2017 現代文明論 12 ルソーから学ぶ 自然と社会.

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信心を抱くということ... 信心を抱くということは、神の意志について未だに理解 できなかったり、それがたとえ私たちを喜ばせてくれる ものでなかったとしても、受け入れることです。 もし私たちに、神と同じように全てを出発点からその結 末まで見る能力があったとしたら、どうして私たちの人 生が慣れない道や私たちの理解や望みと相反する道をた.
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2015 現代文明論 11 ルソーから学ぶ 自然と社会.
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2017 現代文明論 12 ルソーから学ぶ 自然と社会

最近の環境問題の例 中国大気汚染 PM2.5 中国 工場からの汚染 胆管がん(印刷会社) カネボウ化粧品

18世紀(啓蒙時代) ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)の主な著作 『学問芸術論』1750年 『人間不平等起源論』1755年  『学問芸術論』1750年 『人間不平等起源論』1755年 『新エロイーズ』1760年 『社会契約論』1762年 『エミール』1762年

参考文献 仲正昌樹『今こそルソーを読み直す』、NHK出版生活人新書、20

学問芸術論 ディジョン・アカデミー懸賞論文の課題 「学問・芸術の復興は習俗の純化に寄与したか」 ・ルソーの回答 「学問・芸術の進歩は、習俗の腐敗に寄与したか、それとも純化に寄与したか」(課題の言い換えに意味がある)  学問・芸術の進歩=文明の進歩 啓蒙時代の進歩の観念と真正面から対決、独自の思想を構築

『学問芸術論』の論争後、生活態度を変えるーー帯剣をやめる、時計を売る、高価な下着をあきらめる、楽譜写しの仕事で生計を立てる、ジュネーヴの市民を名乗る→本来の自己に戻る(パリに出て、有名人になろうとしていた)

学問芸術論の第1部の要点 学問、文学、芸術は、人間の根源的自由を抑圧。文明は、礼儀正しさや洗練をもたらしたが、同時に人々はいかなる徳ももたないのに、いかにもすべての徳を備えているかのような外観を身につけてしまった。 「悪の最初の起源は不平等なのです」(ポーランド王への返事)

文明の進歩のもう一つの側面の発見 学問、芸術、科学、技術が進歩し、その進歩のおかげで生活が改善され、便利になった、要するに文明の進歩の恩恵に浴することをルソーは否定しない。しかし、習俗(生活の仕方)という観点からすると、文明の進歩は習俗を退廃させている。否定的な側面がある。 文字の文化=文学→習俗の退廃の第一段階(「レナル氏への手紙)

徳 徳=健全な習俗を支える中心概念 「魂の力であり強さである」(「学問芸術論」17ページ) 「学問と芸術の光明がわれわれの地平に上るにつれて、徳は消え失せた」(18ページ) 『英雄にとってもっとも必要な徳とはなにか』(ルソーの徳は、道徳的範疇をはみだし政治性を帯びた概念。個人の慎重、節制、公正よりも、公共精神にもとづく政治的行動=祖国愛のほうが英雄には必要)

スパルタ賛美とアテナイ批判 「ギリシャ全体が腐敗したときも、なおスパルタには徳が存在した。ギリシャ全体が奴隷となったときも、スパルタだけはなお自由であった。」(「ボルド氏への最後の回答)

奢侈批判 「奢侈は、文学や芸術と同じように、人間の無為と虚栄から生まれた」(学問芸術論、29ページ) 「生活の便利が増大し、芸術が完成され、奢侈が拡がるにつれて、真実の勇気は衰え、武人の徳は消滅する。」(同上)

奴隷状態 「政治と法律が、集合した人々の安全と幸福に備えるのに対して、それほど圧政的ではないが、おそらくいっそう強力な学問、文学、芸術は、人々がつながれている鉄鎖の上に花飾りを広げ、彼らがそのためにこそ生まれたと思われるあの根源的自由の感情を押し殺し、彼らにその奴隷状態を好ませ、彼らをもって文明国民peuples policésと称せられるものを作り上げる。」(学問芸術論、16ページ) 比較せよ 「人間は自由な者として生まれながら、いたるところで鎖につながれている。」(社会契約論、冒頭、110ページ)

市民=主権者 ルソーの望む政治 市民が主権者である国家、民主制の政治 現実は? 文明生活を享受する近代人は、もはや自己自身ではあり得ない精神の疎外状況にある(スタロバンスキー『透明と障害』のテーマ)

知識・学問よりも徳の重視 奢侈に対する嫌悪と批判 都会的で優雅な表面の下に隠された偽善と対照をなす素朴で無垢な状態への賛美などが、すでに現れているのは注目に値する。」(小林善彦『誇り高き市民』岩波書店、147ページ)(151ページも引用)

人間不平等起源論(1755) 自由で平等な、理想的な自然状態から始まり、最後に専制政治の奴隷状態に至る人類の不幸を物語る一般的歴史ーー人類の堕落、退歩の観念

「人為の人と自然の人とを比較して、人間の本性のいわゆる完成のなかに、その不幸の真の源があることを示した。…この瞑想から『不平等論』が生まれた。(『告白』による)

自然状態の人間 ホッブズによる自然状態「万人の万人に対する戦い」(『リヴァイアサン』) ロック:平和な状態(『市民政府論』) ルソー 「もはや存在せず、おそらくは少しも存在したことのない、たぶん将来も決して存在しないであろうような一つの状態」(理論仮説としての自然状態)→「文明ゼロ度の自然状態」(小林善彦、188ページ)

