事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 III) - 規制産業と料金・価格制度 -

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事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 III) - 規制産業と料金・価格制度 - (第4回 – 事例(2) 電力需給と系統問題) 2011年 5月12日 戒能一成

0. 本講の目的 (手法面) - 典型的なネットワーク産業である電気事業の 地域別需給や送配電系統の問題を理解する → 空間経済学のエネルギー分野への応用例 の1つ (内容面) - 電力需給の基礎と最適電源構成モデル、国内 連系送電網の形成過程を理解する

電力需給の基礎 1-1. 電力と電力量 - 電 力 (kW) 瞬間的な電気エネルギーの大きさの指標 - 電力量 (kWh) 1-1. 電力と電力量 - 電 力 (kW)       瞬間的な電気エネルギーの大きさの指標 - 電力量 (kWh) 一定時間内の電気エネルギーの累積量 電力 (kW) 日最大電力(kW) 時間別電力需要 「電力負荷曲線」 (kW) 電力量(kWh) (= 面積) 時間 (t) 00 06 12 18 24

電力需給の基礎 1-2. 電力系統と同時同量 - 電力系統においては、各時点の電力 (kW)      の需給が各時点・各地点毎に一致していないと      正常に供給ができない (「同時同量」と呼称) → 需給が崩れた場合、一定時間内に再度         一致させないと電圧が変動し停電を発生         (直流では瞬時、交流では数秒~数分) → 通常は需要側の変動に合わせて、変動         幅を埋めるように水力・火力発電所の出         力調整や起動・停止を行う

電力需給の基礎 1-3. 電力と電力量の実際的な意味 - (最大)電力 (kW)       → 停電を生じさせない(= 安定供給を行う)        ために、電力会社が用意しなければならな        い発電設備容量の指標       → 現実には更に送変配電損失・予備率(検査        補修頻度)を考慮し発電設備容量を決定     - 電力量 (kWh) → 年間を通じて電力を用意するために調達        を要する燃料の量(水利・核燃料を含む)

- 電力系統には、通常は交流が用いられている 交流を用いる理由は 3つ 1) そもそも発電機は交流電力を発生 電力需給の基礎 1-4. 直流と交流 - 電力系統には、通常は交流が用いられている 交流を用いる理由は 3つ 1) そもそも発電機は交流電力を発生 2) 直流に比べ電圧制御(変圧)が遙かに容易 (⇔ 直流は電圧制御が極めて難しい) 3) 大型電動機の殆どは交流電力を利用 (⇒ 小型~中型電動機の殆どは直流 )     - 一方、直流は送電線の利用率が高く、周波数      制御が不要な利点があり、海底送電、周波数      変換設備などの補完的用途で利用

電力需給の基礎 1-5. 交流系統の特徴 (1) - 交流電力系統には独特の技術的制約あり 1) 電圧・周波数安定性           交流の送電線が送ることができる最大           電力に関する制約         → 定格容量(=直流の限界)より小さい      2) 同期安定性 複数の発電機間の問題に関する制約        - 定態安定性: 発電機間の同期上の制約 - 過度安定性: 事故時の遮断限界制約

電力需給の基礎 1-6. 交流系統の特徴 (2) 送電線定格容量 Pmax = Vs2 / x 1-6. 交流系統の特徴 (2) 送電線定格容量 Pmax = Vs2 / x     送電有効電力 Preal = ( Vs * Vd * sin δ ) / x     送電無効電力 Pimag = ( Vs * Vd * cos δ - Vd2 ) / x 同期化力      Fsyncro = ( Vs * Vd * cos δ ) / x    (Vs > Vd)   → 需要の急増により位相差(力率) δ が大きくなると、(無効)電力が     送れず電圧・周波数が低下、同期化力が低下し波形維持も困難化 位相差 δ (力率) (送電側・受電側間の   ごく僅かな波のずれ) 電 圧 発電機 G2 ~  受電側   同期化力 ( 50 or 60Hzで同期 運転する方向に作用) 発電機G1 ~ 送電側 交流送電線 位相差 δ リアクタンス(流れにくさ) x 需要家 ~ 送電側 Vs  受電側 Vd

