わが国の透析患者における感染症死亡率~一般住民との比較~ ワークショップ「死因上位を占める感染症:実態と対策」 わが国の透析患者における感染症死亡率~一般住民との比較~ 若杉 三奈子1)2), 川村 和子2) , 風間 順一郎2) , 成田 一衛2) 1)新潟大学 臓器連関研究センター、2)第二内科 Minako Wakasugi @ MD, MPH, PhD
日本透析医学会 CO I 開示 筆頭発表者名: 若杉 三奈子 ワークショップ「死因上位を占める感染症:実態と対策」 日本透析医学会 CO I 開示 筆頭発表者名: 若杉 三奈子 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある 企業などはありません。
本日の内容 死因上位を占める感染症:実態 わが国の透析患者では、心血管死亡よりも非心血管死亡の方が実は多い ワークショップ「死因上位を占める感染症:実態と対策」 本日の内容 死因上位を占める感染症:実態 わが国の透析患者では、心血管死亡よりも非心血管死亡の方が実は多い 非心血管死亡の約半数を占める感染症に、もっと注目する必要がある わが国の透析患者における感染症死亡率 ~一般住民との比較~ (Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial. 2012)
わが国の透析患者の死亡原因では、 心血管病(41%)よりも非心血管病(47%)の方が多い 一般住民との死亡率差はほぼ同じ 年齢補正した 死亡率 (1000人年あたり) 年齢補正した 死亡率 (1000人年あたり) 心血管病(CVD)* 非心血管病(non CVD)** 透析患者と一般住民の死亡率差を縮めるためには、 心血管病のみならず、非心血管病の対策も重要である *CVD: 心不全、脳血管障害、心筋梗塞、カリウム中毒/頓死、肺血栓/肺塞栓 **non CVD: 感染症、悪性腫瘍、悪液質/尿毒症、慢性肝炎/肝硬変症、腸閉塞、出血、自殺/拒否、その他 Wakasugi M, et al. submitted to Ther Apher Dial.
感染症はわが国の透析患者の死因の第2位を占め、 その割合は年々増加している
本日の内容 死因上位を占める感染症:実態 わが国の透析患者では、心血管死亡よりも非心血管死亡の方が実は多い ワークショップ「死因上位を占める感染症:実態と対策」 本日の内容 死因上位を占める感染症:実態 わが国の透析患者では、心血管死亡よりも非心血管死亡の方が実は多い 非心血管死亡の約半数を占める感染症に、もっと注目する必要がある わが国の透析患者における感染症死亡率 ~一般住民との比較~ (Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial. 2012)
一般住民と比べた透析患者の死亡率は 敗血症100~300倍、肺感染症は約15倍 Background Methods Results Discussion Conclusion 一般住民と比べた透析患者の死亡率は 敗血症100~300倍、肺感染症は約15倍 Kidney Int 2000; 58: 1758-64より一部改変 敗血症 肺感染症 透析患者 一般住民 10倍以上 年間死亡率 年齢(歳) 透析患者 日本は? 年間死亡率 100倍以上 一般住民 年齢(歳) しかし、わが国と米国では透析医療の内容に異なる点も多いため、 これらの数字をわが国の透析患者にそのまま外挿することはできない。
Background Methods Results Discussion Conclusion 方法 データソース 日本透析医学会 統計調査委員会「わが国の慢性透析療法の現況CD-ROM版」(2008年、2009 年12 月31 日現在) 同年の人口動態統計調査 主要アウトカム:全感染症死亡 副次アウトカム:感染症カテゴリー別の死亡 アウトカムの定義:ICD-10コードで定義。 Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial. 2012
死亡率の算出方法 観察期間の死亡数 死亡率= 観察対象集団の観察期間の合計(人年) 2008年末 JSDTデータ 死亡数(分子) Background Methods Results Discussion Conclusion 死亡率の算出方法 観察期間の死亡数 死亡率= 観察対象集団の観察期間の合計(人年) 2007年12月31日 2008年12月31日 2009年12月31日 2008年末 JSDTデータ 死亡数(分子) 2009年末 2008年12月31日の患者数×2(分母)* *Esteve J, et al. Techniques for the analysis of Cancer Risk. In: Statistical Methods In Cancer Research: Volume IV: Descriptive Epidemiology. Lyon, France: International Agency for Research on Cancer, 1994;49–105.
