第5章 ポジションとロール ―地位・役割をどうモデル化するか

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第5章 ポジションとロール ―地位・役割をどうモデル化するか 第II部  社会構造概念の彫琢 第5章 ポジションとロール ―地位・役割をどうモデル化するか Social Network Seminar

内容 ポジションとロールの関係主義的な定義 ポジション=ロールのモデル化 ポジション=ロール関係の記述の仕方 ―ブロックモデリング 社会構造を簡約化する手順 ―ブロックモデリングの手順 関係の関係を分析するツール ―関係代数 ローカルな個人の視点から役割関係を見る ―関係ボックス

1.ポジションとロールの関係主義的な定義 5.1.1 非関係主義的アプローチ 一般的に社会学、人類学においては、 ロール:ある社会的な属性に付随する行動パターンやアイデンティティー 例)父親、息子、酋長、部下など ポジション:そのような役割にある諸個人の集合。この考え方は非関係主義的な立場に立脚。 例)男の子供という属性 →「親を敬い、そのことしてその親の遺志を継ぐように振舞う」ことが期待される。 →ロールが構成される。 →そういう人たちの集まりで「息子」というポジションが定義される。

1.ポジションとロールの関係主義的な定義 5.1.2 関係主義的アプローチ 非関係主義的なアプローチに対し、 中心-周辺というロール関係で考える。 抽象的にグラフ理論で考えると、右図。 このアプローチでは、 ロール:アクターあるいは「ポジション」の間に見出される関係のパターン      正確には、「ロール関係」というのが正しい ポジション:諸関係のネットワークに類似的に埋め込まれたアクターの集合 これらは相互規定的な関係にある。つまり、ロール関係の確定(ロール分析)とポジションの確定(ポジション分析)は同時に進行しながら、最終的にロール関係とともにポジションが確定される。(図5-3) 結局は、ポジション=ロールとして決定される。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.1 社会ネットワークの縮図を得る手続き―写像 複雑な社会関係データを簡約にする必要がある。 →数学的には写像(mapping)という操作。 定義(写像) 関数f:P→P’は集合Pの各要素を集合P’のイメージ的な要素f(a)に移す関数である。上への写像(surjection)とは、P’のすべての要素が、Pの要素のイメージであるような写像である。 5.2.2 粗い縮図を得るための準同型写像 準同型写像とは、要素間の重要な関係構造を保存するように、もとの関係の「つぶれた像」を得るような写像。 例)北海道、本州、四国、九州→4つの点 グラフで考えると、グラフの点をその点の イメージに写像し、辺を辺のイメージに移 すような写像のこと。(図5-4) このようにできた写像を導出グラフと呼ぶ。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.3 最も経験的に簡約的な縮図―全準同型写像(1) 最もよく利用されるものとして全準同型写像(full homomorphism)がある。ブロックモデルといわれ、ブロック間の関係を表すように経験的にグラフを縮減する。 例)16人からなる職場の集団ネットワーク 労働者1~5、6~10、11~16まで3つの班がある。これらの班の所属によって下のようにソシオマトリクスを分割する。そして、一定の基準で集成的に縮減する。このときに得られた縮小的ソシオマトリクスをイメージ行列という。このとき、もとのグラフは、図5-5のようになる。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.3 最も経験的に簡約的な縮図―全準同型写像(2) 定義(全準同型写像) G=<P,R>とG’=<P’,R’>を2つのグラフとする。そのとき、すべてのa,b∈P, x,y∈P’に対して、aRbがf(a)R’f(b)を意味し、かつf(c)=x,f(d)=yであるような要素c,d∈Pが存在し、xR’yがcRdを意味するようなf:P→P’への上への写像が存在するときに限り、かつまたそのときに限って、f:G→G’ は全準同型写像である。 全準同型写像はルーズな写像であり、その柔軟性から経験的なネットワークの分析に多用される。ただし、ポジション=ロールの同値性の定義に依拠しているわけではない。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.4 完全準同型写像の数学的な限定 ―正則同値性、構造同値性、自己同型同値性 (a)正則同値性 定義 全準同型写像f:G→G’ が正則(regular)であるとは、a≠bであるすべてのa,b∈Pに対し、f(a)R’f(b)に次のような含意があるときである。 c,d∈Pが存在し、cRb, aRdであるとき、f(c)=f(a), f(d)=fb)。 例)会社の構成 何人かの部長、何人かの課長、何人かのヒラ社員を考える。部長同士はそれぞれ課長が何人部下にいようと、結合のパターンは変わらない。このとき、部長同士は正則同値であるという。 右図だと、 正則同値族1={1}; 正則同値族2={2,3,4} 正則同値族3={5,6,7,8,9,10,11} と分割される。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.4 完全準同型写像の数学的な限定 (b)構造同値性 定義 全準同型写像f:G→G’ が 構造的(structural)であるとは、a≠bであるすべてのa,b∈Pに対し、f(a)R’f(b) がaRbを意味する場合である。 つまり、 a,b,c∈P , a,b≠cに対して、以下のような含意があるときである。 aRbであるときのみbRa, aRcであるときのみbRc, cRaであるときのみbRc, aRaであるとき、aRb, 要は、同じアクターにまったく同じに結合する アクターは構造同値である、ということ。(図5-7) 右図だと、 構造同値族1={1}; 構造同値族2={2}; 構造同値族3={3}; 構造同値族4={4}; 構造同値族5={5,6,7}; 構造同値族6={8}; 構造同値族7={9,10,11}; と分割される。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.4 完全準同型写像の数学的な限定 (c)自己同型同値性 定義 全準同型写像f:G→G’ が 強(strong)あるいは自己同型(automorphic)であるとは、すべてのa,b∈Pに対し、f(a)R’f(b) がaRbを意味する場合である。 つまりaとbが自己同型同値であるとは、a,b,c∈P , a,b≠cに対して、以下のような含意があるときである。 aRbであるときのみbRa, aRcであるときのみbRc, cRaであるときのみbRc, 単純に表現すれば、「グラフのノードのラベルを換えたときに、それらがお互いに区別ができないようなものを同値と考える」となる。 右図だと、 自己同型同値族1={1}; 自己同型同値族2={2,4}; 自己同型同値族3={3}; 自己同型同値族4={5,6,7,9,10,11}; 自己同型同値族5={8}; 自己同型同値族6={5,6,7}; 自己同型同値族7={9,10,11}; と分割される。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.4 完全準同型写像の数学的な限定 (d)構造同値性の計算 ①隣接行列からユークリッド距離を計算する方法 i≠k, j≠kであるようなノードiとjの間の結合の値をxijとすると、ユークリッド距離 dijは以下のように計算される。 R個ある多重関係に対して、 xijrが関係rにおけるアクターiからjの結合の値とすると、 dijは以下のように計算される。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.4 完全準同型写像の数学的な限定 (d)構造同値性の計算 ②隣接行列から積率相関係数を計算する方法   と  をそれぞれ行と列の平均値とすると、単独関係における構造同値の尺度としての相関は と測定される。同様にR個の多重関係に関しては、下のように計算される。

