手術治療や放射線治療が、がんに対しての局所的な治療であるのに対し、抗がん剤は、より広い範囲に治療の効果が及ぶことを期待できます。このため、転移のあるとき、転移の可能性があるとき、転移を予防するとき、血液・リンパのがんのように広い範囲に治療を行う必要のあるときなどに行われます。 薬物療法には、単独の薬剤を使って治療する場合と、数種類を組み合わせて治療する場合があります。作用の異なる抗がん剤を組み合わせることで効果を高めることが期待されます。
抗がん剤の種類は多く、薬の銘柄は100種類を越えます。もっとも古くからあるのは「殺細胞性抗悪性腫瘍薬」と呼ばれるタイプで、作用機序によって「代謝拮抗薬」や「白金製剤」「アルキル化薬」などの種類に分かれます。 しかし従来型の抗がん剤では、正常な細胞への攻撃も避けられないことから、よりがん細胞に集中的に働きかける「分子標的薬」といった新しいタイプの抗がん剤も開発されています。 また乳がんや前立腺がんなど、ホルモンによって増殖するがんに効果的な「ホルモン剤」のほか、がんに対する免疫力を高めるための「免疫・生体反応薬」など、抗がん剤の種類は多岐にわたります
主な薬剤としては、がん細胞の増殖を抑制する「代謝拮抗(きっこう)剤」、がん細胞のDNA(デオキシリボ核酸:細胞の遺伝情報を伝達する生体物質)を破壊する「アルキル化剤」、がん細胞膜を破壊したり、がんのDNAの合成を抑える「抗がん性抗生物質」、細胞が分裂するのに重要な微小管というものの働きを止めることによって作用する「微小管作用薬」、DNAと結合することによりがん細胞の分裂を抑える「白金製剤」、DNAを合成する酵素(トポイソメラーゼ)の働きを抑えることによって作用する「トポイソメラーゼ阻害剤」などがあります。
化学療法が行われるケースはさまざまですが、たとえば白血病や悪性リンパ腫などの、臓器以外に発生するがんが代表的です 既に転移していて手術ができない場合に、延命や症状の緩和を目的として行われるケースも多く見られます がんの種類によっても化学療法の効き目は異なり、たとえば精巣がんや卵巣がん、小細胞肺がん、乳がんなどが抗がん剤の感受性が比較的いいことで知られています
細胞は常に分裂し続けているわけではない。細胞には分裂期と分裂していない間期に分けることができ、分裂期と間期を繰り返す細胞周期を持っている。 間期では遺伝子を伝えるためDNAの合成を行う重要な時期である。この時期を S 期(合成期)と呼びDNA量が2倍になる。M 期は分裂期であり細胞分裂を行う。
細胞の中にあるDNAには、遺伝のもととなる情報、つまり「生命の設計図」があって、同じ性質を親から子へ、子から孫へと伝えていく役割をしています。親と子が、さらに同じ種類の生物がみんなよく似ているのはこのためです。 <タンパク質合成過程> (1) DNAの塩基3個ずつの暗号をRNAにコピー (2) RNAの情報からアミノ酸を合成する (3) アミノ酸からタンパク質を合成する 複数のアミノ酸の複雑な組合せでタンパク質が合成されて生物が持つ様々な機能を形作ります ほとんどの生物で、遺伝情報はDNAに書き込まれています。 RNAの役割はタンパク質合成するためDNAに書かれた遺伝情報をコピーすること
正常な細胞に変異が起こると、がん細胞へと変貌してしまうことがあります。元々は正常細胞であるため、正常細胞とがん細胞の違いはわずかしかありません。そのため、がんの治療は難しいのです がん細胞は無限増殖を繰り返すことで増えていき、正常な細胞を押しやってしまいます。ただ、正常な細胞はがん細胞のように無秩序な増殖は行いません。肝臓や心臓などの細胞が勝手に増えると大変なことになってしまうからです がん細胞と正常細胞には「増殖速度が異なる」という違いがあります。そこで、細胞の増殖速度の早い細胞だけを狙うことができれば、がんに対抗できるのではないかと予想することができます
アルキル化剤 アルキル化剤はアルキル基と呼ばれる原子のかたまりをがん細胞のDNAに付着させ、らせん状にねじれた二本のDNAを異常な形で結合させて、DNAのコピーができないようにします アルキル化基が結合した状態でがん細胞が分裂・増殖しようを続けようとすると、DNAがちぎれてしまうため、がん細胞は死滅してしまいます。 アルキル化剤は体内で一定の濃度に達すると作用し、白血病や悪性リンパ腫などに特に効果が認められていますが、骨髄抑制などの副作用が強いことも知られています 細胞には、「分裂・成長・DNA複製・分裂」というサイクルがあるのですが、このうち分裂期を狙って強い効果を発揮する薬が多いのに対し、アルキル化薬は分裂をしていない細胞にも働きかけます。
アルキル化剤 シクロホスファミド(商品名:エンドキサン)はアルキル化剤と呼ばれており、DNAに結合します。シクロホスファミドは橋のようにまたがってDNAと結合することから、この形を専門用語で架橋構造(かきょうこうぞう)と呼びます。これによってDNAが複製できなくなり、がん細胞の増殖を抑制できるようになります
抗がん剤の中でも特に副作用が強いとされています。これはアルキル化剤が、細胞やその内部のDNAの状態に関わらず作用するため、同剤そのものに発がん性が認められているためです。 よく表れる副作用としては、骨髄の働きが抑制されて、血球や血小板が十分に生産されなくなる骨髄抑制が挙げられます。また、嘔吐や胸のむかつきも投与直後からみられる場合があります。 最も使用されているシクロホスファミドでは、心不全や血性膀胱炎などを重い副作用を起こす場合があります。 シクロホスファミド 肺がん、乳がんなどの固形がんから血液がん(白血病)に至るまで、幅広いがんに対して使用されます。 イホスファミド 小細胞肺がん(42.4%)、前立腺がん(24.1%)、子宮頸がん(22.2%)、骨肉腫(9.5%)
代謝拮抗薬 がん細胞は増殖するために活発なDNA合成を行う。このDNA合成には材料が必要であり、このような材料としては核酸(プリン塩基、ピリミジン塩基)や葉酸などがある 代謝拮抗剤は「核酸と似た物質によって、がん細胞へ核酸として間違って取り込ませる」、「DNAの材料の一つである葉酸の合成を阻害する」などによってDNA合成を阻害する。これによって、がん細胞の増殖を抑制する 代謝拮抗薬は、アルキル化薬と異なり、細胞周期に合わせた働きをする点が特徴です。つまりがん細胞が活発に分裂している時をねらって、強い効果を発揮します
5-フルオロウラシルは作用時間が短い薬剤ですそこで、体の中で代謝を受けることで5-フルオロウラシルへと変換されるように設計した薬としてテガフールが開発されました体内で代謝され、薬として作用する形へと変換する医薬品をプロドラッグと呼びます。5-フルオロウラシルをプロドラッグ化したものがテガフールなのです。テガフールは肝臓の代謝酵素によって徐々にフルオロウラシルへと変換されます。5-フルオロウラシルへと変換されると、すぐに肝臓で代謝・不活性化されます。肝臓での代謝・不活性化を阻害すれば、5-フルオロウラシルの作用を持続させることができ、さらなる抗がん作用を得ることができます。このような作用をする有効成分がギメラシルこの時の「肝臓での分解物」は神経毒性にも関与しているため、ギメラシルは5-フルオロウラシルによる副作用まで軽減できます5-フルオロウラシルが消化管で活性化されないようにすれば、5-フルオロウラシルが消化管細胞へ作用しなくなるため、下痢などの副作用を軽減できることが
・5-フルオロウラシルへと変換されることで抗がん作用を示す「テガフール」 ・5-フルオロウラシルの代謝を抑制して作用時間を延長し、副作用まで軽減する「ギメラシル」 ・消化管での5-フルオロウラシルの活性化を防ぐことで副作用を軽減する「オテラシルカリウム」
テガフール、ウラシル 頭頸部がん、胃がん、大腸がん(結腸・直腸がん)、肝臓がん、胆のう・胆管がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮頸がんと 細胞毒性のある薬であり、主な副作用としては下痢、倦怠感、悪心・嘔吐、腹痛 テガフール、ギメラシル、オテラシル 胃がん、大腸がん(結腸・直腸がん)、頭頸部がん、非小細胞肺がん、乳がん、膵がん、胆道がんと 3つの有効成分によって抗がん作用や副作用を軽減などを施した薬がテガフール、ギメラシル、オテラシル
