格子QCDの理論的進展と フレーバー物理への応用

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格子QCDの理論的進展と フレーバー物理への応用 S.Hashimoto,T.O. hep-lat/0403024 大野木 哲也(京大基研) 東北大学集中講義 2月17日ー19日

内容 1.Overview 2.格子QCDの定式化: 連続極限、Reflection Positivity 3.ゲージ作用 4.格子フェルミオン:Wilson/Staggeredフェルミオン 5.数値計算の手法:相関関数、遷移行列、              演算子繰り込み、カイラル極限 6.フレーバー物理への応用:クォーク質量、電弱遷移行列 7.最近の進展   理論形式:Ginsparg-Wilson フェルミオン   理論的手法:非摂動繰り込み、ハドロン2体崩壊   アルゴリズム:奇数フレーバー、ドメイン分解法   新しい問題: 2体崩壊、  領域からの低エネルギー定数、            g-2、光円錐波動関数

1.Overview フレーバー物理 これらのパラメータは 2.ループの過程によるNew Physicsの寄与の発見 1.標準模型による基礎パラメータの決定    クォーク質量、Cabbibo-小林-益川行列(CKM行列)   これらのパラメータは     世代(湯川結合)構造の手がかり     大統一理論の検証(クォークとレプトンの関係) 2.ループの過程によるNew Physicsの寄与の発見    フレーバー混合中性カレント(FCNC):混合と希崩壊    CP対称性の破れ    標準模型(SM)による予言

なぜ格子QCDが必要か? ハドロン遷移行列におけるQCD補正の正確な評価 クォークは閉じ込められている。   クォークは閉じ込められている。    素過程は非摂動的QCD補正のため直接見えない。    SMの検証とNew Physics効果の発見のためには    QCD補正の定量的理解が不可欠。     1.対称性     2.摂動論的QCD(OPE)     3.格子QCD    これらは相補的であり単独で役に立つこともあるが、    組み合わせて役に立つこともある。  格子QCDは第一原理に基づく有力な手法のひとつ。

 格子場の理論とは 時空を離散化し、有限自由度にすることにより   場の理論の構成論的定義を与える 解析的手法(強結合展開など)や数値計算  により非摂動的計算が可能 利点:ダイナミクスを取り扱える  欠点:離散化により対称性を部分的に壊す

CKMの行列要素決定 確率 = 実験データとハドロンの遷移行列がともに必要。 CKMの行列要素決定 確率 = 実験データとハドロンの遷移行列がともに必要。 CKM行列の決定精度はまだよくない。 CKM行列のユニタリ性の検証:

ユニタリ三角形 Wolfenstein Parametrization j=1,k=3のとき: 複素ベクトル が三角形をなす。 複素ベクトル                が三角形をなす。 すべての辺が  について同じオーダー。 3世代が同等に寄与する。 角度が測りやすい。=CPの破れが測定しやすい。

Flavor Changing Neutral Process(FCNC) 混合と 希崩壊  標準模型はGIM機構で抑制されている。  ループ過程でNew Physics効果が効きうる。

          混合 クォーク質量が縮退のときCKM行列のユニタリ性からゼロ。(GIM機構) ユニタリ性              より          :QCD補正。

          混合           : QCD補正

CP対称性の破れ CPの破れのパターンに相関。 New Physicsでは、多様なCPの破れが可能。  標準模型では3世代でたった一つの位相から生じる。  CPの破れのパターンに相関。  New Physicsでは、多様なCPの破れが可能。         :         ユニタリ行列(Nは世代数) 自由度    のうち(2N-1)個はクォークの位相の自由度 物理的自由度は     。実回転自由度       を引くと が物理的なCP位相の数。 N=3ではCP位相のとき、CP位相の数は1。

フレーバー物理に関する実験の現状 K中間子ファクトリー実験 FixedTargetへの陽子衝突によりK中間子を 生成し崩壊や振動を観測する。  生成し崩壊や振動を観測する。 B中間子ファクトリー実験  電子陽電子対衝突により     共鳴状態を通じてB中間子対を生成し崩壊や振動を観測する。

中性K中間子とB中間子 K中間子について KTeV,NA48 Indirect CP violation Christenson,Cronin,Fitch,Turley (1964) Direct CP violation KTeV,NA48       これらをSMで矛盾なく説明できるか?