2.ポジション=ロールのモデル化 5.2.4 完全準同型写像の数学的な限定 (e) 正則同値性の計算 反復して正則同値性の漸近値を推定していく方法。    をt;1反復目のiとjの正則同値の度合いとする。関係rにおけるiとjの正則同値性は、特定のアクターkに(から)接続するiの結合が、あるアクターmから接続するjの結合とどれほどよく合致しているのか、ということからモデル化される。 (これは   とあらわされる)     ここで反復t回目におけるそのような合致度を、 で測定し、これは   にかかる重みとなって、次の反復に組み込まれる。

3.ポジション=ロール関係の記述の仕方 5.3.1 社会ネットワークを分割する―ブロックモデリング ブロックモデリング:ネットワークでのポジション=ロールの関係を縮約的に記述しながら、アクターをポジションに帰属させる方法。 準同型写像によって社会構造を単純化させるので、規模の異なる2つのネットワークの比較を可能とする。 行列で考えると、隣接行列AをもつネットワークNを「かたまり」としてB個のポジションに分割することである。(下図:3つのポジションを持つ場合) bijはポジションBiとBjの関係を表している。 bij=1のブロックを一ブロック(ボンド)bij=0のブロックを零ブロックという。 同じポジションに分割されたアクターは構造的に同値とみなされる。

3.ポジション=ロール関係の記述の仕方 5.3.2 ブロックモデルを評価する―ブロックモデリング・フィッティング (a)完全フィット(ファット・フィット)の基準 ポジションBiとBjの間に結合があるのは、ポジションBiのすべてのアクターとBjのすべてのアクターの間に結合がある場合で、ない場合は、ポジションBiのすべてのアクターとBjのすべてのアクターの間に結合がない場合。つまり、 非常に厳しい基準で、実用的ではない。イメージ行列に縮減されない場合もある。

3.ポジション=ロール関係の記述の仕方 5.3.2 ブロックモデルを評価する―ブロックモデリング・フィッティング (b)零ブロック・フィット(リーン・フィット)の基準 すべてのアクター間で結合がないことを基準とする。アクター間の一つでもあれば、ポジション間に結合があるとみなす。つまり、 である。先ほどの例の行列は下のようになる。

