小児HIV感染症における 抗レトロウイルス治療のガイドライン Working Group on Antiretroviral Therapy and Medical Management of HIV-Infected Children The National Pediatric & Family HIV Resource Center (NPHRC) at The François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ このカリキュラムとスライドはFrançois-Xavier Bagnoud センターのNational Pediatric & Family HIV Resource Center UMDNJ で作成された。この出版はthe Health Resources and Services Administration (HRSA), Bureau of HIV/AIDS (HAB) の助成金#1 U69 HA 00038-03 によってサポートされる。その内容は単独で著者に責任があり、HRSAやHABの公式な見解を示すとは限らない。 スピーカーノートは “Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection.” を改変したものである。最新版は AIDS Info Website で入手可能である(http://www.aidsinfo.nih.gov)。 日本語訳:広島大学病院エイズ医療対策室 西村 裕、高田 昇 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ガイドラインのできるまで NPHRCは小児HIV感染症に関する臨床医、研究者、家族の代表、合衆国の役人の代表を1996年6月と1997年7月に招集し、1992年のガイドラインのアップデートを行った。 スポンサーは、the Health Resources and Services Administration, HIV/AIDS Bureau with support from NICHD/NIAID であった。 ガイドラインは定期的に委員会により更新され、“生きた情報” として、オンラインで閲覧できる。http://www.aidsinfo.nih.gov NPHRCは小児HIV感染症に関する臨床医、研究者、家族の代表、政府担当部局の責任者を1996年6月と1997年7月に招集し、1992年のガイドラインのアップデートを行った。 スポンサーは、the Health Resources and Services Administration, HIV/AIDS Bureau with support from NICHD/NIAID であった。 ガイドラインは定期的に委員会により更新され、“生きた情報” として、オンラインで閲覧できる。http://www.aidsinfo.nih.gov HIV感染症の治療の方針はNIH 委員会によって発展してきた。研究班はまたガイドライン設定の基礎として感染症の一般的な基準を使用し、現在そして将来のガイドラインの構築に必要と思われる多くの重要事項を含んでいる。 (参照 Pediatrics Supplement,102(Suppl.):1006-1007.) François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 感染症の治療に対する一般的な要点 早期診断と治療が予後をもっともよくする。 感染因子の量の変化が抗微生物療法の効果を規定する。 治療のゴールは病原体を全滅させるか、持続的な複製抑制を達成することである。 HIV感染の治療に関する限られた小児のデータでは、研究班は小児のガイドラインの考案にあたってその基本として感染症の一般的な治療の原則を参考にした: 早期診断と治療が予後をもっともよくする。 感染因子の量の変化が抗微生物療法の効果を規定する。 治療のゴールは病原体を全滅させるか、持続的な複製抑制を達成することである。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 感染症の治療に対する一般的な要点 単独の薬剤による治療が薬物耐性を起こす場合は多剤併用が有用である。 多剤療法は異なる部分で、違った機構で、毒性の重複しないものを選択するべきである。 もし、病原体を全滅させることが不可能ならば、臨床所見や検査データから病期の進行が見られた場合、治療を変更するべきである。 致命的な感染に関しては、積極的な治療と副反応をしっかり忍容することを覚悟して受け入れるべきである。 単独の薬剤による治療が薬物耐性を起こす場合は多剤併用が有用である。 多剤療法は異なる部分で、違った機構で、毒性の重複しないものを選択するべきである。 もし、病原体を全滅させることが不可能ならば、臨床所見や検査データから病期の進行が見られた場合、治療を変更するべきである。 致命的な感染に関しては、積極的な治療と副反応をしっかり忍容することを覚悟して受け入れるべきである。 他の感染症の説明にもこれらの原則は適応となる。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児と成人の抗レトロウイルス治療の 類似点と相違点 HIV感染症の病原論や抗レトロウイルス治療(ARV)の使用に関する一般的なウイルス学的免疫学的特徴はすべてのHIV感染者について同様である。 しかしながら、HIV感染の乳児、小児、青年期に関しては特別な考慮点がある。 HIV感染症の治療の方針はNIH 委員会によって発展してきた。研究班はまたガイドライン設定の基礎として感染症の一般的な基準を使用し、現在そして将来のガイドラインの構築に必要と思われる多くの重要事項を含んでいる。 (参照 Pediatrics Supplement,102(Suppl.):1006-1007.) François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス治療の 特別な注意点 小児HIV感染症の診断上の問題 年齢に伴う薬物動態学的変化 ウイルス学的免疫学的指標の自然経過 小児におけるアドヒアランスの特殊性 周産期のHIV感染症は乳児の免疫システムの発達途中で起きる。 HIV感染症の臨床的特徴も免疫学的ウイルス学的マーカーも成人とは異なる。 周産期感染の児の治療では、妊娠中や新生児期に母体の治療のためか、周産期感染を予防するためか、あるいはその両方の目的で使用されたZDVや他の薬物に暴露されたという背景がある。 薬剤の剤型はいつも小児に適しているわけではなく、例えば液剤のない大きなカプセルなどである。 小児の治療のアドヒアランスには家族の協力が必要である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:薬物動態学的変化 小児と成人の間の年齢による相違点 体の組成 腎での分泌 肝代謝 胃腸管機能 薬物分布、代謝、クリアランス 薬物量、毒性 これらの結果: 新生児期から思春期への移行期の薬物動態学的変化は乳児期や小児期における投薬量や毒性に関して特別な評価が必要である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:診断上の問題 周産期感染 = 初感染 感染乳児の早期診断により初期/早期感染時に治療を開始できる。 乳児の早期診断のためには妊婦のHIV検査が重要である。 