メトトレキサート 葉酸代謝拮抗薬 葉酸代謝に関わる経路を阻害することによってDNA合成を抑制する薬 葉酸は体内で合成することができないため、食物から摂取する必要がある。腸管から吸収された葉酸は核酸合成に使用するために代謝を受ける 免疫抑制作用や抗リウマチ作用(抗炎症作用)を期待して投与されることがあります メトトレキサートを抗がん剤として使用する場合はホリナート(商品名:ロイコボリン、ユーゼル)が使用されます。 メトトレキサート(商品名:メソトレキセート)の大量投与によってがん細胞を抑制し、ここにホリナート(商品名:ロイコボリン、ユーゼル)を使用することで正常細胞を救援するのです。これにより、副作用を抑えつつ、がん細胞を退治しようとします
メルカプトプリン DNA合成の阻害によって白血病細胞の働きを抑えるため、免疫に関わる白血球の数が少なくなります。そのため、免疫機能を抑制する作用が知られています 免疫抑制作用があるため、重大な副作用としては骨髄抑制(汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、貧血など)が知られています
シタラビン 急性白血病に対して、シタラビン(商品名:キロサイド)は寛解導入や維持療法で効果を示します。また、白血病に限らず、消化器がん、肺がん、乳がんなどの固形がんに対しても、他の抗がん剤と併用することで効果を示すことが分かっています 副作用としては、、悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛、下痢などの「消化器障害」と白血球減少、血小板減少などの「血液障害」が知られています
アルキル化薬は、遺伝情報のもととなるDNAやたんぱく質の情報源であるRNA、タンパク質の中に割り込んだり、結合することで構造を不安定にし、それらの機能を阻害する薬剤です。 アルキル化薬は、細胞周期のどの時期にも作用するため、細胞周期非特異性の薬剤ということができます。 それに対して、代謝拮抗薬は、DNAの材料に構造が類似しているため、DNAの材料になりすまし、がん細胞の正常なDNAの合成を阻害する薬剤です。
抗がん性抗生物質 感染症などで使用される抗生物質は細菌を殺す目的で使用されるが、この抗生物質はもともと微生物が産生する物質に由来している。抗がん性抗生物質はその名の通り微生物が産生し、抗がん剤としての作用をもつ物質のことを指す。 土壌に含まれるカビなどから作られたもので、がん細胞の細胞膜を破壊したり、細胞内の遺伝子DNAやRNAに直接作用してがん細胞を殺すという点が挙げられます。 抗生物質の多くは,細胞内のDNAの複製を阻害します。そのため,細胞分裂が活発な細胞ほど,この薬剤によってダメージを受けやすくなります。 しかし抗生物質の多くは,細胞が分裂していないときでも,がん細胞の活動を妨げ,ダメージを与えたり,破壊することができるという特徴を持っています
抗がん性抗生物質 抗生物質は細菌感染症を治療する薬として知られています。抗生物質とは、「微生物が作り出す、細菌を殺す物質」のことを指しますただ、微生物が作り出す物質の中には、DNA合成を阻害することでヒトの細胞(=がん細胞)に対して毒性を示す物質も存在します。この物質を抽出することで抗がん剤へ応用するのです がん細胞の細胞膜を破壊したり、細胞内の遺伝子DNAやRNAに直接作用してがん細胞を殺すという点が挙げられます。
ドキソルビシン 悪性リンパ腫、肺がん、消化器がん、乳がん、骨肉腫など、幅広いがんに対して利用される薬です。組織に吸着されやすい性質を有しており、ラットを用いた実験では組織の中に長時間留まることで効果を発揮することが知られています 細胞毒性を有する薬であるため、ほとんどの方で副作用が表れます。主な副作用としては、脱毛、白血球減少、悪心・嘔吐、食欲不振、口内炎、血小板減少、貧血・赤血球減少、心電図異常などがあります 心毒性 ダウノルビシン 急性白血病に対して寛解導入効果を示します他の作用機序を有する抗がん剤を複数組み合わせる方法(多剤併用療法)での効果が認められています。
ブレオマイシン 皮膚がん、頭頸部がん、肺がん、食道がん、悪性リンパ腫、子宮頸がん、神経膠腫、甲状腺がん、胚細胞腫瘍など、幅広いがんに対して使用 重篤な副作用には間質性肺炎などの肺障害があります。 マイトマイシンC 安定性が高く、最も強い抗がん作用を示す物質 白血病や胃がん、結腸・直腸がん、肺がん、膵がん、肝がん、子宮頸がん、子宮体がん、乳がん、頭頸部腫瘍、膀胱腫瘍とさまざまながん疾患に対して利用 副作用としては白血球減少、血小板減少、食欲不振、悪心・嘔吐、全身けん怠感、体重減少、出血傾向、貧血
ほかの抗がん剤と同様に、血球や血小板の数が減少してしまう骨髄抑制が代表的な副作用となっています。 ブレオマイシンは骨髄抑制の発生率は低い反面、肺線維症を引き起こす場合があるので、患者の呼吸機能を観察しつつ投与をします。 ドキソルビシンは投与量が多くなると、心筋障害を引き起こす可能性が高くなるので、決められた最大投与量を厳守することが大切です。
白金製剤 DNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という4種類の塩基によって成り立っていますが、細胞分裂の際には、この並び方を正確にコピーする必要があります。 白金製剤は、これら4つの塩基のうち、AとGの「プリン塩基」に結合することで、正常なDNA複製を妨害します。その結果、がん細胞は分裂ができなくなって死滅に追い込まれるという仕組みです
白金製剤 白金(プラチナ)を利用した薬のことを指します。白金製剤がDNAと結合することにより、細胞分裂を阻害するのです白金製剤がDNAに結合するとき、橋を架けたような構造をとります。この構造を架橋構造と呼びます。この作用により、細胞の増殖を抑えます
シスプラチン 細胞毒性を示す薬であるため、副作用が強い薬でもあります。主な副作用としては、悪心・嘔吐、食欲不振、全身倦怠感、脱毛、白血球減少、貧血、血小板減少などが知られています。 オキサリプラチン 大腸がんの細胞株に対して特に強力な抗がん作用を示す 副作用が強い薬でもあります。主な副作用としては末梢神経症状、疲労、食欲不振、悪心・嘔吐、白血球減少、好中球減少、血小板減少
植物アルカロイド 植物成分の中には強い毒性を示すものがある。この強い毒性を応用し、抗がん剤として利用したものが植物アルカロイド 植物アルカロイドはDNA合成に作用することで、細胞の増殖を防ぐ。植物アルカロイドによる細胞抑制の機序としては、主に「トポイソメラーゼ阻害」と「微小管阻害」の二つに分けられる
微小官阻害剤 細胞分裂が行われる際、細胞の中ではDNAが複製されます。複製されたDNAは、微小管という管状のたんぱく質によって引き寄せられ、分裂後のそれぞれの細胞に分けられます。この微小管のはたらきを阻害するのが微小管阻害剤です ビンカアルカロイド系 骨髄抑制、血管痛 タキサン系 骨髄抑制、脱毛、皮膚障害
微小官阻害剤 細胞増殖を行うとき、生命情報が刻まれているDNAの複製をしなければいけません。DNAが複製された後、このDNAをそれぞれの細胞に振り分ける必要があります。このとき、微小管と呼ばれる成分が重要な役割を果たします微小管が集合すること、細胞分裂に必要な構造体を形成するようになります。細い管である微小管が集まって繋がると、糸のような形状になります寄せ集まった微小管は、DNAをそれぞれの端にたぐり寄せる役割をします。このようにして、2倍に増やしたDNAをそれぞれの細胞に振り分けます、微小管が重合する過程(微小管が束になって集合する過程)を阻害することが出来れば、細胞分裂を抑制できます
