モバイル通信システム(6) 「各種アンテナと電波伝播」 水野
アンテナ これまでマックスウェルの方程式から平面波の基本式まで学んだ。 電流から電界が生じ、電界から磁界が生ずる。 再度、回線設計の式(信号電力対雑音電力比:C/N;Carrier per Noise)を参照 送信と受信に関係する、アンテナの構造と利得を学習する。続いてLoss計算式の導入を行う。 (6.1a),(6.1b) C/N = EIRP - Loss + Gant - kTsysB (dB) C/N = (Ptx +Gtx-ant)- Loss + Grx-ant-Tsys - k - B (dB)
アンテナ アンテナでは、電流から電界が生じ、電界から磁界が生ずる。 線状アンテナと立体アンテナ 直線状に伸ばした電線がアンテナとして動作 微小ダイポールアンテナ 完全半波長アンテナ 表6.1 基本的アンテナの利得と実効面積 基本的アンテナの名称 絶対利得(Ga) 半波長アンテナに比べた利得(Gh) 実効面積(Ae) 数値(真値) dBi値 数値 dB 等方性(無指向性)アンテナ 微小ダイポール 完全半波長アンテナ 1.0 1.5 1.64 1.76 2.15 0.609 0.914 1 -2.15 -0.39 0.0796λ2 0.119λ2 0.130λ2
直線状アンテナ 図6.1 半波長アンテナなどの直線状アンテナ HF帯からSHF帯(3MHz~数GHz)まで実用されている。 1/4波長(λ/4) 半波長(λ/2) 充分広い導体板 図6.1 半波長アンテナなどの直線状アンテナ HF帯からSHF帯(3MHz~数GHz)まで実用されている。 入力インピーダンス: 73Ω
各種線状アンテナ 図6.2 半波長折り返しアンテナ 図6.3 ブラウン・アンテナ 入力インピーダンス: 4倍(292Ω) 入力インピーダンス: 4倍(292Ω) VHF、UHF帯で実現 図6.1(c)の導体板をλ/4で近似 VHF、UHF帯で実現 図6.2 半波長折り返しアンテナ 図6.3 ブラウン・アンテナ
中長波アンテナ 中長波帯では半波長が長くなるため極めて大きな構造となる。 アンテナ上部を等価的に特性が同じもので置き換えた 図6.4 中長波アンテナ
八木・宇田アンテナ 導波器 主素子 反射器 3素子の場合、7~8dBの相対利得が得られる 図6.5 八木・宇田アンテナ
スロットアンテナと板状アンテナ TV放送用として広く実用されている 図6.6 半波長スロットアンテナ 図6.7 バットウィングアンテナ
開口面アンテナ 図6.8 角錐ホーンアンテナ 図6.9a パラボラアンテナ
アンテナ形式 図6.9b パラボラアンテナ 図6.9c オフセットパラボラ 図6.9d 衛星放送受信アンテナ 図6.9b パラボラアンテナ 図6.9c オフセットパラボラ 図6.9d 衛星放送受信アンテナ 図6.10a カセグレンアンテナ 図6.10b オフセットカセグレンアンテナ
アンテナ利得と電力半値幅 [真値] [dB] [deg] 3dB Θ (6.2a) (6.2b) (6.3) ここで、 D : アンテナ開口径(直径) λ : 波長 η : 開口能率 (通常;50 - 60 %) λ 電力半値幅 [deg] 3dB (6.3) Dyanet Dual Beam Antenna Θ 開口径 波長 半値角 29.5GHz 4.2 m 10.17 mm 0.15deg 19.5GHz 15.38 mm 0.23deg
アンテナのまとめ アンテナの基本形態である半波長アンテナの動作を理解する。 線状アンテナの代表的利得を知る 微小ダイポール: 1.76dBi 半波長アンテナ: 2.15dBi 八木宇田アンテナ(3素子): 7~8dBi 開口面アンテナの代表、パラボラアンテナの式 (6.2a)式 (page 11)
電磁波の偏波 ∂Hz/∂t = ∂Ez/∂t = 0 ∂Hz/∂z = ∂Ez/∂z = 0 媒質中に波源が存在しない環境で伝搬;平面波 進行方向に直角な面内にのみ、電界、磁界が存在 ∂Hz/∂t = ∂Ez/∂t = 0 ∂Hz/∂z = ∂Ez/∂z = 0 電界方向が大地に対し 水平; 水平偏波 (H: Horizontal) 垂直; 垂直偏波(V: Vertical) 二種類の偏波が、ある位相で混ざれば「楕円偏波」 右旋円偏波;進につれて電界が時計方向に回転 左旋円偏波;進につれて電界が反時計方向に回転 偏波間のアイソレーション 直線偏波同士;V/Hで30から40dBのアイソレーション 円偏波同士; R/Lで dB 直線・円偏波間; 円から直線 -3 dB 直線から円 dB
