新型光検出器MPPCの開発 修士課程二年 高エネルギー研究室 信原 岳
Contents Introduction (MPPC,T2K前置検出器) MPPCの基礎特性評価 (ゲイン、ノイズレート、検出効率) (ゲイン、ノイズレート、検出効率) レーザーによる基本動作テスト ビームによる実用的テスト Summary
MPPC (Multi Pixel Photon Counter)とは? 近年、開発が盛んになっている 新型光検出器である まだ開発途上の段階であり製品化、実用化には至っていない。 しかし、 コンパクトである 磁場内でも使用できる 安価であることが期待される 低いバイアス電圧(~70V)で動作する 光電子増倍管と同程度のゲイン及び検出効率を有する ことから、その性能に注目が集まっている。 現在、浜松ホトニクス(HPK)、ロシアのCPTA社などで主に開発が進められており、 2009年開始予定のT2Kニュートリノ振動実験において使用が計画されている
T2K実験前置検出器 MPPCがT2Kでの使用に適している MPPCの実用化の可能性を詳しく評価するため、HPK製の試作品を使って, 前置検出器がもつ条件 光検出器に対する要請 大量の光ファイバーの狭い スペースでの読み出し コンパクトで安価 高磁場(0.2T)の環境下 (PMTは使用できない) 磁場内でも動作が可能 シンチレータからの ファイバー読み出し を行うための 光検出器が必要 MPPCがT2Kでの使用に適している MPPCの実用化の可能性を詳しく評価するため、HPK製の試作品を使って, Fine Grained Detector T2Kで使用するための定量的な要請を満たしているかどうかの評価 を行った。
MPPCの動作原理 MPPCシグナルの電荷量分布を取ると フォトンを検出したピクセル数ごとに きれいに分かれたピークが見られる 1mm 構造 APDピクセルが配置される 1ピクセル ガイガーモードで動作する、すなわち 全ピクセルからのシグナルの総和がMPPCシグナルとなる。 フォトンを検出すれば、その数によらず 一定の電荷Qpixelを放出する。 増幅率 (Qpixel / e ) は~106 2 LEDからの光を 入射させたときの シグナルの 電荷量分布 3 イベント数 1 4 MPPCシグナルの電荷量分布を取ると フォトンを検出したピクセル数ごとに きれいに分かれたピークが見られる 5 6 MPPCは優れたフォトンカウンティング能力を持つ 電荷量
性能評価の流れ T2Kからの基本的要請 1. ゲイン>5x105 、ノイズレート<1MHz、検出効率>15% バイアス電圧、温度依存性を測定 基礎的な動作確認 2. 各々のピクセルが正しく動作しているか レーザーテストの結果から評価 T2Kからの応用的要請 3. シンチ+ファイバー読み出しにおいて、 MIP(最小イオン化粒子)に対して5p.e.以上の光量、さらにp/πの識別 ビームテストの結果から評価 これらの測定は、HPK内ではされていない。よって今回の評価は、 T2KだけでなくこれからのMPPCの開発においても貴重な情報となる。 これから、HPK21-53-1Aという100ピクセルのサンプルの評価結果を示す
ゲインの測定 T2Kからの要請を全ての 動作領域でみたしている 0p.e. バイアス電圧(Vbias)、温度(T)特性を測定した。 測定方法 LED MPPC 0p.e. バイアス電圧(Vbias)、温度(T)特性を測定した。 シグナル 測定方法 1p.e. 1p.e. 青色の光によるシグナルの電荷量分布 における1p.e.-0p.e.から、 ゲイン = Qpixel / e を求めた 2p.e. 2p.e. 電荷量分布 3p.e. 3p.e. 電荷量 ピクセルの簡単な動作モデルからの予想 25℃ グラフの傾き = Cpixel e = シグナル幅 e×Rpixel ゲイン-Vbiasはリニアな相関がある。 25℃ 20℃ 20℃ ゲイン (x106) 15℃ 15℃ これは測定結果と良く一致した。 わかって いる値 ゲインの変化は ΔV = 0.1V に対し7.5% ΔT = 1℃ に対し5.0% となった T2Kの制限 T2Kからの要請を全ての 動作領域でみたしている バイアス電圧 (V)
ノイズレートの測定 広い範囲で T2Kからの要請をみたしている 熱電子ノイズ(大半が1p.e.パルス) MPPCが持つ熱電子ノイズ ピクセルは熱電子によっても、フォトンによるものと同じQpixel の電荷を放出する。 ランダムに起こるという点以外はフォトンによるQpixel と区別できない LED光による シグナル 測定方法 25℃ ○ 0.5p.e. threshold 光を当てていない状態でのMPPCの信号に対し、0.5p.e.と1.5p.e.の波高で thresholdをかけて、カウントレートを取る 20℃ 15℃ ノイズレート (MHz) 1MHz ノイズレートの変化は ΔV = 1.5V で5倍 ΔT = 10℃ で1.5倍 となった 1桁小さくなる ▽ 1.5p.e. threshold 広い範囲で T2Kからの要請をみたしている バイアス電圧 (V)
