疾患遺伝子:病気は遺伝によって決まるのか 神奈川歯科大学 内科学 教授 森實敏夫 Toshio Morizane, MD
ヒトゲノムHuman Genome 30億塩基対 約3-4万の遺伝子 DNA二重ラセン 4つの塩基 A: アデニン T: チミン C: シトシン G: グアニン AT GC CG AT TA CG TA AT 核 水素結合 染色体
遺伝子の転写 Transcription Initiation Codon DNA Termination Codon Exon CCAAT TATAAA ATG Exon GT Intron AG Exon TAA TAG TGA 5‘ 3‘ 転写Transcription Cap RNA Poly A tail スプライシング Splicing mRNA *核内での反応
遺伝子の翻訳 Translation tRNA 4つの塩基 A: アデニン U: ウラシル 3‘ 5‘ C: シトシン G: グアニン mRNA Ribosome Termination Codon: UAA UAG UGA Peptide Amino Acid
遺伝コード Genetic Code 1番目 U C A G 3番目 U Phe Ser Tyr Cys U 2番目 1番目 U C A G 3番目 U Phe Ser Tyr Cys U Phe Ser Tyr Cys C Leu Ser Stop Stop A Leu Ser Stop Trp G Phe, Phenylalanine; Ser, Serine; Tyr, Tyrosine; Cys, Cysteine; Leu, Leucine
遺伝コード Genetic Code 1番目 U C A G 3番目 C Leu Pro His Arg U 2番目 1番目 U C A G 3番目 C Leu Pro His Arg U Leu Pro His Arg C Leu Pro Gln Arg A Leu Pro Gln Arg G Pro, Proline; His, Histidine; Arg, Arginine; Gln, Glutamine
遺伝コード Genetic Code 1番目 U C A G 3番目 A Ile Thr Asn Ser U 2番目 1番目 U C A G 3番目 A Ile Thr Asn Ser U Ile Thr Asn Ser C Ile Thr Lys Arg A Met Thr Lys Arg G Ile, Isoleucine; Thr, Threonine; Asn, Asparagine; Lys, Lysine
遺伝コード Genetic Code 1番目 U C A G 3番目 G Val Ala Asp Gly U 2番目 1番目 U C A G 3番目 G Val Ala Asp Gly U Val Ala Asp Gly C Val Ala Glu Gly A Val Ala Glu Gly G Val, Valine; Ala, Alanine; Glu, Glutamic acid; Gly, Glycine
翻訳後の修飾 糖鎖などの化学基の付加 切断 リン酸化 メチル化 水酸化 アセチル化 カルボキシル化 N-グリコシル化(複雑な糖) O-グリコシル化(複雑な糖) 切断
蛋白質の分泌や輸送 アミノ酸配列に局在指定シグナルがある それぞれの場所で細胞を構成し・機能を発揮する ミトコンドリア 膜透過型 蛋白 核 ゴルジ装置 小胞 小胞体 分泌 リボゾーム
制限酵素 Endonuclease DNAの特定の塩基配列の部位を切断する酵素 AluI AGCT TaqI TCGA HindIII AAGCTT EcoRI GAATTC その他 抽出されたDNAに作用させるとさまざまな長さのDNA断片Segmentが出来る
電気泳動 Electrophoresis 制限酵素で切断したDNA断片をアガロースゲルあるいはポリアクリルアミドゲルで電気泳動するとDNAの長さによって異なる位置に泳動される ゲルからニトロセルロースフィルターに転写してハイブリダイゼーションによって特定の配列をもつDNAを特定することが出来る
ハイブリダイゼーション Hybridization 相補的な配列をもつDNAは互いに結合する。短い合成DNA配列に蛍光色素などのプローブを標識してハイブリダイズさせることによって相補的な遺伝子配列の有無を知ることが出来る。 ATGCATGCATGC ATCGAGCTTACGTACGTACGCCGGATTAC
サザンブロットSouthern Blot 制限酵素処理して電気泳動しNitrocellulose MembraneにTransferしたサンプルにHybridizeさせ、特定の塩基配列を探る方法 プローブDNAとハイブリダイズするDNA断片の大きさが分かる マーカーDNA 制限酵素処理したサンプル
Polymerase Chain Reaction (PCR) ポリメラーゼ連鎖反応 極微量の(1 mlあたり100分子以下)DNA断片を増幅して検出することが出来る。 プライマー Primer DNAを用いて特定の遺伝子配列の部分を増幅することが出来る。 抽出したDNAサンプルにプライマーを混合してハイブリダイズさせ、DNAポリメラーゼ(合成酵素)を反応させる→温度を上昇させて反応を止めてDNAを乖離させる→これを繰り返す:n回で2nに増える
PCR Primer 3‘ 5‘ 1分子 Primer 1回目の合成 2分子 2回目の合成 4分子 n回目の合成 2のn乗個
DNA配列決定 DNA Sequencing Dideoxyシークエンス法 3‘ 5‘ ddATP (didioxy ATP) dATP dCTP dGTP dTTP* (標識dTTP) T*GCT*A Adenineで 反応を止める T*GCT*CGGT*A T*GCT*CGGT*GGCA ddATP (didioxy ATP) ddCTP ddGTP ddTTP それぞれを別に混合した反応を行うとさまざまな長さの DNA断片が合成されそれぞれの分子はA,T,G,Cのいず れかで5‘末端が終了している
Didioxyシークエンス法 ポリアクリルアミドゲル電気泳動 DNA鎖の長さで異なる位置にバンドが出る A C G T 読み シークエンス判定 + A C G T T G C A -
DNA Chips (High Density DNA Arrays) 一度に数万個の遺伝子の発現を調べることが出来る。 変異を検出することが出来る。 DNA Sequenceを調べることが出来る。
DNA chips: Sequential changes in gene expressions in fibroblast Iyer VR, et al: The Transcriptional Program in the Response of Human Fibroblasts to Serum. Science 1999;283:83-7.
