JT-60Uにおける 中性子-ガンマ線弁別多視線計測 2009.3.17 第12回若手科学者によるプラズマ研究会 JT-60Uにおける 中性子-ガンマ線弁別多視線計測 石井啓一、 岡本敦、 篠原孝司 A、 石川正男 A、 馬場護 B、磯部光孝 C、 北島純男、 笹尾眞實子 東北大学大学院 工学研究科 量子エネルギー工学専攻 日本原子力研究開発機構 A 東北大学 サイクロトロン・RIセンター B 核融合科学研究所 C
背景 JT-60Uでは重水素プラズマによる実験が行われ、以下に 示すような放射線が主に発生する DD反応による2.5 MeV中性子 DT反応による14 MeV中性子 壁材料との核反応によるg線 荷電粒子による制動放射線 中性子発生率の空間分布計測を行うことにより、様々な情報を得ることができる JT-60Uのように、中性粒子ビームとバルクのプラズマによる核融合 反応が支配的な環境における高速イオンの挙動 中性子発生率の空間分布から自己加熱源となるa粒子の発生分布
JT-60Uにおける中性子分布計測 7本のコリメータアレイを用い、中性子発生率の線積分値を計測 ポロイダル断面に対して斜め視線6本、垂直視線1本 E49786 7.2s Chord 7 Chord 1 Chord 3 Chord 4 Chord 5 Chord 6 Chord 2 中性子検出器にはスチルベン結晶 (f 1 in×t1 in)を使用 シンチレーション光の放出 反跳陽子(中性子) 電子(g線) スチルベンは中性子だけでなくg線も感度があるため、中性子とガンマ線の弁別(n-g弁別)が必要
アナログ回路を用いたn-g弁別 光電子増倍管(PMT)の下流に設置されたアナログ弁別回路を用いてn-g弁別が行われてきた ⇒ ~1×105 cpsで飽和現象が見られる この問題を解決するため、2006年よりデジタル信号処理を用いた中性子計測を開始した[1] [1] M. Ishikawa et al., Rev. Sci. Instrum.77, 10E706 (2006). 計数率の飽和 Photo-multiplier Circuit for discrimination Stilbene crystal
Digital Signal Processors system 光電子増倍管のアノード信号を高速のアナログ-デジタルコンバータ (Flash ADC)に直接取り込む(縦軸分解能10 bit) アノードからのアナログ信号を一定のサンプリングでデジタイズ Flash ADCのメモリにデータが蓄積された後、PCに転送 JT-60Uにおける通常の計測時 データサイズ : 7 GB (1 GB×7 chord) サンプリング : 200 MS/s (最大8 GS/s) 計測時間 : 約2.7 s (200 MS/s 時)
デジタルデータ解析用ソフトウェア “Qfast” “Qslow” パルスの減衰時間 記録されたデータは、ソフトウェアによりオフラインで解析 ソフトウェアを用いたn-g弁別には電荷積分法を採用 波形解析のために要求される機能 連続波形からのパルスピーク検出 ⇒ デジタイズされたデータの最大値を”height”として記録 ⇒ ピークが検出された時刻情報を保持 検出した各パルスに対して3つの領域にて積分を実行 ⇒ “Qfast”, “Qslow”, “Qtotal” パイルアップ事象の除去 E49813 chord 1 “Qfast” “Qslow” 2 GS/s パルスの減衰時間 中性子 : 長い g線 : 短い 中性子由来、g線由来のパルスの減衰時間が異なることを利用して弁別
n-g弁別のための2次元プロット(1) n g 1放電につき、~106個程度のイベントが発生 height vs. Qslow/(Qfast+Qslow)空間に1パルスにつき1点をプロット ⇒ 2次元プロットを n-g 弁別に使用 中性子とg線の2つのピーク群を確認 低波高部において、2つのピークが完全に分離していない g DT DD 200 MS/s 中性子の領域にg線が混入する恐れがある Qslow/(Qslow + Qfast) Height n g
n-g弁別のための2次元プロット(2) 中性子とg線グループが明確に分離 2次元プロットの新たなパラメータを提案 g n 200 MS/s 2次元プロットの新たなパラメータを提案 ⇒ 全積分値Qtotalで規格化したQslow vs. Qfast 中性子とg線グループが明確に分離 従来の弁別と新しい弁別方法を比較 1) 新たな2次元プロットにて中性子のグループを選択 2) 選択したパルスのみを従来の2次元プロットに再変換 200 MS/s 低波高部分での中性子とg線の分離に成功 新たな2次元プロットには、一部の高エネルギーg線が中性子のグループに混入 ⇒ 再変換後には容易に分離が可能
g線混入の原因 新しい弁別において、高エネルギーのg線が混入する原因を調査 ⇒ 高サンプリング(2 GS/s)データを使用して、パルス波形を解析 高波高g線 低波高g線 2 GS/s 2 GS/s 高波高、低波高の2つの領域からg線の パルス波形を取得 ⇒ 20パルスの平均値を対数表示 波高により、パルス形状が異なる 高波高では傾きが2つ ⇔ 低波高では3つの傾き
2重n-g弁別 2つの2次元プロットの特長を生かし、より精度の高いn-g弁別を実現 従来の弁別方法 ⇒ 高エネルギー部に最適 従来の弁別方法 ⇒ 高エネルギー部に最適 新しい弁別方法 ⇒ 低エネルギー部に最適 1. 新しい2次元プロットを使用して中性子を選択 2. 従来の2次元プロットに変換し、高エネルギーg線を除去
