東京大学大学院工学系研究科 石川顕一 理研レーザー物理工学研究室 河野弘幸、緑川克美

Slides:



Advertisements
Similar presentations
レーザーとは 応用プロジェクト I レーザ誘起化学反応の直接追跡 (担当:勝村庸介、工藤久明、石川顕一) 石川顕一.
Advertisements

m=0 状態の原子干渉計による パリティ依存位相の測定 p or 0 ? 東理大理工 盛永篤郎、高橋篤史、今井弘光
生体分子解析学 2017/3/2 2017/3/2 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
非線形光学効果 理論 1931年 Göppert-Mayer ラジオ波 1959年 Winter 可視光 1961年
導波路放出光解析による量子細線の光吸収測定
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
iPP分子の分子内ポテンシャルエネルギーの最も低い分子構造(コンフォメーション)
「高強度領域」 100 MW 〜 1 GW 50 Pcr 〜 500 Pcr 高強度レーザーパルスは、媒質中で自己収束 光Kerr効果
ファブリ・ペローエタロンを用いた リング型外部共振器付半導体レーザーの 発振周波数制御
He10830AにおけるHanle/Zeeman 効果を使った彩層磁場診断
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛
平成27年度光応用工学計算機実習 偏光~ジョーンズ計算法 レポート課題
量子ビーム基礎 石川顕一 6月 7日 レーザーとは・レーザーの原理 6月21日 レーザー光と物質の相互作用
菊地夏紀 荒木幸治、江野高広、桑本剛、平野琢也
低周波重力波探査のための ねじれ振り子型重力波検出器
光トラップ中での ボース凝縮体の運動 学習院大学 物理学科 平野研究室 菊地夏紀.
1次元電子系の有効フェルミオン模型と GWG法の発展
太陽風プロトンの月面散乱による散乱角依存性の研究
A4-2 高強度レーザー テーマ:高強度レーザーと物質との相互作用 橋田昌樹 井上峻介 阪部周二 レーザー物質科学分科
理研稀少RIリングの為の TOF検出器の開発 埼玉大学大学院理工学研究科 博士前期課程2年 久保木隆正
ナノデザイン特論2 レーザーの基礎
量子ビーム基礎 石川顕一 6月 7日 レーザーとは・レーザーの原理 6月21日 レーザー光と物質の相互作用
QMDを用いた10Be+12C反応の解析 平田雄一 (2001年北海道大学大学院原子核理論研究室博士課程修了
冷却原子スピン系における 量子雑音の動的制御
原子で書いた文字「PEACE ’91 HCRL」.白い丸はMoS2結晶上の硫黄原子.走査型トンネル顕微鏡写真.
研究課題名 研究背景・目的 有機エレクトロニクス材料物質の基礎電子物性の理解 2. 理論 3. 計算方法、プログラムの現状
一つのテーマの全体を通して遂行するには様々な力が必要
Bursty Bulk Flow 生成に関する理論モデル
光子モンテカルロシミュレーション 光子の基礎的な相互作用 対生成 コンプトン散乱 光電効果 レイリー散乱 相対的重要性
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
(昨年度のオープンコースウェア) 10/17 組み合わせと確率 10/24 確率変数と確率分布 10/31 代表的な確率分布
平成28年度PBL(平成28年4月8日~平成28年7月29日実施)
課題演習B2 - 半導体の光応答 - 物一 光物性研究室 中 暢子 准教授 有川 敬 助教 TA 1名(予定)
背景 課題 目的 手法 作業 期待 成果 有限体積法による汎用CFDにおける 流体構造連成解析ソルバーの計算効率の検証
明大理工,通総研A 木下基、福田京也A、長谷川敦司A、細川瑞彦A、立川真樹
原子分子の運動制御と レーザー分光 榎本 勝成 (富山大学理学部物理学科)
PHENIX実験におけるp+p衝突実験のための
A4-2 高強度レーザー テーマ:高強度レーザーと物質との相互作用 橋田昌樹 井上峻介 阪部周二 レーザー物質科学分科
A4-2 高強度レーザー テーマ:高強度レーザーと物質との相互作用 井上峻介 橋田昌樹 阪部周二 レーザー物質科学分科
大学院理工学研究科 2004年度 物性物理学特論第5回 -磁気光学効果の電子論(1):古典電子論-
偏光X線の発生過程と その検出法 2004年7月28日 コロキウム 小野健一.
Numerical solution of the time-dependent Schrödinger equation (TDSE)
平成28年度光応用工学計算機実習 偏光~ジョーンズ計算法 レポート課題
井坂政裕A, 木村真明A,B, 土手昭伸C, 大西明D 北大理A, 北大創成B, KEKC, 京大基研D
タンパク質-リガンド複合体への共溶媒効果の系統的解析
高強度軟エックス線パルス同時照射によるHe+イオンからの高調波発生の飛躍的増大 Dramatically enhanced high-order harmonic generation from He+ under simultaneous laser and soft x-ray pulse irradiation.
楕円型量子ドットの電子・フォノン散乱 1.Introduction 2.楕円型調和振動子モデル 3. Electron-Phonon散乱
遺伝的アルゴリズム (GA) を活用した スペクトルの波長選択および時系列 データにおけるプロセス変数かつその時間 遅れ (ダイナミクス) の選択 明治大学 理工学部 応用化学科 データ化学工学研究室 金子 弘昌.
水素の室温大量貯蔵・輸送を実現する多孔性材料の分子ダイナミクスに基づく解明と先導的デザイン
格子ゲージ理論によるダークマターの研究 ダークマター(DM)とは ダークマターの正体を探れ!
落下水膜の振動特性に関する実験的研究 3m 理工学研究科   中村 亮.
遠赤外分光 (遠赤外域コヒーレント光発生と 分子回転スペクトルの精密周波数測定)
α decay of nucleus and Gamow penetration factor ~原子核のα崩壊とGamowの透過因子~
振動分光・電気インピーダンス 基礎セミナー 神戸大学大学院農学研究科 農産食品プロセス工学教育研究分野 豊田淨彦.
My thesis work     5/12 植木             卒論題目 楕円偏光照射による不斉合成の ためのHiSOR-BL4の光源性能評価.
大規模並列計算による原子核クラスターの構造解析と 反応シミュレーション
PI補償器の出力を時変係数とする 定常発振制御系の安定性解析
生体分子解析学 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
現実的核力を用いた4Heの励起と電弱遷移強度分布の解析
Magneto-Optics Team 2003年度 佐藤勝昭研究室 OB会 Linear magneto-optics group
2008年 電気学会 全国大会 平成20年3月19日 福岡工業大学 放電基礎(1)
弱電離気体プラズマの解析(LXXVI) スプラインとHigher Order Samplingを用いた 電子エネルギー分布のサンプリング
高計数率ビームテストにおける ビーム構造の解析
T-型量子細線レーザーにおける発振および発光の温度特性
転移学習 Transfer learning
瀬戸直樹 (UC Irvine) 第5回DECIGOワークショップ
磁場マップstudy 1.
60Co線源を用いたγ線分光 ―角相関と偏光の測定―
自己ルーティングによるラベル識別 コリニア音響光学効果を用いたラベル識別 スケジューリング 経路制御 ラベル ラベル 識別 ラベル 処理
Presentation transcript:

