追加参考文献 Nielsen, Kuniko, Y. 2015 Continuous versus categorical aspects of Japanese consecutive devoicing. Journal of phonetics 52, 70-88 Oberly, Stancy and Viktor Kharlamov 2015 The phonetic realization of devoiced vowels in the southern Ute language. Phonetica 72, 1-19 Tsuchida, Ayako 1997 Phonetics and phonology of Japanese vowel devoicing. Doctoral dissertation. Cornell University Tsuchida, Ayako 2001 Japanese vowel devoicing: cases of consecutive devoicing environment. Journal of east Asian linguistics 10(3), 225-245 2017/1/27
どの母音も潜在的には無声化しうる 世界の無声化 フランス語(モントリオール)[desi̥garet] ‘cigarettes’ (Beckman 1993) Southern Ute [ko̥pokitiː] ‘to cause to break’ (Oberly et al. 2015) Comanche語 [ʔ u’ku ʔ okʷekʷai ʔ u ʔ] ’She went to render it.’ [ʔ u’ku ʔ okʷe̥kʷai ʔ u ʔ] ’She rendered it and went on.’ (Kondo 1997) 2017/1/27
無声化に影響をあたえる要因 ①:音声環境(先行する子音、 後続する子音、無声化する母音、 隣接する拍の母音) ②:アクセント ③:連続無声化 ④:形態素境界・語境界 ⑤:地域差 ⑥:発話速度 ⑦:スピーチスタイル 2017/1/27
無声化の法則(まとめ) ⅰ) 母音/i/または/u/ ⅱ) 無声子音にはさまれたとき 例外 無声摩擦音が後続する場合は、無声化しにくい 共通語の母音の無声化 「次のような一般的な法則がある」 「法則Ⅰ 《キ》《ク》《シ》《ス》《チ》《ツ》《ヒ》《フ》《ピ》《プ》《シュ》などの拍が、《カ》《サ》《タ》《ハ》《パ》などの各行の拍の直前にきたとき」 母音の無声化の例外 「無声化する拍の次に、サ行音やハ行音、そして《シャ》 《シュ》 《ショ》などの拍がくると、アクセントに関係なく無声化しにくく、また、無声化しなくても不自然に聞こえない。」 『日本語発音アクセント辞典』(1985*) 無声化の法則(まとめ) ⅰ) 母音/i/または/u/ ⅱ) 無声子音にはさまれたとき 例外 無声摩擦音が後続する場合は、無声化しにくい 2017/1/27
「NHK日本語アクセント新辞典」(2016) A:原則として無声化する B:無声化することがきわめて多い C:無声化が多い D:無声化することがある E:原則として無声化しない 無声化のしやすさ C1 C2 A St/Af/Fr St/Af B St/Af, /h/ Fr(non-/h/) C /h/ D E (促音の直前はDランク) St:閉鎖音 Af:破擦音 Fr:摩擦音 2017/1/27
無声化のしやすさ C1 C2 説明 NHK 典型的(typical) 非典型的(atypical) Fujimoto (2015) 無声化のしやすさ C1 C2 説明 NHK 典型的(typical) St/Af/Fr St/Af 規則的によく無声化する A St Fr(non-/h/) (B) 非典型的(atypical) Af/Fr 不規則に弱く(moderately)無声化する (B),E /h/ C,D,E (促音の直前は「非典型的」) 2017/1/27
無声化のしやすさ C1 C2 説明 無声化率(藤本2004) 典型的(typical) 非典型的(atypical) Fujimoto (2015) 無声化のしやすさ C1 C2 説明 無声化率(藤本2004) 典型的(typical) St/Af/Fr St/Af 規則的によく無声化する 100% St Fr(non-/h/) 非典型的(atypical) Af/Fr 不規則に弱く(moderately)無声化する 58% 85%(C1=/h/) /h/ 13% 15%(C1=/h/) 藤本(2004)のデータの音声環境は/C1iC2e/ 2017/1/27
NHK新版の分類と無声化率の比較 無声化のしやすさ C1 C2 データ(CSJ)† データ(藤本) A St/Af/Fr St/Af 95% 100% B St/Af, /h/ Fr(non-/h/) 69% 100%/85%(C1=/h/) C /h/ 28% 23% D 30% 13% E 54% 58% 39% 15% †Maekawa & Kikuchi (2005) 藤本(2004)のデータの音声環境は/C1iC2e/ 2017/1/27
1)閉鎖音・破擦音の直前ではよく無声化する 一致しない点(アクセント辞典では) 1)摩擦音間の無声化が生起しにくい 一致する点 1)閉鎖音・破擦音の直前ではよく無声化する 一致しない点(アクセント辞典では) 1)摩擦音間の無声化が生起しにくい 2)/h/直前の環境を区別している(C,D,E) NHKアクセント辞典 Fujimoto 無声化のしやすさ C1 C2 A St/Af/Fr St/Af B St/Af, /h/ Fr(non-/h/) C /h/ D E 無声化のしやすさ C1 C2 典型的(typical) St/Af/Fr St/Af St Fr(non-/h/) 非典型的(atypical) Af/Fr /h/ 2017/1/27
