LHCの開く新たな宇宙物理 松本 重貴 (高エネルギー加速器研究機構).

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LHCの開く新たな宇宙物理 松本 重貴 (高エネルギー加速器研究機構)

I. イントロダクション 暗黒物質 素粒子物理学 宇宙物理学 Connection 暗黒物質の正体が解明され、その性質が明らか 1.全質量の22%、構造形成の種 2.標準模型を超える物理の証拠 LHC実験に期待される事: 暗黒物質の正体を解明し、その性質を調べる!! 暗黒物質の正体が解明され、その性質が明らか になった際の、宇宙論及び天文学に対する影響

具体例 II. TeVの物理と暗黒物質 1.超対称性 シナリオ (MSSM) 2.リトルヒッグス シナリオ (LHT) 何故LHCに暗黒物質の正体解明を期待するのか? 暗黒物質は標準模型を超える物理、特にTeV スケールの物理と深く関っている可能性大!! 具体例 1.超対称性 シナリオ   (MSSM) 2.リトルヒッグス シナリオ  (LHT) 3.TeVスケール余剰次元 シナリオ (UED) 4.…………..

1.超対称 シナリオ Neutralino 暗黒物質 Motivation ボソンとフェルミオンの間の対称性 ~ ~ ~ ~ ~ Quark  Squark Lepton  Slepton Gauge  Gaugino Higgs  Higgsino (R-even) (R-odd) c0 = ZBB + ZWW + ZHuHu + ZHdHd CMSSM 2 Motivation m0 (TeV) 1 ヒッグス質量に対する安定性 大統一理論 tanb = 50, A0 = 0  陽子崩壊を抑制→R-parity          ↓  最も軽い超対称性パートナー (LSP)は安定(暗黒物質の候補) 1 2 m1/2 (TeV) Roszkowski, Ruiz, Nihei

1.超対称 シナリオ LHCにおけるシグナル Motivation Missing Energy を伴うカスケード崩壊 ボソンとフェルミオンの間の対称性 LHCにおけるシグナル Quark  Squark Lepton  Slepton Gauge  Gaugino Higgs  Higgsino (R-even) (R-odd) Motivation ヒッグス質量に対する安定性 大統一理論 tanb = 50, A0 = 0  陽子崩壊を抑制→R-parity          ↓  最も軽い超対称性パートナー (LSP)は安定(暗黒物質の候補) Missing Energy を伴うカスケード崩壊

2.リトルヒッグス シナリオ E グローバル対称性 対称性の破れはヒッグスの 10 TeV (わずかに破れている) 質量に対する2次発散が  グローバル対称性 (わずかに破れている) 対称性の破れはヒッグスの 質量に対する2次発散が 1ループレベルで相殺するよう アレンジされている。 ヒッグスは始めから理論に 入っているわけではなく、 対称性の破れ結果現れる    (QCDのpと類似) 10 TeV  グローバル対称性    が自発的に破れる 1 TeV ヒッグス粒子が 擬NGボソンとして出現 リトルの意味 パイオン 0.1 TeV 対称性の破れのアレンジの為軽いヒッグス(リトルヒッグス)を予言

2.リトルヒッグス シナリオ AH = ZBBH + ZWW3H Heavy Photon 暗黒物質 グローバル対称性に付随したパートナー達 Gauge  Heavy Gauge       (但し gluon 以外) Higgs  Triplet Higgs Top quark  T-odd top    ↑    ↓ Top partner  T-odd Top partner (T-even)   (T-odd) AH = ZBBH + ZWW3H LHT LEPからの制限→T-parity        ↓ 最も軽いTパートナー(LTP) は安定(暗黒物質の候補) Asano, S.M, N.Okada, Y.Okada  26日(月) Asano-san’s talk

