平成29年10月24日 化学物質取扱者講習会 環境安全衛生管理室 化学物質の リスクアセスメント 平成29年10月24日 化学物質取扱者講習会 環境安全衛生管理室 PPT資料は一部細かい表現が多少違っているところがありますが、ご容赦ください。
本日の内容 化学物質リスクアセスメントとは 大学における化学物質関連事故 名大の方針 化学物質リスクアセスメントの具体的手順 化学物質の危険有害性の調査方法 リスクアセスメント方法の例 30分間で化学物質リスクアセスメントについておおむね理解をいただきたい。
化学物質リスクアセスメントとは? 目的 化学物質リスクアセスメントを実施することにより、 化学物質の取扱者の危険および健康障害を防止する 目的 化学物質リスクアセスメントを実施することにより、 化学物質の取扱者の危険および健康障害を防止する 化学物質リスクアセスメント(化学物質RA)とは? (1)化学物質の持つ危険性や有害性を調査する (2)実際の作業方法等をもとに、リスクを見積もる (3)リスクの低減対策を検討(実施)する 後ほど詳しく説明するが、以下の3つのステップから成る。
化学物質リスクアセスメント義務化 法規制概要 労働安全衛生法改正(H28年6月1日施行) 目的:化学物質に起因する労働災害の防止 化学物質のリスクアセスメントの義務化(以前は努力義務) 一定の危険有害性のある化学物質(663物質) 663物質: SDS交付義務のある「通知対象物質」 上記以外の物質: 努力義務 化学物質の製造・取扱のすべての事業者(大学も該当) RAを実施していないからと言ってすぐに罰則等があるとは思えませんが、化学物質関係の大きな事故があれば、RA実施の有無を問われることになると思います。 今後、化学物質関係の大きな事故があればリスク アセスメント実施の有無を問われるであろう
なぜ化学物質RAが法規制になったか? 印刷会社従業員に胆管がんが多発 これまでの個別の化学物質ごとの規制では限界 インク洗浄作業での1,2-ジクロロプロパンおよび ジクロロメタンのばく露 労災認定者30名(うち13名は認定時死亡) 1,2-ジクロロプロパン 当時は健康有害性に関する法規制はなかった 本事案後、法規制化(2013年、「特定化学物質」に指定) これまでの個別の化学物質ごとの規制では限界 化学物質の危険有害性のみに基づく規制は限界 化学物質の使用場面に応じたリスクアセスメントが必須 法規制の有無にかかわらず、取扱者が自主的に管理する 法規制があると、法規制されていない物質を使うことになりがち。 法規制されていないことがその物質が安全であることを保障しているわけではない。 自主的に化学物質のリスクを判断し、対応する必要がある。
大学における最近の化学物質関係の重篤な事故(例) 発生年 大学 表題 被害 概要 663 物質? 2008 UCLA t-ブチルリチウムの発火 研究員1名 全身火傷で死亡 t-BuLiを注射器で採取時、体に浴び発火 No 2011 東工大 金属ナトリウムの爆発 院生3名火傷(顔など)うち1名重傷 実験使用ナトリウムの後処理時 首都大学東京 過酢酸の爆発 学生1名 ガラス破片で重傷 酢酸と過酸化水素水を混合 2014 九州大 薬品容器の破裂(アジ化物) 研究員1名、両手指(複数)切断 グローブボックス内で実験中 東大 化学実験中に爆発・火災 学生1名、火傷・ガラス破片で重傷 詳細不明 (廃液処理中) No (混合物) 2017 大阪大 化学実験中に爆発 手指欠損、ガラス破片で重傷 芳香族ジアゾニウム塩の爆発 名大でも最近はこれほど重篤な事故は起きていませんが、金属ナトリウムや金属リチウムなどの爆発・火災事故は最近も発生しています。 特に実験中だけでなく、後処理や廃棄物処理中にもしばしば発生しています。 これは名大でも同様です。 その多くは化学物質の危険有害性の理解が不十分、あるいは知っていても結局十分な対応をせずに実験をしたなど、結局人的なミスから事故が発生しています。 今回のリスクアセスメントは化学物質の危険有害性を十分に把握し、それに対し十分な対策をしてから実験することにより、事故を防止しようとするものです。