小児期のほとんどのHIV感染は周産期におきるが、そのほとんどは出産時かその前後である。その時期に(すなわち生後すぐに)感染時の治療が開始になる可能性が高い。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:診断上の問題 HIV感染児のためのPCR法やウイルス培養を利用した検査は以下の時期に行われるべきである: 生下時 (<48 時間未満) 日齢14 (最適) 1-2ヶ月 3-6ヶ月 HIV DNA PCR は乳児期のHIV感染の診断のためのウイルス学的方法としてよく使われる。 271例の感染児のデータによる多分析ではHIV DNA PCR は新生児期のHIV感染の診断法として有用であった。感染児の38% (90%信頼区間[CI]は29-46%)で、生後48時間のPCR検査が陽性であった。16 生後1週間まではその頻度は変化しないが、生後2週では急激に上昇し、生後14日のPCR検査では93%が陽性となった(90%信頼区間[CI]は29-46%) 。 HIV の培養は感染の診断の目的ではDNA PCRと同じくらいの感度がある。18 しかし、HIV培養はDNA PCRより複雑で、高価であり、最終結果には2-4週間がかかる。 初めの検査は生後48時間が推奨される。この時期に感染乳児の40%が診断されるからである。 48時間のウイルス学検査で陽性となった乳児は早期の感染(例えば子宮内)が考慮される。 生下時検査が陰性でも生後14日では検査が行われるべきである。これは検査の感度が生後2週間まで急速に上昇するからであり、早期の診断が抗レトロウイルス療法の変更を可能にするからである。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:診断上の問題 HIVの診断は2回の別の日の血液でHIVが2回陽性になった場合になされる。 HIVの除外診断は月齢一ヶ月以上の2回以上のウイルス検査で陰性の場合になされるが、そのうち1回は月齢4ヶ月以上であることが大切である。 初めのウイルス学的検査で陰性でも1-2ヵ月後に再検査されるべきである。 HIVに暴露された児で生下時、1-2ヶ月のウイルス検査で陰性の場合は3-6ヶ月で再検すること。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:自然経過 発育不全や中枢神経疾患はARV(抗HIV薬)を必要とする。 CD4+ リンパ球数は健康児では成人より多い。 正常の CD4+ 数は6歳までに成人レベルにゆっくり減少する。 CD4+ の割合のほうがHIV疾患の進行度としてよい指標になる。 ARVの適応のために年齢に応じた適切なCD4+ 数を指標にすること 小児でのHIV関連の神経疾患はHIV関連進行性脳症 (PE: HIV-associated progressive encephalopathy ) として知られ、全身性のHIV感染の中枢神経系への直接的、非直接的な影響の結果として知られており、成人で見られるAIDS痴呆と類似している(Working Group, 1998, Pediatics, p.1049)。PEは乳児や小児では時に急速に進行する。ARV療法は神経合併症に対して、期待がもたれてきた。神経合併症は小児のQOLに関して強い影響力を持ち、ARVの効果の重要なマーカーとして注目されてきた CD4+ Tリンパ球数と比率はHIVに感染していない健常児では感染していない成人と比べてかなり高めであり、6歳までにゆっくりと成人レベルに減少する。 CD4+ 細胞の絶対数はその年齢における免疫抑制の特異的な段階を示すものであるが、CD4+ 比率はそれぞれの免疫カテゴリーを示すものではない。 CD4+ の比率は小児の疾患の進行度を示すマーカーとして絶対数よりも有用かもしれない。 小児においても成人においてもHIV感染の進行に伴ってCD4+ 絶対数は減少し、その数の少ない患者は、多い患者にくらべて、予後も悪い。 (訳注:ARV: Anti-Retroviral・・・・抗HIV薬) François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:HIV RNAのパターン 定量的HIV RNA 法は末梢血におけるHIVウイルス量を決定することができる。 HIV RNA パターンは周産期感染の乳児では違っている 非常に高いレベル (10,000 copies以上) が小児期の長い間持続する。 ゆるやかに減少する。 高いレベルのHIV RNA が病期の進行や死と関連している可能性がある。 12ヶ月未満の乳児ではHIV RNA レベルが非常に高い場合 ( >299,000 copies/mL) は病期の進行や死亡と関連している。 しかし、いくつかの研究では、進行群と非進行群の間のRNAレベルは重複していることが示されている。 病期の進行や死亡と関連したHIV RNAのレベルは個々の小児では中等度である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児の注意点:HIV RNA検査法 同じ検体を2種類の方法で測定すると、HIV RNA のコピー数は2倍 (0.3 log10) の差が出ることがある 。 同じ患者には1種類のHIV RNA 検査法を使用すること。 RNAコピー数の本来の生物学的可変性からすると、 2歳以下の乳児では5倍 (0.7 log10) 以上の変化のみが有意である。 2歳をこえる小児では3倍 (0.5 log10) 以上の変化が有意である。 一人の患者におけるHIV RNAのウイルス学的ばらつきはよく報告されている。 このばらつきはHIV感染の乳児や年少児でより大きい傾向がある。 臨床的な管理のためにこのばらつきの影響をおさえるためには、ベースラインのための二つのサンプルとその後の比較のための二つの値の平均が有用である。 治療の変更は2回目の測定の結果なしにはなされるべきではない。 臨床的な結論を出すときのHIV RNAの解釈に関しては、小児HIV感染症の専門家に相談すること。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
ウイルス活性の検査: Viral Burden あるいは“Viral Load”・・・・ウイルス量 HIV RNA 検査 血漿中のHIV RNA (遺伝子) の量を測定 HIVの複製の強さを示唆 “copy 数” あるいは copies/ml と表示 全身の総ウイルス量の2% のみ測定 利用できる RNA テスト: *同じ検査法を行うことが重要 RT-PCR (Amplicor, Roche) bDNA (Chiron) NASBA (Organon Teknika) 臨床的にHIV RNAを使用するには特別な考慮が必要である。43さらにそれはReport of the NIH Panel to Define Principles of Therapy of HIV Infection.5 にてよく議論されている。いくつかの違った方法でHIV RNAの定量が可能で、それぞれが違った感度を持っている。それぞれの結果は相関しているが、HIV RNAの絶対数は同一検体で二つの検査法では2倍(0.3log10)かそれ以上の差が出る可能性がある。 例えば、血漿中RNA を定量的PCR法 (Amplicor HIV-1 Monitor™,ロシュ社) による絶対数はシグナル増幅による、branched-chain DNA 法 (Quantiplex®, カイロン社)6, 44, 45 と比較して、約2倍違う( 0.3log10 )。 同様にnucleic acid sequence-based amplification 法 (NASBA®, オルガノン・テクニカ社) によるRNA数はQuantiplex® assay にて得られる結果と2倍違うが、 Amplicor HIV-1 Monitor™ assay.44, 45, 46 とではほぼ同じである。 そのため、同じ患者ではモニタリングのためには1種類のHIV RNA測定法が使用されるべきである。 HIV RNA 法の選択は、とくに年少児では必要な血液量も影響する。NASBA® 法は少なくとも血漿で100μl、 Amplicor HIV-1 Monitor™ は200μl, そしてQuantiplex® 法では1ml必要である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 訳注:日本にはアンプリコア法(RT-PCR)のみ認可されている
