投票の理論 最もよい投票の仕方とは.

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投票の理論 最もよい投票の仕方とは

投票方法 単純多数決原理と固定数投票方式 順位評点法(ボルダ法)

単純多数決原理 一騎打ちによる強い者勝ち

単純多数決原理 m個の候補 A1,・・・,Am n人の投票者 同数だと話がややこしいので奇数で棄権はないものとする Ai>Aj AiとAjを比較してAiに対する支持者数がAjに対する支持者数を上回るとき  すべての(i,j)に対してAi>AjまたはAj>Aiどちらか一方が成立する

単純多数決勝者 あるkが存在してAk>Aj ∀j≠kが満たされるときのAk 誰と比較しても優位に立つ候補だから それを勝者とするのは自然

コンドルセーのパラドクス M.Condorcetが矛盾を始めて指摘した 循環順序が発生し、単純多数決勝者は存在しない

コンドルセーのパラドクス A ソバ>トンカツ>スシ B スシ>ソバ>トンカツ C トンカツ>スシ>ソバ ソバとトンカツでは2対1でソバ トンカツとスシでは2対1でトンカツ スシとソバでは2対1でスシ この場合単純多数決勝者は存在しない

発生する割合 m 5 10 15 20 30 40 確率 25 49 61 68 76 81 各個人の選好がまったくランダムであることを想定 m=3の場合はn≧5で大体7~9%程度 n=∞のとき m 5 10 15 20 30 40 確率 25 49 61 68 76 81

問題点 循環順序発生の可能性はともかくとして、 投票とその集計に手間と時間がかかる ↓ 手軽で単純多数決勝者を選び出す可能性の高い投票方法が必要

改善策 単記投票 単記投票・上位2者決戦方式 2段階複記方式

単記投票 各自が1人の候補者に投票し、最大票を得たものを勝者とする方法 nやmが大きいときは単純多数決勝者の選ばれる確率はかなり低い Next

単記投票・上位2者決戦方式 単記投票で最高得票者が過半数に満たない場合は上位2者で決選投票を行う Next

2段階複記方式 第一段階 m人の候補者から1人を選ぶ 第二段階  第一段階の投票の得点の上位s人の中からt人を選ばせ最高得点者を勝者とする

シミュレーションの結果 l≒m/2 l:第一段階で選ぶ人数 s=2 t=1と選ぶと 単純多数決勝者との一致度が高くなる ↓ 1回目の投票で約半数の候補に投票して 上位2者決戦方式を採用するのがよい next

順位評点法(ボルダ法) 多くの人にまんべんなく支持されている人を選び出す

順位評点法(ボルダ法) 各投票者が候補者に第1位から最下位まで順位をつける 第1位にm-1点、第2位にm-2点、・・・、最下位に0点の得点を付与する この合計した得点が最高の候補を勝者とする

勝者と単純多数決勝者との一致確率 nやmに依存せずほぼ85%程度 m=20だと2段階複記法が65%なのに比べパフォーマンスがよい

問題点 集計に手間がかかる 候補が多いと投票者に負担がかかりすぎる

投票の本質的な難しさ

1.選択肢の脱落による影響    順位 投票者 1 2 3 4 5 a e b c d d c b a 5 4 3 2 1    順位 投票者

1.選択肢の脱落による影響 多数決勝者はa ボルダ法ではaが13点、bが12点 候補者eが脱落したら 多数決勝者は依然a

2.無関係対象からの独立性 投票者 1 a b c d e 2 3 a e d c b 3 2 1 投票者

2.無関係対象からの独立性 aとbに対する選好は不変 しかしボルダ法では a=11 b=10が a=8 b=10となり勝者が逆転 次

3.戦略的操作可能性 投票者 1 a b c d 2 3 a d c b 3 2 1 投票者

3.戦略的操作可能性 投票者3がbを当選させるためにaを故意に最下位へ この結果 本来ならばaが選ばれるべきなのに「戦略的操作」が功を奏しbが当選してしまう

アロウの一般不可能性定理

ケネス・アロウ ノーベル経済学受賞 完璧な社会的決定方式は理論的に存在し得ない アロウの一般不可能性定理 ケネス・アロウ ノーベル経済学受賞 完璧な社会的決定方式は理論的に存在し得ない