ビンクリスチン ニチニチソウと呼ばれる植物から抽出された成分を利用したものがビンクリスチンは血液がん(白血病や悪性リンパ腫など)や小児腫瘍に対して使用されます。 細胞分裂を阻害するという作用から、毒性の強い薬でもあります。神経障害が強く現れることで有名な薬です。 パクリタキセル 乳がん、胃がん、非小細胞肺がんなどの幅広い固形がんに対してパクリタキセルは使用されます。他の抗がん剤を組み合わせることにより、さらに高い抗がん作用を得ることができます 水に溶けにくい物質です溶媒による過敏症を防ぐため、ステロイドや抗ヒスタミン薬などを前もって投与しなければなりませんでした。これを、前処置と呼びます。パクリタキセルを人血清アルブミンという物質と結合させ、水(生理食塩水)でも溶けるように工夫した製剤がアブラキサンです 人によって強いアレルギー反応が起こることがあり
トポイソメラーゼ阻害薬 DNAが二重らせん構造になっていることはよく知られていますが、そのままの状態では立体的すぎて「ねじれ」や「ひずみ」が生じるために、DNAの複製がうまくできません。そのねじれをほどくために活躍するのが、トポイソメラーゼ トポイソメラーゼにはⅠ型とⅡ型が存在し、Ⅰ型はDNAの2本の鎖のうち1本だけを切断、Ⅱ型は2本とも切断した後で、再び結合させます。このようにねじれを解消することで、正常にDNAの複製が行われるのです トポイソメラーゼ阻害薬は、このDNAの再結合を妨害する薬になります。するとDNAの輪が切断されたままになるため、がん細胞は正常な分裂ができなくなり、アポトーシス(自死)に追い込まれるという仕組みです
トポイソメラーゼⅡ阻害薬 DNAを合成するとき、生命情報を読み解くために「らせん構造」をほどく必要があります。これは、DNA鎖を一旦切断し、ねじれを解消させることでこの問題を解決します。このDNA鎖の切断を行う酵素をトポイソメラーゼⅡと呼びますトポイソメラーゼⅡを阻害すれば、DNA鎖が切断できなくなるために細胞分裂をストップさせることができます。このような考えにより、DNA合成を阻害することで抗がん作用を示す
エトポシド 「エトポシド」は、細胞周期に合わせて働くため、ある程度長期的に作用させないと効き目が低下し、がん細胞のDNAが再び修復される恐れがあります。これを防ぐため、何度かに分けて投与する 主な副作用としては白血球減少、貧血、血小板減少、食欲不振、脱毛、悪心・嘔吐、倦怠感、発熱、口内炎
抗がん剤の作用機序の違いによって、投与の仕方にも違いが出てきます 。 アルキル化薬と抗がん性抗生物質は「濃度依存性」の抗がん剤と言われ、がん細胞との接触時間は短くても、濃度が一定以上あれば効力が得られることが分かっています。マイトマイシンCなど、1回の点滴が30分程度で済むものだと、外来治療にも便利です。 一方、代謝拮抗薬やトポイソメラーゼ阻害剤、微小管作用薬は、「時間依存性」の抗がん剤と言われ、低容量を長期間あるいは何度も投与することになります。というのも、これらの薬剤は細胞分裂周期の特定の時期に効果を発揮するのですが、すべてのがん細胞の周期が一致しているはずはありません。そこで薬剤を長時間、体内に存在させることが重要になるのです。
乳がん、前立腺がんなど一部のがんは、その増殖にからだの中で分泌されている「ホルモン」が関係しています。そこで、がん細胞の増殖を抑えるためにホルモンをコントロールする治療が「ホルモン療法」です。ホルモン療法は通常の抗がん剤治療と異なり、がんを根治させることが目的ではなく、がんの増殖をコントロールし、患者さんの負担をできるだけ少なくすることが目的の一つとなっています。ホルモンは臓器からでる物質なので、抗がん剤のような強い副作用に悩まされることはありません。しかし軽い副作用として、めまい、頭痛、倦怠感、男性は性欲減退、女性は膣の乾燥などが現れることがあります
抗エストロゲン薬 乳房の発達や骨量の維持など、女性にとってエストロゲンは重要な働きをします。しかし、女性ホルモンの一種であるエストロゲンは乳がんを増悪させるリスク因子としても知られています。エストロゲンがエストロゲン受容体に作用すると、その分だけ乳がんを発症させる危険性が高まります。また、乳がん細胞に対してエストロゲンが作用すると、乳がん細胞が活性化されやすくなります。そのため、エストロゲンの作用を阻害することができれば、乳がんを抑制することができます
タモキシフェン 抗がん剤のような細胞を傷害する作用はないため、脱毛や骨髄障害などの副作用は少ないです。これらの特徴もあり、進行・再発性の乳がんに対して幅広く使用されています。手術後の長期投与が可能な薬でもあり、その有用性が明らかとなっています 主な副作用としては、エストロゲンの作用を抑えるために無月経、月経異常などの女性生殖器系(3.18%)が知られています。悪心・嘔吐、食欲不振などの胃腸系障害(1.51%)もみられます
閉経後の人の治療に用いられるアロマターゼ阻害剤 乳がんの増殖を促すエストロゲンは、副腎から分泌された男性ホルモンをもとに脂肪組織などで作られます。“アロマターゼ阻害剤”は、男性ホルモンからエストロゲンを作るときに必要な酵素(アロマターゼ)の働きを抑える作用があります。このため、閉経後の患者さんにこの薬を投与すると、体内の脂肪組織や乳がん近くに存在するアロマターゼの働きが阻害されるので、エストロゲンの産生が低下し、ホルモン依存性の乳がんの増殖が抑制されます。 抗エストロゲン剤に代わる治療法として閉経後の患者さんに広く使用されています
アロマターゼ阻害薬 閉経前であると、エストロゲンは主に卵巣から分泌されます。ただ、閉経後では卵巣からのエストロゲン分泌量は極端に少なくなります閉経後女性のエストロゲンは、主に副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)を原料として作られます。この「アンドロゲン→エストロゲン」への変換には、アロマターゼという酵素が関与。アロマターゼを阻害すると、アンドロゲンからエストロゲンへの変換ができなくなります。その結果、エストロゲンの産生が抑制されます。エストロゲンが作られなくなるため、閉経後の乳がんを治療することができます。
アナストロゾール アロマターゼによるエストロゲンの産生は閉経後に重要となるため、閉経前の乳がんに対してアナストロゾール(商品名:アリミデックス)を使用しても、大きな効果を得ることはできません
プロゲステロン 主に、進行・再発・転移乳がんに処方される薬です。 強力な黄体ホルモン作用でエストロゲンを減少させますが、作用は複雑で不明な点も多いようです。 抗がん剤の副作用を軽減する効果もありますので、抗がん剤と併用されることもあります 女性ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類があります。 卵胞ホルモンは女性らしい体つきを作る役割を担い、黄体ホルモンは受精卵を子宮内膜へ着床させる働きや、妊娠しやすいよう体内環境を整える役割を果たしています
LH-RH(エルエッチ アールエッチ)アゴニスト 卵巣でエストロゲンを作ることを促す下垂体のホルモンの働きを抑える作用があります。このため、閉経前の患者さんにこの薬を皮下注射すると、卵巣におけるエストロゲンの産生能が低下して、体内のエストロゲンの量が著明に減少し、ホルモン依存性の乳がんの増殖が抑制されます。 閉経前の患者さんでは作用の増強を期待してLH-RHアゴニストと抗エストロゲン剤を併用することが標準治療の一つになっています LH-RHアゴニストは精巣に働き、アンドロゲンの一種であるテストステロンの産生を低下させます。
LH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン) 男性ホルモンで有名なものにテストステロンがあり、女性ホルモンではエストロゲンが有名です。テストステロンは精巣から、エストロゲンは卵巣から分泌されますこれら性ホルモンが分泌されるには、視床下部から放出されるLH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)と呼ばれるホルモンが大きく関わっています医薬品として使用されるLH-RH製剤は天然のLH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)に比べて何十倍も受容体に強く結合する作用があります LH-RH受容体は強い力で刺激され続けると、その数が減ってしまうことが分かっています。LH-RH製剤によって受容体を刺激し続けると、その受容体の数自体が減少してしまうのです
