Be-7、Na-22などによる宇宙線強度時間変化 山形大理:櫻井敬久、菊池聡、佐藤太一、乾恵美子

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Be-7、Na-22などによる宇宙線強度時間変化 山形大理:櫻井敬久、菊池聡、佐藤太一、乾恵美子 (H21年度研究費:350千円、旅費:200千円) 年輪中の放射性炭素測定と 微量放射性同位元素分析 (H21年度研究費:190千円、旅費:200千円) 山形大理:櫻井敬久、菊池聡、佐藤太一、乾恵美子 、鈴木佳代、高橋唯 極地研:門倉昭、佐藤夏雄 名古屋大STE:増田公明、松原豊 UMSA IIF:W.Tavella

研究目的 過去の宇宙線強度変動と太陽活動の探索 現代の宇宙線生成核種の高時間分解能測定 による時間変動の統一的理解 宇宙線生成核種の利用(C-14,Be-7) 宇宙線スペクトル と太陽活動 大気気象情報 現代の宇宙線生成核種の高時間分解能測定 による時間変動の統一的理解 Air-mass motion Climate Aerosol

地表宇宙線生成核種の変動は、宇宙線強度変動を表しているか 現在の太陽11年周期活動を指標とした検証

Cosmogenic nuclide Solar magnetic fields Cosmic rays Geomagnetic fields Stratosphere 22Na 7Be 10Be Troposphere 14C

大気中Be-7の捕集と検出 回収した濾紙 ハイボリュームエアサンプラー 2000年から日変動を測定 山形大学理学部屋上にて 1000 L/min 23h稼動 実際に我々が行っている捕集と検出について説明します。 大気中で生成されたBe-7はエアロゾルとして降下してきます。 そのため、空気を吸引することでBe-7を捕集することができます。 我々は毎分1000Lの空気を吸引することができるサンプラーで山形大学理学部屋上にて毎日捕集を行っています。 吸引された空気がフィルターを通過することで、空気中のエアロゾルがフィルターに吸着されます。 1枚のフィルターに対して、23時間かけて捕集を行っています。 回収されたフィルターは、高純度ゲルマニウム検出器でBe-7が放出するγ線を測定します。 ガラス繊維濾紙 捕集効率: 99.99% (0.3μmの粒子) 高純度ゲルマニウム検出器

トピック Be-7濃度変動(2000---2009) Be-7濃度変動と地磁気擾乱の関係 アイスランドでの変動 チャカルタヤでの測定   アイスランドでの変動   チャカルタヤでの測定   2009年の太陽活動とBe-7濃度 古木年輪中のCー14濃度変動の地域性

日変動・年変動 ~solar cycle 23の極大期(2000年)から極小期(2007年)にかけて~ neutronデータ:WDCCR SSNデータ:SIDC これまでの観測で得られている日変動と年変動がこちらです。 太陽活動の極大期から極小期にかけて、約8年分のデータが得られています。 (日変動グラフの説明) 日変動では、「激しい変動」と「春・秋2ピークの2山構造」と「太陽活動の減衰に伴う増加」が特徴です。 (年変動グラフの説明) 年変動の変動率はそれぞれこのようになっており、中性子強度変動に比べて、Be-7の濃度変動が大きくなっています。 8年分の日変動データ 変動率(2007値-2002値)/2007値 Be-7@Yamagata: 37.4 % neutron: 12.2 % 特徴:激しい変動、春・秋の2ピーク、太陽活動の減衰に伴う増加(41.6%) 8年間の平均濃度:3.97 mBq/m3

Be-7濃度と地上中性子強度の変動 Be-7は季節変動が強く、これを除去するために全データに365点の移動平均をとった。 3年 Be-7@山形 Neutron@Thule 黒点数 Thule地上中性子強度の極小は、太陽活動極大から約3年遅れている。 山形Be-7濃度とThule地上中性子強度の変動パターンはよく一致している。スムージングデータ同士の相関係数は0.94と高い。 →地上中性子強度でBe-7濃度を説明できる。

GOES protonデータと地上中性子強度の変動 Be-7濃度の2003年問題 Neutron@Thule 黒点数 GOES Thule地上中性子とGOES衛星による高エネルギーproton(>700MeV)の変動はよく似ている。相関係数(スムージングデータ)は0.99。 静止軌道上にトラップされている放射線帯のprotonエネルギーは数MeV。 それに対して、700MeVは十分に大きく、銀河宇宙線を観測していると考えられる。そのため、このGOESデータを同じ変動を示している地上中性子強度変動は銀河宇宙線の強度変動を示している。 しかし、2002年~2004年頃(約2年間)にかけての変動が異なる。

Be-7濃度と地上中性子強度の変動 ~Ap指数と太陽風proton speed~ 宇宙線強度変動に影響する太陽風と地磁気に着目した。 Ap Proton Speed 同時期にAp指数、太陽風Proton Speedに顕著な変動が現れている。 Ap指数:Kp指数より算出された日ごとの指数。地磁気擾乱の程度を表す。 Proton Speed:ACE衛星観測による太陽風のProton Speed。 太陽風速度の上昇で、地磁気擾乱が激しくなっている。

