和歌山大学教育学部 学校教育教員養成課程 天文学ゼミ 07661111 前野 華凜 星雲の色と輝線に着目した画像作成 ~画像アーカイブ・システムSMOKA、 画像解析ソフトMakali`iを活用して~ Image Album Focused on Color and Emission Lines of the Nebulae: Using Image Archive System SMOKA and Image Processing Software Makali`i 和歌山大学教育学部 学校教育教員養成課程 天文学ゼミ 07661111 前野 華凜
1.問題提起 同じ銀河…? 水素の赤色? 八巻『21世紀こども百科 宇宙館』(株)小学館(2001年) これらは図鑑や教科書に載っている天体画像である。左から順にオリオン星雲、馬頭星雲である。これらは研究により水素の赤色で発光していることがわかっている。同じ元素ならば、同じ色、色調で表現されるはずだが、オリオン星雲のほうは橙色よりの赤色の色調で表現されており、馬頭星雲のほうはピンク色よりの赤色の色調で表現されている。この場合、水素の赤色であるのか判断ができない。 また、右の2枚の写真はどちらもアンドロメダ銀河を撮影したものである。左の画像は全体的に青色がかっており、見た目が涼しげな感じで表現されているが、右の写真は中心が黄色っぽく、外側の輪の部分が青色を帯びたように表現されている。本来の色としては、右のような色調をしていることがわかっている。同じ銀河であるが色調が違うことで別の銀河であると勘違いしてしまう恐れがある。 このように、天体画像集ではそれぞれの天体を印象良く見せるために、天体本来が持つ色、色調を無視して作成されている場合がある。 今回の研究では、天体の持つ色に着目して、色調を揃えた画像作成を目的とする。 水素の赤色? 八巻『21世紀こども百科 宇宙館』(株)小学館(2001年) 島崎他『地学Ⅰ 地球と宇宙』(株)東京書籍(2003年)より引用
2.データについて <画像アーカイブ・システムSMOKA> S : Subaru M : Mitaka O : Okayama K : Kiso A : Archive ・データは研究・教育目的であれば無償で利用することができる。 東京大学木曽観測所 105 cmシュミット望遠鏡 2K CCDカメラで撮影された画像データを使用 研究で扱ったデータは、画像アーカイブシステムSMOKAから提供されているものを使用した。SMOKAとは、すばる、三鷹、岡山、木曽、アーカイブシステムの略称であり、望遠鏡で撮影されたデータを提供している。このデータについては、研究・教育目的であれば無償で利用することができる。今回の研究では、画像整約が容易にでき、星雲を深く撮像している東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡において2K CCDカメラで撮影された画像データを使用した。
2.データについて <画像解析ソフトMakali`i> ・FITS画像(データ)を解析することができるソフト ・国立天文台と(株)アストロアーツとの共同開発 ・天文教育普及目的であれば無償で誰でも使用することができる。 また、画像作成にあたり、近年学校教育にも使用されている画像解析ソフトマカリを用いた。研究用天体画像として広く普及している画像形成のFITS画像を解析することができるソフトであり、国立天文台と株式会社アストロアーツとの共同開発によって作成されたソフトである。また、天文教育普及を目的とする場合であれば、無償で誰でも使用することができる。
3.研究結果(RGB三色合成画像) M 42 (散光星雲) [レベル階調] 最小値:0 最大値:30000 研究結果について。RGB三色合成を行ったM 42の画像が図のようになった。ここでレベル階調とは、段階的な明るさのことである。B、V、Rフィルターで撮影されたそれぞれの画像のレベル階調の最小値と最大値を揃えることで、各色の明るさを揃えることができる。
