関節リウマチ感受性遺伝子 FCRL3 (Fc receptor-like3) の同定

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関節リウマチ感受性遺伝子 FCRL3 (Fc receptor-like3) の同定 ○高地 雄太1,2,山田 亮1,山本 一彦1,2 1理化学研究所遺伝子多型研究センター関節リウマチ関連遺伝子研究チーム 2東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ内科

関節リウマチ(RA)の遺伝性 ・家系解析より 一卵性双生児再発危険率 λMZ 12~62 同胞再発危険率 λsib 2~17 ・HLA領域   6p21   RAの遺伝素因の30~50%を占める   HLA-DR (shared epitope)との強い関連 ・non-HLA遺伝子   複数の遺伝子多型が関与   相対危険率が低いため,同定が困難

non-HLA遺伝子の探索 自己免疫疾患連鎖解析の知見より 候補領域が重複 ・複数の疾患   ・ヒト・マウス 1q21-23 (human) 共通の遺伝素因  ・CTLA4  ・CARD15  ・SLC22A4/5  ・PTPN22 * ヒト・マウスの複数の自己免疫性疾患感受性候補領域を マウス染色体上にマッピングした (Marrack et al. Nat Med 2001)

候補領域 1q21-23 マウス ヒト Lupus models (sle1, swrl1) CIA(Mcia2) EAE,TMEVD NOD (Idd10, Idd17) ヒト 乾癬 (PSORS4) MS RA SLE FcγRI FCRL1~5 CD1 FcγRII/III CD3Z 1q21 mCh3 1q23 mCh1

SNPsを用いたケース・コントロール関連解析 SNPs(1塩基多型 single-nucleotide polymorphisms)    遺伝マーカーとして解像度が高い (300~1000bp間隔)    機能性多型となりうる (アミノ酸変化,プロモーター活性に影響) ケース・コントロール関連解析   ある遺伝子多型のアレル頻度(もしくはジェノタイプの頻度)が,疾患群において対照群よりも高いことを検定することにより,疾患感受性遺伝子多型,もしくはそれと連鎖不平衡にある遺伝子多型の同定を行う. 連鎖不平衡 linkage disequilibrium (LD)   2つの遺伝子座間で,連鎖があるために,メンデルの独立の法則に    よる平衡から逸脱した状態

連鎖不平衡係数Δ ハプロタイプ SNP A – SNP B 頻度 1-1 P11 1-2 P12 2-1 P21 2-2 P22 Δ=|P11P22 - P12P21|÷ (P1・P2・P・1P・2)1/2 連鎖がない場合(異なる染色体に存在) → Δ=0 完全に連鎖している場合    → Δ=1

連鎖不平衡図を用いた関連解析 ・全てのSNP対でΔを計算し,値によりグループ化(Δ>0.5) Block1 Block2  ・全てのSNP対でΔを計算し,値によりグループ化(Δ>0.5) →LD blockの同定.  ・SNP5(marker SNP)で疾患との関連を認めた場合 →同じLD block内のSNP3~6が原因多型である可能性が高い.

対象 ・関節リウマチ(RA) 第1群 830人 第2群 540人 ・全身性エリテマトーデス(SLE) 564人    第1群    830人    第2群    540人 ・全身性エリテマトーデス(SLE)            564人 ・自己免疫性甲状腺炎(AITD)    バセドウ病 351人    橋本病    158人 ・対照群    第1群    658人    第2群    636人    第3群    752人

1q21-23領域のSNPs 741 SNPs をJSNP database より抽出 ↓ 対照群658人をgenotyping        ↓      対照群658人をgenotyping         アレル頻度 > 0.1         タイピング成功率 > 0.95       Hardy-Weinberg 検定 P > 0.01             ↓     491 SNPs を 連鎖不平衡・関連解析に