大学の化学物質関連事故の特徴 重篤なもの:ほとんど爆発・火災 目や皮膚ヘの薬傷も多い その他の健康障害(急性中毒や慢性障害)は少ない 少量(実験室レベル)でも大きなエネルギー 過去、99回目まで問題なく取扱っていても、 100回目に取扱いを誤れば事故 目や皮膚ヘの薬傷も多い 保護具の未着用のケースが多い その他の健康障害(急性中毒や慢性障害)は少ない 取扱量が少ない 実験環境(ドラフトチャンバー等)の整備 作業環境測定や特殊健診の実施 重篤な事故はほとんど爆発・火災 健康障害(例、発がん性)は非常に少ない。 無視はできないが。
名大化学実験室における最近の爆発事故例 (約0.3gの化学物質の爆発)
化学物質RA:名大の進め方(1) 対象化学物質 RAの方法 誰がいつ実施するのか? 法定物質(663物質)に限定しない 特に消防法の危険物は実施すべき(火災・爆発を考慮) 「実験」に限定しない ➡ 廃棄物処理なども事故多発 RAの方法 任意:研究内容を一番良く知っている研究者が判断 誰がいつ実施するのか? 原則として取扱者自身が当該物質を初めて使用するとき 研究室等でRAを実施し、それを取扱者(学生等)に教育して も良い
化学物質RA:名大の進め方(2) 実験条件が大きく変わった場合、再度実施する 関連学内規程および通知類 スケールアップ 取扱い温度の大きな変化(例、より高温での取扱い) 関連学内規程および通知類 名大化学物質等安全管理規程:リスクアセスメント実施(第10条) 学内通知(平成28年6月9日) 「化学物質のリスクアセスメントの実施義務化について」 学内通知(平成28年10月8日) 「化学物質のリスクアセスメントの運用について」 環境安全衛生管理室HP http://www.esmc.nagoya-u.ac.jp/risk/risk.html スケールアップ時にRAを再度実施:非常に重要 (例)最近の破裂事故
化学物質RAをどう進めるか? 化学物質やそれを含む混合物の持つ 危険性や有害性を特定する 危険有害 性の特定 化学物質やそれを含む混合物の持つ 危険性や有害性を特定する リスク 見積り それによる作業者への危険または健康障害を生じるおそれの程度を見積もる リスク低減対策 リスクの低減対策を検討(実施)する リスク見積りの方法がすぐ話題になるが、どんな手法を取るにせよ、基本は第一段階の化学物質のハザード(危険有害性)を知ること。 これを知らなければどんなすばらしい手法でも意味がない。 → 化学物質RAでもっとも重要なのは、第一段階の化学物質の危険有害性を知ること。 特に大学の場合、化学物質の危険有害性を知れば、そのリスクやとるべき対策はだいたいわかる。 繰り返しになるが、化学物質の危険有害性を知ることが最も重要であるということを強調しておく。 以下、この3つのステップについて簡単に説明する。
第1ステップ:化学物質の危険有害性の調査 化学物質の危険有害性 危険有害性とは 例:1,2-ジクロロプロパン 化学物質そのものが有している危険有害性 すべての化学物質は何らかの危険有害性を持つ 危険有害性とは 例:1,2-ジクロロプロパン ヒトに対し発がん性あり(胆管がんの発生) 皮膚刺激性や目への強い刺激 引火性液体(消防法危険物第4類第1石油類) 危険有害性 内容 物理化学的危険性 爆発・火災など 健康に対する有害性 眼・皮ふへの障害(腐食性・急性毒性) 急性・慢性健康障害(中毒・発がんなど) 環境に対する有害性 水生生物毒性、オゾン層破壊など 特に強調:化学物質の危険有害性を漏れなく調べることが非常に重要 例:発がん性だけに気をとられ、爆発・火災危険性や眼などへの刺激性を忘れてはいけない。