3.研究結果(RGB三色合成画像) M 20 (散光星雲) [レベル階調] 最小値:0 最大値:10000 今回M 42の色調を比較するために、他の種類の天体画像も作成した。こちらは、M 42と同じ散光星雲に属するいて座の三裂星雲M 20である。赤色の色調をM 42と同じように表現することができた。
3.研究結果(RGB三色合成画像) M 1 (超新星残骸) [レベル階調] 最小値:0 最大値:1000 他にも、M 42とは違う種類の星雲の天体画像も作成した。こちらは、超新星残骸に属するおうし座のかに星雲M 1である
3.研究結果(RGB三色合成画像) M 57 (惑星状星雲) [レベル階調] 最小値:0 最大値:5000 こちらは、惑星状星雲に属すること座の環状星雲M 57である。M 1、M 57のこれらは画像が小さくなっているが、M 42とは赤色の色調とは違い、表現された。
それぞれの天体の輝線の光の強さ(相対値)の違い 4.考察(色調を比較して) ・M 42、M 20:紫がかった赤色、ピンク色に近い赤色 ・M 57、M 1:橙色に近い赤色 →水素原子の発光の赤色が同じような色調で 表現できない それぞれの天体の輝線の光の強さ(相対値)の違い →M 42とM 57を比較 M 57やM 1は橙色に近い赤色で表現された。SMOKAの資料より、M 57やM 1にもM 42やM 20と同様に赤色を示す水素原子が含まれていることが示されている。このように同じ水素原子の赤色の発光でも、色調が違って表現される場合がある。その原因として、それぞれの天体の輝線の光の強さの違いが関係していることが考えられる。ここでは、M 42とM 57を取り上げ、それぞれの輝線スペクトルから相対値を比較して考察する。 なぜ…?
4.考察(色調を比較して) 青 緑 赤 M 42 輝線スペクトル <相対値> Hα線:約100 [OⅢ]線:約70 Hβ線:約25 M 42の輝線スペクトルは図のようになる。ここでは、赤色を示すHα線、緑色を示す[OⅢ]線、青色を示すHβ線の相対値を見る。相対値はそれぞれHα線が約100、[OⅢ]線が約70、Hβ線が約25となっている。 粟野他 『宇宙スペクトル博物館(可視光編)』 裳華房(2001)より引用
4.考察(色調を比較して) 青 緑 赤 M 57 輝線スペクトル <相対値> Hα線:約55 [OⅢ]線:約100 Hβ線:約8 M 42とM 57を比較すると、M 42のほうが、赤色を示すHαの値や青色を示すHβの値が大きい。そのためRGB三色合成を行うと、赤色と青色が混ざり、紫色よりの赤色やピンク色に近い赤色の色調で表現される。 M 57の場合、緑色を示す[OⅢ]線の値が大きいので、RGB三色合成を行うと、赤色と緑色が混ざり、橙色に近い赤色の色調で表現される。 粟野他 『宇宙スペクトル博物館(可視光編)』 裳華房(2001)より引用
5.研究結果(輝線の光で表現したM 42) Hα線 Hβ線 また、こちらは輝線の光のみで表現したM 42の画像である。今回は4種類作成し、これらを用いてM 42の発光がどのようになっているのか分析したが、今回は時間の都合上省略する。左図はHα線と呼ばれる、中性水素の許容線で表現したものである。右図はHβ線と呼ばれるもので、Hα線と同様に中性水素の許容線で表現したものである。よってどちらも水素の発光によって表現された画像である。 Hα線 Hβ線
5.研究結果(輝線の光で表現したM 42) [OⅢ]線 [SⅡ]線 また、左図は二階電離酸素の禁制線で表現したものであり、酸素の発光で表現された画像である。これは緑色に発光する。右図は一階電離ケイ素の禁制線で表現したものであり、ケイ素の発光で表現された画像である。こちらは赤色に発光するが、Hα線の赤色の発光とはまた違った赤色である。 [OⅢ]線 [SⅡ]線