1q21-23領域の 連鎖不平衡・関連解析 ・1q21-23領域 (16Mb) FCRLs 491 SNPs  対照群 658人をgenotyping  FCRLs    → 110 LD block (Δ>0.5) ・患者群 94人をgenotyping  患者・対照群アレル頻度比較    → 9 SNP に関連 (P<0.01) ・患者群 736人を追加   → FCRL3のSNPに関連あり      (OR 1.39, P=0.000035) ・FCRL領域    → 2 LD ブロックを詳細に解析

FCRL領域の関連解析 ・FCRL領域のSNPs… 41 SNPs JSNP… 25 SNPs 新規同定SNPs … 16 SNPs ・関連解析      RA患者群 830人, 対照群 658人      アレル頻度比較      → FCRL3プロモータ領域に関連のピーク(P<0.0001) FCRL5 FCRL4 FCRLy4  FCRL3 FCRL2 FCRL1 CD5L

FCRL3多型の関連解析 -169 -110 exon1 exon2 exon3 SNPsa アレル アレル1 頻度 ジェノタイプ 11 vs 12+22 (劣性遺伝型式) ID 位置 1/2 RA患者 対照 OR (95% CI) c2 P fcrl3_3 -169 C/T 0.42 0.35 2.15 (1.58-2.93) 24.3 0.00000085 fcrl3_4 -110 A/G 0.25 0.18 3.01 (1.71-5.29) 16.1 0.000060 fcrl3_5 Exon2 C/G 2.05 (1.51-2.78) 21.6 0.0000033 fcrl3_6 Intron3 0.34 2.02 (1.49-2.75) 20.8 0.0000052 aSNPs with P<0.0001 in allele frequency comparison test fcrl3_3   fcrl3_4     fcrl3_5           fcrl3_6 -169   -110    exon1   exon2        exon3 ATG

FCRL3プロモーター活性の評価 ・FCRL3 プロモーター配列(SNP;-169C/T,-110A/G) ・ルシフェラーゼ・アッセイにて評価 3ハプロタイプのプロモータ活性の評価(nt -523 ~ +203) -169C/T 周辺配列のエンハンス活性の評価(nt -189 ~ -160)

-169 C/Tに結合する転写因子 ① TRANSFACによる予測 CGGGAAGTCC[C/T]T NFκB consensus motifとの比較 allele core match matrix match -169C 1.000 0.957 -169T 0.760 0.824

-169 C/Tに結合する転写因子 ② EMSA (ゲルシフト・アッセイ)   Raji細胞核タンパクと   -169Cアレルで強い結合(バンドI) ・スーパーシフトアッセイ   抗NFκB 抗体でシフト    (p50,p65,c-Rel)

ジェノタイプ別のFCRL3発現量 健常人末梢血B細胞での発現をTaqMan-PCR法により定量 発現量はRA感受性アレルの数(n = 0,1,2)で有意に回帰された.                   (R2 = 0.49,P = 0.0076)

FCRL3多型と遺伝子発現量

組織でのFCRL3発現 TaqMan-PCR法にて定量

RA滑膜でのFCRL3発現 in situ hybridization法 CD20 100x T細胞 CD3 100x FCRL3 ISH 100x 400x

FCRL3 多型と自己抗体の関連 リウマトイド因子 抗CCP抗体 ジェノタイプ n (N=148) 血清抗体価 ±SEM (IU/ml) 陽性率 (%) -169 C/C 29 479.9 ±91.3a 17 100.0b -169 C/T 75 323.7 ±47.3a 35 94.3b -169 T/T 44 216.4 ±44.0a 19 73.7b a 血清抗体価はRA感受性アレルの数で有意に回帰された (R2=0.049, P=0.0065). bP=0.029 by Fisher's exact test.