方法 解析方法 透析患者の全感染死亡率を算出 一般住民の全感染症死亡率を算出 年齢補正を行い、一般住民と比較した透析患者の Background Methods Results Discussion Conclusion 方法 解析方法 透析患者の全感染死亡率を算出 一般住民の全感染症死亡率を算出 年齢補正を行い、一般住民と比較した透析患者の 標準化死亡率比(Standardized mortality ratio, SMR) 死亡率差(Rate difference) を算出 サブ解析:感染症カテゴリー別でも同様に検討
全死亡に占める感染症死亡の割合は、 一般住民12%に対し、透析患者では20% Background Methods Results Discussion Conclusion 全死亡に占める感染症死亡の割合は、 一般住民12%に対し、透析患者では20% 感染症死亡率(1000人年あたり) 20% 12% 感染症死亡 274,683人 10,435人 全死亡数 2,284,272人 51,423人 年齢
日本の透析患者の感染症死亡率は、 一般住民の約8倍 Background Methods Results Discussion Conclusion 日本の透析患者の感染症死亡率は、 一般住民の約8倍 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 年齢 一般住民の 感染症 死亡率 (1000人年あたり) 2008年末 透析 患者数 透析患者の 死亡率が 一般住民と 同じと仮定 した場合の 感染症死亡患者数(期待数) 実際の 感染症死亡患者数 (実測数) <30歳 0.016403 1669 0.1 14 30歳~ 0.023494 16247 0.8 85 45歳~ 0.114709 64828 14.9 673 60歳~ 0.704738 121867 171.8 3805 75歳~ 8.838104 68622 1213.0 5854 合計 273237 1400.4 10435 敗血症 実測数 10,435.0 標準化死亡率比 = = = 7.5 (SMR, standardized mortality ratio) 期待数 1,400.4 (95%信頼区間7.3-7.6) 透析患者は一般住民に比べて約8倍感染症死亡率が高い 何倍? 肺炎 Wakasugi M, et al. Ther Apher Dial. 2012
感染症カテゴリー別での結果(注意!) 敗血症 肺炎 感染症カテゴリー別の検討は、 確診例のみを用いている(透析患者の場合)。 Background Methods Results Discussion Conclusion 感染症カテゴリー別での結果(注意!) 感染症カテゴリー別の検討は、 確診例のみを用いている(透析患者の場合)。 全感染症死亡の10,435人のうち、死亡原因分類データのあるものは、3,291人(32%)である。 そのため、感染症カテゴリー別での結果は、透析患者の感染症死亡率を低く見積もっている可能性がある。 全感染症死亡に占める割合 敗血症 肺炎 確診例
感染症カテゴリー別での結果 一般住民では肺炎が8割を占めるが、透析患者では肺炎と敗血症が二大原因 Background Methods Results Discussion Conclusion 感染症カテゴリー別での結果 一般住民では肺炎が8割を占めるが、透析患者では肺炎と敗血症が二大原因 全感染症死亡*に占める割合 敗血症 肺炎 肺炎 *透析患者は確診例のみ
感染症カテゴリー別 一般住民と透析患者の死亡率 Background Methods Results Discussion Conclusion 感染症カテゴリー別 一般住民と透析患者の死亡率 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 透析患者の肺炎死亡率は高いが、 年齢補正を行うと、一般住民との差はそれほど大きくはない。 ↓ 肺炎死亡率が高いのは、 透析患者だからというよりも、 高齢者が多いから、かもしれない。 敗血症 肺炎
感染症カテゴリー別 一般住民と透析患者の死亡率 Background Methods Results Discussion Conclusion 感染症カテゴリー別 一般住民と透析患者の死亡率 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 腹膜炎死亡率は 一般住民の9.9倍(95%CI, 8.2-11.8) 敗血症 肺炎
