J-PARCの偏極陽子ビームを用いた 核子スピン構造の解明

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J-PARCの偏極陽子ビームを用いた 核子スピン構造の解明 KEK研究会 「核子の構造関数2008」 2008年1月12日(土) 後藤雄二(理研/RBRC)

内容 イントロ J-PARC Drell-Yan実験の物理 核子スピン構造 RHICの偏極実験の状況、結果 縦偏極実験:核子スピンのフレーバー構造 横偏極実験:軌道角運動量の寄与 その他 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

核子スピン構造 Fundamentalな対象であるにもかかわらず、理解されていない QCDを基盤とする研究方法が発展している Q2 evolution + factorization + universality global QCD analysis of e++e-, e+p, and p+p(or pbar) data unpolarized/polarized parton distribution functions fragmentation functions 縦偏極実験と横偏極実験 クォークスピンとグルーオンスピンの寄与 クォークとグルーオンの軌道角運動量の寄与 なぜ核子スピンがおもしろいかというと、スピンというのがfundamentalな対象であるにもかかわらず核子のスピンを何が担うのかすら、理解されていないからでして、それに対してQCDを基盤とする研究方法が発展しているからです。 核子スピンの構造は核子の構造を調べるとともにQCDに対するテスト、理解となります。 ここでいうQCDを基盤とする方法を簡単に言うと、といってもキーワードを並べるだけですが、Q2発展方程式とfactorizationと実験により決定されるパートン分布関数のuniversalityからなるもので、e+e-、e+p、pp または ppbar のデータをグローバル解析という手法で偏極、非偏極のパートン分布関数や破砕関数を決定しています。 ここで偏極の場合、実験データは縦偏極実験と横偏極実験から得られるものがあります。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

核子スピン1/2の起源 ? EMC実験@CERN 中性子およびハイペロン崩壊データを用いて x = 0 ~ 1 の積分による不確定性 クォークスピンは核子スピンの小さな割り合いにしか寄与しない x = 0 ~ 1 の積分による不確定性 より広いx領域を覆う、よりよい精度のデータが必要 SLAC/CERN/DESY/JLAB 実験 J. Ashman et al., NPB 328, 1 (1989). 「陽子スピンの危機」 まずは縦偏極実験の話ですが、そもそもの始まりは、深非弾性偏極レプトン散乱実験による核子スピンに対するクォークスピンの寄与の測定です。 これがまずは SLAC で行なわれ、続いて CERN で精度を上げて EMC という実験が行なわれ、A1 に対して、この図のデータが得られました。これから偏極構造関数g1のx=0-1の積分をすると、u-quark, d-quark, s-quarkのこのような和が計算できます。そしてこれを中性子やハイペロンのベータ崩壊のデータと組み合わせることにより目的の、核子中の全クォークの寄与、delta-Sigma が計算できます。 しかし、その結果はとても奇妙なものでした。ナイーブには多くの核子スピンはこのクォークからの寄与で説明できると考えられていましたが、結果はこのように多く見積もって半分以下、ゼロとコンシステントなものでした。 この辺のSLAC実験からは、このようなクォークスピンで核子スピンを説明するような予想がなされていましたが、EMC実験はそれより非常に小さいasymmetryを示したわけです。 この結果を得るにはx=0-1の積分が行なわれていますが、このデータが覆う範囲はまだまだ小さかったので、その後より高精度の実験が SLAC/CERN/DESY/JLAB で続けられました。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

偏極レプトン深非弾性散乱実験 クォークスピンの寄与 核子スピン1/2の起源は何か? グルーオンスピンの寄与? 軌道角運動量? そしてこれまでに陽子、重陽子、中性子ターゲットについてそれぞれ高精度のデータが得られました。 しかしそこで得られた核子スピンのクォークからの寄与はやはり20%程度、クォークだけですべての核子スピンの大きさが説明できません。 ではその他に何が考えられるかというと、グルーオンからの寄与とクォークおよびグルーオンの持つ軌道角運動量です。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