トリトン燃焼 D + D → 3He + n (2.5 MeV) ~50 % D + D → p + T (1 MeV) D + T → 4He + n (14 MeV) DT中性子 DT中性子を計測することにより、トリトンの閉じ込め に関する情報が得られる
中性子発生率の時間変化 波高分布において2つの領域を設定 ⇒ DD中性子、DT中性子それぞれに 対する発生率の時間変化が得られる 200 MS/s DD中性子、DT中性子発生率の時間変化を 同一の検出器で同時計測することが可能 DT中性子が定常となるまでの時間がDD 中性子よりも遅れていることを確認 1 MeVトリトンの減速時間との比較が必要
ELMによる中性子発生率の変化 端部局在モード(ELM)の発生に同期した中性子発生率の変動を観測 ⇒ 高計数率での計測が可能となり、時間分解能が向上したため 周辺視線(Chord5,6)にて顕著 中心視線ではChord 2のみ顕著 300 ms間における中性子計数率の平均値からの変動を評価 中心視線(Chord 2)と周辺視線(Chord 5)には計数率の減少に位相差が存在 中心視線の減少は周辺視線よりも~5 ms程度の遅れ 今後の解析により、高速イオンの影響を検討 ⇒ ELMに伴いバルクプラズマの密度も減少しているため、切り分けが必要
検出器の較正 日本原子力研究開発機、核融合中性子源施設(FNS)にて7本の検出器の絶対較正を予定 http://www.naka.jaea.go.jp/etc/h20/gaiyou_fns.html E49786 7.2s Chord 7 Chord 1 Chord 3 Chord 5 日本原子力研究開発機、核融合中性子源施設(FNS)にて7本の検出器の絶対較正を予定 4本の検出器に関して、DT中性子にてデータを取得 ⇒ 解析中
まとめと今後の課題 デジタル信号処理を用いたn-g弁別について、Qtotaldにて規格化したQfast、Qslowをパラメータとした2次元プロットを導入した。従来の2次元プロットと併用した2重弁別によって精度の高い弁別が可能になった。 DSPシステムにおいて弁別精度が向上したことにより、同一の検出器で信頼性の高いDD中性子、DT中性の同時計測が可能となった。 DT中性子発生率の時間変化がDD中性子よりも遅れることが観測されており、今後1MeVトリトンの減速時間やシミュレーションとの比較・検討が必要である。 DSPシステムの導入により、高計数率環境下における計測が可能となった。これに伴って中性子発生率の時間分解能が向上し、ELMに同期した変動が観測された。 7本の検出器は感度較正が行われていないため、来年度JAEA核融合中性子源施設(FNS)において較正実験を行う。既に一部の検出器に関してデータを取得しており、今後解析を進める。
ELMによる中性子発生率の変化(2) 中性子発生率の変動率を増加分についても評価 増加・減少ともに同程度の変動率 Haのスパイクは中性子発生率の 減少フェーズと同期 周辺視線(Chord 5)の方が中心視線(Chord 2)よりも2倍程度高い変動率 Chord 2は中性子発生率の高い中心部を見込んでいるため、周辺部の影響が現れにくい可能性 ⇒ 時間遅れについて説明できない ELMに伴い、周辺部から中心部に向かって不純物が侵入している 可能性
最大波高値の変動 高計数率環境下での計測において、PMTから出力されるパルスの最大波高値が変動する現象が観測 最大波高値の低下 DD中性子の波高はほとんど変化が見られない 波高変動は高波高部のみに起こる可能性 最大波高値の低下 DD中性子の 最大波高 g線のピークが2本存在 ピークの形状が変化していることからゲイン変動時にパルスが相似でなくなることを示唆
波高変動を含むデータの解析 最大波高の変動を含むデータでは、通常の方法で弁別することが出来ない ⇒ 最大波高の変動が無視できる程度の時間幅に区切る 時間幅を区切ることで、2次元プロットを用いたn-g弁別が可能 ⇒ 全時間に対して弁別することで、発生率の経時変化が得られる 計数率の時間変化が小さければピーク形状はほぼ不変 0.0 ≦ time ≦ 0.2 0.9 ≦ time ≦ 1.4 1.4 ≦ time ≦ 1.5
解析の自動化 n-g弁別の解析手法が確立したことにより、解析の自動化を検討 別放電(E48824)で選択した領域 E48824の放電で選択した中性子領域を、E48826のデータに適用 ⇒ ピーク位置がずれたことにより、 一部中性子の取りこぼしが発生 ピーク位置のずれに関する特徴 ピーク位置がずれる放電と、ずれない放電とが存在する 同一の実験シリーズであっても、ピーク位置のずれが突如として生じることがある ピーク位置がずれる原因を調査中 ピーク位置のずれが生じる問題を解決することにより、自動解析を実現可能 別放電(E48824)で選択した領域
積分領域の変更 積分領域の変更 7本の検出器すべてが同じパルス波形であると仮定 各検出器ごとに積分領域を変更する 必要がある ⇒ 全ての検出器に対して同一の積分領域で電荷積分法を実行 一部の検出器において、DT中性子とg線との分離が不明確 各検出器ごとに積分領域を変更する 必要がある ⇒ 積分領域変更後、DT中性子が明確に分離 7本全ての検出器に対して、同一の 検出器にてDD中性子、DT中性子を 同時検出可能 積分領域の変更