東京大学大学院工学系研究科 石川顕一 ishiken@q.t.u-tokyo.ac.jp 理研レーザー物理工学研究室 河野弘幸、緑川克美 楕円偏光によるインパルシブ回転ラマン散乱の シミュレーション Simulation of the impulsive rotational Raman scattering with an elliptically polarized laser pulse 2002年9月27日 応用物理学会秋季学術講演会(新潟大学) 東京大学大学院工学系研究科 石川顕一 ishiken@q.t.u-tokyo.ac.jp 理研レーザー物理工学研究室 河野弘幸、緑川克美 To be published in Phys. Rev. A 66

インパルシブ誘導ラマン散乱(ISRS) ISRS : 極超短パルスを得るための手法の一つ (河野弘幸等、応物2002年春28pZE1) 我々は、フェムト秒レーザーと物質の様々な非線形相互作用を研究している。 ISRS : 極超短パルスを得るための手法の一つ (河野弘幸等、応物2002年春28pZE1) 超短パルスレーザー(ポンプ光)がラマン媒質中に瞬時にフォノンを励起する パルス幅 < ラマン振動または回転の周期 弱いプローブ光 → ラマンサイドバンドの生成 既存の研究(振動、回転) ポンプ光:直線偏光 楕円偏光のポンプ光の場合どうなるか? 回転ラマンの場合、励起されるフォノン振幅は、ポンプ光の楕円度に大きく依存すると予想される。

CPA-Ti:Sapphire Laser System インパルシブ誘導ラマン散乱(ISRS) Pump 300 mJ (785nm) CPA-Ti:Sapphire Laser System 785 nm, 80 fs, 800 mJ, 10 Hz Probe 10 mJ (392.5nm) Time Delay:21 ps Half Mirror Pump → Raman coherence (phonon QM) QM The probe pulse is injected. Time Delay Spectrometer L1 L2 Wavelength (nm) Relative Intensity S1 AS1 F S2 S3 AS2 AS3 Analyzer Fresnel Rhomb Dichroic Mirror Hollow Fiber ・l = 750 mm ・Inner Diameter: 126 mm ・Hydrogen Pressure: 2 atm l/4 Plate BBO(t =100 mm) L1 L2 f = 700 mm f = 600 mm 河野弘幸等、春季第49回応用物理学会関係連合講演会 28pZE1 (2002)