グルーオンスピンの寄与 偏極深非弾性散乱実験のスケール則の破れ semi-inclusive 深非弾性散乱実験 偏極ハドロン衝突実験 摂動QCDの発展方程式の重要な成功 Q2の範囲が限られている semi-inclusive 深非弾性散乱実験 高pTハドロン対生成 オープンチャーム生成 偏極ハドロン衝突実験 光子の直接生成、重いフレーバー生成 高pTハドロン生成、ジェット生成 B. Adeba et al., PRD 58, 112002 (1998). P.L. Anthony et al., PLB 493, 19 (2000). グルーオンの寄与については新たな実験を行わなくても偏極DISのスケール則の破れを用いてDIS実験から導出することができます。これ自体は摂動QCDの発展方程式を用いた重要な成功を示すのですが、しかし、Q2の覆っている範囲が限られているため、十分な精度では決定できません。CERNのSMC実験の行なったQCD解析の結果もSLACのE155実験の行なった結果もともにグルーオンの寄与は正の値に寄ってはいますが、まだ負でないとは言えない値です。 そこでグルーオンの寄与を直接測定する試みが始まりました。ひとつの方法は semi-inclusive DIS と呼ばれる方法で、DIS で散乱されたレプトンに加え、仮想光子とグルーオンがカップルしてできる終状態を同時に検出する方法です。終状態としては、軽クォーク対からの高pTのハドロン対や、heavy flavor からの open charm 生成を捕らえます。 もうひとつの方法は偏極ハドロン衝突実験で、光子の直接生成、重いフレーバー生成や、高いpTのハドロン生成、ジェット生成などを捕らえます。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

グルーオンスピンの寄与 PHENIX ALL in neutral pion production mid-rapidity || < 0.35, s = 200 GeV G = 0.4 at Q2=1(GeV/c)2 グルーオンスピンの寄与の測定に対して、我々のグループが参加して行っているPHENIX実験からの現状だけ話すと、PHENIX実験からは 今のところmid-rapidity 領域でのpi0 のdouble-helicity asymmetry A_LL がグルーオン偏極に対する情報として得られています。 黒で示されるのが2005年のランに対する最終結果、青で示されるのが2006年のランに対するpreliminaryな結果で、GRSVグループの理論計算と比較されています。 pi0生成の場合、ALL にはgluon-gluon, gluon-quark, quark-quark の反応が含まれ、その和で表されます。 この図はそれぞれの持つ割合をpTごと示したもので、この実験データのpT領域、1 GeV/c から 8 GeV/c ではgg とqg がドミナントです。結果はこの2つの和となります。 G = 0.1 at Q2=1(GeV/c)2 gg + qg dominant sensitive to the gluon reaction 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Calc. by W.Vogelsang and M.Stratmann グルーオンスピンの寄与 PHENIX ALL of 0 GRSV-std scenario, G = 0.4 at Q2 = 1(GeV/c)2, excluded by data on more than 3-sigma level, 2(std)2min > 9 only experimental statistical uncertainties included (the effect of systematic uncertainties expected to be small in the final results) theoretical uncertainties not included Calc. by W.Vogelsang and M.Stratmann 実験結果とGRSVグループの理論計算を較べて得られるchi^2をDelta-G、グルーオンスピンの寄与を横軸に書いたのがこちらの図です。 前のスライドと同様、黒で示されるのが2005年のランに対するもの、青で示されるのが2006年のランに対するもので、3-sigma level、minimum point から9以上はなれているものを棄却すると、40%のグルーオンスピンの寄与に対応するGRSV-standardシナリオと呼ばれるものは棄却されます。 つまり、グルーオンスピンの寄与もまたかなり小さく30%以下、ひょっとするとゼロか負というのが現状でわかってきていることです。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

クォーク偏極分布のフレーバー依存 weak boson production RHIC spin s = 500 GeV 2009 – parity-violating asymmetry AL no fragmentation ambiguity 縦偏極実験のイントロとして、もうひとつクォーク偏極分布のフレーバー依存の測定の話を後々の関係でしておきます。 核子スピンに対するクォークスピン、グルーオンスピンの寄与の測定をより高い精度で確定するためには、クォークとグルーオンの分布はQ2 evolution により互いに混じるので、クォークの偏極分布のフレーバー依存まで測定することが重要です。 このひとつの、最も実験的精度の高い方法が weak-boson生成を用いることで、RHICで500GeVの偏極陽子衝突により、2009年より開始されます。 ここで測定するのは、parity-violating asymmetry A_L で、これはこのような式で表され、ラピディティー領域を制限することにより、u-quark, d-quark, ubar, dbar のそれぞれの偏極度をこちらの図のような精度で得ることができます。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