- 交流の虚数成分であり直接は消費されない - しかし、変圧器などでの電圧の昇圧・調整など 交流系統の運用上必要不可欠な成分 電力需給の基礎 1-7. 交流系統の特徴 (3) - 無効電力 とは - 交流の虚数成分であり直接は消費されない - しかし、変圧器などでの電圧の昇圧・調整など      交流系統の運用上必要不可欠な成分      → 無効電力が不足すると、有効電力に対する電源設備容量が 足りていても停電してしまう (’87)       → 無効電力は総変配電では変圧器、需要先では大型電動機、 インバータなどでの位相差δ 調整の際に消費される 出力状況により、風力・太陽光発電機が消費することも        → 有効電力から無効電力を作ることは可能 (SVC・同期調相機 など)だが、設備が特殊で高価     

電力需給の基礎 1-8. 現実の送変配電網 (1) 大規模発電所 ( > 1MW) 中小規模発電所 ( << 1MW) 1-8. 現実の送変配電網 (1)   大規模発電所 ( > 1MW) 中小規模発電所 ( << 1MW) 超高圧送電網 ・ 地域間送電網   ( 275 ~500kV ) 総延長 15,000km 開閉所 開閉所 (他電力会社) 発電所系統 超高圧変電所 (全国134ヶ所) 一次高圧( 110~220kV ) 開閉所 一次高圧送電網( 110~220kV ) 総延長 21,000km 一次変電所 (335ヶ所) 二次高圧( 66kV ) 特別高圧需要家 ( > 22kV) 自由化対象 特別高圧( 22kV) 二次変電所 二次高圧送電網( 66~110kV ) 総延長 38,000km 高圧需要家 ( > 6,600V) 自由化対象 供給変電所 (6,200ヶ所) 配電網( < 6,600V ) 総延長 930,000km        いわゆる 「電柱」と「電線」         電 柱 2,120万本 電力計 7,860万台 高圧( 6,600V) 業務用・家庭需要 (100・200V) (規制対象) 柱上変圧器 低圧( 200, 100V)

電力需給の基礎 1-9. 現実の送変配電網 (2) 500kV 超高圧架空送電線 一般的な電柱(配電線) 避雷線・通信線 避雷線・通信線 1-9. 現実の送変配電網 (2)     500kV 超高圧架空送電線         一般的な電柱(配電線)   避雷線・通信線 避雷線・通信線 (光ファイバ) 高圧線(6600V,三相)   柱上変圧器 (6600→ 200/100V)  動力線(200V,単相) の ぼ る な 危 険 導体 (4~8線) 500kV ~1MW 片側3本で 1回線 (三相) 電灯線 (200V・ 100V, 単相) 高さ 40~80m 平均で 370m  間隔で鉄塔な   どを設置  全国 43.1万基    引込線 (活線,アース) 最大幅 20~30m   全国で 2,120万本

2. 電力需給と電源選択 2-1. 電力負荷曲線と需要 - 電力負荷曲線は、企業・家計の電力需要が 合成されたもの : 時間別内訳は非公開 電力(kW) 日最大電力 時間別電力需要 「電力負荷曲線」 (kW) 業務用需要(第三次産業) 家庭用需要 産業用需要(製造業) 時間 (t) 00 06 12 18 24

2. 電力需給と電源選択 2-2. 電力負荷曲線と供給 - 電力負荷曲線に対し、電力会社は各種発電所 を稼働して供給対応 : 時間別内訳は非公開 電力(kW) 日最大電力 時間別電力需要 「電力負荷曲線」 (kW) 貯水式・揚水式 水力発電 (= 電力貯蔵) LNG火力発電 石炭火力発電 原子力発電 時間 (t) 00 06 12 18 24

2. 電力需給と電源選択 2-3. 電力負荷曲線と「現実の供給」 - 現実には、電力負荷曲線は予知できないため、 無効電力や送変配電損失を考慮し予測制御 電力(kW) 時間別電力需要 「電力負荷曲線」 (kW) 日最大電力 時間別総発電供給 (有効電力需要 + 無効電力 + 送変配電損失) (kW) * 無効電力の需給によって 見掛上の送配電損失が  負になることがある ( 特に需要減の場合 ) 時間 (t) 00 06 12 18 24

2. 電力需給と電源選択 2-4. 電力側の対応モデル : 最適電源構成モデル - 少なくとも供給側の対応が不明では、電気料 金・電源選択やCO2問題などの分析は不可能 - このため、与えられた電力負荷曲線に対して、 電力会社が各時間帯で発電限界費用最小化 行動を執ると仮定して、電源構成モデルを構 築し、シミュレーションで政策分析を実施 → 燃料費・廃棄物処理費など発電限界費用 が廉価な順番に、各設備を能力上限迄稼 働させることが当該モデルの(短期)解