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ウイルス量の意義 病勢を示す一番の指標 抗レトロウイルス療法を開始、あるいは変更する時の指標 末梢血中のViral burden は定量的HIV RNA 法で決定される。 乳児でRNA 量が多いときは ( levels >100,000 copies/ml) 病期進行や死亡のハイリスクであり、とくにCD4+ Tリンパ球が15%未満 (Tables 5 and 6 in the Pediatrics Supplement)38 の時は注意が必要である。同様の所見が小児臨床治験PACTG 152の予備分析で報告されており、研究期間中の病期の進行や死亡はウイルス学的データのベースラインとよく相関していた。(Table 7)39 この研究では進行の相対危険率はHIV RNAのベースラインの値が1logあたりで54%減少することが示された。 高いRNAレベルが病期の進行と関連していることはデータが示しているが、個々の小児患者における病期の進行や死亡における特異的なHIV RNAのレベルを示すデータは限られている。38 1歳までのHIV RNA レベルの解釈は困難なことがある。これは、この時期はウイルス量が多く、急速進行群と非進行群ではオーバーラップしている部分が多いためである。35 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ウイルス量の結果の解釈 理解困難なもの HIV RNAの “傾向” が最も重要である。 サイズと減少の期間 “検出不能” はウイルスの消失を意味するものではなく、その検査法の感度では検出できないことを意味する。 変化は対数で “logs”(ログ)として示される 例:ウイルス量 10,000 copies/ml = 104 copies/ml = 4 ログ 2倍の変化は 0.3 ログである。 ウイルス量の評価は医師にとっても家族にとっても難しい。その大きさと減少の期間がもっとも需要である。 乳児や小児ではウイルス量は成人よりも多いことがよくあるため(特に数百万コピー)、ウイルスの抑制を得ることが困難である。 小児で明らかなウイルス量の減少において必要となる時間は成人の8-16週よりも長いことがある。 小児の50%では検出感度以下にはならず、再上昇する。 “検出感度以下の” ウイルス量はその検査法での検出限界以下を示す(ほとんどの検査法では50コピー未満である)。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 小児におけるウイルス量 生下時低値でもその後最初の1-2ヶ月で100,000 から数百万コピーまで上昇する。 数年かけて “セットポイント” までゆっくりと減少する。 12ヶ月未満の乳児でウイルス量の高い児 (>100,000) では、疾患の進行と死の可能性が高い。 乳児早期ではウイルス量はよい指標となりにくい。 急速進行型と緩徐進行型ではオーバーラップする。 CD4+ 数と百分率も同様に評価すること 一人の患者におけるHIV RNAの生物学的ばらつきはよく報告されている。臨床的に安定した感染した成人でのHIV RNAの反復した測定では、同じ日でもあるいは違う日でも3倍(0.5log10)ほどものばらつきがある。6, 42, 47 この生物学的ばらつきは感染した乳児や小児ではさらに広がる。周産期にHIV感染した小児ではRNAコピー数は治療がなくても生後数年間はゆっくりと減少する。多くの成人感染者に比べて高値が持続する。23, 36, 37, 38 この減少は生後最初の12-24ヶ月がもっとも急速で、平均で約0.6log10/年で、4-5歳くらいまでにゆっくりと減少する(平均0.3log10/年)。 周産期感染の乳児のHIV RNA のパターンは感染成人とは違っている。高いHIV RNA 数が長期間持続する35, 36。ある前方視的研究では、HIV RNA 数は生下時には一般的に低値で(すなわち<10,000 copies/ml)、2ヶ月までに増加する(ほとんどの乳児は>100,000 copies/mlで、まれに測定限界以上の1000万 copies/ml以上となる)。それからゆっくりと減少する;最初の1年間の平均のHIV RNA 量は185,000 copies/mlであった。23 さらに成人のパターンと比べると、生後初めの1年間はHIV RNA コピー数がゆっくりと減少し、その後数年間におよぶ。23, 37, 38, 39 このパターンは未熟で発達途上の免疫システムを反映している可能性があり、ウイルスの増殖力が強く、HIV感受性のある細胞が多いことを示しているのかもしれない。 最近のデータによると、HIV RNA ウイルス量が多い12ヶ月未満の乳児では (すなわち >299,000 copies/ml) 疾患の進行と死亡と強く関係していることが示されている;しかし、乳児のRNA量は急速進行型と緩徐進行型でかなりオーバーラップしている。23, 36 乳児での高いRNA 量 (すなわち levels >100,000 copies/ml) もまた疾患進行の危険因子と死亡と関連している。とくにCD4+ Tリンパ球 <15%(表 5 and 6)。38 の場合は注意が必要である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ウイルス量と小児: 臨床的注意点 HIV RNA 数の生物学的なばらつきがよく報告されている。 RNA コピー数は以下の時のみ有意である: 2歳未満の乳児では5倍以上 (0.7 log) の変化 2歳以上の小児では3倍以上 (0.5 log) の変化 ウイルス本来の生物学的ばらつきが小児のRNAコピー数の変化の解釈には考慮されなければならない。すなわち、2歳未満の乳児では5倍以上 (0.7 log) の変化で、2歳以上の小児では3倍以上 (0.5 log) の変化のときのみ有意と考える。 検査法によるばらつきを減らすためには、その後の検査結果との比較として基礎値を2回測定し、平均をとる。 一人の患者におけるHIV RNA 量の生物学的なばらつきはよく報告されている。 この生物学的ばらつきは乳児や幼少児でより大きい傾向がある。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ウイルス量と小児: 臨床的注意点 ベースラインとして児が臨床的に安定しており、他の疾患や予防接種のない時で2回のウイルス量測定を行うこと。 