大規模殻模型計算による 原子核構造研究の展開

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大規模殻模型計算による 原子核構造研究の展開 本間道雄 (会津大) 大塚孝治 (東大), 水崎高浩 (専修大), 宇都野譲 (JAEA), 清水則孝(東大), B.A.Brown (MSU), M.Hjorth-Jensen (Oslo) 内容 殻模型計算 : 伝統的 対 現代的 有効相互作用 : 現実的 対 経験的 最近の成果と問題 他分野との関係 まとめと展望

大規模計算の必要性 殻模型計算 集団運動 不安定核 系統的記述 模型空間...不活性コア+バレンス殻 ハミルトニアン行列の対角化 大規模...1億次元程度以上 集団運動 形状相転移...球形  変形 遷移領域の記述 不安定核 殻構造の変化...異殻共存 核力の新たな様相 系統的記述 大域的構造 多様な観測量の統一的記述 予言能力 p1g9 Z pf sd N p

殻模型計算法 伝統的 現代的展開 完全系で対角化 ランチョス法 スカラー計算機 大容量記憶領域...ランチョスベクトル1本~1GB ビット演算...1粒子状態の占有パターンをビット表現 高精度...基底状態~数10励起状態 現代的展開 最適な模型空間(基底)の抽出 モンテカルロ法 パラレル計算機...サンプルは独立に計算できる 大量演算...サンプルの大半を捨てる 実数演算...平均場的表現から固有状態に射影 広適用範囲

伝統的対角化法 ランチョス法 最低エネルギーから少数個の固有状態を求める 適当な初期ベクトルv1から Hvi を vi, vi-1 と直交化 i 番目の3重対角行列を対角化  i << n でも固有値が収束

殻模型ハミルトニアン 球対称平均ポテンシャルと残留相互作用 1粒子エネルギーと2体相互作用 1粒子軌道 (n, l, j) = a 通常は調和振動子で近似 1粒子エネルギーと2体相互作用 パラメータの数 na … number operator of orbit a 模型空間 閉殻 バレンス軌道 e の数 V の数 p 4He p3/2,1/2 2 15 sd 16O d5/2,3/2, s1/2 3 63 pf 40Ca f7/2,5/2, p3/2,1/2 4 195 f5pg9 56Ni p3/2, f5/2, p1/2, g9/2 133

有効相互作用 原子核は“素粒子”ではない  核力とは? 現象論的なアプローチ(経験的) 第一原理的なアプローチ(現実的) 原子核は“素粒子”ではない  核力とは? 短距離引力 硬い芯のため扱いにくい 多様な自由度...スピン、アイソスピン依存性 非中心力 現象論的なアプローチ(経験的) 相互作用のパラメータ e, V を実験データにフィットして決める 模型空間が広くなると不可能 第一原理的なアプローチ(現実的) 2核子散乱の実験データをよく記述するポテンシャルから出発 媒質効果の取り込み...G行列 模型空間の外からの効果を繰り込む 閉殻近傍では成功。しかしバレンス粒子が多くなると不十分  “現実的”相互作用を“経験的”に修正

半経験的有効相互作用 “現実的”相互作用(繰り込まれたG行列)から出発 実験データ(エネルギー)にフィット  パラメータを修正 線形近似による反復法...(出発点は良い) 実験データからよく決まらないパラメータを分離...LC法 大量の殻模型計算が必要...(ステップごと、全データ) sd-殻 W相互作用(USD) B.H.Wildenthal, Prog.Part.Nucl.Phys.11 (1984) 5 69パラメータ中47線形結合を447データにフィット 平均誤差185keV pf-殻 GXPF1相互作用 M. Honma et al., PRC65 (2002) 061301(R); PRC69 (2004) 034335 195パラメータ中70線形結合を699データにフィット (推定)平均誤差168keV

現実的有効相互作用の修正 補正は小さい V(abcd ; JT ) abcd ; JT T=0 … 引力的 T=1 … 斥力的 主な修正点  補正は小さい V(abcd ; JT ) abcd ; JT 7= f7/2, 3= p3/2 5= f5/2, 1= p1/2 T=0 … 引力的 T=1 … 斥力的 主な修正点 V(abab ; J0 ) 大Jの対角要素 V(aabb ; J1 ) ペアリング

実験値 殻模型計算 2中性子 分離エネルギー N=28閉殻の効果 系統的な記述 中性子過剰Cr    変形?

