基礎商法2_12 2016/01/13 基礎商法2 第13回
本日のテーマ 特殊な裏書の効果についての学習 手形保証 手形の支払い 特殊な譲渡裏書 特殊な(譲渡裏書以外の)裏書(概要のみ) ※シラバスの予定を一部変更して、第14回に配当されている支払いについても学びます。
特殊な譲渡裏書
特殊な譲渡裏書 無担保裏書 裏書禁止裏書 以後の手形取得者に対して一切担保責任を負わない裏書 手15が「反対ノ文言ナキ限リ」としているので反対の文言を記載すれば担保的効力を排除できる 裏書禁止裏書 直接の被裏書人に対しては担保責任を負うが、さらに後の取得者に対しては担保責任を負わない裏書 条文は「裏書を禁止することができる」とするが、被裏書人のさらなる裏書が無効になるわけではない。 指図禁止手形(手形表面に指図禁止の文言がある手形)と区別
戻裏書 意義 手形の所持人が、手形を一度譲渡した後、裏書により手形を再度取得すること 振出人が再取得することもできる(混同消滅しない) A B C B 注:遡求不可 A B C A
戻裏書の法的性質 地位回復説 再取得説(通説) 人的抗弁 批判 1回目のBが善意、2回目のBが悪意の場合の処理ができない 通常の裏書と理屈が違いすぎる A B C 約束手形 A B C B 約束手形
戻裏書と人的抗弁の切断 A B C B 善意 当事者 原因関係 対抗不可 対抗不可? 切断説 対抗可 ① 切断 対抗可 対抗不可 対抗可 不対抗説 ② 対抗可 属人性説 対抗不可 ③ 対抗可 切断説+権利再取得説だと、原因関係の当事者であるBに人的抗弁が対抗できない 〔解決策〕 地位回復説を採る ←無理 不対抗説・属人性説をとる 振出人が人的抗弁を所持人に有する以上、「戻裏書により・・・自己の裏書譲渡前の法律的地位よりも有利な地位を取得すると解しなければならない理由はない」(最判S40.4.9百28) ←結論は妥当だが理由付けがない
属人性説(不対抗説)に立って、正面から抗弁の対抗を認める 学説の考え方 属人性説(不対抗説)に立って、正面から抗弁の対抗を認める (切断説に立ちつつ)抗弁は手形に付着せず、人に付着するものだから、戻裏書の被裏書人は抗弁の対抗を受ける(判例と整合的) ⇒ただし、属人性説と言っていることがかわらなくなっている? 所持人が中間裏書人(抗弁が切断される善意者)に対して遡求できない場合には、人的抗弁切断の恩恵を受けられない(例:A→B→C→Bの場合、BはCに遡求できないから、Cの人的抗弁切断の恩恵を受けられない) 直接の人的抗弁は戻裏書の場合には対抗されるが、悪意の抗弁は戻裏書であってもクリーニングされて対抗できない(弥永)
裏書後に悪意となった者への戻裏書 A B C D C 善意 悪意 切断説:人的抗弁はB→Cへの裏書時点で切断され、手形は抗弁の付着しない「クリーニングされた」手形を取得するから、再取得時に悪意であったとしてもAB間の人的抗弁は対抗されない。 不対抗説・属人性説:取得時に悪意であれば抗弁は対抗されるのでD→Cの裏書時点で悪意であったCにはAB間の人的抗弁は対抗される
裏書の抹消 全部抹消 形式的資格は裏書人Bに移る A B C 裏書人B ㊞ 約束手形 被裏書人 C 殿 裏書の(全部)抹消は裏書がなかったものとみなす(手16Ⅰ第3文) 形式的資格は裏書人Bに移る 実質的権利は手形を返還するまで移転しない(BはCの裏書抹消を証明しても手形なしで権利行使はできない)
実質的権利は手形の返還でBに移転する(よってBはCからの実質的権利の移転を立証して権利行使できる) 裏書を抹消しないままの手形の返還 A B C 裏書人B ㊞ 約束手形 被裏書人 C 殿 手形が返還された場合には、裏書の抹消の有無にかかわらず、権利は裏書人に移転する(最判S31.2.7百54) 形式的資格は被裏書人Cのまま 実質的権利は手形の返還でBに移転する(よってBはCからの実質的権利の移転を立証して権利行使できる)