ヒト疾患遺伝子 Menderian Inheritance in Man(ヒト遺伝子病のカタログ) 一般的な疾患 13,761のメンデル形質が登録されている(2002.7.5現在) 遺伝子と臨床症状は1対1で対応しない 一般的な疾患 環境要因 複数の遺伝子の組み合わせが複雑に関与 Oligogenic Disorder Polygenic Disorder
臨床診断と遺伝子診断 臨床症状(自覚症状と他覚症状)の出現頻度が疾患で異なる → 症状の組み合わせパターンで診断する。 疾患に特有の(特異的な)遺伝子の配列が存在する ?→ 遺伝子の配列によって診断する。 いずれも100%の感度・特異度ではない。
突然変異の分類 欠失 Deletion 挿入 Insertion 1塩基置換 フレームシフト:欠失、挿入,スプライシングエラーにより生ずる ミスセンス突然変異:1個のAAが別のAAに置換 ナンセンス突然変異:1個のAAが終止コドンになる スプライス部位突然変異:スプライシングのシグナルを出現あるいは消失させる フレームシフト:欠失、挿入,スプライシングエラーにより生ずる
機能獲得性突然変異と疾患
機能喪失性突然変異と疾患 他
遺伝子量効果と疾患
同じ遺伝子の異常が複数の疾患で認められる
染色体数の異常 倍数体 異数体 常染色体 性染色体 3倍体(69、XXX,XXY,XYY):全妊娠例の3%、ほとんど死産、生存率ゼロ ナリソミー:相同染色体の1対が欠損、着床前に死亡 モノソミー:1本の染色体が欠如、胚の時期に死亡 トリソミー:1本の過剰染色体がある、通常胚または胎児期に死亡:トリソミー21=ダウン症候群、トリソミー18=エドワード症候群、トリソミー13=Patau症候群 性染色体 XXX,XXY,XYY:比較的問題少ない 45、X:99%は自然流産、生存者は不妊、知能は平均的
ヒトゲノム計画が完成したあと:2001年以後 臨床診断に遺伝子診断が広く導入されるであろう。 感染症の(病原体の)診断にも遺伝子診断が導入される:病原性,抗菌薬感受性,抗ウイルス薬感受性の判定など 疾患の予防 遺伝子治療
SNP (single nucleotide polymorphism)スニップ、 1塩基遺伝子多型性 ヒトゲノム30億塩基対の内、99.9%は人類共通 残り、0.1%、すなわち約300万塩基対は個人個人によって異なる 同じ遺伝子の同じ部分を個人個人で比べた場合、1塩基だけが異なっていることがある 人口の1%以上で異なっている場合、スニップという スニップが疾患感受性と関係している可能性がある
日本のミレニアムプロジェクト 首相官邸 http://www.kantei.go.jp/ ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について ミレニアム・ゲノム・プロジェクト発足会合 ヒトゲノム多様性解析プロジェクト (説明者:中村祐輔 東京大学教授医科学研究所ヒトゲノム解析センター長) 疾患遺伝子プロジェクト (説明者:廣橋説雄 国立がんセンター研究所長) 発生・分化・再生プロジェクト (説明者:西川伸一 京都大学大学院医学研究科教授) イネゲノム・プロジェクト (説明者:桂直樹 農林水産省農業生産資源研究所長)