家畜ふん堆肥中の窒素の効き方を考慮した化学肥料との協調利用 普及への取り組み

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家畜ふん堆肥中の窒素の効き方を考慮した化学肥料との協調利用 普及への取り組み プレゼンテーションの内容 家畜ふん堆肥の圃場利用での問題  家畜ふん堆肥の中の窒素の効き方 家畜ふん堆肥中の窒素の効き方を考慮した化学肥料との協調利用 普及への取り組み それでは、家畜ふん堆肥からの窒素供給量を考慮して、化学肥料と家畜ふん堆肥を併用した圃場試験の結果を紹介します。 これから説明する圃場試験では、堆肥に含まれる窒素を出来るだけ利用することを考え、施用直後に播種や移植をしています。 堆肥中の窒素の有効利用を考え 施用直後に播種や移植を行なう

緩効性窒素のある豚ぷん堆肥2種類(窒素量は異なる) 施用当作に効く窒素がほとんど無い雨ざらし堆肥 農家圃場での施用試験(キャベツ) ※施用直後 に作付け 牛ふん、豚ぷん堆肥の基肥利用 緩効性窒素のある豚ぷん堆肥2種類(窒素量は異なる) 緩効性窒素のない牛ふん堆肥 キャベツへの牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥の基肥利用です。使った堆肥は緩効性窒素のある豚ぷん堆肥2種類と、緩効性窒素の無い牛ふん堆肥、速効性窒素・緩効性窒素をほとんど含まない雨ざらし堆肥です。 施用当作に効く窒素がほとんど無い雨ざらし堆肥 平栁ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第11報 新しい窒素肥効評価法に基づくキャベツ栽培実証」(土壌肥料学会2009年大会)より作成

農家圃場での施用試験(キャベツ) ※施用直後 牛ふん、豚ぷん堆肥の基肥利用 に作付け 堆肥施用量は乾物表記 家畜ふん堆肥のみで必要な窒素をまかなうことは出来ないので、化学肥料と併用しています。分析結果から計算される速効性の窒素を基肥から、緩効性窒素を追肥から減肥しています。 リン酸、カリが過剰になる場合がありますが、それは考慮せずに試験を行っています。不足する場合は、化学肥料で補っています。 基肥(22kg)と追肥(5kg)を分けて化学肥料窒素を減らす リン酸・カリは過剰になる場合があるが考慮しない 石岡ら 「新たな窒素肥効分析法に基づいた家畜ふん堆肥の施用支援ツール」(2008年度関東東海北陸農業研究成果情報)等より改変

農家圃場での施用試験(キャベツ) 化学肥料 キャベツ結球重 資材費 堆肥+散布費用 キャベツの調整重は、化学肥料のみの場合と、ほぼ同じ水準を維持できています。緩効性窒素のない牛ふん堆肥でも、緩効性窒素のある豚ぷん堆肥でも、ほぼ同じ大きさです。 散布費用を含めても、資材費は堆肥を併用した方が安価になっています。このように、堆肥中の肥料成分を把握した上で化学肥料を減肥すれば、収量に影響を与えずに生産コストを下げることができます。 *化学肥料の成分kgあたり単価を窒素220円、リン酸450円、カリ190円、 堆肥 1tを5000円、散布費を3000円とした場合 石岡ら 「新たな窒素肥効分析法に基づいた家畜ふん堆肥の施用支援ツール」(2008年度関東東海北陸農業研究成果情報)等より改変

農家圃場での施用試験(ブロッコリ) ※施用直後に作付け 鶏ふん堆肥の基肥利用 慣行 100%代替 基肥を鶏ふん堆肥で 30%, 50%, 100%代替 品種:しき緑 慣行 続いて、ブロッコリへの副資材なしの鶏ふん堆肥の利用です。窒素含量が高い鶏ふん堆肥を使い、基肥を30%から100%代替しています。 結果ですが、化学肥料の場合と、ほぼ同じ収量が得られています。 100%代替 村上ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第4報 家畜ふん堆肥の肥効評価法の露地野菜栽培への適用」(土壌肥料学会2007年大会)より作成

水稲での施肥設計 穂肥以降に効く窒素 穂肥までに効く窒素 水稲での利用例ですが、水稲の場合、施肥のタイミングが畑作物とは違うので、速効性・緩効性窒素の仕分けを変え、穂肥までと、それ以降という形にして減肥しています。 村上ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第12報 新しい窒素肥効評価法に基づく水稲栽培実証」(土壌肥料学会2009年大会)より作成