2. 電力需給と電源選択 2-5. 電力日負荷曲線の推計 - 非公開のため、最大電力などから推計が必要

2. 電力需給と電源選択 2-6. 最適電源構成モデルの例 : 戒能モデル - 卸電力取引所の価格監視への応用例(‘07) 時間別 負荷曲線 揚 水 LNG 石 炭 原子力 時間別 限界費用(短期) 揚 水 (投入分)

2. 電力需給と電源選択 2-7. 電源整備問題 (1) - 長期的な電源整備については、電力会社が電 源種類毎の耐用年数間での固定費と可変費を 総計した耐用年総平均費用最小化行動を執る と仮定したモデルを構築しシミュレーション - 運用稼動率帯(通常40%~80%帯)毎に区分 - 但し耐用年総平均費用の計算は不確実性大 - 将来燃料費・廃棄物処理費見通し - 稼動率帯別需要規模見通し - 長期割引率見通し

2. 電力需給と電源選択 2-8. 電源整備問題 (2) - 耐用年総平均費用の試算例 (’90,’03)

2. 電力需給と電源選択 2-9. 最適電源構成モデル : 戒能モデル 2. 電力需給と電源選択 2-9. 最適電源構成モデル : 戒能モデル Ca(w) = ( Cv(w) + Cf ) / (E * H * w) Cv(w) = Σt (E * H * w * ((F(t)*j/e) + L(t))*Σi(1+r)-i ) Cf = E * P * Σi(1+r)-i   Ca(w): 稼動率帯 w での現在価値換算平均発電費用 (\/kWh)   Cv(w): 稼動率帯 w での総可変費(燃料費・廃棄物処理費他) (\)   Cf : 総固定費 (\)        P : 設備容量当建設費 (\)       E   : 設備容量 (kW) H : 年間時間数 (= 8,760h )   r : 長期割引率 ( ~ 3% ) e : 発電効率・燃料消費率   F(t) : 時点 t での燃料費 (\/MJ) j : 電力換算係数(3.6MJ/kWh)       L(t) : 時点 t での廃棄物処理費他操業費 (\/kWh) → 時間帯別想定需要と予備率などから稼動率帯別設備容量を求め、       稼動率帯別に線形計画法を適用し電源構成を決定

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-1. 国内連系送電系統 (2009年度末) 北 陸 最大電力 5159 MW 発電容量 7963 MW 北海道 最大電力 5686 MW 発電容量 7418 MW 中 国 最大電力 10714 MW 発電容量 11986 MW 北海道 16600 MW (うち 電発 4400 MW) 中 国 北 陸 5570 MW 600MW 海底 (直流・電発) 5570 MW (電発) 東 北 東 北 最大電力 14516 MW 発電容量 16550 MW 九 州 2400 MW (電発) 関 西 6000 MW 300MW (直流) 5570 MW 中 部 東 京 九 州 最大電力 16653 MW 発電容量 20024 MW 四 国 四 国 最大電力 5422 MW 発電容量 6665 MW 関 西 最大電力 28178 MW 発電容量 34320 MW 沖縄 1000MW     50Hz供給区域・系統     60Hz供給区域・系統     直流送電系統     周波数変換設備 中 部 最大電力 24327 MW 発電容量 32632 MW 東 京 最大電力 54496 MW 発電容量 64487 MW 1400MW 海底 (直流・電発) 100MW(中部)* 300MW(電発) 600MW(東電) * 中部電力新清水周波数変換設備は 300MWの設備容量が完成しているが、送電線の制約から 100MWで部分運用中である

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-2. 首都圏連系送電系統(’09・概要) 福島東部・茨城東部    石油・石炭 18225    原子力 11096 [電発奥只見 480] 相馬双葉 6000 炭 [相馬共同 2000] 長野・新潟・群馬・栃木 原子力 8212 水力     9859 [原町 2000] 炭 新 潟 福島第1 4696 水力 9859 栃 木 福島第2 4400 柏崎刈羽 8212 炭 福 島 広野 3800 信濃川 140 油 群 馬 G 炭 [常磐共同 1625] 炭 [栃尾] 埼 玉 茨 城 常陸那珂 1000 [原電東海2 1100] 新信濃 600 長 野 山 梨 油 [鹿島共同 1400] 東京湾岸 G 油 G [佐久間 300] 油 鹿島 4400 G G 千 葉 G G 東京湾岸     石油 4150 LNG 26151 石炭 600 静 岡 (伊豆) G G 炭 G [新清水 100(300)] 油 油 神奈川 G

