大学 亀田弘之.
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
仮説実験授業 板倉聖宣氏が1963年に提唱した授業方法. 教師が質問(こんな実験をしたらどうなるか?) 主題の明確化. ↓
新学習指導要領説明会 技術・家庭(技術分野) 内容の数が2から4へ  ・改善の基本方針  ・内容の解説  ・指導計画の作成.
Philosophiae Naturalis Principia Mathematica
微粒子合成化学・講義 村松淳司
酸化と還元.
理科教育法ー物理学ー II 羽部朝男.
メディア技術と教育 メディア(media):情報媒体 情報(コンテンツ)と媒体(メディア)の分離性と依存性 人は「情報」とどのように接するか
前期量子論 1.電子の理解 電子の電荷、比電荷の測定 2.原子模型 長岡モデルとラザフォードの実験 3.ボーアの理論 量子化条件と対応原理
加熱する.
今後の予定 4日目 10月22日(木) 班編成の確認 講義(2章の続き,3章) 5日目 10月29日(木) 小テスト 4日目までの内容
原子で書いた文字「PEACE ’91 HCRL」.白い丸はMoS2結晶上の硫黄原子.走査型トンネル顕微鏡写真.
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
運動の規則性と不規則性 科学的認識の芽生えと発展 2012/8/4 京都教育大学 オープンキャンパス.
Chemistry and Biotechnology
(昨年度のオープンコースウェア) 10/17 組み合わせと確率 10/24 確率変数と確率分布 10/31 代表的な確率分布
連続体とは 連続体(continuum) 密度*が連続関数として定義できる場合
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
2009年4月23日 熱流体力学 第3回 担当教員: 北川輝彦.
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
科学の起源 Nothing is More Active than Thought. -Thales.
2009年7月2日 熱流体力学 第12回 担当教員: 北川輝彦.
低温物体が得た熱 高温物体が失った熱 = 得熱量=失熱量 これもエネルギー保存の法則.
<4日目内容> 今後のスケジュール HP更新内容の確認 掲示板の開設 原発についての討論 2回目 プレゼンテーション方法論の講義
孤立状態における生体分子の集合体の構造と反応
米国GAISEプロジェクトにおける 統計教育カリキュラムと評価方法
今後の予定 (日程変更あり!) 5日目 10月21日(木) 小テスト 4日目までの内容 小テスト答え合わせ 質問への回答・前回の復習
近代化学の始まり ダルトンの原子論 ゲイリュサックの気体反応の法則 アボガドロの分子論 原子の実在証明.
これらの原稿は、原子物理学の講義を受講している
今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
錬金術時代 ・Alchemy(アラビア の錬金術) ・中世ヨーロッパ ( )
香川大学工学部 富永浩之 知識工学1 第1-1章 人工知能と知識工学 香川大学工学部 富永浩之
錬金術時代 ・Alchemy(アラビアの錬金術) ・中世ヨーロッパ ( ) 商業が発達し、貨幣(金、銀)の必要性が大となる。
レポート課題 人間の行動に関して「問い」を考え、 その問いに対し、複数の仮説を立てましょう。 さらにどの仮説が“現実”にあっているか、
仮説演繹法 思考 経験 問題 : あるべき姿と現状のギャップ 課題 : 問題解決のために成すべきこと 問題 19世紀 あるべき姿(予想)
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
Presentation transcript:

原子論的自然観の確立を目指す 2012年10月6日(土) 上小教研理科分科会 上田高校 渡辺規夫 温度を気体分子の運動として理解する 原子論的自然観の確立を目指す 2012年10月6日(土) 上小教研理科分科会 上田高校 渡辺規夫

原子論的自然観の確立 高校理科教育の実情 科学史における原子論 理科教育における原子論 原子論的自然観の意義 《温度と分子運動》の授業記録と授業アンケート 結論

高校教育の絶望的状況 高校教員の9割が「過半数の生徒が自分の授業を嫌っている」と考えている。

原子論的自然観 新指導要領 粒子概念の重視 16~17世紀の科学者たち 原子論者 シェイクスピアのせりふにも「Atom」が出てくる。 新指導要領 粒子概念の重視 16~17世紀の科学者たち 原子論者  シェイクスピアのせりふにも「Atom」が出てくる。  19世紀末 反原子論者  20世紀初頭 原子論の勝利