検出効率の測定 高バイアス電圧で T2Kからの要請をみたしている 20 10 測定のsetup 20℃で、バイアス電圧特性を見た。 一様光 測定方法 PMTとMPPCとの得られた光量(p.e.) の比から、MPPCの検出効率を出した PMTに、MPPCと同じ 大きさの入射窓を作る MPPCの検出効率 = PMT (p.e.) MPPC (p.e.) ×PMTの検出効率 (20%) 20 MPPCの検出効率 (%) T2Kの制限 高バイアス電圧で T2Kからの要請をみたしている バイアス電圧を上げる と3倍程度大きくなる 10 バイアス電圧 (V)
性能評価の流れ MPPCの基礎特性評価 (ゲイン、ノイズレート、検出効率) 2. レーザーによる基本動作テスト (ゲイン、ノイズレート、検出効率) 2. レーザーによる基本動作テスト 3. ビームによる実用的テスト 広いVbias, Tの領域で要請を満たすことがわかった ( T=20 ℃のとき、Vbias=70.8~71.8)
レーザーでピクセルごとに光を入射し、 MPPCのピクセルごとの応答を調べる レーザーを使ったテスト レーザーでピクセルごとに光を入射し、 MPPCのピクセルごとの応答を調べる 動機 全ピクセルきちんと動作しているか。製品開発においても重要な情報。 100μm 波長: 825nm 時間幅: 50ps 顕微鏡の画像 顕微鏡 1ピクセル内での 検出効率の分布 ピクセルごとの ゲイン、検出効率 のばらつき レーザー源 レーザースポットサイズ は10~20μm MPPC の測定を行った 移動ステージ 1μm ピッチ (x , y)
1ピクセル内での検出効率分布 真ん中の60x60μm2 に平坦な領域をもっていることがわかる 1ピクセル 受光面 70x70μm 1ピクセル 1ピクセル内でレーザーを2次元スキャンし、ポイントごとの検出効率を調べた 10μm ピッチ 100μm レーザー 真ん中の60x60μm2 に平坦な領域をもっていることがわかる ポイントごとの 検出効率 計 100 ポイント スキャン 1p.e. 電荷量分布 @ 1 ポイント y 検出効率 = 全イベント数における 0.5p.e.以上の割合 0p.e. x 100μm 100μm 0.5p.e.
ピクセルごとの応答のばらつき ピクセルごとの応答が非常に よく揃っていることが確認された ピクセルごとのばらつき ピクセルごとのばらつき ピクセルごとにレーザーをスキャンし、 ピクセルごとのゲイン、検出効率を調べた ピクセルごとに 中心部分に当てる ピクセルごとの応答が非常に よく揃っていることが確認された 計 100 ピクセル スキャン 1ピクセルの 相対ゲイン 1ピクセルの 相対検出効率 ピクセルごとのばらつき =3.6% (r.m.s./mean) ピクセルごとのばらつき =2.5% (r.m.s./mean) y y x 1mm 1mm x 1mm 1mm
性能評価の流れ MPPCの基礎特性評価 (ゲイン、ノイズレート、検出効率) 2. レーザーによる基本動作テスト (ゲイン、ノイズレート、検出効率) 2. レーザーによる基本動作テスト 3. ビームによる実用的テスト
ビームによるシンチ+ファイバー読み出しのテスト 動機 前置検出器と同じ読み出し条件で、MPPCはT2Kの要請を満たしているか。 MIPに対して5p.e.以上の光量 pとπの識別ができる setup 0.5~1.4GeV/c proton & pion ~100 event/spill beam size 1x1cm2 4ch全ての ビームによるMPPC シグナルを見ることが できた ビーム 64ch MAPMT (as reference) MPPC 4 layers シンチレータ1.3x2.5x50 cm3 ファイバー1mmΦ
ビームテストの結果 pとπを識別可能である #event 十分な光量が得られている MPPC ファイバー 受光面 ギャップが存在 T2Kの基本要請を満たすVbiasの領域 で、MIPにより5~14p.e. の光量が得られた。 (MAPMTでは18.0 p.e.) これは、ファイバーと受光面間の光量のロス(約50%) を考えると検出効率の測定と一致する結果である。 運動量ごとのp,πによる光量分布 MIPにより得られた光量分布 1.2GeV/c 0.9GeV/c 0.8GeV/c #event p π Mean = 13.3p.e. pとπを識別可能である 0.7GeV/c 0.6GeV/c 0.5GeV/c p.e. 十分な光量が得られている p.e. p.e. p.e.