抗アンドロゲン薬 前立腺がんを発生させる原因の1つと考えられている男性ホルモン(アンドロゲン)と結びつく受容体を遮断してアンドロゲンの働きを妨げ、がんの発症を抑える抗男性ホルモン薬を用いる治療法です。抗男性ホルモン薬だけでなく、LH-RHアナログ薬と併用されることもあります
抗アンドロゲン薬 抗男性ホルモン薬 男性ホルモン(アンドロゲン)には筋肉増強など男性化を促す作用があります。しかし、男性ホルモンは前立腺に作用することで前立腺肥大症や前立腺がんの悪化にも関与しています。男性ホルモンが前立腺に取り込まれる過程を防ぐことができれば良いことが分かります。男性ホルモンの作用を阻害することで、前立腺がんを抑制するのです
ビカルタミド 未治療の進行性前立腺がんに対して、奏効率(がん細胞が縮小したり、消失したりする割合)は単剤投与で63.0%であったことが分かっています。 男性ホルモンの働きを抑えるため、主な副作用としては乳房腫脹、乳房圧痛、勃起力低下などが知られています。
分子標的治療薬 癌の成長の鍵となる分子を標的とする薬剤であり,現在の癌薬物療法において重要な役割を果たしている。殺細胞性抗悪性腫瘍薬が主に細胞分裂の阻害を標的とし,殺細胞効果を指標に開発されてきたのに対し,分子標的治療薬は,癌細胞の増殖において特異的な役割を果たす標的,あるいは癌細胞に高頻度に発現している標的に作用することを指標に開発されてきた。 抗がん薬の多くは、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまうので、重い副作用を発現させることも少なくありません がん細胞が増殖や転移をするのは、異常な遺伝子からできた物質が悪さをしているためであることがわかりました。つまり、悪さをする物質の働きを抑(おさ)えることができるなら、がん細胞の増殖や転移が抑えられるはずです。 しかし、正常細胞に全く作用しないわけではなく、一部の分子標的薬には重い副作用が起こることも報告されています。
①シグナル伝達阻害 細胞分裂や増殖などの過程において、シグナル伝達が必要不可欠である。このシグナル伝達系を阻害することが出来れば、細胞増殖を抑制することが出来る。 ②血管新生阻害 細胞が必要とする栄養や酸素などは、血管を流れる血液から運ばれてくる。特に、急激な細胞増殖を行う際はより多くの栄養を必要とする。 そこで、がん細胞は栄養を効率よく取り入れるために、自分のところへ新しく血管を作ってしまう。これを血管新生という。この血管新生を阻害することが出来れば、がん細胞は栄養不足となるため細胞増殖が抑えられる。 ③細胞周期調節 細胞分裂において、細胞は「G1期→S期→G2期→M期」と細胞周期が回転することによって増殖する。この細胞周期の回転を、ある部分でストップさせることが出来れば細胞増殖が抑制される。
トラスツズマブ チロシンキナーゼは細胞増殖を行うときに重要となる酵素であり、この酵素が作用することでシグナル伝達が行われるようになります細胞増殖にチロシンキナーゼが関わっていることから、チロシンキナーゼに異常が起こると、無秩序な細胞増殖を繰り返すようになります。これが細胞のがん化に繋がりますチロシンキナーゼを内蔵している受容体としてHER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)が知られています。HER2は細胞増殖のシグナル伝達に大きく関与しています 一般名 商品名 トラスツズマブ ハーセプチン - 薬の効果・効能 HER2阻害による、乳がん・胃がんの治療 代表的な副作用 発熱・悪寒・吐き気・頭痛・心臓障害など 適応されるがんの種類 HER2の過剰発現が見られる乳がんと胃がん
HER2とは、がん細胞が新たに血管を作るためのシグナルの役割を果たしています HER2が過剰に存在しているがんの場合、HER2を阻害することでがん細胞の増殖を抑えることが出来ます乳がん患者ではHER2が過剰に出現していることがあります。全ての乳がん患者でHER2がたくさん作られているわけではありませんが、乳がんの中でもHER2陽性の患者(HER2が多く存在している人)ではHER2阻害薬が有効です 発熱や悪寒、無力症、悪心、疼痛などの副作用が主に知られています。
ゲフィチニブ ゲフィチニブは、いずれも「ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)」というタンパク質を阻害 EFGRとは、がん細胞の細胞膜の表面に見られるタンパク質で、細胞の成長をうながすシグナルを発しています。ゲフィチニブとエルロチニブは、このシグナル伝達を阻害することでがん細胞の増殖を抑える 一般名 商品名 ゲフィチニブ イレッサ 薬の効果・効能 EFGR阻害による、非小細胞肺がん・すい臓がんの 治療 代表的な副作用 発疹・下痢・間質性肺炎など 適応されるがんの種類 切除不能の非小細胞肺がん・すい臓がん
ベバシズマブ がん細胞は特に細胞増殖を活発に行うために、正常な細胞よりも栄養や酸素を必要とします。そこで、新たに血管を作成する血管新生を活発に行い、自分のところへ栄養を引っ張って来ようとします。血管新生に関与するタンパク質の一つとして血管内皮細胞増殖因子(VEGF)があります血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が存在することにより、がん細胞の周辺に新しく血管が作られていきます血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を阻害すると、がん細胞による血管新生が抑制されます 一般名 商品名 欧文略語 ベバシズマブ アバスチン - 薬の効果・効能 VEGF阻害による、大腸がん・非小細胞肺がん・乳がんの治療 代表的な副作用 高血圧・タンパク尿・血栓塞栓症・消化管穿孔など 適応されるがんの種類 大腸がん・非小細胞肺がん・乳がん(いずれも切除不能例)
リツキシマブ リツキシマブは、「ヒトB細胞」というリンパ球の一種に発現する、「CD20抗原」に対する抗体薬です。CD20抗原は、特にB細胞性非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)の患者さんの9割以上に見られることから、治療における重要なターゲットとされています リツキシマブを投与すると、CD20抗原と結合することで、リンパ腫の細胞にダメージを与えることが可能 一般名 商品名 リツキシマブ リツキサン - 薬の効果・効能 CD20抗原との結合による、B細胞リンパ腫の治療 代表的な副作用 アレルギー反応・腫瘍崩壊症候群・肝炎の悪化など 適応されるがんの種類 CD20陽性B細胞性非ホジキンリンパ腫
B型肝炎ウイルスの感染者に対してリツキシマブ(商品名:リツキサン)を投与すると、肝炎の悪化を引き起こす可能性があります。B型肝炎ウイルスを有しているかどうか、事前に確認しておく必要 主な副作用としては、発熱、悪寒、そう痒、頭痛、ほてり、血圧上昇、頻脈、多汗、発疹などが知られています。
ソラフェニブ チロシンキナーゼ阻害薬の中でも、複数のタンパクに作用する「マルチキナーゼ阻害薬」と呼ばれるタイプになります 腫瘍が広がる際に新たな血管が作られないようにする「血管新生の阻害」作用もあります 根治するだけの効果はないため、あくまで腫瘍の増殖をできるかぎり抑えることで、1日でも長く延命することが治療目的 一般名 商品名 ソラフェニブ ネクサバール 薬の効果・効能 MAPキナーゼ経路および血管新生の阻害による、腎細胞がん・肝細胞がんの治療 代表的な副作用 手足症候群・皮膚症状・高血圧・疲労・吐き気など 適応されるがんの種類 切除不能もしくは転移性の腎細胞がん・切除不能の肝細胞がん
ボルテゾミブ プロテアソーム阻害薬 プロテアソームとは、不要となったタンパク質の分解を行う酵素のことです。細胞周期には、このプロテアソームが大きく関わっています。不要なタンパク質の分解に関わるプロテアソームを阻害すると、細胞周期が終わった後、必要となくなったタンパク質が分解されずに残ってしまいます。これによって細胞の機能が停止し、不要なタンパク質が蓄積されるため、細胞死が引き起こされます細胞増殖に関わるシグナル伝達を阻害するため、がん細胞の増殖を抑制することができます。 副作用としてはリンパ球や白血球などの血球成分の減少が知られています。その他、食欲不振や下痢、発疹など