一部抹消 全部抹消説:被裏書人欄の抹消は裏書全体の抹消と考える A B C 裏書人B ㊞ 約束手形 被裏書人 C 殿 全部抹消説:被裏書人欄の抹消は裏書全体の抹消と考える 白地裏書説:被裏書人欄の抹消は被裏書人の指定の効果を消滅させて白地式裏書になると解する 判例(最判S61.7.18判時民集40-5-977百-55) 被裏書人欄の抹消の場合は抹消が権限者によるものかどうかを問わず当然に白地式裏書となる
(補論)善意取得と戻裏書 善意取得の場合も、善意者が取得すればその後に悪意者に裏書譲渡されても、当該悪意者は有効に手形債権を取得し、振出人に請求できる →善意取得者から無権利者に戻裏書された場合は? ⇒下級審裁判例には、人的抗弁の切断と同様に扱うとするものがある(東京地判S50.2.26判時777-87)
期限後裏書 意義 効果 支払呈示期間(=拒絶証書作成期間、満期+2取引日)経過後または拒絶証書作成後の裏書 〔趣旨〕手形は償還段階に入り、流通保護の必要がない ※2取引日以内の裏書は通常の裏書。 ※銀行の不渡附箋がついていても同様に通常の裏書になる(最判S55.12.18百60) ←学説には異論 効果 期限後裏書は指名債権譲渡の効力しか有しない(手20) 権利移転的効力、資格授与的効力は認められる 担保的効力は認められない 善意取得(最判S38.8.23百61)、人的抗弁の切断は認められない
譲渡裏書以外の特殊な裏書
取立委任裏書(手18) A B C D 取立委任裏書 取立委任裏書 譲渡裏書 約束手形 代理権 復代理権
効果 基本 被裏書人の地位 取立に関する代理権の授与 資格授与的効力はある 権利移転的効力、担保的効力は有しない ※委任者の死亡、爾後の制限能力でも委任は終了しない 被裏書人の地位 形式的資格はある(代理人と推定される) 手形上の権利者ではないが代理権を有する 手形債務者との関係では裏書人(委任者)と同視され、裏書人に対する抗弁は対抗されるが、被裏書人に対する抗弁は対抗されない 被裏書人は復代理のための裏書のみをなしうる(譲渡裏書をしても再度の取立委任裏書とみなす。手18Ⅱ)
裏書の連続等 裏書の連続 A ㊞ B 殿 裏書は連続 B ㊞ 権利移転的効力がないので、 取立のため 裏書の連続を考える場合には無視 C 殿 A ㊞ B 殿 裏書は連続 B ㊞ 権利移転的効力がないので、 裏書の連続を考える場合には無視 取立のため C 殿 B ㊞ D 殿
取立委任の撤回 ・・・取立委任の撤回の効力発生時期は、撤回の意思表示の時点か、取立委任文言の抹消時点か Y A B X S55.8.7 取立委任裏書 S56.3.10 取立委任裏書 S56.3.10 譲渡裏書 S55.8.7 融通手形振出 満期:S56.1.26 譲渡担保の約束 代位弁済 約束手形 Y:融通手形の抗弁・・・AB間の譲渡裏書は取立委任文言抹消時のS56.3.10に行われたから期限後裏書であり、YA間の抗弁は切断されない X:AB間の手形譲渡の効果はS55.8.7に生じるから期限後裏書ではないので、人的抗弁は切断される 判旨(最判S60.3.26百57):取立委任裏書の取立委任文言を後日抹消した場合、譲渡裏書の効力は取立委任文言抹消の時から効力を生じ、手形の授受の時点に遡及しない
隠れた取立委任裏書 意義 学説 形式上は譲渡裏書(取立委任文言がない)だが、裏書人・被裏書人間に取立委任の合意がある裏書 ⇒譲渡裏書の形式を重視するか、取立委任の実質を重視するかで争いがある 学説 信託裏書説 : 隠れた取立委任裏書は譲渡裏書だが、信託的に被裏書人に手形上の権利が譲渡されている ⇒譲渡裏書の形式を重視(判例・少数説) 資格授与説 : 隠れた取立委任裏書は代理権の授与の効果があるにとどまり、手形上の権利は移転しない ⇒代理権授与の実質を重視(多数説) 新相対的権利移転説 : 当事者間では権利移転せず、第三者との関係は第三者有利に判断