治療変更前に2回目の検査を行ってウイルス量を確認すること。 臨床的な決定を行う前に、ウイルス量の解釈に関して、小児HIVの専門家に相談すること。 2回目の測定によってウイルス量の変化を確認せずに治療の変更をするべきではない。 HIV RNA検査は複雑で、小児のHIV RNAは年齢によって変化するため、臨床的な決定を行うためのHIV RNA量の解釈は小児HIV感染症の専門家に相談すること。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児での抗レトロウイルス療法(ARV) 開始にあたっての一般的な注意事項 治療開始決定における医療者と子供の参加が重要である。 可能性のある問題が確認され、解決されるべきである。 経過観察が不可欠である。 ARV は未治療の小児でもっとも効果的の可能性がある。 アドヒアランスの欠如は薬物耐性獲得とウイルス学的失敗につながる。 治療のアドヒアランスに関して、とくにいつ、どのように治療をはじめるかが重要である。 抗レトロウイルス療法は未治療の患者でもっとも効果があり、耐性ウイルスの感染者では効果が弱い。 アドヒアランスの欠如と治療域以下の抗レトロウイルス薬、とくにプロテアーゼ阻害剤は薬剤耐性を増強し、ウイルス学的失敗につながる。 (Reddington, Watson) 医師と子供の両方が知立尾決定に関与することが重要で、その効果に対するはっきりとしたデータはない。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス療法: いつ始めるか 抗レトロウイルス療法は以下のHIV感染のあるすべての小児に勧められる。: HIV感染症の臨床的徴候 (臨床カテゴリー A, B, or C) あるいは 免疫抑制のエビデンス (免疫カテゴリー 2 or 3) 抗レトロウイルス療法は以下のHIV感染のあるすべての小児に勧められる。: 症候性HIV感染者(すなわち臨床カテゴリー A, B, あるいはC)(表3)あるいは 免疫抑制のエビデンス(すなわち免疫カテゴリー 2 あるいは 3)(表2) 年齢やウイルス量にかかわらず、全例で。 成人と小児の両方の治験データによると、症候性患者における抗レトロウイルス治療は臨床的、免疫学的進行を遅らせ、死亡を減らすことができる。 治療歴のある小児での臨床治験では、ウイルス学的、免疫学的に、プロテアーゼ阻害剤を含む併用治療のほうが、2種類のヌクレオシド系薬剤の組み合わせよりも優れている (56-update Nachman)。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
1994 改訂のCDC小児HIV分類 年齢別の CD4+ 免疫カテゴリー François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
1994 改訂の CDC 小児HIV分類 臨床的カテゴリー カテゴリー E: 周産期の暴露 カテゴリー N: 無症状 症状や所見のない児 あるいは カテゴリーAの中のひとつがあてはまるもの カテゴリー A: 軽度症候性 以下の2つかそれ以上: リンパ節腫脹、肝腫大、脾腫大、皮膚炎、耳下腺炎、反復性/持続性の上気道炎/副鼻腔炎/中耳炎 カテゴリー B: 中等度症候性 HIV 関連症状はあるが、カテゴリーA/Cには見られない症状 カテゴリー C: 重度症候性 AIDS 指標疾患 (LIPは除外する、それはカテゴリー Bに含む) François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ARV の HIV 複製を阻害する機構 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児の抗レトロウイルス療法: いつ開始するか 12ヶ月未満のHIV 感染児については臨床的、免疫状態、ウイルス量にかかわらず開始 治療の利点を立証した臨床的治験データはない。 3-6ヶ月以下の乳児における薬物動態学的データは限られている。 専門家の意見に基づいた推奨 治療に先立ってアドヒアランスの問題が検討されるべきである。 理想的には12ヶ月未満の感染乳児では診断が確定次第抗レトロウイルス治療を開始するべきである。それは臨床病期や免疫状態やウイルス量にかかわりなくである。 12ヶ月未満の感染乳児では病勢が強いと考えられ、免疫学的ウイルス学的パラメーターの価値は年長児よりも少ない。 生後最初の数週間の感染の同定により、医師は抗レトロウイルス治療を開始することができ、初感染の最初の時期の周産期感染の予防として使用される抗レトロウイルス治療を強化して継続することができる。 しかし、この観点からの確定的な治療に関する臨床データは現在のところ有用なものがない。 3-6ヶ月の乳児における薬剤の情報は限られている。肝腎機能が未熟で、持続する薬剤の量も変わってくる。例えば臨床治験データによると、nelfinavirとritonavirは治療域に到達させるために増量が必要となる。 薬剤濃度が治療域以下だと、急速に薬剤耐性が生じるため、治療開始前にアドヒアランスの問題が十分に評価、議論されるべきである。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児の抗レトロウイルス療法: 無症候性の小児 > 1 才 オプション 1: 年齢や症状にかかわらず治療開始 オプション 2: 臨床的な進行度が低く、他の因子も良好と考えれられる場合 (反応の持続、アドヒアランスなど)は治療を延期する。 治療開始を考慮する因子 CD4 数あるいは割合 (カテゴリー2に近づく時) ウイルス量が高いか上昇していく時 臨床症状が悪化していく時 無症候性の乳児や免疫機能の正常な年長児では治療開始に関してはあまり明確になっていない。第Ⅲ相の臨床治験のデータによるとこのグループでのデータは利用できない。ウイルス複製のコントロールは周産期感染の乳児ではとくに難しい。 すべてのHIV感染児における最初のアプローチは年齢や症状にかかわらず治療を開始するというものである。この最初のアプローチでは、a) 可能な限り早急な感染児の治療と、b) 免疫機能が悪化する前の治療介入とを強化することができる。前向きの集団研究によると、ほとんどの感染乳児は1歳までに発症する(59, 60) そして1歳をこえて無症状のほとんどの感染児はCD4+ Tリンパ球が25%未満である(60)。このウイルス複製早期の積極的な抗レトロウイルス療法の開始は、理論的には免疫機能を保持できるはずであり、ウイルスの播種を減じ、ウイルス量を低く安定させ、臨床予後を改善させることができる。 2歳未満のARV未使用の小児における3-4剤の早期ARVの臨床治験のデータによると、早期の治療開始は、一部の患者では長期のウイルス増幅の抑制と免疫機能の保持をもたらすかもしれない結果であった 。(Luzuriaga, Chadwick) しかし、現在の治療でHIV RNAを検出限界以下にできる小児の割合は、より年長の小児や成人に比べて少ない可能性がある。これはウイルス学的反応が治療開始時のウイルス量に関連していることも原因のひとつとされる。 (56-update Nachman, Powderly) そして乳児では大体においてウイルス量が多い。(20) 他のアプローチでは1歳以上で、正常の免疫機能があり、疾患の進行度が低い場合(例えば、ウイルス量が少ない時)、他の要素(例えば、アドヒアランスや安全性や抗レトロウイルス剤の反応の維持)で治療の延期が望ましい時はそうしたほうがよいという。 