がん細胞を抑えるように働くタンパク質(サイトカイン)”を利用した治療方法が、『サイトカイン療法』です。 免疫細胞はがんと戦うために、サイトカインという物質を出しています。これを医薬品として製造し、患者さんに投与することで免疫力全体を強化させるのが、サイトカイン療法(非特異的がん免疫療法)です。現在までに、たくさんのサイトカインが発見されていますが、現在は、「インターロイキン」と「インターフェロン」の2つがよく使われています IFNは、ウイルス因子として発見されましたが、直接的もしくは間接的な抗がん作用も知られるようになりました。IFNにはα、β、γの3種類が知られています。なかでもIFN-αが慢性骨髄性白血病に対して有効だという結果が得られ、治療に応用されました。
[副作用、問題点] IFN治療による副作用として、発熱、感冒様症状があります。このほかに無気力、抑うつなどの精神障害などが認められる場合があります。IFNは慢性骨髄性白血病に対する効果が高いのですが、その作用機序については明らかになっていません
白血球 単 球 マクロファージ(貪食細胞)(抗原提示細胞) 体内に侵入してきた異物を発見すると急行、自分の中に細菌、ウイルス、ホコリなど次々と取り込んで貪食処理する。 貪食処理し切れない場合は、異物(抗原)を表面に提示、「外敵が来た!」と、ヘルパーT細胞に情報を伝え、助けを求める。 リンパ球 T細胞 T細胞は主に感染した細胞を見つけて排除する。T細胞は3種類あり、それぞれ司令塔、殺し屋、ストッパーの役目を担う。
T/ヘルパー細胞は免疫の司令塔であり、助っ人。マクロファージから病原菌(抗原)の情報を受け取り、B細胞に抗体を作るよう指令を出し、抗体を作るのを助ける。 マクロファージと共同で、サイトカインを放出、T/キラー細胞、NK細胞を活性化させる T/キラー細胞は殺し屋。T/ヘルパー細胞から指令があると、感染した細胞にとりついて、その細胞を殺す。 T/サプレッサー細胞はストッパー役。過剰に攻撃したり、武器を作ったりしないように抑制したり、免疫反応を終了に導く。 サイトカイン 免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするものをいう。多くの種類があるが特に免疫、炎症に関係したものが多い。また細胞の増殖、分化、細胞死、あるいは創傷治癒などに関係するものがある
免疫賦活薬 免疫賦活剤による免疫療法は、能動免疫療法というもので、自分で免疫を活性化されるものを体内に入れる方法です。この方法は、生体応答調整剤(BRM)を使う方法で、他の免疫療法よりもガンへの効果が薄いといわれています これは単独で治療に用いるのではなく、手術や抗癌(がん)剤と併用して免疫力の低下を防ぐというのが殆どです。BRMの種類としてはBCG、OK-432、PSK、レンチナン等があります。 副作用もほとんどないようですが、癌(がん)の治療という視点からは若干インパクトの弱い手法と言われています
白血病は血液又は骨髄の中に腫瘍細胞(白血病細胞)が出現する病気です。骨髄とは骨の中心部にある血液を造る場所のことです。白血病は一般的に、臨床経過または検査所見により急性白血病と慢性白血病に分類されます。急性白血病は、白血病細胞の種類によりさらに急性骨髄性白血病(急性非リンパ性白血病)と急性リンパ性白血病に大別されます。我が国での急性白血病の発症頻度は人口10万人あたり約6人で、成人では骨髄性白血病が80%以上を占めます。
白血病は、造血幹細胞から血液細胞(白血球、赤血球、血小板)へと成熟する途中の細胞ががん化します。白血病は、がん化した細胞が、もし成熟したら「何」になっていたか?によって分類されます。白血球の中には主にウイルスを攻撃する「リンパ球」があります。成熟したら「リンパ球」になるであろう細胞ががん化した場合が急性リンパ性白血病です。そして、それ以外の細胞、つまり、リンパ球以外の白血球、赤血球、血小板になる予定である細胞ががん化した場合、急性骨髄性白血病(Acute Myelold Leukemia:AML(エーエムエル))となります
慢性骨髄性白血病 イマチニブが第一次選択薬になり、インターフェロンや造血幹細胞移植は、イマチニブや第二世代のチロシン・キナーゼ阻害薬であるニロチニブやダサチニブが効かない場合のみ施行される治療法になりました
寛解導入療法: これは治療の第1段階で、血液、骨髄中の白血病細胞を殺すために行われます。これにより白血病は寛解期に入ります 寛解後療法: これは治療の第2段階で、白血病の寛解中に開始されます。寛解後療法は、活動性ではないが再増殖を開始し、再発を誘発する可能性のある残存する白血病細胞を殺すために行われます。この治療段階は寛解継続療法と呼ばれます
寛解導入療法 骨髄中に存在する白血病細胞が全体の5%以下の状態です。通常7~10日間抗がん剤が投与されます。その後、白血病細胞だけではなく正常な血液細胞も骨髄の中から減少します。 赤血球や血小板が極端に減少した時には輸血が行われます。白血球は輸血することはできませんので、抗がん剤の投与の後、自然に白血球が増えてくることを待ちます。この期間は約4週間くらいです。 白血球が回復した時に骨髄穿刺を行い、寛解状態であるかどうかを調べます。およそ8~9割の患者さんがこの段階で寛解状態になることが期待できます。
浸潤がんは、乳管・小葉を破り、外に出きます。 乳がんは、乳腺(乳管や小葉)にできる悪性腫瘍です。発生したがんは、初め、乳管や小葉の中にとどまっています。この段階は、「非浸潤がん」といわれ、しこりを触れない早期がんです。 それが、「基底膜」を破り、周囲の正常な組織に浸潤していきます。こうなると「浸潤がん」になります 浸潤がんは、乳管・小葉を破り、外に出きます。 間質や脂肪、わきの下のリンパ節(腋窩(えきか)リンパ節)、血管へと広がります。 血液やリンパの流れにのって、乳房から遠く離れた臓器(骨、肺、肝、脳など)にまで運ばれていきます。これを「遠隔転移する」といいます。
<手術> 手術で、乳房内のがんの病巣を取り除いてしまうことが、基本になっています。 手術は、胸の筋肉-大胸筋から大きく切除する方法から、できるだけ、小さく切除して、乳房を残す方法へと変わってきています。 現在、乳房温存手術が、半数以上を占めるようになりました。 <放射線治療> 乳房を残す手術では、乳房内に目に見えないほどの微小ながん細胞が残っているかもしれないので、放射線治療で、乳房に外から高エネルギーのX線をあて、がん細胞の増殖を抑えたり、死滅させたりします。また、再発・転移部位にも放射線照射が行なわれることがあります
<化学療法(=抗がん剤治療)> 抗がん剤で、繰り返しがん細胞を攻撃し死滅させる治療です。ほとんどの場合、化学療法は外来で行われます。効果と副作用、患者の生活スタイルなども考え合わせて治療計画を立てます。 なお、手術をする前に化学療法を行い、はじめに腫瘍を小さくして、乳房温存術を行なうこともあります。(術前化学療法) <ホルモン療法(=抗ホルモン剤治療)> 乳がん細胞の発生、増殖に関わる女性ホルモン(エストロゲン)を作るのをおさえたり、エストロゲンの働きを抑えたりして、がん細胞の増殖を阻みます。飲み薬や注射があります。長いスパンで、治療が行なわれます。
<末梢静脈経路> 比較的簡単に投与経路を確保できるため、現在一般的に行われている方法ですが、腕の静脈は細くて血液の流れも少ないので、刺激のある抗がん剤を投与する場合には、血管が傷むことにより、血管外漏出などが発生する場合があるので注意が必要です。 <中心静脈経路> 心臓付近の静脈は腕の静脈に比べて太く、また血液の流れも多いので薬剤がすぐに薄まり、刺激性のある抗がん剤でも血管壁への影響が小さい投与方法と言われています。 高カロリー輸液などの投与経路にも使用されます