無声化連続 佐久間(1929) 無声化が二音節に及ぶことも往々 ある(ゆっくりいうときは、普通 第一音節だけ無声になる)。 「クチサキ」 「シチシャク」 「キクチ」 「ツツソデ」 位置 アクセント辞典† CSJ V1のみ 63.5% 54.1% V2のみ 35.4% 13.9% V1/V2 0.7% 26.6% なし 0.4% 5.4% † 河井 et al.(1995) 2017/1/27
単独無声化 無声化連続 高くしない 高くして 白くしない 白くして くどくしない くどくして 甘くしない 甘くして 遅くしない 遅くして 単語 タイプ V1 無声化なし 高くしない St-Fr(B) 15 1 白くしない 16 くどくしない 甘くしない 13 3 遅くしない 11 5 (n=16) 2017/1/27
無声化連続 (n=16) 単語 タイプ V1 V2 V1/V2 無声化なし 高くして St-Fr(B) Fr-St(A) 13 2 白くして 無声化なし 高くして St-Fr(B) Fr-St(A) 13 2 白くして 1 くどくして 14 甘くして 16 遅くして 熱くしない Af-St(A) 安くしない (n=16) 2017/1/27
無声化連続 (n=16) 単語 タイプ V1 V2 V1/V2 無声化なし 質的 Fr-Af(A) Af-St(A) 4 3 9 本質的 6 無声化なし 質的 Fr-Af(A) Af-St(A) 4 3 9 本質的 6 2 8 物質的 10 単語 タイプ V1 V2 V3 V1/V2 V1/V3 V2/V3 V1/V2/V3 なし 熱くして Af-St(A) St-Fr(B) Fr-St(A) 1 13 安くして 15 (n=16) 2017/1/27
有声子音に隣接する無声化 「むすめ」「すぎ」(深井) 「ペンシル」(Beckman) 「ですよ」(Han) 有声子音が後続する無声化率(CSJ) 無声化率 C2 接近音 有声摩擦音 流音 鼻音 有声閉鎖音 C1 破擦音 12.8/13.8 9.7/20.6 8.4/6.9 18.2/28.3 9.4/12.9 摩擦音 20.2/46.5 8.7/16.7 10.4/5.5 38.4/65.6 10.2/22.1 閉鎖音 5.8/4.7 5.7/2.6 2.0/3.1 9.6/3.8 5.9/5.0 (数字は/i/、/u/の順 単位%) 2017/1/27
有声子音(/n/)が後続する無声化 ☝ 後続子音 先行子音 有声閉鎖音 鼻音 摩擦音 閉鎖音 破擦音 休止 2% 35% 94% 92% 後続子音 先行子音 有声閉鎖音 鼻音 摩擦音 閉鎖音 破擦音 休止 2% 35% 94% 92% 15% 0% 1% 74% 85% 73% 8% 27% 83% 12% ☝ 河井(1995)のデータより作成 (摩擦音に/h/も含まれていることに注意) 2017/1/27
非狭母音の無声化 /a/ /i/ /u/ /e/ /o/ 河井 (すべての環境) 0.03% 8.22% 8.31% N/A 0.003% CSJ(無声子音間) 2.1% 89.15% 84.25% 3.31% 3.45% 2017/1/27
非狭母音の無声化 NHKアクセント辞典(1985) アクセントが低い語頭の《カ》《コ》の拍で、次に、同音の高い拍がくるとき(「カカシ」「ココロ」) アクセントの低い語頭の《ハ》《ホ》の次に、母音の[a]または[o]を含む拍がくるとき(「ホコリ」「ハカ」) 佐久間(1929) 「ハハ」「カカル」(往々) 同音 「タタク」「タスキ」「ハカマ」(不用意の発音) 同音/同母音 「ココロ」(常時) 同音 「ココ」(有声も無声もある) 同音 「コトシ」「ソトボリ」(不用意の対話) 同母音 2017/1/27
同音の場合の無声化率(CSJ) 隣接する拍内母音の影響 無声化率 母音 同音 非同音 /a/ 10.5% 2.1% /e/ 4.3% 3.31% /o/ 22.3% 3.45% 後続モーラ母音 /i/ /u/ /a/ 平均 79.5% 70.7% 88.6% 79.8% 70.5% 76.7% 86.0% 77.7% 75.0% 73.8% 87.4% 2017/1/27
無声化モーラの知覚 置換なし 破裂置換 気息置換 実験概要 ・語頭 (/CVpa/ C=p,t,k Vは無声化) ・破裂の開始部から1/4または後続子 音の閉鎖開始直前1/2を雑音で置換 ・被験者:5名 ・実験回数:4回 置換なし 閉鎖(cl) 破裂(b) 気息(as) 破裂置換 気息置換 cl b as cl b cl b as cl b cl b as cl b 2017/1/27
・破裂の開始時点から10、30、50、 70(msec)を雑音で置換する ・被験者:5人 ・実験回数:3回 柏野(1992) ・語中(/aCe/ C=p,t,k) ・破裂の開始時点から10、30、50、 70(msec)を雑音で置換する ・被験者:5人 ・実験回数:3回 2017/1/27
無声化母音を探せ 聴覚印象:{摩擦音・破擦音}+狭母音+{閉鎖音・破擦音} (ミラー 1969) 知覚実験:母音は必要ではない 調音上の観察:喉頭のEMG・声門動態・舌運動 (Hirose 1971 Fujimoto 2015 Kawahara 2016) レキシコンの問題 (Ogasawara 2012) 2017/1/27