第2ステップ:リスクの見積り X リスク = 化学物質の 発生の確率 危険有害性の大きさ 化学物質の危険有害性の大きさ、およびそれを取り扱う作業方法、作業環境等を考慮し、作業者へのリスクを見積もる 化学物質の 危険有害性の大きさ 発生の確率 リスク = X 化学物質を使用する条件(使用量、温度、作業時間、実験環境など)を考慮し、決定 上式からリスクの程度を見積る。 リスクの大きい場合、リスク低減対策を実施する。 リスクの大きさ リスクは許容できるか? リスク低減対策の必要性 大 許容できない 即座に必要、実験中止 中 必要 小 許容できる 不要
リスクの見積り(例) 実施予定の実験 固体のサンプル (10 g) を500 mL のフラスコに入れる。 フラスコを50 ℃に加熱し、固体サンプルを溶解し、メタノール溶液を作る。 メタノールの危険有害性(一部) 引火性の高い液体及び蒸気 強い眼刺激をおこす 以下の臓器に障害を生じる 中枢神経系、視覚器、全身毒性 2種の実験シナリオでのリスクの見積り シナリオ 実験者の 保護具着用状況 実験を実施する場所 ばく露の 大きさ 引火の リスク リスク 1 保護具の未着用 オープンの実験台上 非常に大 大 高 (許容できない) 2 保護メガネ及び保護手袋を着用 ドラフトチャンバー内 小さい 小 低 (許容できる)
常に新しいことに取り組む 研究では特に重要 第3ステップ:リスク低減対策の検討・実施 リスク評価結果に基き、優先順位をつけて対策を実施 一般的な対策 より安全な化学物質への変更 実験条件の変更 小スケール化、温度・圧力条件緩和、専用反応装置など 工学的対策 設備密閉化(グローブボックス)、局所排気装置(ドラフト)な どの使用 管理的対策 マニュアル整備、立入禁止措置など 保護具の使用 特に保護メガネの着用 事故発生時対応 消火器、緊急シャワー、周囲に可燃物を置かない、など 優先度 常に新しいことに取り組む 研究では特に重要
大学での化学物質リスクアセスメント 化学物質の危険有害性の理解が最重要 化学物質容器のラベル表示 GHS表示(特に絵表示)を確認 ➡ 絵表示があるものは危険有害性大 日本の法規制を確認(ただし、すべては記載されていない) 化学物質の安全データシート(SDS) 少なくとも以下を確認 もちろん、教員等の指導や専門文献等の情報は重要 項番号 標題 特に確認すべき項目 2 危険有害性の要約 「GHS絵表示」と「危険有害性情報」 15 適用法令 「消防法」:危険物か 「労働安全衛生法」:有機溶剤・特定化学物質か 「毒物劇物取締法」:毒物か劇物か 富田先生の講義であった、有機溶剤/特化物(安衛法)、毒物・劇物、危険物(消防法)はぜひ見ておいてください。
薬品のラベル表示例(1) 危険有害性情報 (GHS) 注意書き (GHS) 法規制 (毒劇法) 注意喚起語 (GHS) 絵表示 (GHS) なにしろ絵表示があり、「危険」とあれば、特に危険有害性情報をすべて読む。 読みにくければ、後ほど説明の安全データシート(SDS)に同じ情報があるので、そちらで確認する。 法令情報はラベルだけでは不完全。SDSを参照すること。 注意喚起語:危険または警告 絵表示 (GHS)
GHS絵表示 炎と円上の炎を間違えない。 ほとんどの絵記号は複数の意味を持っている。 また、急性毒性などは強いものはどくろ、相対的に弱いものは感嘆符。 感嘆符はこうした使い方をしている場合が他にもある。