本研究の目的 任意の楕円度のフェムト秒ポンプパルスによって、ラマン媒質中にインパルシブに励起される回転ラマンコヒーレンスのダイナミクス 特に、フォノン振幅の楕円度依存性 回転フォノンが励起された媒質中での、直線偏光プローブパルスの散乱 ラマン媒質 水素(0.5atm)充填中空ファイバー(内径126m)

レーザー電場と分子の回転自由度との相互作用の理論モデル Rotational phonon or Rigid rotor ? Rotational phonon concept (Rotationally invariant formalism) Rigid rotor formalism 分子→量子力学的な線状回転子 分子配向、回転波束の取り扱いに用いられる。 多くの異なる J 準位が励起される場合に適している。 比較的高強度(〜 1015 W/cm2) 長パルス(〜 ns) 角運動量 DJ = 2 のフォノンとの相互作用として記述。 2つの J 準位(J = 1⇔ J = 3)のみが重要で、他の回転準位の励起は無視できる場合に有効。 比較的低強度(〜 1013 W/cm2) 短パルス(〜 fs) 本研究ではこちらを使う。

Rotationally invariant formalism R. Holmes and A. Flusberg, Phys. Rev. A37, 1588 (1988) ラマン振動数 フォノン励起 レーザーの伝播方向をzとして量子化 フォノン生成 電場(a= 1:右円偏光、 a= −1:左円偏光) フォノンによるレーザー光の散乱 クレプシュ=ゴルダン係数

Rotationally invariant formalism R. Holmes and A. Flusberg, Phys. Rev. A37, 1588 (1988) 電場Eaに対して、slowly varying envelope approximationを適用。 フォノン励起Qnはそのまま。 減衰 カー効果 分散 ラマン散乱 ポンプ光通過後 楕円度 フォノン振幅

フォノン振幅のポンプ光楕円度依存性 ポンプ光のパルス幅 = 80 fs > TR (57 fs)の場合(厳密にはインパルシブでない) Parametric gain suppression due to Stokes-anti-Stokes (SA) coupling 直線偏光 q0は励起されない。 q-2が選択的に励起。 円偏光 フォノン振幅は、楕円度と伝播距離に大きく依存!

フォノン振幅のポンプ光楕円度依存性 ポンプ光のパルス幅 = 40 fs < TR (57 fs)の場合(インパルシブ) 直線偏光、円偏光でもフォノン励起 q0も励起される →ep, z 依存性は小 q2とq-2が同程度に励起。 フォノン振幅は、楕円度と伝播距離に大きく依存! 楕円偏光のときに、フォノン振幅大!

プローブ光のスペクトル広がり qm が z に依存せず、プローブ光のパルス幅が長いとき解析的に得られる結果 のとき スペクトルは広がる。 ベッセル関数 スペクトルは広がる。 のとき 1次のストークス、反ストークス成分のみができる。

プローブ光のスペクトル広がり プローブ光 プローブ光のパルス幅が80フェムト秒の場合には、スペクトルはあまり広がらない。 直線偏光 ピーク強度:1011 W/cm2 パルス幅:80 fs プローブ光のパルス幅が80フェムト秒の場合には、スペクトルはあまり広がらない。 プローブ光のパルス幅が40フェムト秒の場合には、少なくとも直線偏光のポンプ光を用いた場合と同等以上に、スペクトルは広がる。 ポンプ DM = 2のフォノンとDM = −2のフォノンが同等に励起されていることが望ましい。 ポンプ光によって励起されたラマン媒質中を1m伝播したプローブ光のスペクトル

結論 インパルシブ誘導回転ラマン散乱による、ラマンコヒーレンスの励起は、 ポンプ光の楕円度に大きく依存する。 直線偏光や円偏光の場合に比べ、楕円偏光の場合の方が、励起効率がよい。 楕円偏光の場合には、伝播距離 z にも大きく依存する。 励起されたラマン媒質中に、直線偏光のプローブ光を通過させた場合の、プローブ光のスペクトルの広がりは、 適切な楕円度の超短パルスのポンプ光を用いれば、直線偏向のポンプ光を用いた場合と少なくとも同等のスペクトル幅を得られる。 To be published in Phys. Rev. A 66