医療者はウイルス学的、免疫学的、臨床的状態を定期的にモニターするべきである。治療開始の時期決定に関する考慮点としては、a)高い、あるいは増加しているHIV RNA量、b)CD4+Tリンパ球数あるいは割合の変化が中等度免疫抑制の状態を示している場合(すなわち免疫カテゴリーの2 [Table 1])あるいはc) や臨床症状が悪化している場合。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児の抗レトロウイルス療法: いつ開始するか 小児の抗レトロウイルス療法: いつ開始するか 以下の場合全ての小児で: HIV関連の症状のある時(臨床カテゴリーのA, B, C) 免疫抑制の所見がある場合 (CD4+ 数や割合; 免疫カテゴリーの2, 3) 抗レトロウイルス療法は以下の全てのHIV感染児で推奨される。 HIV感染症の臨床徴候がある ( 臨床カテゴリー A, B, あるいは C) (Table 2) あるいは 免疫抑制のエビデンス (すなわち 免疫カテゴリー 2 あるいは 3) (Table 1) --- 年齢やウイルス量にかかわらず 成人と小児の両方の治験データおくらせで、症候性の患者における抗レトロウイルス治療は臨床的にも免疫学的にも進行をおくらせ、死亡を減らすことができる (54-update McKinney, 55, 58)。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児の抗レトロウイルス剤: 核酸系逆転写酵素阻害剤 NRTI’s zidovudine [ZDV] or Retrovir® lamivudine [3TC] or Epivir® zidovudine plus lamivudine [ZDV+3TC] or Combivir™ didanosine [ddI] or Videx® stavudine [d4T] or Zerit® zalcitabine [ddC] or Hivid® abacavir [abc] or Ziagen™ François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児の抗レトロウイルス剤: 非核酸系逆転写酵素阻害剤: NNRTI’s nevirapine [NVP] or Viramune® delavirdine [DLV] or Rescriptor® efavirenz [DMP] or Sustiva™(訳注:日本では「ストックリン」) François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ *日本では市販されていない散剤・液剤はHIV治療薬研究班を通じて入手できるものもある。
小児における抗レトロウイルス療法:Protease 阻害剤 saquinavir [SQV] or Invirase™ hard capsules and Fortovase™ soft gel capsules indinavir [IDV] or Crixivan® ritonavir [RTV] or Norvir® nelfinavir [NFV] or Viracept® amprenavir [APV]or Agenerase™ **3才未満では推奨されない François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ *日本では市販されていない散剤・液剤はHIV治療薬研究班を通じて入手できるものもある。
小児における抗レトロウイルス療法: 開始治療内容の推奨 専門委員会は抗レトロウイルス剤や薬剤の組み合わせに関して4つのカテゴリーを推奨している。: 強く推奨 代替療法として推奨 特別な状況でのみ 勧められない それぞれの抗レトロウイルス剤やその組合わせはWorking Group によって参照され、エビデンスに基づいて、4つのカテゴリーから1つに割り当てられる。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス療法: 開始治療の推奨レベル 強く推奨: 有用性に関して臨床的なエビデンスがあり、あるいは成人、小児においてHIV複製の抑制を維持できるもの。 成人と小児の利用できる臨床治験データによると、このカテゴリーの薬剤の組み合わせは臨床的に効果が示され、HIVの複製を抑制できるというエビデンスがある。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の選択 強く推奨 1種類の強力なプロテアーゼ阻害剤 (NFVあるいはRTV) と 2種類の NRTI’s 推奨される2つのNRTI’s :小児への投薬国に関して多くのデータがあるもの ZDV + ddI ZDV + 3TC d4t + ddI データは限られているが: d4T + 3TC ZDV + ddC カプセルを内服できる小児:NNRTI (EFV) +2 NRTI’s あるいは EFV + NFV + 1 NRTI ddC は液剤が市販されておらず、特別の使用の時にのみ製造者を通して利用できる (Hoffman-LaRoche Inc. (www.rocheusa.com), Nutley, New Jersey)。ZDV と ddC はプロテアーゼ阻害剤との組み合わせではあまり勧められない。 Efavirenz は現在のところカプセルのみであるが、液剤は製造者のexpanded access program を通して入手できる (Dupont Pharmaceutical Company (www.dupontpharma.com), Wilmington, Delaware)。3才以下の小児における適切な投与量のデータはない。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス療法: 開始治療の推奨レベル 代替療法としての推奨: HIV複製を抑制する臨床的なエビデンスはあるが、 1) 持続性の点で強く推奨されるレベルの組み合わせよりも成人、小児において劣る可能性があるもの; あるいは 2) 有効性のエビデンスが有害事象 (例:毒性、相互反応、経費など) の可能性に勝らない可能性 3) 乳児や小児での使用経験が限られているもの 成人と小児の利用できる臨床治験データによると、このカテゴリーの薬剤の組み合わせはHIVの複製を抑制できるというエビデンスがある。しかし: ウイルス抑制の持続性は成人でも小児でも強く推奨されているレジメよりもウイルスの抑制が劣り;あるいは 抑制の持続がまだ定義されておらず;あるいは 有効性のエビデンスが有害事象の可能性にまさらないかもしれない (例えば 毒性、薬剤相互作用、コストなど)。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の選択 代替療法の推奨: NVP + 2種類の NRTI’s. ABC + ZDV + 3TC. LPV/r + 2 NRTIs あるいは 1 NRTI +NNRTI* IDV あるいは SQV-SGC +2 NRTIs これはカプセルが内服できる児の場合 *データは米国食品医薬品局に対して薬剤承認の過程で示された重要なもので、 lopinavir/ritonavir (Kaletra®) を小児に24週間投与された場合の薬物動態学データと安全性を示したものである。