3.ポジション=ロール関係の記述の仕方 5.3.2 ブロックモデルを評価する―ブロックモデリング・フィッティング (c)一ブロック・フィット基準 逆に、行ポジションにおけるアクターから列ポジションにおけるアクターの間すべてに結合が存在する場合のみに、一ブロックを与える。つまり、 である。例の行列で考えると、下図になる。

3.ポジション=ロール関係の記述の仕方 5.3.2 ブロックモデルを評価する―ブロックモデリング・フィッティング (d) アルファ密度基準 ブロックi,j間の密度Δijが、任意の閾値αより大きければ、一ブロックを小さければ零ブロックを与える規準である。すなわち。 である。αは自由に選べるが、ネットワーク全体の平均密度をとる場合が多い。下の例では、平均密度は0.43なので、これをαの値とすると、下図のように縮約される。

4.社会構造を簡約化する手順 5.4.1 縮図を設計図から得る―演繹的ブロックモデリング あらかじめブロック化するアクターを確定して行う方法。前規定ブロックモデリング(prespecified blockmodeling)という。与えられたソシオマトリクスはブロック化すべき順番に行列を並び替えればよい。目的に沿った外的基準を当てはめてどういう社会構造が見えてくるか、を調べたいときに用いる。 例)個人:年齢層、ジェンダー 企業:産業セクター など  例)企業集団内での企業間ネットワーク (1)金融セクター (2)素材産業セクター (3)機械産業セクター (4)サービスセクター 下のイメージ行列は、右の縮減グラフに視覚化できる。

4.社会構造を簡約化する手順 5.4.2 縮図を実測のみから得る―帰納的ブロックモデリング 構造同値を求める計算アルゴリズムに基づいて、ブロックを事後的に求める。 5.4.3 厳密な設計図から実測によって縮図を得る―一般的ブロックモデリング ブロックモデリングとは、次のようにも要約できる。 ネットワークNがnのアクターの集合E={X1,X2,・・・,Xn}とtのアクターの関係 R⊆E×E, R= {R1,R2,・・・,Rt}からなるとし、それをN=(E, R)と表すとする。ここで、クラスターの集合をC=(C1,C2,・・・,Ck)とすると、ブロックモデリングとはネットワークについてクラスタリングCを確定し、EとRを分割し、同時にクラスター間の関係を確定する作業である。 間接的ブロックモデリング:近似的な各種同値性を測定していく。モデルの適合度は評価されない 直接的ブロックモデリング:一般的なブロックモデリング。結合のタイプのテンプレートがあり、これに当てはめることで、最適のあてはめを持つような結合のタイプが確定される。最適なアクターのクラスター化を求めることでもあり、与えられたブロックモデルと、理想的なブロックモデルの乖離を少なくするような作業が行われる。

4.社会構造を簡約化する手順 5.4.3 厳密な設計図から実測によって縮図を得る―一般的ブロックモデリング 例)バタゲリらの例

5.関係の関係を分析するツール 5.5.1 多重関係と複合関係 関係代数:代数的な社会ネットワークモデルを利用して、ロールの関係を細かく分析する。ロール自体が関係なので、関係の関係を分析することになる。 多重関係:同じ集合のアクターに対して定義される複数の関係。 例)友人のネットワークFと援助のネットワークHから構成される多重ネットワーク   W={F,H} この2つの関係を明らかにするには、2つの関係を合成し、「援助関係にある友人」のような合成関係を作り出す必要がある。 定義(合成関係) 集合X上における二つの二項関係RとTの合成関係(composition)は次のように与えられる。i,j∈Xであるとき(i,k)∈Rかつ、(k,j)∈Tであるようなk∈Xが存在するときにのみ、(i,j)∈RTである。そのときRTは合成関係とよばれる。 理論的には無限個であるが、ソシオマトリクスが同一な合成関係は通常有限個しかない。

5.関係の関係を分析するツール 5.5.1 多重関係と複合関係 例)友人のネットワークFと援助のネットワークHから構成される多重ネットワーク

5.関係の関係を分析するツール 5.5.2 合成ネットワークの比較  ひとつの関係Uにおけるアクター間の結合が、別の関係Vにおけるアクター間の結合を含んでいる場合、関係UはVに包括される(contained)という。 定義 包括関係 WとVを集合X上の2項関係とする。もし、i,j∈Xに対して、(i,j)⊂Wが(i,j)⊂Vを内包していれば(逆?)、W≦Vと定義される。逆も同じ。 定義 質の定理(同等関係) W≦VかつV≦Wであるときに限り、W=Vであると定義する。 このような同等関係によって、合成関係はユニークなものが得られる。 例では、F,H,FF,FH,HF,HH,FFF,HFHの関係が存在する。