FCRL3多型(-169 C/T) と HLA-DRB1ジェノタイプの関連 SE+/+ SE+/- SE-/- n=113 n=376 n=215 -169 C/C 32 73 35 -169 C/T 46 177 99 -169 T/T 126 81 アレルC頻度 0.49* 0.43 0.39 SE = shared epitope (日本人では DRB1*0405が最多)  * c2 検定で P <0.05 (vs SE-/-). RA患者(N=704)をHLA-DR shared epitopeのジェノタイプ別に 層別化し,-169Cのアレル頻度を比較した

FCRL3多型( -169C/T)とAITD,SLEの関連 疾患 人数 アレルC 頻度 劣性遺伝形式比較 OR (95% CI) c2 P AITD total 509 0.45 1.74 (1.35-2.24) 18.5 0.000017  GD 351 0.46 1.79 (1.34-2.39) 15.7 0.000074  HT 158 0.42 1.62 (1.07-2.47) 5.2 0.022 SLE 564 0.41 1.49 (1.16-1.92) 9.8 0.0017 Controls 2037 0.37 AITD = 自己免疫性甲状腺炎; SLE = 全身性エリテマトーデス; GD = Graves病; HT = 橋本病.

FCRL3 Fc receptor-like 3 ・Ⅰ型膜貫通タンパク (734a) ・ 細胞外 6個のIg-like domain ・ 細胞内    4つのTyrosine motif

FCRL3細胞内ドメイン Syk, ZAP70 tyrosine kinases SHP-1,SHP-2 ITIM ITAM ITIM hemi-ITAM Syk, ZAP70 tyrosine kinases SHP-1,SHP-2 tyrosine phosphatases (Xu et al. BBRC 2002) Y or Y Y ITAM ; Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motif ITIM ; Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibition Motif

FCRLsのリンパ組織での発現 Tonsilを用いたin situ hybridization (Miller et al FCRLsのリンパ組織での発現 Tonsilを用いたin situ hybridization (Miller et al. Blood 2002) HE ISH Mantle zone Mantle zone Light zone Marginal zone Light zone

RAにおけるFCRL3の役割(仮説)

まとめ ・FCRL3遺伝子プロモータ領域の多型(-169 C/T)と複数の自己免疫性疾患感受性との関連を同定した.  ・感受性アレルを持つ個人では,遺伝子発現量が増加しており,また自己抗体産生の増加も認めた.  ・FCRL3は,2次リンパ組織および疾患病理組織のB細胞において発現しており,免疫系における機能性遺伝子であることが考えられた.

今後の展開 FCRL3は自己免疫疾患に普遍的に関与する遺伝子? ① 自己免疫性疾患の病態解明 ② 治療法の開発    B細胞を中心とした自己免疫現象の解明 ② 治療法の開発    FCRL3をターゲットにした創薬 ③ テイラーメード医療への応用   FCRL3遺伝子多型は疾患の予後予測因子になりうる?    個人の遺伝情報に基づいた治療

謝辞 理化学研究所遺伝子多型研究センター 同・関節リウマチ関連遺伝子研究チーム 東京大学大学院医学系研究科 アレルギー・リウマチ内科   川上 弘人   高橋 篤   角田 達彦   関根 章博   大西 洋三   中村 祐輔 同・関節リウマチ関連遺伝子研究チーム   鈴木 亜香里   徳廣 臣哉   常 暁天   小林 香子   菅野 栄美   川井田 礼美   駒木根 啓子   山中 美弥子   明前 敬子 東京大学大学院医学系研究科 アレルギー・リウマチ内科   沢田 哲治 RAゲノム検体提供機関   行岡 正雄 (行岡病院)   脇谷 滋之 (信州大学)   當間 重人 (国立相模原病院)   松原 司 (松原メイフラワー病院)   豊島 良太 (鳥取大学医学部)   西岡 雄一 (山梨県立中央病院) RA滑膜検体提供機関   吉野 愼一 (日本医科大学)   永島 正一 (同上) SLE,AITDゲノム検体提供機関   笹月 健彦 (国立国際医療センター)   白澤 専二 (同上)   三森 明夫 (同上)   小池 隆夫 (北海道大学)   湯村 和子 (東京女子医科大学)   大坪 茂 (同上)                敬称略