横偏極非対称度測定 SSA (Single Spin Asymmetry)、左右非対称度 前方 xF > 0.2 Fermilab-E704 固定標的実験 s = 19.4 GeV 非対称度 ~20% 多くのQCDに基づく理論の開発 続いて横偏極実験についてイントロとして少し説明すると、まずだいじなのは、SSA, single-spin asymmetry と呼ばれる衝突する粒子のうち片方が偏極している場合の非対称度で、A_Nという形で表すと、これはleft-right asymmetry のことです。より精密にはこちらの図に示すように、角分布のmodulationを測ります。 この測定として最初に得られた重要な結果はFermilabのE704実験によるものです。この実験はsqrt(s)=19.4GeVの固定標的実験で、前方領域にこのような20%を超えるような大きなasymmetryが発見されました。こちらがpi+, pi0, pi-, そしてetaの結果です。そして、この結果に対して多くのQCDに基づく理論が開発されました。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

SSA(Single Spin Asymmetry)測定 前方 RHIC実験 s = 200 GeV +  K 同様の結果は衝突エネルギーが10倍大きいRHIC実験からも得られています。こちらがSTAR実験のpi0の結果、こちらがBRAHMS実験のpi+-, K+-, p+- の結果です。 p 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

分布関数と破砕関数 Transversity分布関数 Sivers分布関数 Collins破砕関数 横方向に偏極した陽子内部におけるパートンの横方向スピンの分布 Sivers分布関数 陽子の横方向スピンと、陽子内部の非偏極パートンの横方向運動量(pT2)との相関 Collins破砕関数 破砕するパートンの横方向スピンと、生成されたハドロンのパートンに対する横方向運動量(kT2)との相関 QCD理論としては、これを様々な新たな分布関数、破砕関数で説明しようとするのですが、そのうちの主なものを挙げると、 Transversity分布関数というのは、… Sivers分布関数というのは、… Collins破砕関数というのは、… です。 E704やRHICの結果は、Sivers関数に起因するSivers効果や、TransversityとCollins関数を組み合わせて得られるCollins効果などから説明することができます。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

イントロのまとめ RHICその他の偏極実験で、核子スピンに対するグルーオンスピンの寄与についての決着は着く 次は核子スピンに対する軌道角運動量の寄与の測定、決定 横偏極に対する非対称度については、わかっていないことがまだまだある 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Drell-Yan実験 ハドロン衝突で最も単純な過程 Sea-quark分布のフレーバー非対称性 核子内部の軌道角運動量? QCDからのfinal-state effectがない 偏極Drell-Yan実験はこれまで行なわれていない Sea-quark分布のフレーバー非対称性 非偏極測定と縦偏極測定 核子内部の軌道角運動量? Sivers効果(Collins効果はない) Transversity分布関数など DIS Drell-Yan Drell-Yan過程は、こちらのDIS diagramを回転させたこちらの過程で、ハドロン衝突では最も単純な過程です。 この過程に対してQCDからのfinal-state effectはありません。そして、この過程に対する偏極実験はこれまでやられたことはありません。 この過程により多くの測定ができるにもかかわらずです。Sea-quark分布のflavor asymmetryは後で示すように非偏極実験は行われていて、非常に重要な結果が得られています。これを偏極実験で行えばSea-quark polarizationのflavor asymmetryが得られます。 横偏極実験では、陽子中のパートンの軌道角運動量からの寄与がSivers効果から導かれると期待できます。 Drell-Yan実験が優れているのは、final-state effectであるCollins効果がないことです。そしてtransversityその他の未知の分布関数の測定もできます。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Drell-Yan実験 なぜJ-PARCか? 偏極陽子ビームの可能性 高強度、高輝度 日本とBNLの加速器グループによる技術的な可能性の議論 そして、高強度であるからで、これはDrell-Yan反応のcross sectionが小さいため、高強度を誇るJ-PARCがまさに最適な場所です。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Sea-quark分布のフレーバー非対称性 Fermilab E866 Drell-Yan実験 Sea-quark分布のフレーバー非対称性を決定的に示したのがdimuon実験のFermilab-E866実験です。 Drell-Yan実験ではsigma_pdとsigma_ppの比から、この式で表されるようにdbarとubarの比が出てきます。この比が1より大きいということはdbarがubarより大きいということです。dbar-ubarは0.1程度という値が得られました。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Sea-quark分布のフレーバー非対称性 起源 meson-cloud模型 仮想的なmeson-baryon状態 カイラルクォーク模型 インスタントン模型 カイラルクォークソリトン模型 Sea-quarkのフレーバー非対称性はいろいろな模型によって説明されていて、有名なのが、meson-cloud模型で、陽子中にvirtualにmeson-baryon stateを考えるもので、chiral-quark模型では、valence quarkからのパイ粒子への分岐を考えるので、meson-clout模型に比べ、dbar分布がソフトになるようです。 他に、インスタントン模型やchiral-quarkソリトン模型による計算などあるようですが、… 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Sea-quark分布のフレーバー非対称性 + は陽子中の余分な dbar の起源だろうか? E866実験の結果はmeson-cloud模型の計算がよく合うようです。 つまり、pi+が陽子中の余分なdbarの起源だろうか?ということですが、 こちらの図の示すように、dbar-ubarはvalence quark分布のピークのちょっと下、x~0.1あたりにピークがあって、質量比で言うとパイオンよりもちょっと小さいかもしれませんが、dbarの量はこのxの領域でこれがdbar-ubarを5倍に拡大していることを考えても、dの1/5程度と、かなり大きいことがわかります。 陽子中のpi+が余分なdbarのソースであるかどうかは興味深い問題で、それに対して偏極実験が新たな情報を加えることを期待しています。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