2.リトルヒッグス シナリオ LHCにおけるシグナル Missing momentumを伴う トップクォーク対生成 グローバル対称性に付随したパートナー達 LHCにおけるシグナル Gauge  Heavy Gauge       (但し gluon 以外) Higgs  Triplet Higgs Top quark  T-odd top    ↑    ↓ Top partner  T-odd Top partner (T-even)   (T-odd) jet b-jet jet jet b-jet W jet T– W t t t p p T– AH AH LEPからの制限→T-parity        ↓ 最も軽いTパートナー(LTP) は安定(暗黒物質の候補) S.M, D.Nomura, M.M.Nojiri Missing momentumを伴う   トップクォーク対生成  26日(月) Asano-san’s talk  26日(月) Nomura-san’s talk

3.TeVスケール余剰次元シナリオ 余剰次元はTeVスケールで コンパクト化されている。 余剰次元の効果は、標準模型の 粒子達に付随する カルツァクライン(KK)励起状態 として観測 新しい物理のパラメータとして 導入されるパラメータが少ない。 (5 dim UED の場合、1/Rのみ) 暗黒物質の安定性が、余剰次元 方向の運動量保存則により保障 E 10 TeV 高次元の理論   標準理論 +KK励起状態 1 TeV 0.1 TeV 標準模型

3.TeVスケール余剰次元シナリオ A(1) = ZBB(1) + ZWW3(1) 1st KK Photon 暗黒物質 Quark  n-th KK quark Lepton  n-th KK lepton Gauge  n-th KK gaugino Higgs  n-th KK Higgs (KK-even) (KK-odd for odd n   KK-even for even n) A(1) = ZBB(1) + ZWW3(1) Minimal UED 5次元方向の運動量保存則 +コンパクト化→KK-parity         ↓ 最も軽い1st KK 粒子 (LKP) は安定(暗黒物質の候補) M.Kakizaki, S.M, M.Senami

3.TeVスケール余剰次元シナリオ LHCにおけるシグナル Quark  n-th KK quark Lepton  n-th KK lepton Gauge  n-th KK gaugino Higgs  n-th KK Higgs (KK-even) (KK-odd for odd n   KK-even for even n) Missing Energy を伴うカスケード崩壊   (SUSY と 酷似) 5次元方向の運動量保存則 +コンパクト化→KK-parity         ↓ 最も軽い1st KK 粒子 (LKP) は安定(暗黒物質の候補) m Z(2) KK-even m 2nd KK 粒子生成 (Z’-search と基本的に同じ)

III. 宇宙論への影響 nDM / ng 暗黒物質の対消滅断面積が現在の宇宙における 暗黒物質の残存量(暗黒物質の質量密度)を決定 初期宇宙における暗黒物質の振る舞い Increasing 〈σv 〉 nDM / ng 1 10 100 1000 m/T (time ) 熱平衡 nDM / ng = 一定  対消滅反応の凍結 ( H = Γ= 〈σv 〉nDM ) 暗黒物質の対消滅断面積が現在の宇宙における 暗黒物質の残存量(暗黒物質の質量密度)を決定

宇宙背景放射の揺らぎ観測WMAP,Planck LHC実験結果 暗黒物質の 対消滅断面積を評価 現在の宇宙における暗黒物質残存量を予言 比較 宇宙背景放射の揺らぎ観測WMAP,Planck

比較プロセスのデモンストレーション (MSSM) サンプルポイント LHCとWMAPの比較 0.3 0.2 WMAP 残存量 LHC 0.1 100 200 暗黒物質の質量:         5%の精度 対消滅断面積:         7%の精度 暗黒物質の質量(GeV) E.A.Baltz, et.al. (hep-ph/0602187)

比較プロセスのデモンストレーション (MSSM) サンプルポイント LHCとWMAPの比較 0.3 0.2 WMAP 残存量 0.1 LHC 100 200 暗黒物質の質量:        10%の精度 対消滅断面積:         Impossible 暗黒物質の質量(GeV) Neutralino と stau が縮退 残存両は2粒子間の質量 差に強く依存。 E.A.Baltz, et.al. (hep-ph/0602187)