中性K中間子の時間発展 固有値 固有ベクトル ここで、                 

CP固有状態を                とおくと 時間発展の固有状態は        のとき時間発展固有状態にCPを破る効果がある。 特にK中間子のとき              とおくと                    

  の評価 ここで               で与えられる。 そのため以下のハドロン遷移行列が必要。 (CKM行列要素も必要)

正確には格子QCDで評価する以外にない。 正確には繰り込み群によるevolutionが必要 また繰り込み群不変な量    がよく用いられる この量は1/N展開では1であるが 正確には格子QCDで評価する以外にない。

   の評価        の演算子によるハドロン2体崩壊   の遷移行列が必要。これからの問題 Vacuum Saturation 近似では    c.f. exp.

B中間子のとき 質量差は  で与えられるので の計算が必要。        

実験 B中間子対 実験 B中間子対 将来: CLEO Belle Belle BABAR BABAR                      将来:              すでに遷移行列の誤差が支配的     理論的不定性がますます問題

 崩壊 分岐比 CKM行列 FCNC 0.484(15) >14.6

New Physics からの寄与 模型 観測量 Multi-Higgs SUSY without new CP SUSY with new CP Left-right symmetric model 典型的なずれは10%、パターンは模型により異なる。     5%以下の精度が要求される。

2.格子QCDの定式化 時空を離散化し、場をサイトやリンクに乗せる。 その上で、作用も離散化する。 微分 差分 共変微分 共変差分   その上で、作用も離散化する。   微分    差分   共変微分   共変差分 格子化により対称性が壊される危険性がある。

ローレンツ対称性について  格子化しても90度回転対称性は残っている。  ローレンツ不変性の破れは次元6以上。 ゲージ対称性について  非物理的自由度(縦波成分)が分離しなくなる  ため、格子上でもゲージ対称性は壊さない方が  よい。非可換群のカイラルゲージ理論は未定義。 カイラル対称性(後述)、超対称性は格子化により一般に破れる。

繰り込みと連続極限 格子理論の結合定数を 、格子単位での相関距離 を とすると、連続極限が定義できるためには、 格子理論の結合定数を  、格子単位での相関距離 を   とすると、連続極限が定義できるためには、 相関距離が格子単位で無限となる  が必要。 繰り込みと連続極限は与えられた結合定数に対し 物理的な長さである格子間隔を導入し物理的な 相関距離        を一定になるようにする。 すなわち  連続極限:    一定で      の極限をとる

QCDの場合は、臨界点がg=0: 従って                 より 実際にはQCDで格子単位で例えば以下のものが計算できる。 ストリング張力: 核子質量:   、  中間子質量:   中間子崩壊定数: 例えば、         をインプットに、結合定数 に 対して対応する格子間隔        をもとめる。それ以外の 量は格子間隔をゼロの極限の値を求めればすべて予言になる。 格子QCD計算が正しければ、真の値が予言できるはず。

遷移行列の計算 連続理論で   処方で繰り込まれた演算子を 含む遷移行列には、格子上の裸の演算子との マッチングを行う必要がある。              繰り込み   数値経路積分           (通常、摂動近似)

3.ゲージ作用 ゲージ不変性を主導原理とする。 コンパクトな変数 を用いる。 作用:ゲージ不変性、 で連続理論に帰着。 ゲージ変換性 コンパクトな変数              を用いる。 作用:ゲージ不変性、    で連続理論に帰着。 ゲージ変換性 ループはゲージ不変 1x1ループ:Plaquette

Naïve連続極限  Hausdorff公式 これよりゲージ不変な作用の例としてPlaquette作用が作れる。 しばしば、      と定義する。

量子補正も含んだ連続極限 摂動論による解析 物理量が一定となるように結合定数の格子間隔存性を決める。 例 クォークポテンシャル 例 クォークポテンシャル 摂動論による解析  その結果、結合定数は下の繰り込み群方程式の解をみたす。

摂動論的繰り込み群方程式の解 ほかの繰り込み処方との関係 A.Hasenfratz and P.Hasenfratz , Phys.Lett.93B(1990)165 H.Kawai, R,Nakayama, K.Seo, Nucl.Phys.B189(1981)40.

