青色LED材料を活かして、熱を電気に変換

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青色LED材料を活かして、熱を電気に変換 共同プレス発表レクチャー資料 平成29年11月14日(火) 青色LED材料を活かして、熱を電気に変換 ~高性能な熱電材料のための新しい材料設計指針~ ・既存の実用熱電材料の2~6倍に相当する,効率的な熱電変換出力を達成。 ・青色発光ダイオード材料(窒化ガリウム)の高い電子移動度を活かした 半導体二次元電子ガスを利用。 ・熱電材料を高性能化するための新しい材料設計指針を与えることが期待される。 北海道大学 電子科学研究所・教授 太田 裕道 北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター・教授 橋詰 保 成均館大学校(韓国)・教授 金 聖雄 産業技術総合研究所・研究グループ長 山本 淳 ※本レクチャー資料の二次使用はできませんのでご注意ください。

熱電変換のしくみ 温度差を与えると発電 電流を流すと冷却 ゼーベック効果 金属や半導体の物理的性質の一つ 温度差を与えると電池になる ペルチェ効果 ゼーベック効果の逆 電流を流すと冷蔵庫になる 電流 電流 n型材料の場合は電子が 動きます 電流を流して電子を 動かします

熱電変換の特長・応用例 1. 温度差さえあれば発電する 2. 冷媒不要でどこでも冷却 3. 振動・騒音がない 応用例)体温と外気温の差で発電する腕時計 2. 冷媒不要でどこでも冷却 応用例)携帯型クーラーバック 3. 振動・騒音がない 用途例)ワインセラー、ホテル用の小型冷蔵庫

土星探査機カッシーニ プルトニウムのα崩壊 宇宙空間 -270℃(極低温) 超高温 熱電変換材料 原子力電池

ハイブリッド自動車 e 熱電変換素子 排気管の温度 700℃ 充電 充電 e e 電池 発電機 放電 モーター ラジエター 切替器 排気管の温度 700℃ 充電 ラジエター 電池 切替器 e e 発電機 ドライブシャフト 放電 モーター 5 5

熱電変換材料に求められる3つの性質 熱電能が大きいこと 高 導電率が大きいこと 低 熱伝導率が小さいこと 傾きが大きい(=大きな電圧) 電子数が多く、速く動く(=抵抗が小さい) 低 熱伝導率が小さいこと 大きな温度差(=熱が伝わりにくい) 6

熱電材料の 熱 ⇔ 電気 変換効率 (熱電能)2×(導電率)×(平均温度) (熱伝導率) 熱電変換性能指数 ZT = 熱 ⇔ 電気 変換効率       (熱伝導率) 熱 ⇔ 電気 変換効率 実用化された熱電材料の性能指数 温度差 700℃ 30% 25% 熱 ⇔ 電気 変換効率 (%) 17% 熱電変換性能指数 ZT 熱電変換性能指数 ZT 温度 (℃) ZT = 1 の熱電材料に700℃の温度差を与えたときのエネルギー変換効率は約17% 7

現在、実用化されている熱電材料の問題点       元素周期表       8

現在、実用化されている熱電材料の問題点 欠点 1. 資源が少なく、非常に高価 欠点 2. 毒性がある 欠点 3. 熱・化学的に不安定 欠点 1. 資源が少なく、非常に高価 欠点 2. 毒性がある 地球上の元素の重量パーセント ビスマス 0.00002 % アンチモン 0.00005 % , 鉛 0.0015 % テルル 0.0000002 % (プラチナ 0.0000005 %) 鉛中毒 テルル 欠点 3. 熱・化学的に不安定 テルル化ビスマスの融点 585oC cf. 自動車の廃熱温度 700oC 欠点 4. ZT が低い ⇒ 変換効率が悪い 9

世の中の動向 作る度に粒の大きさが違う → 導電率、熱伝導率に大きく影響 → 性能が保証できない → 実用化への障害 SnSe Cu2Se X. Zhang and L. Zhao, "Thermoelectric materials: Energy conversion between heat and electricity", J. Materiomics 1, 92 (2015) 米国・中国の研究チーム 性能指数 ZT が2を超える熱電材料を次々に発表 PbTe系 Bi2Te3系 SiGe系 Cu2S SnSe Cu2Se PbSe 米 中 米・中 問題:性能が再現できない 粉体を焼き固めた焼結体(セラミックス) ⇒ 作る度に性能が変わり、性能が再現できない 作る度に粒の大きさが違う → 導電率、熱伝導率に大きく影響 → 性能が保証できない → 実用化への障害 10

本研究グループのアプローチ 単結晶を使う 熱電変換出力因子(=得られる電気出力)を増強することで、性能指数ZTを高める 焼結体 単結晶 本研究グループのアプローチ 単結晶を使う 焼結体 単結晶 電子は、粒と粒の界面で散乱される 作る度に性質が変わるので、真実が分からない 界面がないので電子は散乱されない 真実を知ることができる 熱電変換性能指数 ZT = (熱電能)2×(導電率)×(平均温度)       (熱伝導率) 熱電変換出力因子(=得られる電気出力)を増強することで、性能指数ZTを高める 研究の狙い 特に導電率