抗がん剤治療では多かれ,少なかれ必ずといっていいほど副作用がでます。抗がん剤によってもたらされる主な副作用としては,吐き気,おう吐,食欲不振,脱毛,骨髄抑制,下痢,便秘,口内炎,味覚の変化,貧血,感染症,皮膚の異常,血圧上昇,肝機能障害,腎障害など様々なものがあります。これらの副作用は,その持続期間によって大きく2つに分けることができます。一つめは,抗がん剤治療が終了すればまもなくおさまる一時的な副作用であり,二つめは,抗がん剤治療が終わっても続く長期的な副作用です。
白血球や赤血球,血小板の減少である骨髄抑制は多くの抗がん剤でみられますが,ほとんどは投与開始の1~3週間後に血球の数が最低になります。骨髄抑制は,進行すると感染症や出血が起こるため,特に注意が必要です。血球のもとになる骨髄細胞がすべて死んでしまうような例外的な投与法もありますが,一般的には,抗がん剤の投与を終了すれば,まもなく血球数は回復します。 化学療法により血液をつくり出す骨髄の機能が障害を受けると、白血球や赤血球、血小板などが減少します(骨髄抑制)。化学療法の1~2週間後に影響が強く出ます。白血球のうち、特に感染を防ぐ働きを持つ好中球が減ることによって、細菌や真菌(カビ)に対する抵抗力が弱くなり、口の中や肺、皮膚、尿路、腸管などで感染症 を起こしやすくなります。また、咳(せき)や痰(たん)が出る、皮膚が腫はれる、膿(うみ)がたまる、尿が濁にごる、下痢がある、などのはっきりした感染の様子がない状態で発熱すること(好中球減少性発熱)もあります。
医師側の対応としては抗生物質の投与や,好中球を増加させることができるG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤の投与などの処置が必要となります。 対策:白血球、特に好中球が少ない時期には入院して治療を行うこともあります。こまめにうがいをし、食事の前やトイレの後などは必ず手を洗い、シャワー、入浴などで体を清潔にし、感染予防に努めましょう。起床時と就寝前、毎食後には口の中を傷つけないやわらかい歯ブラシで口の中を清潔に保ちます。通院して治療を行う場合には、人の多い場所への外出をなるべく避け、マスクを着用し、帰宅したらうがいをし、手をしっかり洗いましょう。切り傷など、けがをしないように注意します。急な発熱や寒気、排尿時の痛みなどの症状が現れたら、担当医に連絡しましょう
吐き気や嘔吐は,抗がん剤が脳の嘔吐中枢を刺激したり,食道や胃の粘膜にダメージを与えることなどが原因で起こります。また,副作用に対する不安や恐怖心があると,精神的な影響でも,においなどの刺激が加わることで吐き気や嘔吐が誘発される場合もあります。 この吐き気や嘔吐の症状は個人差も大きく,抗がん剤の種類によっても程度が異なります。特に,シスプラチン,イリノテカン,シクロホスファミド,ダカルバジンなどは吐き気がでやすい抗がん剤です。吐き気や嘔吐の症状を分類すると,投薬後,24時間以内に起こる急性,その後の数日間に起こる遅発性,心因などにより投与前に起こる予期性に分けられます。遅発性の場合は2~7日程度続く傾向があります。吐き気や嘔吐が長びくと,食欲不振や脱水症状につながりますので,対処や工夫が必要です。
吐き気が予想できそうな化学療法を行う場合には,事前に「5H-HT3受容体拮抗剤」「ステロイド剤」「NK1受容体拮抗剤」の「アプレピタント」を使用することで,かなり抑えることができます。このアプレピタントは舌下錠なので,自宅に持ち帰っても服用できます。また,治療に対する不安など,精神的なものが原因となる吐き気・嘔吐もあり,このような症状には抗不安薬が使用されます。また,その他にも脳内伝達物質であるドーパミンの受容体に拮抗してはたらく,メトクロプラミドやドンペリドンなども効果があります。 食事は消化の良いものを少量ずつが基本で,甘いもの,脂っこいもの,香りの強いものは避けましょう。 食後はゆっくり休みますが,胃への圧迫を避けるため,食後1~2時間は横にならない方がよいでしょう。嘔吐してしまった場合は冷たい水でうがいをし,脱水症状がおきないよう水分補給も心がけましょう。吐き気は部屋のにおいやや食べ物・花などのにおいによっても誘発されることがあり,窓を開けて換気をすることも必要です。また,からだを締め付ける下着なども避けたほうがよいでしょう。
口内炎は抗がん剤副作用として,よく現れる症状で,投与後約40パーセントの人に見られます。口腔粘膜は細胞分裂がさかんなため,抗がん剤の影響を受けやす<,口内炎も起こりやすいのです。口内炎をおこしやすい抗がん剤として,フルオロウラシル,メトトレキサート,ドキソルピシンなどがあります。 口内炎が引き金となり,食欲不振,脱水症状,倦怠感,抑うつ症状などが引き起こされるので,十分な対策が必要です。 口内炎の発生は,投与後の2~10日で見られることが一般的ですが,改善までには白血球の好中球数の回復を待たねばならず,時間がかかります。治療中止後は,2~4週間程度で改善し,治癒します。
口内炎が発生した場合は,まず囗の中を清潔にして,二次感染を予防します。次に局所麻酔薬やうがい薬を使ったり,口腔内を保温することで痛みを緩和します。 口内炎は予防がとても大切です。清潔な水や食塩水,うがい薬などでこまめにうがいをし,口内を清潔に保てるようにしましよう。歯磨きも重要ですが,ブラシは柔らかいものを使用し,歯磨き剤は低刺激性のものを使用しましよう。または,生理食塩水だけでもかまいません。食事では,熟いもは避け,塩分の強いものや酸味や香辛料の強いものなど刺激性のあるものはさけましょう
発症頻度はそれほど多くありませんが,抗がん剤により,心臓の筋肉(心筋)がダメージを受けることで,うっ血性心不全,不整脈,心筋炎,心筋梗塞,狭心症などの心臓機能低下による障害を引き起こすことがあります。この心臓に悪影響を与え,障害を引き起こすことを心毒性といいます。 「階段を上るとき苦しくなった。」など,少しでも異変を感じた場合は,なるべく細かく医師に報告しましょう。このような心毒性を引き起こしやすい抗がん剤として,アントラサイクリン系のドキソルビシン,ダウノルビシン,イダルビシンなどの抗がん剤があげられます。分子標的薬のトラスツズマブなども重篤な心筋障害を生ずることがあります。アントラサイクリン系とこのような抗がん剤を併用すると,心毒性はさらに高まる可能性があり,注意が必要です。
この心障害は,多くが総使用量が一定の量を超えると症状がでる「蓄積毒性」です。そのため,一度発症してしまうと治療は困難になるので,総投与量に注意しながら進める必要があります。現在,抗がん剤の心毒性に対する有効な治療法は確立されていません安静にして,塩分や水分の摂取が制限され,酸素投与,利尿薬や血管拡張薬,強心薬の投与などが行われます。また,障害の予防として,降圧剤が使われることもあります。 心障害では,何より予防が大切です。心電図やエコーなどの心機能検査を定期的に受け,日ごろから,下記のような異変がないかチェックし,症状が見られたらすぐに医師に報告しましょう
抗がん剤副作用が呼吸困難など肺の障害となって現れる場合があり,これを肺毒性といいます。この肺毒性には間質性肺炎など,時に重大な副作用となって現れる場合があり,注意が必要です。 肺障害には直接肺の細胞にダメージを与える直接的細胞障害と炎症反応や免疫反応の結果として,肺の細胞が障害を受ける間接的細胞障害とがあります。両副作用は発熱,せき,呼吸困難などの症状が見られる点では共通しています。 間質性肺炎は直接的細胞障害で,肺胞の壁や細い気管支を取りまいている間質という組織に炎症が起こる症状です。薬剤の使用を中止しても,肺の組織が繊維化して硬くなる肺繊維症が進行すると,治療方法がなくなり,呼吸困難となります。間質性肺炎の副作用で話題となった「ゲフィチニブ」(イレッサ)や「ブレオマイシン」(ブレオ)は細心の注意を払って投与する必要があります。 また,代謝拮抗剤であるメトトレキサートは免疫反応により,発熱,せき,呼吸困難などの症状があらわれます
対処法としては抗がん剤投与をすぐに停止することで,特にゲフィチニブやブレオマイシンを使用する場合には,動脈血の酸素飽和度や酸素濃度を測定することにより,障害の予測に役立てています。メトトレキサートのように,免疫反応による場合にはステロイド剤の投与などの方法があります。 ただし,ステロイド剤は上記のブレオマイシンやイレッサにより引き起こされる間質性肺炎にはあまり有効でないとされます