化学物質:安全データシート(SDS)の記載項目 化学品及び会社情報 危険有害性の要約 組成及び成分情報 応急措置 火災時の措置 漏出時の措置 取扱い及び保管上の注意 ばく露防止及び保護措置 物理的及び化学的性質 安定性及び反応性 有害性情報 環境影響情報 廃棄上の注意 輸送上の注意 適用法令 その他の情報 頭から順番に読む必要はない。 必ず見なければならないのは「2.危険有害性の要約」と「15.適用法令」だけ。その他の部分はこの2つを確認し、さらに詳しい情報が必要な場合に見ればよい。
SDSの例(メタノール)
SDSの例(メタノール)
SDSの例(メタノール) 消防法:引火性物質(容易に引火し火災を発生) 劇物:急性毒性がある。 有機溶剤:急性や慢性の毒性がある。
SDS調査のポイント 主なSDS提供サイト 留意点 厚労省「職場のあんぜんサイト」 ⇒ GHS対応モデルSDS情報 日本試薬協会MSDS検索(メーカー別検索) MaCS-NUでも閲覧可能 留意点 SDSは信頼できる発信元のできるだけ新しいものを見る (できれば複数を見る) GHS対応しているSDSを採用する 「職場のあんぜんサイト」は有用だが、情報が古いこともある Google検索は有用だが、古いSDSがトップに来ることがあり、 注意が必要
【まとめ】化学物質の危険有害性情報の入手 基本(必ず実施すべき事項) 化学物質の容器のラベル表示の確認 特にGHS絵表示がある化学物質は何らかの危険有害性が大 SDS(安全データシート)で詳細を確認 「危険有害性の要約」および「適用法令」だけは必ず見る さらに詳しい情報 研究室の指導者や経験のある研究者にたずねる 関係する文献、専門書籍などを調査する 環境安全衛生管理室の問い合わせる
リスクアセスメント例 (名大の研究室で実施されているもの) 化学合成の研究室:チェックシート方式 反応で使用するすべての化学物質を列挙 その危険有害性をチェックシートで確認 対策を確認(例、保護具の着用、ドラフトチャンバー使用) 指導教員の確認を受ける 材料関係の研究室:調査レポート提出 学生に実験で使用する化学物質の危険有害性を調べさせ、 レポートを提出 調査方法をきちんと教えないと、危険有害性に漏れがある 場合がある
化学関係研究室の例 出典:インペリアル大学 Dept. Safety Handbook
化学物質RAの方法:名大方式(例示) 1つの化学物質:A4のチェックシート1枚 使用する化学物質(1物質)の危険有害性を理解する 最低限実施すべき安全対策を理解・実施する 化学の専攻でなくとも、実施可能 関連法規制の概要も理解できる 関連HP:http://www.esmc.nagoya-u.ac.jp/kagaku/risk.html
名大 化学物質リスクアセスメントシート × × × × メタノール 65 11 H28.5.23 名大太郎 名大 化学物質リスクアセスメントシート メタノール 65 11 H28.5.23 名大太郎 サンプルをメタノールに50℃で溶解する ドラフト内で作業し、周囲に電気器具・可燃物を置かない × × × ×
学内での実施状況 (平成28年度調査、全434件) ※「既に実施」には 「一部実施」も含む
まとめ 化学物質の使用前にリスクアセスメントを実施する リスクアセスメントのステップ (1) 危険有害性の特定 (2) リスクの見積り (3) リスク低減対策の検討・実施 化学物質の危険有害性 (1) 火災・爆発 (2) 目や皮膚への傷害 (3) 健康障害(急性、慢性) 実施時の留意点 メインの実験だけでなく、廃棄物処理等も考慮する 原則として、実験前に取扱者(学生等)が行い、管理者が確認する スケールアップなど実験条件が大きく変化した場合は再度実施する 危険有害性を漏れなく調査する (ラベル、SDSの読み方) リスク見積り手法は任意 大学における過去の事故事例では(1)が最も重篤な事故 (2)も多く発生