J-PARC dimuon実験 800-GeVビームでのFermilab実験のスペクトロメータがベース 長さを短く、apertureはできるだけ広く保つ 2台のbending-magnet、pT キック2.5-GeV/cと0.5-GeV/c 3-stationのMWPCとドリフトチェンバーによるtracking ミューオンIDとtracking tapered copper beam dump and Cu/C absorbers placed within the first magnet J-PARCでのDrell-Yan実験としてのdimuon実験はFermilabのE866実験の800GeVビームに対するスペクトロメータを基に、50GeVビームに合わせて長さを短く、そしてできるだけアパーチャーを広く保つ方針でデザインを考えます。 構成は簡単で、2台のbending magnet、pTキック2.5GeV/cと0.5GeV/cで、1台めの大きいほうは銅のビームダンプと銅と炭素のアブソーバーで埋められます。MWPCとドリフトチェンバーの3つのステーションの後ろにミューオンIDとtracking detectorを設置します。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

J-PARC dimuon実験 非偏極実験 陽子ビームと陽子および重陽子ターゲット 2008年1月12日(土) 左図は先ほどのE866の結果で、右図がmain-injectorの120GeVを用いたE906実験とJ-PARCの50GeVを用いた実験の与えるsea-quarkのx領域と統計精度です。E906はx=0.4まで、J-PARCはx=0.5まで、coverageを拡げます。面白いのは、E866はxの大きい領域でdbar/ubarが1以下になる可能性を示していて、それに対する答えが得られるはずです。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

J-PARC dimuon実験 縦偏極Drell-Yan実験 ALL測定 sea-quark偏極分布のフレーバー非対称性 GS-C GS-A chiral quark soliton model prediction GS-C GS-A GRSV このSea-quarkのフレーバー非対称性の実験を縦偏極したビームとターゲットを用いて行うと、sea-quarkのpolarization、陽子スピンの寄与に対するフレーバー非対称性、Delta-ubar – Delta-dbarが得られます。 この差は例えば左図の示すようにchiarl-quarkソリトン模型ではdbar-ubarよりも大きいことが予言されています。J-PARCでのdimuon実験は、sea-quarkのx領域0.25-0.5に対して、10%程度の統計精度でこの測定を与えます。 120-day run 75% polarization for a 51011 protons/spill polarized solid NH3 target, 75% hydrogen polarization and 0.15 dilution factor 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Sea-quark偏極分布のフレーバー非対称性 偏極Drell-Yan実験 x: 0.25 – 0.5 RHICでのW生成 x: 0.05 – 0.1 GS-C GS-A GRSV これに関する測定で重要なのは、RHICでのW+-のA_L測定であり、sea-quark polarization Delta-dbar, Delta-ubarをそれぞれ与えます。これは陽子スピンに対するクォークスピンの寄与、グルーオンスピンの寄与が小さいことを示すときの不確定性を減らす重要なデータです。 そしてDrell-Yan実験は、Delta-ubar – Delta-dbarと、差しか与えませんが、RHICとJ-PARCでは、RHICのxが0.05 – 0.1、J-PARCでは 0.25 – 0.5とより大きなxをカバーするということで、同様に非常に重要なデータとなります。 reduction of uncertainties to determine the quak spin contribution  and gluon spin contribution G to the proton spin 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