アロウの一般不可能性定理 社会Sはn人の個人で構成されている 選択肢の集合をXをし、 Xの要素をx,y,zなどの文字で表したとき x≧iy 個人がxよりもyを好まない x≧sy 社会Sがxよりもyを好まない x>y x≧yであってy≧xでないとき

個人、社会ともに首尾一貫した決定を行うことを要求するもの 公理1 弱順序公理

弱順序公理 全ての個人iに関して以下の条件が成立する 反射率 x≧ix ∀x∈X 推移率 x≧iy、y≧izならばx≧iz 連結率 全てのiと全てのx,y∈Xに対してx≧iyまたはy≧ixの少なくとも一方が成立 社会Sの選好関係≧sも弱順序公理を満足

民主主義・自由主義の根幹に かかわるもの 公理2 個人の選好の無制約性 公理3 パレート最適性 公理4 非独裁制

個人の選考の無制約性 社会の構成員は選択肢に関してどのような選考を持つことも許される ※ただし、公理1に矛盾しないこと 次

パレート最適性 全てのiに関してx≧iyが成立するならばx≧sy 次

非独裁制 ある特定の構成員i*が存在して、 任意の選択肢対x,y∈Xに対しx≧i*yなら 他の構成員の選好に関わりなく 常にx≧syとなるようなことが あってはならない

公理5 無関係対象からの独立性 ある選択肢を考慮の対象からはずしたとき 残りの選択肢集合に対する社会的選好は不変である

定理1  アロウの一般不可能性定理 構成員が2人以上、 選択肢が3個以上の場合、 公理1~5を満たす社会的決定方式は 存在しない

次々とパラドクスの存在が明らかに 定理2 戦略的操作の入らない決定方式は 独裁方式のみである

次々とパラドクスの存在が明らかに 公理6 投票者の無名性 投票者は誰もが同一の扱いを受ける 公理6 投票者の無名性 投票者は誰もが同一の扱いを受ける 公理7 選択肢の中立性 名前の入れ替えによって結果に 違いが出ることはない 以上のことより

定理3 社会的決定方式が公理6,7および 公理1,4を満たすならば、 投票者の選好のいかんに関わりなく、 全ての選択肢を社会的に 同順序としなくてはならない

公理6,7の妥当性を認めると 「社会選好の推移率」と 「無関係対象からの独立性」は 両立し得ないことを示している

完全な投票方式が 存在し得ないことが 明らかになったところで 推奨銘柄の登場です

投票者が好きなだけの数の候補者に投票し、最高票を得た候補を選出する方法 認定投票 投票者が好きなだけの数の候補者に投票し、最高票を得た候補を選出する方法

単記投票/上位2者決戦方式と 比べた場合の長所 A 特定の候補(のみ)を強く支持する人は従来通りその候補に投票すればよい B 強く支持する候補がいない場合には、許容できる候補の全員に投票すればよい C 特定の候補を強く支持しているが、その候補が当選の見込みがない場合は、当選しそうな候補の中でよりましな候補に投票することによって自分の票を生かすことができる

単記投票/上位2者決戦方式と 比べた場合の長所 D ある特定の候補を忌避したいときは、その候補以外の全員に投票することによって意思表示が可能になる E B,C,Dにより、より多くの有権者が投票に参加するものと考えられる F 候補が乱立した場合“最大の少数者グループ”によって支持された候補者が勝つことを防止できる。

単記投票/上位2者決戦方式と 比べた場合の長所 G 弱い候補に対する不当な評価を防止できる H 適正な候補が選ばれた場合、認定投票は単記投票に比べて得票率が高くなるので、選挙結果の正当性が増す

定理4 各投票者の選考が2分割(よい候補と悪い候補の2種類しかいない場合)なら、認定投票には戦略的操作は入らないまた、すべての2分割選好に対して戦略的操作が入らない投票方式は認定投票のみである。一方、選好が3分割以上の場合には、戦略的操作が入らない投票方式は存在しない

認定投票の短所 集計に手間がかかる 1人の持つ票数が異なるのは公正さを欠く ↓ 1章で紹介 角のない八方美人的候補が選ばれやすい