地上中性子強度とBe-7濃度の変動パターンが2003年だけ異なることに着目した。

アイスランドでのBe-7 緯度 経度 標高 捕集開始 山形 38.25 140.3 153m 1993年 アイスランド 64.67 -21.2 120m 2003年9月 宇宙線強度に緯度効果が現れる。 Cut-off rigidity(宇宙線の入りにくさを示す指標): 山形:~10 GV 程度 アイスランド:~0.5 GV 程度 次に,観測地点について説明します。 我々は山形とアイスランドに同じBe-7捕集システムを設置し,連続観測を行っています。 山形は中緯度,アイスランドは高緯度となっており,その場所での宇宙線強度には緯度効果の影響が現れます。 Cut-off rigidityは宇宙線の入りにくさを示す指標で,値が大きいほど低エネルギー宇宙線が入りにくいことを表します。 従って,宇宙線強度はアイスランドの方が強くなっています。 アイスランドは山形と比べて,より低エネルギーの宇宙線も入射可能。従って,宇宙線強度はアイスランドの方が強い。 アイスランド

アイスランド・山形の年変動 地上観測の中性子強度変動(8.9%)に比べて,Be-7の濃度変動(44.5%)は とても大きい。 SSN Neutrons@Thule Be-7@Yamagata Be-7@Iceland Be-7濃度変動は極域上空の宇宙線強度変動を表していると考えられる。 Year 山形とアイスランドで変動パターンが異なるという問題は,太陽活動により,今後両者とも濃度が低下していくと予想されるので,その変動が手掛かりとなる。 こちらが,アイスランドと山形の年変動のグラフになります。 青い棒グラフが山形,ピンクの棒グラフがアイスランドのBe-7濃度で,赤い折れ線が太陽黒点数,オレンジの折れ線がThuleでの地上中性子強度です。 黒点数の変動は,太陽活動が2000年から2007年にかけて徐々に停滞して行く様子を表しています。 Be-7濃度と中性子強度は黒点数と逆相間の関係となり,太陽活動の停滞に伴って宇宙線強度が強まることを示しています。 また,同じBe-7でも山形とアイスランドで変動が異なっており,パターンとしては山形Be-7と地上中性子強度の変動がよく似ています。 変動率はそれぞれこのようになっており,地上観測の中性子強度変動(6.2%)に比べて,Be-7の濃度変動(30.1%)はとても大きいという結果になりました。 中性子強度変動は上空の方が,大きくなるために,Be-7濃度変動は極域上空の宇宙線強度変動を表していると考えられます。 山形とアイスランドで変動パターンが異なるという問題は,太陽活動により,今後両者とも濃度が低下していくと予想されるので,その変動が手掛かりとなります。 Cut-off rigidity Iceland (64.7 N) ~0.5 GV Yamagata (38.3 N) ~ 10 GV Thule (76.5  N) 0.00 GV 変動率(2004年から2008年) Be-7@Iceland: 44.5% Be-7@Yamagata: 27.3% SSN: 86.7% neutron: 8.9% 13

但し,アイスランドの季節変動は山形ほど明確なものではない。 アイスランドと山形の月変動 ピーク 山形:春・秋 アイスランド:春 谷 山形:冬・夏 アイスランド:秋 但し,アイスランドの季節変動は山形ほど明確なものではない。 2008年以降はアイスランドの 季節によるピーク領域が不明瞭になっている Be-7[mBq/m3] こちらのグラフは,アイスランドと山形でのBe-7濃度の月変動を表したものです。 灰色が山形,赤がアイスランドです。 ピークは,山形で春と秋。アイスランドで春。 谷は,山形で冬・夏。アイスランドで秋となっています。 但し,アイスランドの季節変動は山形ほど明確なものではありません。 Month

Observation of Be-7 at Chacaltaya

Be-7 concentrations @Chacaltaya Altitude Distribution mBq/m3 2009 Sept.-Oct.

Daily Be-7 concentrations from 2000 to 2009 @Yamagata

最近のBe-7濃度と太陽活動との比較 2008: 5.7 mBq/m3 2009: 6.3 mBq/m3

鳥海データとQL,UBデータの比較 鳥海とUB 鳥海とQL (UB-鳥海)差の加重平均: -23.8 ± 4.4 yr Difference of the 14C age Difference of the 14C age ○: UB – 鳥海 ○: QL – 鳥海 (UB-鳥海)差の加重平均: -23.8 ± 4.4 yr (QL-鳥海)差の加重平均: -22.8 ± 4.5 yr 鳥海神代杉(日本産樹木)とUB,QL(欧州産樹木)との間にオフセットがある。 14C濃度に換算すると約3‰、日本が欧州に対し濃度が低い。

14C年代おける鳥海とUB,QLとの時間変動の関係 相関係数: 0.83 傾き: 0.85 ± 0.12 相関係数: 0.68 傾き: 0.68 ± 0.11 相関がある → グローバルスケールでの大気中14C時間変動における一様性を確認 ここまでの内容について投稿済み (Suzuki, et al., Radiocarbon. submitted.)

East Asia Summer Monsoon (Cosford et al. 2009) (Kueh MT ・ Lin SC 2010)

年輪中の放射性同位体 金峰杉

Publication “Temporal variation of 7Be concentrations in atmosphere for 8 y from 2000 at Yamagata, Japan: solar influence on the 7Be time series”, S. Kikuchi, H. Sakurai et al. Journal of Environmental Radioactivity, 100, pp.515–521, 2009

まとめ 太陽の活動期から静穏期にあたる2000年からの10年間にわたるBe-7濃度測定結果を示した。2009年の濃度はまだ上昇している。 太陽風の変化や地磁気擾乱の情報を、大気中Be-7濃度の地表観測でとらえられている可能性がある。 アイスランドでのBe-7濃度変動は減衰期に入った可能性がある。 チャカルタヤでの観測を開始した。 約2600年前の年輪中C14濃度変動測定は、日本とヨーロッパでオフセットがあり、アジアモンスーンの影響が考えられる。