A B C 隠れた取立委任裏書 振出 人的抗弁 対立点 A-B間の人的抗弁のCへの対抗 信託裏書説 : 本来、人的抗弁は切断されるはずだが、人的抗弁を対抗できるとする(Cに経済的利益がない/C悪意と構成) 資格授与説 : CはB代理人だからBCは同一視 新相対的権利移転説 : Aにとって有利な取立委任裏書として扱う ※無権利の抗弁(善意取得)の処理も同じに考える
A B C 隠れた取立委任裏書 振出 人的抗弁 A-C間の抗弁のCへの対抗 信託裏書説 ・・・譲渡裏書なのでCは手形上の権利者だから、ACの抗弁はCに対抗可(Cは不利益を被りたくなければ公然の取立委任裏書を選択すべき) 資格授与説 ・・・取立委任裏書として扱うのでBとCは同一視されるから、AC間の抗弁をCに対抗できない 新相対的権利移転説 ・・・Aにとって有利な譲渡裏書として扱う
Bによる取立委任撤回(譲渡の趣旨なし)の効果 A B C 隠れた取立委任裏書 振出 Bによる取立委任撤回(譲渡の趣旨なし)の効果 信託裏書説 ・・・Cは手形上の権利者だから、撤回されても手形上の権利は失わない(Cが任意に手形返還すれば別)。BC間には原因関係消滅の抗弁が成立するが、AC間には抗弁がない。後者の抗弁の一類型として権利濫用で処理するしかない 資格授与説 ・・・Cは無権代理人となり、AはCの請求を拒める 新相対的権利移転説 ・・・Aにとって有利な取立委任裏書として扱う
破産 A B C 隠れた取立委任裏書 振出 Bの破産 信託裏書説 : Cが権利者となりB管財人は手形返還を求めることはできず、AもCの請求を拒めないはずだが、受領した金銭はどのみちBに返還しなければならいのでCの請求は認めず、手形はBに返還 資格授与説 : 手形上の権利者はBであり、破産により手形外の取立委任契約は終了して(民653)Cは無権代理人となり、AはCの請求を拒める 新相対的権利移転説 ・・・BC間では権利はしていないし、Aとの関係でも有利な取立委任裏書として扱う
Cの破産 信託裏書説 : Cが手形上の権利者となりBは取戻権(破62)行使できないはずだが、経済的実質を考慮してBに手形の取戻しを認める A B C 隠れた取立委任裏書 振出 Cの破産 信託裏書説 : Cが手形上の権利者となりBは取戻権(破62)行使できないはずだが、経済的実質を考慮してBに手形の取戻しを認める 資格授与説 : 手形上の権利者はBであり、BはCに対して取戻権を行使しうる 新相対的権利移転説 : 取立委任裏書として扱い、当事者間では権利が移転しないと解するので、BはCに対して取戻権を行使しうる
判例の立場 隠れた取立委任裏書は「手形債権の取立のため、その手形上の権利を信託的に被裏書人に移転」(最判S44.3.27百59) ⇒信託裏書説を取ることを明言 信託裏書説に立つと訴訟信託の禁止(信託10)に抵触するおそれがあるとの批判に対しては 隠れた取立委任裏書が「訴訟行為をなさしめることを主たる目的としてなされた場合においては、・・・取立委任の合意がその効力を生じないのにとどまらず、・・・裏書自体もまたその効力を生じ得ない」(前掲最判)
質入裏書 A B C D 質入裏書 取立委任裏書 譲渡裏書 約束手形 譲渡以外の処分権限 代理権
効果 基本 被裏書人の地位 手形金債権に対する質権の設定 資格授与的効力はある 権利移転的効力は限定的にある(「手形より生ずる一切の権利を有す」) 担保的効力はある 被裏書人の地位 形式的資格はある 手形債権者ではないが譲渡以外の権利行使は可能 手形債務者との関係では裏書人(質権設定者)とは別に扱われ、人的抗弁は切断され、善意取得もなしうる 被裏書人は取立委任裏書のみをなしうる(譲渡裏書をしても取立委任裏書とみなす。手19Ⅰ但)
質権の効力 隠れた質入裏書 (略) 「被担保債権額<手形金額」の場合でも手形金全額について請求可能(余剰分は裏書人に返還) 被担保債権の弁済期が未到来でも手形の満期には取立可能。ただし被担保債権弁済期到来までは手形金は供託(公定利率で割り引いた額の充当を認める説もあり) 隠れた質入裏書 (略)