近代科学の成立と原子論 古代ギリシャの原子論 デモクリトスの原子論 エピクロスの原子論   デモクリトスの原子論   エピクロスの原子論 近代科学は古代ギリシャの原子論を受け継いだところ以外からは発祥しなかった。

ガリレオはいかにして力学を建設したか アリストテレス・スコラ哲学的自然観 ↓ 原子論的・機械論的自然観

17世紀 ロバート・フックの原子論 『ミクログラフィア』における図 石の中の宝石 結晶の形は原子の配列を示している。 浮力の説明 気体・液体・固体のイメージ

ロバート・フック「熱は運動の一種」 火打ち石の火の粉は石の粉か、鉄の粉か 顕微鏡で観察すると・・・ →鉄が融けてまん丸に固まっていた。 [結論] 石と鉄の衝突の瞬間に鉄を融かすほどの熱 が瞬間的に流入することは不可能。 熱は物質ではなく、分子の運動である。

原子論の歴史 17世紀 単純素朴な原子論 18世紀 熱素説 熱を物質の一種と考える 19世紀 原子論の復活 ジュールの熱の仕事当量 17世紀 単純素朴な原子論 18世紀 熱素説 熱を物質の一種と考える 19世紀 原子論の復活         ジュールの熱の仕事当量         マックスウェルの気体分子運動論 19世紀末 原子論と反原子論の論争

反原子論者 マッハ     物理学者 哲学者 オストワルト  化学者   日本の留学生 池田菊苗 味の素の発明者   日本の理科教育への影響

19世紀の気体分子運動論 マックスウェル、ボルツマンが、熱を分子運動から説明 温度が高い→気体の分子の運動が激しい。 温度は気体分子の平均の運動エネルギーに比例している。

原子論者 ボルツマン ペラン アインシュタイン トムソン 長岡半太郎 ラザフォード    20世紀初頭に原子論が決定的に勝利

ファインマン ファインマン物理学 「もしもいま何か大異変が起こって、科学的知識が全部なくなってしまい、たった一つの文章だけしか次の時代の生物に伝えられないことになったとしたら、最小の語数で最大の情報を与えるのはどんなことだろうか」

ファインマンの考え 「私の考えでは、それは原子仮説(事実、その他、好きな名前で呼んでよい)だろうと思う。すなわち、すべてのものは、アトム──永久に動きまわっている小さな粒で、近い距離では互いに引き合うが、あまり近いと互いに反発する──からできている、というのである。これに少し洞察と思考を加えるならば、この文の中に、我々の自然界に関して実に膨大な情報量が含まれていることがわかる。」

科学史上の原子論と理科教育 16~17世紀の原子論 原子論の勝利 19世紀末 20世紀初頭 明治初頭 →原子論的科学啓蒙書・教科書 片山淳吉『物理階梯』 福沢諭吉『窮理図解』 明治19年(1886年)以降 →反原子論的理科教科書 1960年代 →原子論的教科書の登場 PSSC(アメリカ) 仮説実験授業(日本) 2012年 →新指導要領 粒子概念の強調 19世紀末の原子論にもとづく授業 仮説実験授業《温度と分子運動》 16~17世紀の原子論 19世紀末  原子論・反原子論の論争 20世紀初頭  原子論の勝利

反原子論の理科教科書 明治時代に反原子論の立場から教科書執筆 化学者池田菊苗 反原子論者オストワルトの弟子 目に見えない原子について考えることは非科学的であるとして原子を排除 「アボガドロの法則」を原子論的立場に立っているとして「アボガドロの仮説」として記述 原子・分子が存在していることを前提としている理論を存在しているかどうかわからないものとして記述 →化学を理解することがきわめて困難になった。 以後の教科書はこの書き方を踏襲 物理教科書 精密な論理と数学的表現になった。

原子論にもとづく理科授業 『理科教室』の論文 科学教育研究協議会の実践 PSSCの授業 仮説実験授業 《もしも原子が見えたなら》《結晶》《三態変化》 気体分子運動論にもとづく授業《温度と分子運動》

温度と分子運動の授業 仮説実験授業の授業書《温度と分子運動》 分子運動のイメージをもとに熱現象を理解する

Aを冷やせばBも凍るか

分子運動を目で見る?