腎臓は,体の老廃物を尿として排出する器官であり,血液は腎臓の糸球体でろ過され,尿細管で再吸収された後,尿として排泄されます。抗がん剤の副作用による腎障害は,直接腎臓にダメージを与える場合と,抗がん剤の作用で腫瘍細胞が破壊され,体液バランスが崩れる腫瘍崩壊症候群があります 腎機能の低下は検査値で異常として現れます。血中尿素窒素や血清クレアチニンの上昇,クレアチニンクリアランスの低下がみられる場合は要注意です。腎機能が低下すると,老廃物が排泄されずに血液中に増加し,腎臓透析が必要な腎不全に至る危険もあります。腎不全の症状としては,尿量減少,尿たんぱく,体重増加,浮腫(むくみ),胸腹水などが起こり,心不全や意識障害に至ることもあります。腎機能が低下している場合や高齢者は,このような腎不全に至るリスクも高いので,特に気をつけましょう。
現在,抗がん剤の腎毒性に対しての有効な治療法は確立していません。したがって,予防と早期発見が大切で,異常がある場合は,薬剤投与の中止や変更などを検討します。腎障害予防の基本は,水分を十分に補給することと,尿を出すことです これにより,尿と共に抗がん剤をできるだけ排泄して腎臓への負担を軽減することができます。水分補給が難しい場合は,電解質輸液の点滴を行い水分を補います。尿の量が少ない場合は,利尿剤が使用される場合もあります。 12時間以上,尿がでないとか,尿の色が異常に濃くなった,体がむくむようになった,などは要注意で, 十分な水分摂取が重要で,1日1500mlから3000mlが目安となります。水分摂取は,スポーツドリンク,ウーロン茶,緑茶などでかまいません。吐き気などが強くて,水を飲むことが困難な場合には,点滴などで補いましょう。
多くの薬は肝臓で代謝されます。したがって,肝臓の代謝能力を超える抗がん剤が投与されたり,もともと肝機能の障害があった人には肝障害のリスクが高まります 抗がん剤の副作用による肝障害は,薬の投与量にもより,投与開始数日から数週間後に現れるのが普通です。肝障害の多くは一時的なものであり,投与中止後,約2週間ほどで回復しますが,なかには命にかかわる障害を引き起こすものもあり,注意が必要です。 抗がん剤の治療中は,定期的な肝機能検査が大切です。肝臓障害にはは肝細胞が壊死を起こす場合と肝静脈が閉塞するなど血流障害を起こす場合,肝臓の組織が繊維化して硬くなる場合などがあります。肝障害はどのような抗がん剤でも起こりますが,特に肝障害を起こしやすい薬剤として,エトポシド,メトトレキサート,ビンクリスチン,L-アスパラキナーゼなどがあげられます
抗がん剤副作用である肝機能障害を根本から治療防することはできず,対症療法が中心となります。グリチルリチン製剤などの肝庇護剤が投与され,またステロイド剤が投与されることもあります。 進行性の肝障害が全身に及ぶ場合は、抗がん剤の使用を中止します。また,薬剤の種類の変更や減量で多くは改善されます アルコールは肝臓に多大な負担をかけるため,厳禁です。食は栄養のバランスを考え,タンパク質を十分に摂取することが大切です。 もともと肝臓が弱かったり持病がある人や,アレルギー体質の場合は抗がん剤による肝障害の可能性があります
末梢神経とは中枢神経である脳や脊髄から身体の各部位に伸びている神経で,知覚・運動を制御する体性神経系と内臓・血管などの自動的制御に関わる自律神経系とに分けられます。 末梢神経障害が出やすい抗がん剤としてはパクリタキセル,ドセタキセル,ビンクリスチン,ビンデシン,ビンブラスチン,ビノレルビンなどの植物アルカロイド系の抗がん剤の他,シスプラチンやオキサリプラチンなどの白金製剤などがあります 症状は手足のしびれから始まることが多く,手足の指先にピリピリしたりジリジリしたりするようなしびれを感じます。そして,薬剤の量や頻度が多くなるほど症状も重くなる傾向があります。進行すると「箸が持ちにくい」「ボタンがかけにくい」「転びやすい」「温度を感じにくい」など多様な症状が現れます
必要に応じて,抗けいれん薬,抗うつ薬,などを投与することもありました。しかし,末梢性神経障害性疼痛薬として,2010年にファイザー製薬の「リリカカプセル」(プレガバリン)が承認され,その効果が期待されています 患者側の対策としては冷えがしびれ感を増長させることが多いので,体を冷やさず,あたためておく工夫が必要です。たとえば,ぬるめの温度で入浴したり,カイロや服で体を温めておくことも大切です 特に冷たいものを飲んだり,冷たいものに触れたりするという行為は避け,特に冬は肌が冷たい外気にさらされないよう注意しましょう
脱毛もよく見られる副作用です。 毛髪は一定のサイクルで発毛・生育・脱毛を繰り返し,毛の根元にある毛母細胞は,細胞分裂が活発で,抗がん剤の影響を受けやすく,すぐに破壊されてしまいます。すると,毛髪が生え変わるサイクルが乱れて毛の成長が途中でストップします。これが脱毛の原因です 脱毛は,ほとんどの抗がん剤で脱毛が起こりますが,種類や量によって程度も異なり,個人差もあります。 一般的には化学療法開始から2~3週間後に脱毛が始まることが多,治療中は症状が進行し,頭髪すべてが抜け落ちる場合もあります。数日で大量の毛が抜けてしまうことも多く,特に女性の患者さんは精神的なショックを受けることが多いようです。 しかし,抗がん剤治療が終了すれば2~3ヵ月後には発毛が再開され,数年後には元に戻ります。抗がん剤治療による脱毛は一時的なものであり,頭髪は再び生えてきます
ただし,毛根細胞がすべて死ぬわけではなく,脱毛は一時的なものであり,通常は治療終了後4~6週間で再び生え始めます。 しかし,再生した髪は色や髪質が異なっていることもあります。抗がん剤を投与するときに頭部を冷却し,頭皮の血流を抑え,薬剤の影響を少なくする工夫をしている施設もありますが,十分ではなく,また広く行われているわけではありません 脱毛に対しての有効な抑止策はありません。脱毛は特に女性にとって大きな精神的ショックとなりますので,抗がん剤の投与前に脱毛の開始時期や再生時期などを確認しておくこともです。対策としては,あらかじめ髪を短くしておき,長い頭髪が失われるという喪失感を和らげたり,帽子やかつら,バンダナなどを活用するという方法がよく用いられています。
肌に湿疹や赤みがでるなどの皮膚障害は,抗がん剤により皮膚の細胞がダメージを受け,基底層の細胞分裂に異常がおきたり,角質層の水分保持やバリア機能が低下したり,汗腺や脂線の分泌が抑制されるなどして,起こります。また,抗がん剤が血管からもれる血管外漏出も皮膚障害の原因となります 近年では分子標的薬による副作用も増えています。 分子標的薬はがん細胞の特異分子である標的を狙って攻撃します。ところが,その標的は正常な皮膚組織の中にも存在しており,がん細胞を攻撃すると同時に皮膚も攻撃してしまい,皮膚障害が起こると考えられています 皮膚障害の症状としては,発疹・にきび・かゆみ・乾燥・発赤・色素沈着・爪の変化(爪囲炎)・脱毛など様々で,時に疼痛を伴うこともあります。これらの皮膚障害がみられる時期は症状により異なり,皮疹は治療開始後1~2週で,皮膚乾燥は5週前後,爪囲炎は8週前後にあらわれる傾向があります。また,抗がん剤によって,手,足,爪に現れる皮膚障害を手足症候群と呼んでいます。
皮疹に対しては,炎症を抑える副腎皮質ステロイド薬の軟膏を使用します。軟膏が吸収される程度は,体の部位によって異なるため,皮疹がある部位と症状の度合いに合わせた強さのステロイド剤を使用します。皮膚が乾燥し,かゆみをともなう場合の基本は保湿ですが,抗ヒスタミン軟膏や抗炎症作用のある抗生物質の飲み薬を用いることがあります 対策としては,常に皮膚を清潔に保ち,乾燥させないよう保湿に努めることが大切です。刺激のすくない石けんやシャンプーを使用したり,保湿剤を塗るなどの方法があります。また治療中は強い日光を避け,紫外線から肌を守り,摩擦などの刺激や圧迫などの負担を避けるように注意しましょう。 足の爪は細菌が繁殖しやすいので,毎日石けんで足の指を一本ずっていねいに洗いましょう