偏極Drell-Yan実験 核子スピンに対する軌道角運動量の寄与 SSA (AN) 測定 ハドロン衝突実験から直接軌道角運動量の寄与に結びつく理論はまだない しかし、偏極核子中の横方向の運動に関わる効果は軌道角運動量と関係するはず Sivers 効果 higher-twist 効果 SSA (AN) 測定 Drell-Yan実験で測定されるSivers分布関数はDIS実験で測定されるものと符号が逆になる e+pデータとp+pデータの間でのQCDに対するテスト そしてフレーバー非対称性以外、主に横偏極の物理に移ります。重要なトピックは核子スピンに対する軌道角運動量の寄与です。実はハドロン衝突実験から直接軌道角運動量の寄与に結びつく理論はまだないのですが、偏極核子中の横方向の運動量に関わる効果は軌道角運動量と関係するはずなので、Sivers効果やhigher-twist効果を通じて、軌道角運動量の寄与を探っていきます。 まず述べるのは偏極Drell-Yan反応に対するsingle-spin asymmetryであるA_Nの測定です。Drell-Yan実験で測られるSivers関数とDIS実験で測られるSivers関数では符号が逆であることが示されています。これはepデータとppデータ間でのQCDのテストとして感度の高いテストとして重要であり、まずは符号が逆であることを示すだけでも重要です。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

偏極Drell-Yan実験 SSA (AN) measurement 4 < M+- < 5 GeV integrated over qT そしてこれが偏極Drell-Yan反応のsingle-spin asymmtryに対する理論計算で、HERMES実験のデータのfitから得られたSivers関数を基に、Ji, Qiu, Vogelsang, Yuanによるものです。 そして赤で表されているのが、まだoptimizeされてないので統計制度が悪いですが、J-PARC実験のエラーバー計算です。符号は決定できます。統計精度をどこまで上げられるかはこれからoptimizeするのでお待ちください。 Theory calculation by Ji, Qiu, Vogelsang and Yuan based on Sivers function fit of HERMES data (Vogelsang and Yuan: PRD 72, 054028 (2005)) 1000 fb-1 (120-day run), 75% polarization, no dilution factor 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

偏極Drell-Yan実験 ATT measurement SSA measurement, sin(+S) term h1(x): transversity SSA measurement, sin(+S) term h1(1)(x): Boer-Mulders function (1st moment of) 次にdouble transverse-spin asymmetry A_TT測定からは、transversityが測定できます。これは測定されていない残されたleading orderの偏極分布関数で、h_1(x)と表されます。これをA_TT測定からこちらの式で得ることができます。 また、Sivers関数はSSAのsin(-S) termだったのですが、sin(+S) termからは、transversityとBoer-Mulders関数 h_1^perpの1st momentの積が、こちらの式のように得ることができます。barはanti-quarkの分布関数を表します。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

非偏極Drell-Yan実験 Boer-Mulders function h1(x, kT2) angular distribution of unpolarized Drell-Yan correlation between transverse quark spin and quark transverse momentum そしてこのBoer-Mulders関数だけであれば、非偏極Drell-Yan測定から得ることができます。 非偏極Drell-Yan反応の角分布を一般的に書くと、このような式で書けますが、このcos2phi依存の項から、つまり係数nuから h_1^perp(x, kT^2)が得られます。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