LHCで作り出した粒子は本当に暗黒物質か? 銀河ハロー 地球 暗黒物質と通常物質との 散乱の際放出される エネルギーを利用する。 シグナルは暗黒物質と核子の散乱断面積で決まる

宇宙背景放射の揺らぎ観測WMAP,Planck 暗黒物質の 直接検出観測CDMS,Xmass LHC実験結果 暗黒物質の 対消滅断面積を評価 暗黒物質と核子の散乱断面積を評価 現在の宇宙における暗黒物質残存量を予言 直接検出観測におけるシグナルを予言 比較 比較 宇宙背景放射の揺らぎ観測WMAP,Planck 暗黒物質の 直接検出観測CDMS,Xmass

比較プロセスのデモンストレーション (MSSM) サンプルポイント 10-6 LHC 10-8 散乱断面積(pb) 10-10 0.01 0.1 1 暗黒物質の質量(TeV) 散乱断面積:      10-9~10-8(pb) E.A.Baltz, et.al. (hep-ph/0602187)

比較プロセスのデモンストレーション (MSSM) サンプルポイント LHC 10-6 10-8 散乱断面積(pb) 10-10 0.01 0.1 1 暗黒物質の質量(TeV) 散乱断面積:      10-9~10-6(pb) E.A.Baltz, et.al. (hep-ph/0602187)

IV. 天文学への影響 暗黒物質の間接的検出観測 対消滅 シグナルは 暗黒物質の対消滅断面積 と宇宙(銀河)の構造 (例:暗黒物質密度) 暗黒物質 → ← 暗黒物質 シグナルは 暗黒物質の対消滅断面積   と宇宙(銀河)の構造   (例:暗黒物質密度)      で決まる 地球 高エネルギー粒子線

宇宙背景放射の揺らぎ観測WMAP,Planck 暗黒物質の 直接検出観測CDMS,Xmass 暗黒物質の 間接検出観測GLAST等 LHC実験結果 暗黒物質の 対消滅断面積を評価 暗黒物質と核子の散乱断面積を評価 暗黒物質の 対消滅断面積を評価 現在の宇宙における暗黒物質残存量を予言 直接検出観測におけるシグナルを予言 暗黒物質の分布等の宇宙の構造を調べる 比較 比較 宇宙背景放射の揺らぎ観測WMAP,Planck 暗黒物質の 直接検出観測CDMS,Xmass 暗黒物質の 間接検出観測GLAST等

γ線を用いた観測 γ線フラックス∝(sv) ×n2DM (nDM: 暗黒物質の数密度) ⇒ 銀河内における暗黒物質分布の評価 1 G.Beltone, et.al. (hep-ph/0404175) 1 高エネルギーγ線 銀河中心からのγ線 10-5 地球 10-10 10-15 0.1 1 10 100 γ線のエネルギー(GeV) γ線フラックス∝(sv) ×n2DM (nDM: 暗黒物質の数密度) ⇒ 銀河内における暗黒物質分布の評価

反陽子を用いた観測 反陽子フラックス∝ (sv) ×銀河内磁場の体積 ⇒ 銀河磁場が(垂直)方向にどの程度広がっているか評価 Hisano, S.M., Senami, Saito(2006) 高エネルギー反陽子 地球 銀河内磁場 反陽子の運動エネルギー(GeV)      反陽子フラックス∝ (sv) ×銀河内磁場の体積 ⇒ 銀河磁場が(垂直)方向にどの程度広がっているか評価

まとめ LHC実験は、素粒子物理学においてのみならず   宇宙物理学にとっても非常に重要。 特にLHCにおいて暗黒物質の正体解明が期待される。 LHCの実験結果と宇宙物理の観測を比べる事により、   宇宙最初期での熱史、現在の宇宙の構造について 調べる事が可能である(暗黒物質天文学の始まり)。 議論 LHC(ILC)で、暗黒物質の性質決定がどの程度の精度   で行えるか? 暗黒物質を用いた宇宙の構造探査は、どの程度の精度 LHC実験で、暗黒エネルギーについて何か言えるか?