lopinavir/ritonavir と2種類のNRTIs あるいは1種類のNRTI と1種類NNRTIの組み合わせは米国の使用経験によっては強く推奨される治療となるかもしれない。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス療法: 開始治療の推奨レベル 特別な状況でのみ: 臨床的なエビデンスとして 1) 強く推奨される群と比較してウイルスの抑制は持続が短い 2) データは最初の治療としては予備的であるか結論が出てい ないが、特別な状況では理論的に勧められる。 成人あるいは小児での利用できる臨床治験から得られるエビデンスとして、このカテゴリーの組み合わせの特徴は: 有益性が限られている;あるいは 2) データに結論性がない、 しかし、これらの組み合わせは特別な状況では理論的には推奨できる、例えば家族が3種類の薬剤の開始を望まない場合。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス療法: 開始治療の推奨レベル 特別な状況でのみ: 2種類の NRTI’s APV +2 NRTI’s あるいは ABC François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス療法: 開始治療の推奨レベル 推奨されない: 使用されないエビデンス 1) 毒性の相乗 および / あるいは 2) ウイルス学的に好ましくない 成人あるいは小児での利用できる臨床治験から得られるエビデンスとして、このカテゴリーの薬剤は推奨されない。なぜなら: 1) 毒性が重複する;あるいは 2) 期待されるウイルス学的効果が得られない François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の選択 推奨されない: 全ての単剤治療1 d4T + ZDV ddC + ddI ddC + d4T ddC + 3TC 単剤(ふつうは ZDV か ddI)で維持療法を行っている限られた小児のデータでは、ガイドラインの作成前からウイルス量が少なく(<100) CD4 数(CDC Class 1) も正常であった。これらの単剤治療のレジメの変更は症例次第である。そのような状況では単剤治療は継続されるのが適切かもしれない。 1 HIVの周産期感染予防のための6週間の予防療法のおけるZDVは例外である。;もし乳児にZDV予防にかかわらずHIV感染が成立してしまったら、多剤併用療法に変更するべきである。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の変更 臨床的、免疫学的、ウイルス学的パラメータに基づいた失敗 現在の治療の毒性あるいは忍容性 他の治療法の方が現在の治療法よりも優れていることが新しいデータで示された時 抗レトロウイルス療法の変更には正当な3つの理由がある:a) ウイルス学的、免疫学的、臨床的パラメータに基づいた、悪化のエビデンスのもとに、現在の治療法が失敗である時 b) 現在の治療法ではその毒性や治療に耐えられない時 c) 新しい薬剤や治療法が現在の治療法に勝る時 の3つである。 治療が失敗するか、反応が悪い時には医師は家族とともに、現在の治療法に対するアドヒアランスの問題がないかどうかを評価しなければならない。新しい治療開始の際に成功の見込みを立てるために、アドヒアランスの問題が議論されなければならない。これらの問題は治療前にも治療中にももっとも検討されなければならない。 集中的な家族の教育、処方薬剤の内服のトレーニング、そしてアドヒアランスの重要性の議論などが新しい治療開始前に完全にされていなければならない。さらに、頻回の受診、新しい治療開始後の最初の数ヶ月は集中的な経過観察が必要で、それらは新しい治療に対する家族における教育やサポートであり、アドヒアランスや忍容性やウイルス学的反応のモニターのために必要である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の変更 注意点: 臨床的失敗 進行性の精神発達遅滞 適切な栄養があるにもかかわらず、他で説明できない発育不全 病期の進行 (他の臨床カテゴリーへの進行) 抗レトロウイルス療法中の臨床的な事項は、乳児や小児においてはHIV疾患の進行や予後不良を示すことがある。 進行性の神経発達悪化(すなわち、複数回の検査で示される通常2種類かそれ以上の所見:脳発達の障害、精神運動検査によって示される認知機能の障害、あるいは臨床的な運動機能障害)(表12)。そのようなケースでは少なくとも一種類の中枢神経系への移行が良好な抗レトロウイルス剤を含む新しい治療法へ変更するのが望ましい(例えば、 ZDV やNVP は CSF/plasma 比が>0.2である) 発育不良(すなわち、適切な栄養があるにもかかわらず、また他の原因なしに持続的に体重増加が低下している)。 疾患の進行(すなわち、小児臨床カテゴリーの進行[Table 2])。臨床カテゴリーが進行した場合、予後はより不良となる。しかし、免疫学的およびウイルス学的パラメータが安定している患者では治療変更の適応にはならないかもしれない(例えば臨床カテゴリーAからBなど)。例えば新しい日和見感染症の進行、とくに治療開始時に高度の免疫抑制状態にあった患者では、抗レトロウイルス療法の失敗というよりはむしろ、適切な治療反応にもかかわらず、免疫状態の崩壊が持続しているのかもしれない。つまり、その患者の疾患の進行が神経発達悪化や成長障害やウイルス学的、免疫学的パラメータと関連していない場合は治療を変更するかどうか考慮すべきである。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の変更 注意点: 免疫学的事項 免疫学的分類の変化 5%かそれ以上の減少が持続する (小児では CD4 <15%) 急速に進行するCD4数減少 CD4+ Tリンパ球の数と割合はHIV感染児における疾患の進行と死亡における独立した指標である。 CD4+リンパ球の減少があるために、抗レトロウイルス治療変更を考慮する時は、最初の検査から少なくとも1週間はあけて、最低1回は再検査するべきである。 以下はHIV感染小児で抗レトロウイルス療法を変更する際の根拠である。 免疫分類の変化。しかし、免疫カテゴリーの変わるようなCD4+リンパ球の割合のわずかな変化(例えば26%から24%)は同じ免疫カテゴリー内での急速で大きな変化(例えば35%から25%)ほどは問題にならないかもしれない。 CD4+ 割合が15% 未満(すなわち免疫カテゴリー3)、CD4+割合の5%かそれ以上の持続的減少(例えば15%から10% ,10%から5% ) CD4+Tリンパ球の絶対数の急速で大きな減少(例えば6ヶ月以内で30%以上の減少) François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の変更 注意点: ウイルス学的 8-12週後の最小限の反応よりも効果が弱い場合 3剤併用の場合 = ベースラインからの減少が10倍 (1.0 log)以下 やや効果の劣るレジュメの場合 = ベースラインからの減少が5倍 (0.7 log) 以下 最初に検出限界以下になったHIV RNAが反復して検出される場合 著明な減少が維持されていたHIV RNAが持続して増加する場合 乳児や年少児における抗レトロウイルス療法に対するHIVRNAの評価に関する情報は限られている。しかし、抗レトロウイルス療法の使用についての一般的なウイルス学的な原則は全てのHIV感染者に関して類似している。