一般住民との感染症死亡率の差を縮めるためには、 Background Methods Results Discussion Conclusion 感染症カテゴリー別での結果 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 年齢補正した死亡率(1000人年あたり) 全感染症死亡率における 一般住民との差の7割は 敗血症が占めていた ↓ 一般住民との感染症死亡率の差を縮めるためには、 まず敗血症対策が重要である 敗血症 肺炎
一般住民と比べた透析患者の死亡率は 敗血症 14.3倍(95%CI, 13.5-15.0)、肺炎 1.3倍(95%CI, 1.2-1.4) Background Methods Results Discussion Conclusion 一般住民と比べた透析患者の死亡率は 敗血症 14.3倍(95%CI, 13.5-15.0)、肺炎 1.3倍(95%CI, 1.2-1.4) 死亡率 (1000人年あたり) 死亡率 (1000人年あたり) 敗血症 肺炎 年間死亡率 年間死亡率 年齢(歳) 年齢(歳)
Background Methods Results Discussion Conclusion 死因上位を占める感染症:実態のまとめ 1.全死亡に占める感染症死亡の割合は、一般住民12%に対し、透析患者では20% 2.日本の透析患者の感染症死亡率は一般住民の約8倍 3.透析患者の感染症死亡原因で多いものは、肺炎と敗血症 4.一般住民との感染症死亡率差の約7割は、敗血症が占める 5.感染症カテゴリーにより、その死亡率は異なる
Background Methods Results Discussion Conclusion 対策の提案:今後、必要な研究 1.全死亡に占める感染症死亡の割合は、一般住民12%に対し、透析患者では20% 2.日本の透析患者の感染症死亡率は一般住民の約8倍 ⇒わが国においても、透析患者の感染症死亡率は一般住民よりもこれだけ高いことが明らかになった。 わが国は、 ✓維持透析患者に占める自己血管内シャントの割合がDOPPS 11カ国中最も高く(Nephrol Dial Transplant 2008;23:3219)、 ✓ダイアライザー再利用が皆無で、 ✓静注鉄剤の使用割合がDOPPS 12カ国中最も低い(Am J Kidney Dis 2004;44:94) このようなわが国での、透析患者の感染症死亡リスク要因を明らかにする必要がある。
対策の提案:今後、必要な研究 ⇒一般住民との感染症死亡率の差を縮めるためには、まず敗血症対策が重要である Background Methods Results Discussion Conclusion 対策の提案:今後、必要な研究 3.透析患者の感染症死亡原因で多いものは、肺炎と敗血症 4.一般住民との感染症死亡率差の約7割は、敗血症が占める ⇒一般住民との感染症死亡率の差を縮めるためには、まず敗血症対策が重要である 5.感染症カテゴリーにより、その死亡率は異なる ⇒感染症カテゴリー別での検討・対策が必要である
結語 ✓わが国においても、透析患者の感染症死亡率は一般住民と比べ高く、対策立案が急務である。 ✓明らかにしなければならない問題は数多くある。 Background Methods Results Discussion Conclusion 結語 ✓わが国においても、透析患者の感染症死亡率は一般住民と比べ高く、対策立案が急務である。 ✓明らかにしなければならない問題は数多くある。
謝辞 ・本研究では、(社)日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況2008年12月31日現在CD-ROM版」、および、「同 2009年12月31日現在CD-ROM版」のデータを用いました。統計資料利用許可をいただきました、(社)日本透析医学会統計調査委員会、ならびに、本統計調査にご協力いただいた患者さん・医療関係者、すべての関係者に、心より感謝申し上げます。 ・本研究は、平成23年度 日本透析医会 公募助成を受けました。心より感謝申し上げます。