5.関係の関係を分析するツール 5.5.3 半順序とネットワークの半群  先に得られたユニークな関係の集合は、数学的には、半順序半群 (partially ardered semigroup)という代数構造で定義される。定義は以下である。 定義 半順序 集合X上の関係Rが、次の3つの条件を満たすとき、Rを半順序関係、あるいは単に順序関係という。 i)任意のx∈Xに対し、xRx(反射的) ii)任意のx,y∈Xに対し、(xRyかつyRx)であるならば、x=y(反対称的) iii)任意のx,y,z∈Xに対し、 (xRyかつyRz)であるならば、x=z(推移的) 定義 半群 半群は、要素の集合Sとその要素上の結合的演算である。この二項演算はSの要素の順序対(U,V)をSの単独の要素に写像する結合的な演算でU,V,W∈Sに対し、(UV)W-U(VW)である。 (数学的には結合法則(a*b)*c=a*(b*c)が成り立つ集合のこと) 定義 半順序半群 半順序関係≦と要素をもった半群SはあらゆるW∈Sに大してU≦VがWU≦WVかつUW≦VWを含むとき、半順序半群である。

5.関係の関係を分析するツール 5.5.3 半順序とネットワークの半群  半順序関係は、表の形で表される。表においては、一方が他方を包含するような半順序にあれば表の成分は1、包含しなければ0である。 例) また、これを視覚化したものをハッセ線図という。 上にあるものが下にあるものを包括する。 (図5-18)

6.ローカルな個人の視点から役割関係を見る 5.6.1 ロールセットの定式化 役割関係:複数の社会的ポジションを占める個人が、他のポジションを占める他のポジションを占める他の個人とさまざまに関係を持つさま ロールセット:ひとつの社会的なポジションに対し、そのポジションを占める個人が他のポジションにある個人ともつ役割関係のコレクション 関係ボックス:ネットワークの成員の数をg、関係の数をrとした場合、g×g×rの次元からなる直方体構造として表現される。 以下の4つの側面から分解してみることができる。 (1)関係ベクトル:個人iとjの間の結合関係を表す0,1ベクトル。関係行列はこのベクトルからなるアクター×アクターの行列。 (2)ロール関係(Rij):iとjの間に存在する原初関係、合成関係を表す0,1ベクトル。 (3)関係プレーン(R(bar)i):一個人が他の個人と持つロール関係(アクター×関係)の行列 (4)ロール・セット(Ri):重複を除いた一個人iのロール関係の集合

6.ローカルな個人の視点から役割関係を見る 5.6.1 ロールセットの定式化 例)右図 管理関係を表す関係行列Rは下図。この転置関係R’は被管理関係、RのベキR2は「管理の管理」関係,R’2は「被管理の被管理」を表す。このように長さ2までの合成関係によって、ロール関係を求めると、部長の関係プレーンは下の表のようになる。 部長は管理されないのでR’の行はすべて0であるのに対し、課長を通じて係長に対しては、「管理の管理」関係にあるので、ベクトルは1となっている。

6.ローカルな個人の視点から役割関係を見る 5.6.1 ロールセットの定式化 例)(つづき) 関係プレーンの各列は、部長が各部下ともつロール関係を表している。このような関係プレーンを積み重ねたものが関係ボックスの立体となる。(右図) 関係ボックスの利点はアクターから見た関係性がモデル化されており、ローカルな個人とポジションとの関係がモデル化されている点である。そのため、各アクターに対するロールセットを簡単に引き出すことができる。 もうひとつの利点は、同じロールセットを有するアクター同士を同値と定義することによって、ローカル・ロール同値性という概念を提出できることである。

6.ローカルな個人の視点から役割関係を見る 5.6.2 ローカル・ロール同値性をどのように計算するか アクターiとjの同値性は、両者の関係プレーンの非類似性として近似的に測定される。まず、ロール関係RijとRklの距離は、両者の「市街地距離」という二項行列間の非類似性を測定する尺度を使うと、うまく測定できる。 市街地距離d(Rij, Rkl)は、Tを関係ボックス中の関係行列の数とすると、 とあらわされる。 このようなロール関係を2つの関係プレーンで比較するには、ひとつの関係プレーンにおけるロール関係と他の関係プレーンにおけるロール関係をすべて比べる必要がある。そのため、同じアクター間のロール関係との市街地距離を最小化するものを選び、両者の合計をその距離と定義する。 ここでg1はネットワーク1のアクター数、g2はネットワーク2のアクター数である。 この値が、ローカル・ロール同値性の代理尺度として定義される。この値は2人がまったく同値である場合0となる。