TxLのループCに対するWilson loop期待値 強結合展開による解析( 展開)   TxLのループCに対するWilson loop期待値 ここで  Haar 測度 従って  展開のleading はTLのループをPlaquetteで埋め尽くしたもの。                              面積則 Pure Yang-Mills理論の強結合極限では閉じ込めが成り立つ。

Monte Carloによる非摂動計算 M.Creutz Phys.Rev.D21(1980)2308  SU(2)ゲージ理論におけるストリング張力の計算  Wilson loopには長距離では面積則(Linear Potential)  と周辺則(質量補正)等々の寄与がある。  そこで、以下の比(Creutz Ratio)を考える。  強結合側で強結合展開  弱結合側で摂動論と一致。  閉じ込め相は連続極限を持つ。

3.格子上のフェルミオン Naïve fermion 自由フェルミオン として に軽いフェルミオン自由度が生じる。 自由フェルミオン                        として                  に軽いフェルミオン自由度が生じる。 Species doubling 問題         (15個の余分な自由度)

Wilson fermion(rに比例するWilson項を加えたもの) 自由フェルミオンのとき Naïveフェルミオンにおける           doublerに質量項が加わる。 利点:低エネルギーではSingle flavor フェルミオンに対応。     その単純さのため過去、現在、将来にわたって有用。 欠点:カイラル対称性を    で破るirrelevant項を持つ。     質量は加法的に繰り込まれ、ゼロにするには、fine-tuningが必要。     ゲージ場揺らぎでpropagatorは小さい質量領域で数値的に不安定。

Staggered fermion 行列を対角化する基底 をとる。 ここで、 すると、   行列を対角化する基底              をとる。   ここで、 すると、 となり、スピン自由度は対角化できる。そこで4成分のうち1成分だけとる。 代わりに時空の自由度をスピンと再解釈する。  利点:カイラル対称性SU(4)のうちU(1)部分を厳密に保つ     質量は乗法的に繰り込まれ、ゼロにするにfine-tuningが不要。     自由度が小さいので、数値計算コストがもっとも小さい。  欠点:低エネルギーではSingle flavor フェルミオンに対応しない。

Ginsparg-Wilson fermion Ginsparg-Wilson関係式 を満たすもの    解:                 ここでHは例えば    格子上のカイラル対称性を以下のように定義する。   G-W関係式より、               であるから   このフェルミオン作用は厳密にカイラル不変 利点:カイラル対称性を厳密に保つ     質量は乗法的に繰り込まれ、ゼロにするにfine-tuningが不要。     低エネルギーではSingle flavor フェルミオンに対応。 欠点:狭い意味で非局所的作用なので数値計算コストがとても大きい。

4.実際の数値計算の手法 崩壊定数 相関関数を定義 ここで はMonteCarloにより確率 で生成した ゲージ場の配位のサンプル での平均   相関関数を定義  ここで      はMonteCarloにより確率          で生成した  ゲージ場の配位のサンプル                   での平均  また、      は                  の解。  これを逆行列の解法を1回用いて解く。(計2回の逆行列計算)

一方、同じ相関関数でハドロン状態の完全系を挿入 すると、 大きなtでのexponential fitにより 崩壊定数と質量が同時に求められる。

より一般の遷移行列 準レプトニック形状因子 3点相関関数 ここで は畳み込まれた伝播関数。 これは方程式   3点相関関数 ここで                   は畳み込まれた伝播関数。 これは方程式                   の解を逆行列の解法でもとめればよい。 (上の3点相関関数は計3回の逆行列計算)