理想的には抗レトロウイルス療法は、現在の検査法での検出限界以下に最大限にウイルスを抑制すべきであるが、小児ではつねにそれが達成できるとは限らない。 ウイルス学的反応はまず治療開始後4週間後に評価されるべきである。しかし、最大限のウイルス学的効果を得るために必要とされる期間は治療開始時のHIVRNAの基礎値に依存するかもしれない。もしHIVRNAの基礎値が高ければ(すなわち、1,000,000 copies/ml より多い場合)、ウイルス学的効果は治療開始後8-12週間後まで得られないかもしれない。しかし、もしHIVRNAの基礎値が、無治療の成人患者での値に似ているようであれば(すなわち、100,000 copies/ml 未満)、最初の効果は治療開始後4週間で得られるべきである。 最大限のウイルス学的効果が得られたら、HIVRNAは少なくとも3ヶ月毎に測定すること。治療変更に際しては、少なくとも2回の測定(少なくとも1週間は空けて)を行ってから考慮すること。 上記の4つの状況がある場合、感染小児で治療変更の必要性を考慮する。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 抗レトロウイルス療法の変更 注意点: 抗レトロウイルス療法の変更が薬剤の毒性あるいは忍容性の低下のために必要な場合 毒性に関しては違う薬剤の選択 1種類の薬剤の変更が可能 もし投与量を減ずる必要があるときは、治療域よりは低下しないようにすること 治療が薬剤の毒性や忍容性の低下で変更されなければならない時、可能であれば、違う毒性や副反応の側面をもつ薬剤を選択すべきである。 医療従事者は新しい治療法開始の前に個々の薬剤の毒性に関して広範囲の知識を得ておくべきである。 忍容性の低下に関しては、多剤併用の治療法の中で1剤の変更を考える。また、ある状況では、投薬量の減量もオプションのひとつである。しかし、抗レトロウイルス剤は効果の知れらている範囲内での減量にのみとどめるべきで、抗レトロウイルス活性はHIVRNAのモニタリングによって判断するべきである。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 新しいARV組み合わせの選択: 注意点 病期の進行のためにARVの変更が必要な時: アドヒアランスの評価と確認 1種類のみの変更はしてはならない;少なくとも2種類の新しい薬剤の含まれた組み合わせに変更 薬剤相互作用と耐性の関連に注意すること 薬剤相互作用に関する患者の治療を再確認すること 病期の進行した患者ではQOLを考慮すること 抗レトロウイルス療法変更の原則: 治療失敗で治療法を変更する時、アドヒアランスが失敗の可能性としてあるのではないか評価すべきである。 もし、アドヒアランスが良好であれば、薬剤耐性の出現が疑われ、可能であれば少なくとも2種類の新しい抗レトロウイルス剤に変更する。1つの薬剤の変更あるいは1つの薬剤の追加が次善の策である。可能であれば新しい治療法は少なくとも3つの薬剤を含むべきである。抗レトロウイルス剤の相互の交差耐性が新しい薬剤選択に際して考慮されなければならない。 新しい治療法への変更を考慮する時、他に使用中の全ての薬剤に関して、その相互作用について再検討されるべきである。 新しい治療法への変更で、とくにプロテアーゼ阻害剤を含む場合は、子供の保護者と医療従事者の間で、アドヒアランスに関して議論が必要である。医療従事者は、内服に際して食事や他の抗レトロウイルス剤や他の薬剤とともに内服できるかどうかという点で、しばしば内服が困難になったり。間違われたりすることのあることをよく理解するべきである。 病期が進行した患者での治療変更に際しては、患者のQOLが考慮されなければならない。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児における抗レトロウイルス治療: 他の問題点 状態不良が持続した長期生存者: すべてに医療を 限られた選択: すべてをやり終えた時にどうなるのか? それらの治療が効果がなかったら何をすればよいのか? 治療のアドヒアランス: 問題となるのは誰か? Quality of life HIV疾患を長期間患っている小児の場合、多臓器が侵されており、未知の反応をおこすかもしれないような多種類の薬剤をあえて使用しなければならないことがある。 小児における多剤併用療法の選択は、小児での治療の臨床データや治療準備が限定されているため、成人より限られている。小児では治療失敗の時のオプションは限られている。 治療のアドヒアランスには子供と家族と医療従事者すべてが含まれる。医療従事者は治療開始前にその家族の必要とするところや将来性を適切に評価できているであろうか? 子供の病状が悪化し、余命いくばくもなくなった時に、抗レトロウイルス剤の必要性は、その児や家族のQOLに影響を与えるようなものであればバランスを考えなければならない。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児科における特別な注意点: 小児におけるアドヒアランス 薬剤は乳幼児にとっては、液体や混合可能な剤形で、味がよくなければならない。 食事と関連した薬剤の内服は小児の食事スケジュールでは困難である。 小児の内服は医療者の指導にかかっている。 家族の安心のためにHIV診断を隠すことは、昼間や学校での治療に制限を与える可能性がある。 小児の発達段階が服薬の能力や意志に影響する。 包括的なアドヒアランスの問題の評価が、抗レトロウイルス療法を予定されている小児全てで実施されなければならない。 評価は看護、社会的背景、行動的側面などを含む。 治療開始後のとくに最初の数ヶ月はとくに集中的なfollow-upが必要である。 協調性のある、包括的な、家族中心の治療体制が検討されうるが、複雑な治療法に対するアドヒアランスに影響を与えるような、家族が直面している多くの問題を検討しなければならない。 子供は時に暦年齢よりは発達的に幼く、内服をいやがることがあり、適切な発達の状態を反映するかもしれない。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児科における特別な注意点: 思春期におけるアドヒアランスの問題 医学的、精神学的、社会的必要性が検討されなければならない。 治療計画は服薬のアドヒアランスを円滑にするような現実的な支援システムの評価を持った薬剤を最大限使用することを目標にしなければならない。 HIV感染をもった若年者に対しては、あまり医療システム上経験がなく、医療面と精神社会面の両方のケアを提供できるような包括的なシステムが必要である。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児科における特別な注意点: 思春期におけるアドヒアランスの問題 発達の問題 思考過程の固定 現在の行動と将来の構想の把握の困難さ 無症状の時の服薬の困難さ 他の仲間のようになることへの願望 発達上の問題は若年者に特有の問題である。若年者の疾患へのアプローチは特に成人とは違っている。 若年者が無症状で、とくに薬剤の副反応が強ければ、内服はかなり困難となる。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児科における特別な注意点: 思春期におけるアドヒアランスの問題 特別な問題 構造的でない生活スタイル ホームレス 家族や社会的支援の欠如 保険制度の欠如 若年者の治療へのアドヒアランスは、その構造的でない無秩序な生活スタイルのために複雑になっている。それらはホームレスや適切な栄養や衛生の欠如、家族や社会的サポートの欠如などである。 若年者はしばしば保険制度のサポートも欠如している。 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