発症頻度は少ないものの,抗がん剤の副作用の中には,1年以上にわたって続く長間的なものや後遺症として一生残るものもあります。たとえば,一部の抗がん剤では,腎臓の機能を損なうものもあり,腎臓の広い部分が損傷を受けると,腎臓は十分に機能しなくなります。その他のも,心臓や肺の障害,味覚の変化,神経の異常,聴覚の異常,認知力の低下,生殖機能の低下などの副作用は,長期的に続く可能性があります。
● その上で細かい配慮を (with attention to detail)
軽度の痛みには、第一段階の非オピオイド鎮痛薬を使用する。これらの薬剤は、副作用と天井効果*により標準投与量以上の増量は基本的には行わない。なお、痛みの種類によっては、第一段階から鎮痛補助薬を併用する 非オピオイド鎮痛薬が十分な効果を上げない時には、「軽度から中等度の強さの痛み」に用いるオピオイドを追加する。この段階でも必要により鎮痛補助薬の使用を検討する 第二段階で痛みの緩和が十分でない場合は、第三段階の薬剤に変更する。非オピオイド鎮痛薬は可能な限り併用する。それぞれのオピオイドの特性を理解したうえで薬剤の選択を行うことが重要であり、基本的には1つの薬剤を選択する。モルヒネやフェンタニル、オキシコドンなどの強オピオイドは、増量すれば、その分だけ鎮痛効果が高まる。第三段階でも必要により鎮痛補助薬の使用を検討する
痛みは、がんなどの原因によって神経が刺激され、脊髄を経て脳へ伝達されます。そこで「痛い」と感じます。脊髄と脳にはオピオイド受容体とよばれる部位があり、オピオイド鎮痛薬は体内に入ってこの受容体と結合します。 オピオイド鎮痛薬がオピオイド受容体と結合すると、脊髄と脳への痛みの伝達が遮断されます。これによって、痛みがおさまります。
吐き気・嘔吐は、オピオイド鎮痛薬を初めて使用したときや薬の量や種類を変更したときに数日~2週間程度みられることがあります。オピオイド鎮痛薬の種類にもよりますが、3~6割の人にあらわれると考えられています。しかし、症状の多くは吐き気止めの薬でおさえることができます。 対策 オピオイド鎮痛薬を使い始めると同時に、吐き気止めを少なくとも1~2週間はいっしょに使うほうがよいでしょう。 吐き気・嘔吐は、オピオイド鎮痛薬以外の薬や、抗がん剤や放射線治療によってもおこることがあります。原因によって使用する薬が異なりますので、医師とよく話し合いましょう。
オピオイド鎮痛薬は、もともと腸などの消化管の運動をおさえるはたらきがあり、下痢止めとして使用されることもあります。便秘は、オピオイド鎮痛薬を使用している人のほとんどにみられ、オピオイド鎮痛薬を使用している間はずっと続きます。 対策 オピオイド鎮痛薬を使い始めたときから下剤を定期的に使用します。排便の頻度(回数)だけでなく、便の硬さにも影響するため、便秘対策は排便の頻度と便の硬さの調節の両方に注意して行います。また、使用するオピオイド鎮痛薬の種類を変えると、便秘が強くなったり、逆に下痢を起こすこともあります。鎮痛薬の種類を変更した際は特に気をつけて医師に相談し、下剤の量をコントロールしてもらうようにします
眠気は、オピオイド鎮痛薬を使い始めたときや、量を増やしたときにみられます。しかし、通常は1週間程度で軽減するようです。その後も眠気が続いたりぼーっとする症状が強くなった場合は、医師や薬剤師に相談して、オピオイド鎮痛薬以外の原因についても調べる必要があります。また、腎臓の機能が低下しているとオピオイド鎮痛薬を使用した際に、眠気が強くなることがあります。急激に眠気が強くなった場合には医師に相談してください。 対策 眠気が非常に強い場合は、オピオイド鎮痛薬の量を減らしたり、種類を変更したりします。ただし、痛みが原因で不眠が続いていた人は痛みがとれたあと、数日間は眠っている時間が長くなることがあります。この場合は寝不足が解消されれば改善しますので、特に対策をとる必要はありません。
1) 第1 段階:非オピオイド鎮痛薬 軽度の痛みに対する非オピオイド鎮痛薬には,アセトアミノフェンとNSAIDs がある。 NSAIDs は頓服で用いられることが多いが,時間を決めて定期的に投与することが,その薬剤の有効性を比較検討するうえで重要である。
2) 第2 段階:弱オピオイド鎮痛薬 軽度から中等度の痛み治療に用いるオピオイド鎮痛薬として,わが国ではリン酸コデインとして使用されるコデインが中心となっている。鎮痛薬として使用される10倍散は麻薬指定になっている。最近,トラマドールが発売され,弱オピオイド製剤としての選択肢が増えたことになる。いずれの薬剤も徐放製剤がなく,コデインは1日に4~6 回(1 回量20~60mg),トラマドールは1日に4回の定時投与を行い(1 回量25~75mg),レスキューとしては1回量を疼痛時に投与することで,タイトレーションを行う。鎮痛効果の増強として考えると,弱オピオイド間のオピオイドローテーションを考えるより,強オピオイドへのローテーションを検討すべきである
3) 第3 段階:強オピオイド鎮痛薬 中等度から強度のがんの痛みに対して使用される薬剤は,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルがわが国では使用可能である。強オピオイド製剤のなかで,モルヒネ製剤は徐放製剤として数多く発売されているが,あくまで持続する疼痛に対して徐放製剤,それに付随して起こる突発痛に対して速放製剤を使用することが基本である。速放製剤のレスキューに反応する痛みの場合,痛みの頻度が高まった場合にはそれを基にして徐放製剤を増量することが一般的である。オピオイド速放製剤が効きにくい痛みは,神経障害性疼痛である可能性を考え,鎮痛補助薬の適応を検討する必要がある。
WHO ラダーに沿ってがんの痛みを治療する場合に注意しなければならない点は,患者の痛みの強さに見合った鎮痛薬を最初から適応させることである。強度の痛みに対して,軽度の鎮痛薬から順番に開始したのでは,患者にとってはつらいということを知るべきである。がんの痛みは,経時的に増強していくことも多いが,強度の痛みを訴える患者が突然,痛みの外来に紹介されることもある。その場合には,躊躇せず,はじめから速放性の経口,もしくは持続静脈内投与などの非経口強オピオイド鎮痛薬投与法などを用いることにより,患者の痛みを癒すことを目的とすると同時に,その反応性をみることがポイントである
・レスキューとはベースに使用している鎮痛薬の不足を補う目的で 鎮痛薬を追加投与すること ・オピオイドを定時使用している場合には、必ず急な痛みの悪化(突 出痛)を予測して、レスキューを用意する ・今、感じている痛み(突出痛)を取り除く目的で使用するため、 速効性の薬剤を準備し、使用する
・レスキュードーズには定時投与されている徐放性オピオイドと 同一成分、同一投与経路の速放性オピオイドを使用する。 その理由は・・・ ① 確実な鎮痛効果を期待できる 突出痛は持続痛と同じ種類の痛み(発症部位と性質)であることが多いので,持続痛をコントロールしている定時投与オピオイドと同じ種類のオピオイドを 使用することで,突出痛に対しても確実な鎮痛効果が期待できる。 ② 安全性が高く,副作用にも対処しやすい 定時投与オピオイドの安全性はすでに確認されているので,同じ種類のオピオイドであれば安全に投与できる。万一副作用が発現した場合も同じ種類のオピオイドであれば対策を講じやすい。 ③ レスキュードーズ1回量の計算が容易である 同一成分,同一投与経路のオピオイドであれば,レスキュードーズの1回量を定時投与オピオイドの一定量比として簡単に計算できる。また,レスキュードーズを定時投与オピオイドの投与量に反映させやすい。
鎮痛補助薬とは、 ● 鎮痛薬だけでは十分にとりのぞくことができない特殊な痛みの治療のために使う ● 鎮痛薬による副作用をおさえる ● 痛みにともなう不眠・不安・うつ状態などを治療する という目的のために使用する薬のことです。通常は、オピオイド鎮痛薬や非オピオイド鎮痛薬に追加して使います。特殊な痛みに対して鎮痛補助薬として使用する薬には、抗うつ薬・抗けいれん薬・抗不整脈薬、ステロイド薬などがあります