2つの原理 「一つは、人間は誰もがみずからの幸福と自己保存を望むこと(自己愛)、 もう一つは、人間は誰もが他者の苦しみに憐れみの情を感じるものだということ」(中山元、解説、311ページ)

自然人 善良でも邪悪でもなく、美徳も悪徳も存在していない。 自己愛(自己の安楽と保存に熱心な関心を与えるもの) 憐れみの情(感性的な存在としての同胞が滅びたり苦しんだりするのを見ることに嫌悪を起こさせる感情)→以上2つが人間の本源的な感情 自然の不平等は存在しない。不平等は社会と制度とともに増大(自然的または身体的不平等、道徳的または政治的不平等) 人間は、自然状態では、自己保存の感情だけで生きる

所有 「ある土地に囲いをして『これは俺のものだ』ということを思いつき、人々がそれを信ずるほど単純なのを見出した最初の人間が、政治社会の真の創立者であった。」(不平等論、全集、232ページ) 自己愛→利己心(自尊心)へと変質

所有 「ある土地に囲いをして『これは俺のものだ』ということを思いつき、人々がそれを信ずるほど単純なのを見出した最初の人間が、政治社会の真の創立者であった。」(不平等論、全集、232ページ) 自己愛→利己心(自尊心)へと変質 現代風に言えば「格差社会」の批判(ただし、歴史上、格差のない社会は存在したことがない。ブローデルによる)

人間不平等起源論 人間を文明化し、人類を堕落させたものは、詩人から見れば金と銀であるが、哲学者から見れば鉄と小麦である。(岩波文庫版、96-97頁)

善と悪 人間は邪悪である。悲しい連続的な経験がその証拠を不用にしている。けれども、本来、人間は善良である。(147頁)

社会が悪をつくる 人間社会を賛美したければいくらでも賛美するがよい。それにしても、社会は必然に、人々の利害がもつれるにつれて、人々が互いに憎み合い、互いに表面的には尽くし合い、実際は想像しうるかぎりのあらゆる危害を互いに加え合うようにしむけているということはやはり真実であろう。(147-148頁)

環境思想の創始者としてのルソー 「進歩」は人間社会の堕落をもたらした(学問芸術論、18世紀の流行の思想「進歩は人間に幸福をもたらす」を否定) 「自然人」の思想(実在の原始人ではなく、理念としての本来的人間) natureの意味

自然の教訓を軽蔑する代価 (人間不平等起源論の注9) 何らの偏見も持たないで、社会人の状態を未開人のそれと比較してみるがよい。そして、どんなに社会人が、その邪悪さと欲望と悲惨とのほかに、苦痛と死とに向かって新しい問を開いたかを、できれば研究してもらいたい。もしわれわれを消耗させる精神的苦痛、われわれを疲労させ、悩ます激しい情念、貧しい人々の重荷になっている極度の労働、富める人々が溺れてしまい、ある者はその欲求のために、他の者はその過度のために死ぬ、

なおいっそう危険な放逸な生活、これらについて皆さんが反省するならば、またもし食物の異常な混合、有害な調味料、腐った食料品、変造された薬剤、それを売る人たちの詐欺行為、それを服用させる人たちの誤り、それを調合する容器の毒、こうしたことを皆さんが考えるならば、

また、集まった多数の人々の間の悪い空気のために発生する伝染病、われわれの生活様式の脆弱さやわれわれが家の内と外とを往来するために起こる病気、ないしは、あまりにも不注意に着たり脱いだりする衣服の使用法や、またわれわれの過度の官能の欲によって必要な習慣に変えられてしまい、それをなおざりにするか、あるいは事欠くかすれば、やがてわれわれの生命または健康を失うことになるような医学的処置などのために起こる病気などに、皆さんが注意を向けるならば、

なおまた、幾多の都市を全滅させたり、転覆したりして、その住民を何千も死なせた火事や地震(注 1755年11月1日のリスボンの大地震を指す)を、皆さんが考慮に入れるならば、要するにこれらすべての原因が絶えずわれわれの頭上に集中する危険を皆さんが合わせ考えるならば、われわれが自然の教訓を軽蔑したことに対して、自然がいかに高い代価をわれわれに支払わせているかが感じられるであろう。(150-151頁)

「孤独な散歩者の夢想」のなかの 産業および公害批判 鉱物はしかるべきときに本当の冨を供給するために地中の倉庫に保管されているのだ。本当の冨は、人間のすぐ近くにあるのだが、人は堕落するにつれて、本当の冨を見失っていった。そして、そのみじめさ埋めようと産業、苦役、労働を必要とするようになったのだ。地面を掘り起こし、自らの生命や健康を犠牲にして、地中深くまで架空の宝を探しに行く(鉱山労働の問題)。

鉱山労働による公害 こうして、のどかな畑仕事にかわって、石切場、坑道、製鉄所、溶鉱炉が仕事場になり、鉄砧(ちん)、大槌の音が響き、煙と炎がうずまく工場が出現した。鉱山で臭い蒸気を吸い込んで憔悴し、青白く悲しげな顔をしている人々こうした人たちや、黒々とした鍛冶工、醜いキュクロプスこそは、地中を掘り起こし産業を営むことで生じたものだ。

自然の美しさ(風景画)を讃える 輝くばかりの花々、色彩豊かな野原、さわやかな緑陰、小川、茂み、草原。恐ろしげなものを見て嫌な想像でいっぱいになった心を、こうした眺めが清めてくれる。