仮説 半導体二次元電子ガス=高い熱電変換出力 仮説 半導体二次元電子ガス=高い熱電変換出力 一般的な半導体 半導体二次元電子ガス 電子濃度を増やすために、電界(静電気)を使用 電子濃度を増やすために、不純物を使用 電子濃度 電子の移動速度 電子濃度 電子の移動速度 電子濃度を増やすと、 電子の移動速度が減少 電子濃度を増やしても 電子の移動速度は変化しない 導電率× 導電率◎

作製した試料と計測の様子 今回計測した試料の模式図 計測の様子 ・単結晶窒化ガリウム(GaN)二次元電子ガス ・電子の濃度を電圧で変えられる仕組み ・試料が小さい(0.8ミリ)ので、計測装置を自作 ・熱電能の精密な計測が可能 電子の濃度 低 高 ゲートに印加する電圧

計測結果 電子移動度とシート電子濃度 vs. ゲート電圧 熱電能 vs. ゲート電圧 ・ゲート電圧印加によって、 1012 -1013 cm-2の範囲でシート電子濃度を変えられる ・1000 cm2 V-1 s-1を超える電子移動度を維持 ・熱電能はゲート電圧の増加に伴って単調に減少

二次元電子ガスの大きな熱電出力因子 熱電出力因子 電子の移動速度 ・最大で9 mW m-1 K-2の出力因子 ・一般的な半導体と比較して10倍大きい ・最先端の実用熱電材料の2-6倍大きい ・1019 cm-3の電子濃度でも1500 cm2 V-1 s-1の大きな電子移動度を維持

補足説明 二次元電子ガスの厚さ ~2 nm 二次元電子ガスの厚さは ~2 nm 二次元電子ガスと一般的な半導体の 補足説明 二次元電子ガスの厚さ 二次元電子ガスと一般的な半導体の 熱電能の比較によって求めた厚さ 報告されている二次元電子ガスの厚さ Al0.2Ga0.8N/GaN Y.C. Kong et al., phys. stat. sol. (b) 241, 840 (2004) ~2 nm 二次元電子ガスの厚さは ~2 nm 両者はピタリと一致 ⇒ 電子濃度は正しい

成果のまとめ ・青色発光ダイオード材料(窒化ガリウム)の高い電子移動度を活かした 半導体二次元電子ガスを利用。 ・既存の実用熱電材料の2~6倍に相当する,効率的な熱電変換出力を達成。 ・熱電材料を高性能化するための新しい材料設計指針を与えることが期待される。

実用化を控えた熱電材料を高性能化するために 今後の展開 実用化を控えた熱電材料を高性能化するために p型材料でのモデル実証 大型化・大面積化 低価格で製造可能な基板材料でモデル実証 通常、熱電変換はn型材料とp型材料を直列につないで出力を大きくするので、n型だけでなくp型でのモデル実証も必要 例えば、スパッタリングや印刷など、大型化・大面積化に適した成膜手法の採用 例えば、ガラスやプラスティックなどの安価な基板材料の使用

発表論文 High thermoelectric power factor of high-mobility two-dimensional electron gas (高移動度二次元電子ガスの高い熱電変換出力因子) 著者:太田裕道1, 2,金 聖雄3,金木奨太2,山本 淳4,橋詰 保2, 5 (1北海道大学電子科学研究所,2北海道大学大学院情報科学研究科,3成均館大学校, 4産業技術総合研究所省エネルギー研究部門, 5北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター) 公表雑誌:Advanced Science (アドバンスト・サイエンス)        ※独Wiley社が2014年12月に創刊号を発行。オープンアクセスジャーナル。 ジャーナルインパクトファクター 9.03 公表日:日本時間 2017年11月24日(金)午後6時      (現地時間 2017年11月24日(金)午前10時)

発表論文への審査コメント Please rate the importance of this submission. Reviewer #1(審査員1) Should be published as a VIP paper COMMENTS TO AUTHOR: Needless to say, among all the approaches to achieve high ZT, the 2DEG approach proposed by authors is very innovative. The paper is concise and straight to the point. 言うまでもなく、高いZTを達成するための全てアプローチの中で、著者らによって提案された二次元電子ガスを使うアプローチは非常に革新的です。この論文は、簡潔で直感的です。

お問い合わせ先 試料の熱電特性に関すること 電子科学研究所・教授 太田 裕道 TEL 011-706-9428 Email hiromichi.ohta@es.hokudai.ac.jp 試料の作製に関すること 量子集積エレクトロニクス研究センター・教授 橋詰 保 TEL 011-706-6873 Email hashi@rciqe.hokudai.ac.jp 広報に関すること 総務企画部 広報課 広報・渉外担当 北野 誉直 TEL 011-706-2610 Email: kouhou@jimu.hokudai.ac.jp 実用的な熱電材料に関すること 省エネルギー研究部門・研究グループ長 山本 淳 TEL 029-861-5776 Email a.yamamoto@aist.go.jp 広報に関すること 企画本部 報道室 小見 千尋 TEL 029-862-6216 Email: hodo-ml@aist.go.jp