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-3. ’90年以降増設分 : 原発と石炭火力に接続 [電発奥只見 480] 相馬双葉 6000 炭 [相馬共同 2000] [原町 2000] 炭 新 潟 福島第1 4696 水力 9859 栃 木 福島第2 4400 柏崎刈羽 8212 炭 福 島 広野 3800 信濃川 140 油 群 馬 G 炭 [常磐共同 1625] 炭 [栃尾] 埼 玉 茨 城 常陸那珂 1000 [原電東海2 1100] 新信濃 600 長 野 山 梨 油 [鹿島共同 1400] 東京湾岸 G G [佐久間 300] 油 鹿島 4400 G G 千 葉 G G 静 岡 (伊豆) G G 炭 G [新清水 100(300)] 油 油 神奈川 G

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-4. 地域別最大電力・発電容量推移: 東京 / 東北 → 東京は最大電力超過、東北はその逆 東 京 東 北

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-5. 地域間送受電実績: (’05以降一部非公開) → 東京・関西は 90年代中盤から恒常的受電に 電力 (kW) 電力量 (kWh)

- 発電所・高圧送電線を新設するとした場合、 建設費用が最小化される電源立地条件如何 → 設備機器・建設費用は立地と無関係で一定 3. 地域別電力需給と連系送電網 3-6. 電源立地(空間配置)問題 (1)     - 発電所・高圧送電線を新設するとした場合、      建設費用が最小化される電源立地条件如何 → 設備機器・建設費用は立地と無関係で一定 → 発電所用地費用・周辺対策費用などは、需 要地から立地点迄の距離に応じ減少 ( 地価変化、人口密度変化など ) → 送電線建設費用は、需要地から立地点迄の       距離に応じ増加        ( 平均 370m間隔で鉄塔が必要 )

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-7. 電源立地(空間配置)問題 (2) - 都心部からの距離と工業地地価(対数)の関係

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-8. 電源立地(空間配置)問題 (3) - 新規電源立地には建設費用最小化の最適解 が存在 建設費用 C 総電源立地費用 ( → 最適解有 ) 高圧送電線費用 (~ 距離比例増 ) 最小建設 費用 C* 発電所用地・周辺対策費用 (~ 工業地地価 (対数減)) 設備機器・工事費用 ( 距離と無関係 ) 都心 (z = 0) 都心からの距離 z km z*

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-9. 電源立地(空間配置)問題 (4) - 稼動率帯(40・80%)別最小費用距離計算結果 40%帯 80%帯 100km圏に LNG複合火力 300km圏に 石炭・原子力

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-10. 首都圏連系送電系統(再掲) 福島東部・茨城東部 (300km圏)   石油・石炭等 18225   原子力 11096 [電発奥只見 480] 相馬双葉 6000 炭 [相馬共同 2000] 長野・新潟他 (300km圏) 原子力 8212 水力     9859 [原町 2000] 炭 新 潟 福島第1 4696 水力 9859 栃 木 福島第2 4400 柏崎刈羽 8212 炭 福 島 広野 3800 信濃川 140 油 群 馬 炭 [常磐共同 1450] 炭 常陸那珂 1000 [栃尾] 埼 玉 茨 城 [原電東海2 1100] 新信濃 600 長 野 山 梨 油 [鹿島共同 1400] 東京湾岸 G G [佐久間 300] 油 鹿島 4400 G G 千 葉 G G 東京湾岸 (100km圏)     石油 4150 LNG 26151 石炭 600 静 岡 (伊豆) G G 炭 G [新清水 100(300)] 油 油 神奈川 G

3. 地域別電力需給と連系送電網 3-11. 電源立地(空間配置)と連系送電網 - 国内の ’90年代からの連系送電網の整備は 主に発電所・高圧送電線の建設費用最小化の 動機で進められてきた → 都心から 300km前後離れた距離に石炭 火力・原子力発電と送電線を整備するこ とが新設時の建設費用の最適解 → 東京・関西とも 300kmの距離は一般電 気事業者の供給区域外であるため、連系 送電網を整備することが必要に