6.まとめ 今回の研究を通して… ①色調を合わせた天体画像を作成することができた。 →「炎色反応」の考えを応用できる 同じ色の部分は同じ物質が含まれている ②元素ごとの発光の違いの比較から、 M 42が星の光の照射で発光していることを確かめた。 さらに、光の照射の強い部分も見出すことができた まとめについて。今回の研究を通して、マカリを用いて色調を合わせた天体画像を作成し、炎色反応の考えを応用した、同じ色の部分は同じ物質が含まれていることを表現することができた。また、輝線比診断より、M 42の発光が光電離によるものであることを導き出すことができ、星雲の物理的状態を知ることができた。
左図:M 1、右図:M 57
7.考察(輝線比診断) M 42がどのように発光しているのかを分析する →輝線比マップを作成 1つの箇所につき、3点測光 ↓ Obj総カウントの値について [SⅡ]/Hα、[OⅢ]/Hβの常用対数を取る 輝線比マップを作成するにあたり、マカリの測光機能を用いて場所別に測光を行う。今回は、Hα線、Hβ線、[OⅢ]線、[SⅡ]線それぞれの画像で、図のように1つの箇所につき3点、計15点のカウント値を調べ、それらの値について[SⅡ]/Hα、[OⅢ]/Hβの常用対数を取り、それらを用いて輝線比マップを作成する。[SⅡ]/Hα比は、生じた大きな部分電離領域の相対的重要度を表す指標である。また、[OⅢ]/Hβ比は、本質的には主として温度と電離の平均的水準を示す指標である。
7.考察(輝線比診断) 星雲中心部 輝線比マップ 星雲辺縁部 log10([OⅢ]/Hβ) log10([SⅡ]/Hα) 作成した輝線比マップはこのようになった。グラフの〇の色については、1つ前のスライドに載せている図の囲っている部分の色と一致している。グラフを見ていると、星雲中心部の値はグラフの左上に、星雲辺縁部はグラフの右下にそれぞれ属していることが読み取れる。 log10([SⅡ]/Hα)
7.考察(輝線比診断) に着目し、輝線比マップと比較すると… →測定した値はいずれも に相当する範囲に属している。 M 42は に着目し、輝線比マップと比較すると… →測定した値はいずれも に相当する範囲に属している。 M 42は ほぼ光電離によって 光っていると考えられる。 そこで、右図の輝線銀河に対する[OⅢ]/Hβ対[SⅡ]/Hα診断図の白い丸印と、作成した輝線比マップを比較する。◯は系外銀河中のHⅡ領域、スターバスト銀河あるいはHⅡ領域銀河、OB型星により光電離されたことが知られている天体を示している。測定した値はいずれも〇に相当する範囲に属していることがわかった。よって、よって、M 42はほぼ光電離によって光っていると考えられる。 輝線銀河に対する[OⅢ]Hβ対[SⅡ]/Hα診断図 『ガス星雲と活動銀河核に天体物理学』 p.353より引用
7.考察(輝線比診断) 〇輝線比マップ →左上に行くほど、星雲内の電子の数に比べて 照射される紫外線(光子)が多い マップより、 →左上に行くほど、星雲内の電子の数に比べて 照射される紫外線(光子)が多い マップより、 星雲中心部:グラフ左上 星雲辺縁部:グラフ右下 また、作成した輝線比ナップは、左上に行くほど星雲内の電子の数に比べて照射される紫外線(光子)が多いという系列になっている。M 42の中心部にはトラペジウムがあり、膨大な量の紫外線が放出されている。よって、光子の量が多い星雲中心部で測定した値ほどグラフの左上に属し、光子の量が少ない星雲辺縁部で測定した値ほどグラフの右下に属すると推測できる。作成した輝線比マップの値はそれぞれの場所ごとに、星雲中心部はグラフ左上に、星雲辺縁部はグラフ右下に示すことができたので、光子の量の違いによって、一致することを示すことができた。 光子の量の違いによって、 それぞれの場所を一致することを示すことができた。