農家圃場での施用試験(水稲) ※施用直後に入水 豚ぷん堆肥の基肥利用 ・緩効性窒素のある豚ぷん堆肥 ・基肥を50%、 100%代替 窒素供給パターン(予測) ※窒素が減少する時期がある 使った堆肥は緩効性窒素のある豚ぷん堆肥で、基肥を50%、100%代替しています。そして、施用直後に水を張っています。 予測される窒素供給パターンを載せていますが、移植時期と窒素の取り込みがほぼ重なる形になります。 村上ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第12報 新しい窒素肥効評価法に基づく水稲栽培実証」(土壌肥料学会2009年大会)より作成

基肥代替は、半量程度を上限にした方が良い 農家圃場での施用試験(水稲) 穂肥時の葉色はほぼ同じ(初期は薄い) 収量も落ちる 最高分げつ数は少ない 穂数は少ない 結果は、対照区に比べ初期の葉色は薄かったものの、穂肥時の葉色はほぼ同じでした。しかし、分げつ数は全量代替の場合少なく推移し、その影響で穂数が少なく、結果として収量も落ちました。半量代替では穂数が同等で、収量もあまり落ちていません。 この結果から、AD可溶有機物が多い豚ぷん堆肥を水稲の基肥に利用する場合は、代替率は半分以下に留めておいた方が良い、ということがわかります。 AD可溶有機物の多い豚ぷん堆肥の水稲の 基肥代替は、半量程度を上限にした方が良い 村上ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第12報 新しい窒素肥効評価法に基づく水稲栽培実証」(土壌肥料学会2009年大会)より作成

肥料的な効果を考えた利用方法一覧(水稲) 牛ふん堆肥 AD可溶有機物 < 250mg/g(乾物) AD可溶有機物 ≧ 250mg/g(乾物) C/N < 18 C/N ≧ 18 豚ぷん堆肥 鶏ふん堆肥(副資材なし) 水稲(秋施用) 水稲(春施用) 実際に行った圃場試験は限られていますが、その結果などから利用方法を一覧にしました。堆肥には土壌改良資材的な効果もありますが、ここでは含まれている窒素の有効利用を中心にまとめています。 まずは水稲への利用ですが、秋施用と春施用を分けています。秋施用では、AD可溶有機物が多い豚ぷん堆肥は「利用しない」としています。これは、速効性の窒素を利用できないことと、冬場を越えてから緩効性の窒素が効くと考えられるので、春先の窒素発現量や時期が正確に予測できないためです。 また、副資材を含まない鶏ふん堆肥は、秋施用しても何ら問題はないのですが、春施用すれば利用可能な窒素を、利用することが出来ないので、秋施用しない、としています。 AD可溶有機物が多い豚ぷん堆肥の春施用は、基肥代替は50%以下にするように、と注釈を付けています。 窒素が有効利用されないので×にしてある 基肥代替は50%以下と注釈を入れている 地温が低い時期に入るので×にしてある 加藤ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第14報 施用当作の窒素肥効からみた推奨すべき家畜ふん堆肥の施用法」(土壌肥料学会2009年大会)より作成

根菜類の作付は施用一週間後と注釈を入れる 利用方法一覧(野菜) 短期葉菜 中長期葉根菜 牛ふん 堆肥 AD可溶有機物 < 250mg/g(乾物) AD可溶有機物 ≧ 250mg/g(乾物) C/N < 18 C/N ≧ 18 豚ぷん 堆肥 AD可溶有機物 < 250mg/g(乾物) AD可溶有機物 ≧ 250mg/g(乾物) 野菜では、AD可溶有機物が多い牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥は、短期の葉物には使わないように、としています。 また、中長期の葉根菜については、検証は不十分なのですが、根菜の作付けを少し遅らせるように注釈を加えています。 鶏ふん堆肥(副資材なし) 後効きするものは短期の野菜では使わない 根菜類の作付は施用一週間後と注釈を入れる 加藤ら 「家畜ふん堆肥の窒素肥効の遅速に基づく評価法 第14報 施用当作の窒素肥効からみた推奨すべき家畜ふん堆肥の施用法」(土壌肥料学会2009年大会)より作成

より多くのケースでの検証が必要 残されている課題 圃場試験で検証を行なった作物・地域が限られている 検証できてない堆肥がある(密閉縦型方式の牛ふん堆肥・副資材入りの鶏ふん堆肥) このように利用方法をまとめていますが、課題は残されています。 一番の課題は、検証を行った作物や地域が限られている、ということです。地域によって作型などが違うので、地域ごとの検証が必要です。 また、肥効パターンの検証を行っていない堆肥もあります。そのような堆肥での検証を含め、より多くのケースでの検証が必要だと考えられます。 より多くのケースでの検証が必要