手形保証
公然の手形保証 意義 手形債権の手形上の保証 被保証債権は手形金債権、遡求権いずれも可。一部保証(手30Ⅰ)、条件付き保証(通説)も許される 保証人は、被保証人と同一人物でなければ、誰でも(すでに手形債務を負った者でも)よい
手形保証の方式 通常の保証 手形面上または補箋に保証または同一の意義を有する文字を記載して保証人署名 被保証人氏名の記載は必要だが、不記載の場合は振出人を保証するものとみなす(手31Ⅳ) 約束手形 振出人 甲野太郎 ㊞ 保証人 丙川三郎 ㊞
略式保証 手形の表面に行う(振出人ではない)署名は保証とみなす(手31Ⅲ) ⇒共同振出との区別が問題 手形の補箋にする単なる署名は、手31Ⅲにより手形保証とみなす(最判S35.4.12百62) 手形保証 約束手形 乙山次郎㊞ 振出人 甲野太郎 ㊞ 所持人に有利に解釈=共同振出 丙川三郎 ㊞ 手形保証 戊田四郎 ㊞
手形保証の効果 保証人は被保証人と同一の責任を負う(手32Ⅰ) 被保証人には催告、検索の抗弁はない(合同責任) 保証債務を履行した保証人は手形上の権利を取得 手形保証は民事保証と異なり独立性がある(附従性が貫徹されない)
手形保証独立の原則 意義 手形保証は、被担保債務が方式の瑕疵以外の自由によって無効となっても有効なままである(手32Ⅱ) ※手形行為独立の原則(手7)の保証場面への適用 ⇒主債務が消滅しても、消滅原因が方式の瑕疵(例:手形要件の欠缺)以外であれば、保証債務は消滅しない 手形保証の場合、主債務と保証債務は完全に別個の債務であり、抗弁についても主債務者と保証人は別人として扱うべきとの趣旨にも解される
手形保証の独立性の射程 次の事由が主債務に生じた場合に、手形保証人に支払義務を負わせるべきかどうかを考えて見る 主債務者の制限能力による取消 主債務者の署名についての偽造・無権代理 人的抗弁の存在 錯誤、強迫等の意思表示の瑕疵 原因関係の解除 原因債務の時効消滅 原因債務の弁済 手形債権の消滅(主債務者による手形の支払、時効) 高 所持人の保護の必要性 低 ⇒原因関係の弁済や手形の弁済の場合にまで、手形保証の独立性を貫徹するには不都合ではないか
学説 手形保証の独立性を貫徹すべきである(手形保証人は主債務者の有する抗弁を一切対抗できない) 手形保証の独立性を原則として貫徹するが、手形保証が保証人-債権者間の民事保証契約に基づいて成立する場合、原因関係である民事保証契約の消滅を人的抗弁として対抗できる 手形保証人は主債務者の有する原因関係の抗弁を対抗してよい(所持人が不当利得となる場合に限定するとの見解もあり) 人的抗弁 A C 振出 民事保証契約 B説の考え方 手形保証 B
判例 最判S30.9.22 Yは、AがXに対して有する売買契約無効の抗弁を対抗できない ⇒手形保証の独立性を貫徹する立場を採用(批判が多い) 人的抗弁 A X 振出 手形保証 Y Aの人的抗弁 Yは、AがXに対して有する売買契約無効の抗弁を対抗できない ⇒手形保証の独立性を貫徹する立場を採用(批判が多い)
最判S45.3.31百63 人的抗弁 B X A 不履行賠償担保のため振出 損害賠償不発生確定 悪意 Y 手形保証 信義則違反 Bは、原因関係上の債務の不発生が確定した場合には、Aに対してのみならずYに対しても手形上の権利を行使すべき実質的理由を失い、手形を所持することを奇貨としてYに請求をすることは信義則違反
隠れた手形保証 (略)
手形の支払
手形の支払・遡求手続き 満期 支払呈示期間 支払呈示 支払い 支払拒絶 拒絶証書作成 支払拒絶の通知 通知の受領 支払拒絶の通知 通知の受領 満期+2取引日 振出人 所持人 支払呈示期間 裏書人 裏書人 支払呈示 支払い ※通知は手形の返還で足りる(手45Ⅳ) ※通知は遡求の要件ではない(同Ⅵ) 支払拒絶 拒絶証書作成 支払拒絶の通知 通知の受領 支払拒絶の通知 通知の受領 支払拒絶の通知 拒絶証書作成日(作成免除の場合は呈示日)+4取引日 通知受領日 +2取引日 通知受領日 +2取引日 手45Ⅰ 手45Ⅰ 手45Ⅰ