非偏極Drell-Yan実験 Boer-Mulders function by unpol. Drell-Yan Lam-Tung relation reflect the spin-1/2 nature of quarks violation of the Lam-Tung relation suggests non-perturbative origin With Boer-Mulders function h1┴: ν(π-Wµ+µ-X)~valence h1┴(π)*valence h1┴(p) ν(pdµ+µ-X)~valence h1┴(p)*sea h1┴(p) このnuとlambdaの間には、quark spin が1/2であることに対応してLam-Tung relation 1-lambda = 2nuが成り立ちます。 しかし既にこの測定は行なわれていて、これは破れていることが知られています。そしてそれはnon-perturbativeな起源を意味するのですが、その起源としてBoer-Mulders関数が考えられるわけです。 こちらがこれまでの測定で、pi-inducedによるDrell-Yan反応では大きなnuが得られていましたが、E866のproton-induced Drell-Yan反応は小さいnuを示しました。これは、sea-quarkのBoer-Mulders関数の値が小さいことを意味します。 L.Y. Zhu,J.C. Peng, P. Reimer et al., hep-ex/0609005 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Towards the goal 30 GeV  50 GeV unpolarized  polarized target  polarized beam polarized beam study by BNL & KEK groups possible locations of partial snakes in MR First 30% snake Second 30% snake これらの測定を実現するためにはJ-PARCがまだまだ発展していってもらわなければいけません。ひとつは30GeVから50GeVの maximum エネルギーにいくこと、ひとつはスピンプログラムのため非偏極ビームに対してまずは偏極ターゲット実験を行い、最終的に偏極ビームを実現するというシナリオです。 偏極ビームのfeasibilityについてはRHICの偏極ビームを実現したBNLグループとKEKの人々の間でstudyが行われていて、例えばmain ringについてはこの2箇所にpartial snake magnetを設置するなどを検討しています。 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Polarized proton acceleration at J-PARC 50 GeV polarized protons for slow extracted beam primary fixed target experiments low intensity (~ 1012 ppp), low emittance (10  mm mrad) beams Pol. H- Source 180/400 MeV Polarimeter Rf Dipole 25-30% Helical Partial Siberian Snakes pC CNI Polarimeter Extracted Beam Polarimeter 他にも検討要素は多くあり、偏極 H- source、RCSの RF dipole magnetや各所のpolarimeterなどを検討しています。 Thomas Roser (BNL), et al. 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Physics at 30 GeV J/ gluon fusion or quark-pair annihilation quark-pair annihilation dominant must be confirmed experimentally… similar physics topics as Drell-Yan process calculations by color-evaporation model eq  この中で、では30GeVでは何ができるかアイデアを示すことが重要な要求としてあるので、それらを少し示すと、ひとつはJ/psi測定です。J/psiはgluon-fusionとquark-annihilationから主に生成されますが、J-PARCのエネルギーではquark-annihilationがdominantであることが予想されます。これは color evaporation modelによる50GeVと30GeVでの計算ですが、quark-annihilation processがdominantであることが示されています。これは実験的に確かめられないといけないことですが、もしもこれが正しければ、Drell-Yan diagram をこの J/psi diagram に置き換えて、Drell-Yanで可能なトピックをJ/psiを用いて行うことができます。 J/ 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

Physics at 30 GeV SSA measurement of open charm production J-PARC: Elab = 50 GeV SSA measurement of open charm production no single-spin transfer to the final state sensitive to initial state effect: Sivers effect collider energies: gluon-fusion dominant sensitive to gluon Sivers effect fixed-target energies: quark-pair annihilation dominant sinsitive to quark Sivers effect RHIC: s = 200 GeV オープンチャーム測定もまたおもしろいトピックです。 このSSA測定では、final-stateへのsingle-spin transferがないので、initial-state effectにsensitiveな測定となり、Sivers関数の測定を行なえます。ここでcolliderエネルギーだとgluon-fusion processがdominantなので、こちらの図で示されるようにgluon Sivers関数にsensitiveになります。計算はAnselmino, D’Alesioのグループによります。これに対してJ-PARCエネルギーではquark-annihilation processがdominantなのでquark Sivers関数にsensitiveとなります。 M. Anselmino, U. D’Alesio, F. Murgia, et al. 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」

まとめ J-PARC dimuon 実験のスピン物理メニュー 縦偏極 ALL of Drell-Yan sea-quark 偏極のフレーバー非対称性 横偏極 AN of Drell-Yan Sivers関数(sin(-S) term) transversity分布関数 & Boer-Mulders関数(sin(+S) term) 横偏極 ATT of Drell-Yan transversity分布関数 その他(30-GeV) J/: Drell-Yan と同様のメニュー? AN of open charm: Sivers関数 (neutron-tagged Drell-Yan) 2008年1月12日(土) KEK研究会「核子の構造関数2008」