オゾン層破壊による生物への影響 東 正剛  高緯度で紫外線を増加させる 南極海に異変 南極オゾンホールの発見 忠鉢 繁(1984)

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太田 有香.  太陽光の中での割合はわずか約 5 ~ 6 %  季節によって変化  天気によって変化するが微量  1 日の紫外線量が最大になる時間帯は正午  オゾン層と密接な関係.
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オゾン層破壊による生物への影響 東 正剛  高緯度で紫外線を増加させる 南極海に異変 南極オゾンホールの発見 忠鉢 繁(1984)

オゾン層破壊をくい止めるための 世界的な取り組み 1974 フロンによるオゾン層破壊説 1984 国際シンポで忠鉢の論文 1985   3月 ウィーン条約採択  5月 オゾンホールNature誌に 1987 モントリオール議定書 1990 ロンドン改正議定書 1992 コペンハーゲン改正議定書  1997 モントリオール改正議定書 1999 北京改正議定書   50ー100年後の問題と予測 あまり注目されず 国際的取組みを確認 急速に、緊急性を認識 科学アセスメントに合わせて、次々と改正

オゾン層破壊の科学アセスメント:1998 国連環境計画、世界気象機関、米国海洋大気庁、米国航空宇宙局、欧州連合 南極のオゾンホールは衰退しないで拡大中。 北極の晩冬から春にかけてのオゾン量も異常に少ない年が増えている。 中緯度成層圏のオゾン減少も顕著 成層圏の塩素と臭素の総量は、2000年以前にピークを迎える筈だが、現在も増加中。 モントリオール議定書が完全に実行されれば、最大のオゾン層破壊は10-20年のうちに起こる筈。しかし、オゾン層の回復は、さらにその先。

ナンキョクオキアミの激減

南極海の食物連鎖 第三次消費者 シャチ、ヒョウアザラシ、その他 第二次消費者 クジラ、ペンギン、魚類、その他 第三次消費者 シャチ、ヒョウアザラシ、その他 第二次消費者 クジラ、ペンギン、魚類、その他               top-down effect 第一次消費者 オキアミ、かいあし類、その他 bottom-up effect 生産者      植物プランクトン

光の分類と作用 波長  < 200 nm < < 280 nm < < 315 nm < < 380 nm < < 720 nm < 真空紫外線    紫外線C    紫外線B    紫外線A    可視光線    赤外線  大                 エネルギー                小                   光分解作用      光回復酵素の活性化  光合成                    DNA損傷                    蛋白質損傷                    無機物分解

UV-Bが有機物と無機物に及ぼす影響 高分子 →光分解→ 低分子 有機物の分解速度が上がる。 プランクトンが利用しやすい物質が増加。 高分子 →光分解→ 低分子  有機物の分解速度が上がる。  プランクトンが利用しやすい物質が増加。 生物に有害な活性酸素や過酸化水素が増加。 Fe3+→Fe2+  植物プランクトンが吸収しやすい。

紫外線が生物に与える影響 個体に与える影響: 研究例多い 動物:皮膚病、眼病、免疫力低下 植物:光合成阻害 単細胞生物:細胞分裂阻害 個体に与える影響: 研究例多い  動物:皮膚病、眼病、免疫力低下  植物:光合成阻害  単細胞生物:細胞分裂阻害 生態系に与える影響: これからの課題  水界における微生物ループ  植物と昆虫の相互作用

外洋における食物連鎖 溶存有機物 植物プランクトン 原核生物 粒状有機物 動物プランクトン 高次消費者 微小鞭毛虫 繊毛虫 分解 バクテリア 紫外線 微生物ループ 無機物 CO2,N,P,etc. 沈降 分解

UV-Bが植物プランクトンに及ぼす影響 DNAやタンパク質損傷:光合成阻害 色素の漂白 細胞の運動力や方向感覚阻害 細胞分裂阻害 藍藻類の窒素固定阻害   東南アジアの稲作地帯でも深刻     約1億t/年の窒素固定 しかし、UV耐性は種間差が大きい  群集は、種構成の変化で対応可能?

光の波長と光合成阻害 (藍藻Nodularia spumigena)

太陽光による細胞分裂阻害 (無殻珪藻 Phaeodachylum tricornutum)

予 測 16%のオゾン減少 植物プランクトンの光合成量5%減 年間漁獲量700万トン減 藍藻類の窒素固定量10%減 予 測 16%のオゾン減少   植物プランクトンの光合成量5%減     年間漁獲量700万トン減   藍藻類の窒素固定量10%減       稲作地帯だけで、約1000万tの     窒素肥料に相当

紫外線が動物プランクトンに及ぼす影響 成体の感受性は種によって大きく異なる。 卵期や色素蓄積の不十分な幼生期は、多くの種でUV-B感受性が高い。 親への照射が幼生の孵化率や生存率にも  影響する。 運動能力が高く、UV-Aや可視光線には対応できるが、UV-Bは感知できない。

UV-Bが細菌プランクトンに及ぼす影響 細菌プランクトン:0.2~2μm 色素を生産・蓄積するには小さすぎる。 DNAが直接UV-Bに暴露    色素を生産・蓄積するには小さすぎる。      DNAが直接UV-Bに暴露     微生物ループへの影響大きい?

海洋における補償深度 真光層 補償深度までの層 光合成 = 呼吸 沿岸海洋:20~30m 遠洋:数十m~100m 光量:海表面の0.1%まで  補償深度までの層    光合成 = 呼吸  沿岸海洋:20~30m  遠洋:数十m~100m  光量:海表面の0.1%まで  UV-Bが0.1%になるのは、  補償深度の約4分の1深度           真光層      有光層(600~1,000m)              無光層

陸上生態系への影響評価 これからの課題

可視光によって見える様子 紫外線によって見える様子

オゾン層破壊と温暖化の相互作用 オゾン層破壊 温暖化 成層圏 対流圏 低温化 UV-Bの増加 UV-Bの増加 二酸化炭素の増加 陸域: 植物遺体 海洋・湖沼: 微生物ループ