Summary 新型光検出器MPPCの動作を確認し、性能評価の方法を確立した。 性能を評価したサンプルの測定結果 ゲイン ~3x106 , ノイズレート ~1MHz ,検出効率~26% シンチ+ファイバー読み出し(実機と同じ条件)で、 MIPにより、~14 p.e.の光量が得られた pとπを識別できた レーザーテストにより、ピクセルごとに応答がよく揃って いることが示された (T2Kの基本的要請を満たすバイアス電圧において) T2Kの要請を満たす点 100ピクセルではダイナミックレンジが不足している。 T2Kには200ピクセル以上が必要である T2Kの要請を満たさない点 最近、400ピクセルでT2Kの要請を満たすサンプルが確認された 今回の評価結果により、 MPPCがT2K実験で十分に使用可能な性能を持つことが示された。
Supplement
HPK製MPPCにおけるファイバーのalignment Y X Z HPK製MPPCの受光面とパッケージの位置関係 0.8mm Z方向 : 透明カバーと受光面に隙間が存在 受光面‐ファイバー間距離は0.8mmとなる X,Y方向 : サンプルごとにばらつきがある サンプルごとにファイバーの位置合わせを行った X、Y方向位置合わせ ファイバー固定ネジ MPPC 移動ステージでファイバー をスキャンし、 MPPCシグナル が最大の点でファイバーの 位置を固定した 固定具 ファイバー(1mmφ) X,Y方向の位置のずれにより最大20%,Z方向の隙間により約60%の光量のロスが存在 ファイバーから40°で一様に光が広がっているとした場合の値 現段階のパッケージ構造によるもので、デバイスの性能からくるものではない
0.7 GeV π #event Mean = 6.5 p.e. ADC カウント
HPK1-43 30p.e
ポアソン統計によるCross Talk Rateの測定 LEDによるp.e分布について、データの 0p.eの比率をもとにしたポアソン統計と比較しCross talk Rateを求める 0p.e integrationをとる(p.eごと) 1p.e #event by LED 2p.e ratio Cross Talkによる ポアソン統計からのずれ が見られる 3p.e adc count ratio HPK400b V=48.6 HPK400b V=47.8 ポアソン統計 1p.e ratioの 減少分から Cross Talk Rateを導く データ p.e# p.e# low voltage ではよく一致する
クロストーク確率 バイアス電圧 (V) クロストーク確率 バイアス電圧 (V)
p/π Separation π p MPPC (PDE70%) MAPMT (PDE100%) MIPによるシグナル Mean r.m.s. MPPC 13.3p.e. 6.2p.e. MAPMT 18.0p.e. 6.6p.e MIPによるシグナル のMean,r.m.s. 1.2GeV 1.0GeV 0.9GeV 1.2GeV 1.0GeV 0.9GeV π p 0.8GeV 0.8GeV 0.7GeV 0.6GeV 0.7GeV 0.6GeV 0.5GeV 0.5GeV MPPC (PDE70%) MAPMT (PDE100%)
SiPM ID 5-31-22 (1600a) 1-21A-21 (1600b) 1-22-2A-2 (400a) ピクセル数 ピッチ(μm) Vb(V) シグナル幅(ns) quench抵抗(kΩ) 1600 25 79 5 135 55 400 50 10 180 Vr(V) Id(nA) 73.5 4.6 49.5 19 48.7 4.7 構造 type4 type1 1-32-21 (400b) 1-43-22 (100a) 1-63-1A-22 (100b) 1-63-1A-23 (100c) 400 50 53 10 108 100 52 270 54 60 48.4 54 625 49.6 15 48.1 48 type2 type5 type1 5-63-1A-2 (100d) 21-53-1A-3 (100e) 21-53-2A- 3 (100f) 100 53 40 270 75 12 42 76 147 72.7 24.7 70.6 21.7 19.8 type3 type6
表の補足 シグナル幅以外はHPKさん提供のデータ シグナル幅は1p.eシグナルの波高の1/2の高さでの時間幅 Vbは暗電流が100μA流れたときの逆電圧 Vrは電圧0のときに出力電流10nAになるように光を入れて、その状態で電圧を加えて出力電流が1000倍(10μA)になったときの電圧 IdはVrの電圧を印加した状態で光をオフにしたときに流れる暗電流