各種のシステムにおける電界強度変動の例 (a) 陸上移動伝搬における電界強度変動の例 (b) マイクロ波回線フェージングの例 (c) 降雨減衰による衛星回線電界強度変動の例
電界強度変動の原因 移動中の変動 マイクロ波 衛星通信 樹木、ビルによる遮蔽 ビル壁面による多重反射 回折 海面での反射波によるフェージング 大気の温度、湿度の場所的変動による伝搬損失変化 衛星通信 降雨時の雨滴による減衰
電力遅延プロファイルの実測例 (移動体通信) 走行距離 相対レベル(dB) 遅延時間(μs) 直接波 反射波 直接波 走行距離 相対レベル(dB) 1)一番目の到来波は送受信アンテナ間の距離が増大するとともに、到来時間が遅れている。 2)ビルからの反射はビルに近づくにつれ、逆に進んでいる。 3)多数の反射、散乱、回折波により構成される。 4)遅延スプレッドの例 屋外;市街地 0.2 - 2.0 秒 山岳地 10 - 20 秒 屋内;居室 0.02 - 0.1 秒 ホール - 0.3 秒 反射波 遅延時間(μs) (移動体通信)
大気ガスによる吸収係数 吸収係数(dB/km) 周波数(GHz)
導電率の周波数特性 (S/m) 海水 物質 導電率 銅 5.65x107 海水 3 - 5 淡水 (1-10)x10-3 大地 (湿地) 10-2-10-3 (乾地) 10-4-10-5 導電率σ(S/m) 湿地 真水 (S/m) A;海水(平均炎分濃度)20C B;湿地 C;真水、20C D;中乾燥大地 E;非常に乾いた大地 F;純水、20C G;氷 中乾燥大地 周波数(MHz) ITU-R Rec 527
衛星/地上伝搬路の劣化要因 電離層シンチレーション 伝搬路遮断 散乱・回折 海面反射 フェージング 降雨減衰 XPD劣化
様々な伝搬特性 降雨減衰量(dB) 27GHz降雨減衰量(dB) 縦軸の値を越す確率(%) 17GHz降雨減衰量(dB) 25 25 20 20 1975.5~1977.8 測定値 推定値 理論値 15 降雨減衰量(dB) 27GHz降雨減衰量(dB) 15 10 10 5 5 0.01 0.1 1 5 10 15 20 25 縦軸の値を越す確率(%) 17GHz降雨減衰量(dB) (a)降雨減衰累積分布推定値 (b) 2周波数の降雨減衰瞬時対応 出典(左);初田、森広、中島、他、「準ミリ波衛星通信回線設計法」、研究実用化報告、Vol.29, No.4, pp.651-664, 1980 出典(右);細矢、佐藤、長津、他、「高仰角伝搬特性」、研究実用化報告、Vol.29, No.4, pp.651-664, 1980
電磁波の伝搬損失(フリスの伝達公式) 送信点から、Wtxの電力が、絶対利得Ga-txのアンテナで送信されたとすると、距離dでの電力密度は (W/m 2 ) (6.4a) フリスの伝達公式 Wrx = Wtx・(Ae-tx・Ae-rx)/(λd)2 アンテナの実効面積 Ae は、絶対利得をGaとすると、 Ae = λ2/4π・Ga 球の半径:d
電磁波の伝搬損失(フリスの伝達公式) 受信点で、絶対利得Ga-rxのアンテナで受信した時得られる電力は、受信点での到来電波の有する電力を 、受信アンテナの実効面積をAerすると、 (6.4b) フリスの伝達公式 Wrx = Wtx・(Ae-tx・Ae-rx)/(λd)2 アンテナの実効面積 Ae は、絶対利得をGaとすると、 Ae = λ2/4π・Ga (6.4d)
電磁波の伝搬損失(フリスの伝達公式) (6.4d)式の分母が距離dまでの間に減衰する量 (6.4e) フリスの伝達公式 Wrx = Wtx・(Ae-tx・Ae-rx)/(λd)2 アンテナの実効面積 Ae は、絶対利得をGaとすると、 Ae = λ2/4π・Ga
電波の特性 周波数と波長 偏波: V偏波/H偏波 (page 13) 回折: 電波は鋭角なものを回折する v= fxλ v=3x108 m/sec 高い周波数ほど、波長が短い (300MHz::1m) 偏波: V偏波/H偏波 (page 13) 回折: 電波は鋭角なものを回折する 直進性: 周波数が高い程直進性が増す 導体に対しては反射する。透過はしない。 減衰: 周波数が高い程減衰量が増す 船舶の安全航行のためのロランでは短波を使っているが、送信局は世界中に3箇所しかない。 日本の電波時計では全国をカバーするのに送信局は2局しかない。