小児科における特別な注意点: 思春期におけるアドヒアランスの問題 医療評価の問題 HIV感染に対する恐れと否定 誤った情報 病院に対する不信感 治療薬の効果に対する不信用と恐れ たくさんの HIV 感染若年者が次のような点で治療のアドヒアランスにおいて課題にぶつかっている。a) HIV感染に対する恐れと否定; b) 誤った情報;c) 病院に対する不信感;d) 治療薬の効果に対する不信用と恐れ;e) 低い自己尊重 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
ケーススタディ 1: 抗レトロウイルス治療を受けるべきなのは誰か? 治療のオプションは? ケーススタディ 1: 抗レトロウイルス治療を受けるべきなのは誰か? 治療のオプションは? Jamal は5歳の男児で、最近HIV感染症と診断された。彼の母は妊娠中にスクリーニング検査を受け、HIV感染が判明していた。Jamal は比較的健康に育っていたが、8ヶ月時に気管支炎で1回入院歴があり、中耳炎を反復していた。臨床的評価では、彼は健康で、身長と体重は50パーセンタイルで、HIV-RNA は 100,000 コピーで、CD4 数は900、軽度の肝腫大と腋窩リンパ節の腫大が見られた。 彼の両親はARVの開始を希望したが、服薬について心配があった。彼は昼間は両親が仕事の間、8時から17時30分までデイケアを受けている。 彼の治療は開始されるべきか? 抗レトロウイルス剤の選択に関しては? 選択に関して考慮されるべきことは? François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
ケーススタディ 2: 抗レトロウイルス療法の変更 ケーススタディ 2: 抗レトロウイルス療法の変更 Diane は4歳の女児で、CDCの臨床分類ではカテゴリー2である。彼女は6ヶ月前に3TC, d4T そして nelfinavir で治療を開始している。開始時に700,000コピーであったウイルス量は2回の別々の測定で80,000コピーに低下していた。しかし、最近のウイルス量は 160,000コピーであった。 彼女の治療レジュメを変更するかどうか評価する時に考えなければならないことは何か? François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
ケーススタディ 3: 抗レトロウイルス剤のアドヒアランス ケーススタディ 3: 抗レトロウイルス剤のアドヒアランス Laura は16歳の女児で、「モデル患者」である。スケジュールどおりにきちんと服用できていた。彼女は2年近く3剤を内服している。AZT, 3TC, そして nelfinavir である。彼女のウイルス量が2ヶ月前から上昇し始めた。治療チームの多くの質問の結果、彼女は「時々」午後のPIの量を間違えたと言った。これは彼女の学校での午後の活動が忙しく、忘れてしまうためだと言った。彼女は調子はいいと思っているし、友人がまわりにいる時は服薬を嫌っている。 「ほとんどは飲んでいるのよ。それじゃいけないの?」 Lauraの内服に関して、医療者はどのようなアプローチが必要か? François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ ケーススタディ 4: 治療の成功、失敗の評価 2歳のMaria は発育不良のため8ヶ月前に3剤による治療を開始した。彼女のウイルス量は750,000 コピー以上で、CD4 は500であった。彼女は併用療法を開始後、臨床的には改善し適切な発育に戻った。CD4 数は1750に上昇した。しかし、彼女のウイルス量は 100,000 コピーには低下したが、それ以上は低下しなかった。彼女の両親は量を間違えることなく服用させている。 もし何かするとすれば、医療チームは何を考慮すべきか? François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 謝辞 This curriculum and slide set were developed by Carolyn K. Burr, EdD, RN for the National Pediatric & Family HIV Resource Center at the François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ under a Cooperative Agreement with the Health Resources and Services Administration (HRSA) HIV/AIDS Bureau, grant #1 U69 HA 00038-01. The publication contents are solely the responsibility of the authors and do not necessarily represent the official view of HRSA or HAB. Content and speaker notes were adapted from Antiretroviral Therapy and Medical Management of Pediatric HIV Infection,1998, Pediatrics, 102: Supplement, October, 1998. Special thanks to Dr. James Oleske and Dr. Gwen Scott, Co-Chairs of the Working Group, to Dr. Lynne Mofenson, NICHD and to Elaine Gross, RN, MSN and Lynn Czarniecki, RN, MS for their input. François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ
François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ 日本語版作成にあたって この資料は、アメリカのAETC(AIDS Education and Training Centers)のNational Resource Centerのサイトから入手しました。 http://www.aidsetc.org/ AETCはライアン・ホワイト法の事業の一つで、アメリカ全土を11ブロックに分け、HIV/AIDS患者へのケア提供者を教育・訓練することを目的に学際的な運営を行っています。関連施設は130箇所以上あります。AETCの事業はアメリカ保健福祉省の部局である、Health Resources and Services Administration (HRSA) HIV/AIDS Bureauが担当しています。 このサイトには、他にも多数のファイルがダウンロードを待っています。 2003/06/25 広島大学病院 エイズ医療対策室 西村 裕、高田 昇 François-Xavier Bagnoud Center, UMDNJ