偶偶核の第1励起状態 2+1状態...構造の重要な指標 N=28の閉殻構造 中性子過剰核で新たな閉殻? 54Ca 未検証  N=34...Ca  54Ca 未検証  N=32...Ca,Ti,Cr 54Ti におけるエネルギーギャッ プを予言  実験で検証  中性子過剰核で新たな閉殻? 2+1状態...構造の重要な指標 閉殻  エネルギーギャップ 変形  慣性能率の情報  中性子過剰Crで変形領域?  pf殻では記述できない  g9/2, d5/2, … 大規模計算が必要

スピン・アイソスピン応答 遷移演算子  : DJ=0, ±1, Dp=No ~4MeV に構造 (56Ni 芯励起) ベータ崩壊...低励起状態に限定 荷電交換反応 (p,n) ~4MeV に構造 (56Ni 芯励起) GXPF1 相互作用 KBF 相互作用 J. Rapaport et al., Nucl.Phys.A410(1983)371

さらに遠くへ f5pg9-殻 JUL45相互作用 sd-pf 殻 pf-sdg 殻 137パラメータ中45線形結合を400データにフィット f5pg9-殻 JUL45相互作用 137パラメータ中45線形結合を400データにフィット 平均誤差185keV g9/2軌道(異パリティ)の影響 sd-pf 殻 40Ca閉殻の構造 重いsd殻中性子過剰核 pf-sdg 殻 N=Z近傍核の陽子過剰核 変形共存と形状相転移 重いpf殻中性子過剰核 100Snの閉殻構造 f5pg9-shell pf-shell sd-shell

電子捕獲率 超新星爆発 独立粒子模型による評価 大規模殻模型による再評価 核融合反応  鉄コアの形成 重力崩壊 vs. 電子縮退圧 D. Frekers, Nucl.Phys.A731(2004)76 超新星爆発 核融合反応    鉄コアの形成 重力崩壊 vs. 電子縮退圧 電子捕獲率が影響(Ye:電子/バリオン比) pf殻核のガモフテラー遷移強度が重要 独立粒子模型による評価 Fuller, Fowler and Newman (FFN) Ap.J.S.42(1980)447; 48(1982)279; Ap.J.252(1982)715; 293(1985)1 大規模殻模型による再評価 Langanke and Martinez-Pinedo (LMP) Nucl. Phys. A673 (2000) 481 奇奇核で捕獲率が小さい 大きなYe,小さなコア

2重ベータ崩壊 2n  2p +  (+ ) 0ニュートリノモード 2ニュートリノモード 核行列要素 観測されていない 2n  2p +  (+ ) 0ニュートリノモード 観測されていない レプトン数非保存 半減期からニュートリノ質量の情報 2ニュートリノモード 観測されている 核構造モデル(波動関数)のチェック 核行列要素 RPA:模型空間十分だが、信頼度?(特定のパラメータに強く依存) 殻模型:模型空間が制限されるが、高信頼度 模型によって3倍程度の差  大規模殻模型による精密な評価が有望   (模型空間の拡張が必要) H.Ejiri, Phys. Repts. 338 (2000) 265

まとめと展望 大規模殻模型計算により、極限状況における原子核構造と核力を精密に調べる道が開ける 現在の計算機の能力は、pf-殻より大きな殻や、2つの殻を含んだ厳密対角化計算には不十分  モンテカルロ計算が有望 有効相互作用を十分広い模型空間に対して適切に構成することにより、殻模型計算に予言能力が期待できる 現実的な有効相互作用は今のところ実用的には不十分だが、多少の現象論的修正で改善される 大規模殻模型計算は核物理のみならず、宇宙物理、素粒子物理など他分野の発展にも寄与し得る