第6回の講義のまとめ 周波数と波長の関係を理解 アンテナ 電波伝搬 伝搬損失 線状アンテナ、パラボラアンテナの利得を理解 偏波、回折、直進性を理解 伝搬損失 伝搬損失が計算出来る様になっておく。
第6回 練習問題 家でBS放送を受信しています。アンテナの大きさは大体50cmです。アンテナの利得は何dBくらいですか。 解き方 第6回 練習問題 家でBS放送を受信しています。アンテナの大きさは大体50cmです。アンテナの利得は何dBくらいですか。 解き方 波長は? (BS放送は12GHzを使っています) mm アンテナの開口効率を60%として(6.2a)式を解く D=50cm、η=60% だから G: dB
第6回 練習問題 放送衛星(BS)と地表面までの距離は約36,000kmです。地上に電波が届くまで、伝搬損失はおよそ何dBくらいですか。 第6回 練習問題 放送衛星(BS)と地表面までの距離は約36,000kmです。地上に電波が届くまで、伝搬損失はおよそ何dBくらいですか。 解き方 波長は? (BS放送は12GHzを使っています) mm 距離dを36,000kmとして(6.4e)式を解く Loss: dB
end
電磁波の伝搬損失(フリスの伝達公式) 送信点から、Wtxの電力が、絶対利得Ga-txのアンテナで送信されたとすると、距離dでの電力密度は (W/m 2 ) (6.4a) 受信点で、絶対利得Ga-rxのアンテナで受信した時得られる電力は、受信アンテナの実効面積をAerすると、 (6.4b) (2)式の最終項が距離dまでの間に減衰する量 (真値) (6.4c) (dB) フリスの伝達公式 Wrx = Wtx・(Ae-tx・Ae-rx)/(λd)2 アンテナの実効面積 Ae は、絶対利得をGaとすると、 Ae = λ2/4π・Ga
2.アンテナ - 衛星通信用アンテナ - 衛星回線の特徴 ・伝搬距離が長く、微弱な電波が到来する ・低仰角では 2.アンテナ - 衛星通信用アンテナ - 衛星回線の特徴 ・伝搬距離が長く、微弱な電波が到来する ・低仰角では >拡散減衰、発散減衰が大 >大気シンチレーションが大 >人工雑音が増加 ・指向性 ・他からの電波を遮断 ・他無線局への干渉を与えない ・低軌道衛星サービス ・衛星追尾が必要 >電気追尾、機械追尾 >ドップラーシフト補正(電子機器) ・高利得 高仰角とする 伝搬特性を解明 ・指向性が良い ビームが狭い ・追尾機能 キー技術
1.電波伝搬 - マックスウェルの方程式 - rot H - ∂D /∂t = J rot E + ∂B /∂t = 0 div D = ρ 1.電波伝搬 - マックスウェルの方程式 - rot H - ∂D /∂t = J rot E + ∂B /∂t = 0 div D = ρ div B = 0 D = ε E D ;電束密度(C/m2)、E ;電界強度(V/m) B = μ H B ;磁束密度(WB/m2)、H ;磁界強度(AT/m) J = σ E J ;電流密度(A/m2) ε;媒質の誘電率(F/m) μ;媒質の透磁率(H/m) σ;媒質の導電率(S/m)
電波伝搬と通信回線 降水減衰分布 定常 成分 サイトダイバーシチ効果 大気吸収減衰分布 下り 回線 熱雑音 変動 成分 総合雑音 同一ルート内干渉 ― 伝搬によるXPD劣化 他方式間干渉 干渉雑音 降雨減衰差の分布 降雨散乱等による干渉 中継による雑音の相加 上り/下り回線減衰の瞬時対応 上り回線 出典;細矢、佐藤、長津、他、「高仰角伝搬特性」、研究実用化報告、Vol.29, No.4, pp.651-664, 1980
電波伝搬 (1)伝搬損失と距離 Loss = 20*log (4πd / λ) 【dB】 d: 2点間距離 (衛星と地球局、等) λ: 波長 d: 2点間距離 (衛星と地球局、等) λ: 波長 (2)伝搬路上での劣化 ・降雨減衰; 雨による伝搬損失の増加 ・フェージング;伝搬経路の差による干渉(海上、ビル、等) ・散乱・回析; 遮蔽物により発生 (3)偏波 円偏波、直線偏波
2周波数の降雨減衰瞬時対応 27GHz降雨減衰量(dB) 17GHz降雨減衰量(dB) 25 20 15 10 5 5 10 15 20 1975.5~1977.8 測定値 推定値 理論値 27GHz降雨減衰量(dB) 15 10 5 5 10 15 20 25 17GHz降雨減衰量(dB) 出典;細矢、佐藤、長津、他、「高仰角伝搬特性」、研究実用化報告、Vol.29, No.4, pp.651-664, 1980