約束手形の決済(その1) 建前編 約束手形 手形金請求 手形金 受取人 振出人
約束手形の決済(その2) 現実編 口座残高 約束手形 振出人 受取人 当座勘定契約 当座勘定契約 手形用紙 手形交換所 銀行残高 銀行残高
満期における支払 満期における支払の形式的要件 支払呈示 呈示 支払呈示期間:満期+2取引日内に振出人に呈示 所持人による手形の呈示(呈示証券性) 振出人による手形と引換の支払(受戻証券性) 支払呈示 呈示 支払呈示期間:満期+2取引日内に振出人に呈示 呈示場所:支払場所の記載があれば支払場所、なければ振出人の住所・営業所 呈示方法 原則として完成手形を呈示(手形交換所への呈示でもよい) 例外的に、支払担当者不在(例:振出人が旅行中で留守)の場合、支払担当者=所持人といった場合には呈示があったとみなされる
呈示の効果 支払方法 付遅滞効 ・・・支払呈示期間の呈示は満期日から債務者を遅滞に陥らせる(手28Ⅱ、48、49) 付遅滞効 ・・・支払呈示期間の呈示は満期日から債務者を遅滞に陥らせる(手28Ⅱ、48、49) 遡求権保全効 ・・・支払呈示期間内の呈示がなければ遡できない(手44Ⅲ、53Ⅰ②③) 支払方法 全額支払い ・・・手形に受取文句を記載して交付するように所持人に請求できる(受戻証券、手39Ⅰ) 一部支払 ・・・手形に一部支払済みの記載をして手形は所持人に返還、所持人に受取証書交付請求可(手39Ⅲ) ※所持人は一部支払を拒絶できない(遡求義務者保護) 相殺 ・・・相殺する側に不利に扱う 振出人から相殺 手形の受戻不可(受戻しのない支払) 所持人から相殺 振出人は手形の交付を請求可
支払免責 総論 手40Ⅲの趣旨 振出人の調査義務 権利者として推定される者(=形式的資格者=裏書の連続した手形の所持人)に対する支払を保護 ⇒形式的資格者に対して支払を拒絶した場合に手形債務者はリスクが大きい 振出人の調査義務 署名の調査 満期後の支払については、手形債務者は裏書の連続の整否を調査する義務はあるが、署名の真偽の調査義務はない 所持人の実質的権利についての調査 無権利者であることについて悪意・重過失があれば免責されない ⇒次項で検討
免責の要件 基本の要件 悪意・重過失の意義 悪意・・・「所持人が無権利であることを容易に立証できるのにもかかわらず敢えて支払うこと」 満期(および満期後)の支払であること 所持人が裏書の連続した手形を呈示していること 手形債務者に、所持人が無権利であることについて悪意・重過失がないこと 悪意・重過失の意義 悪意・・・「所持人が無権利であることを容易に立証できるのにもかかわらず敢えて支払うこと」 重過失・・・「所持人が無権利であることを容易に立証できることを容易に知ることができたにもかかわらず支払うこと」 ⇒権利者推定(手16Ⅰ)が働く場面での債務者保護の要請から、所持人から手形金請求訴訟を提起されても勝訴できるような事情の認識についての悪意・重過失と考える
請求 申入書 X 振出人Y X代理人A 振出 被裏書人B 受取人欄抹消依頼 取立委任 支払 最判S44.9.12判時572-69百-70 ①XはYによって受取人欄が抹消された場合のことまで考慮して権利保全手続をする必要はない ②YはXから申入れを受け、かつXの名を抹消してAに交付したのだから、必要な調査をすればAが権利者でないことを容易に知りうべきであり、かつその証明すべき証拠方法も確実に得ることができたから、重過失がある
支払免責の拡張 Xが無権利者のケース ⇒手40Ⅲの典型例 最終の被裏書人欄がX以外の別人名義であった場合 振出人Y 受取人A 被裏書人B 所持人X 裏書 B代理人X 振出 盗取 破産者B Xが無権利者のケース ⇒手40Ⅲの典型例 最終の被裏書人欄がX以外の別人名義であった場合 Xに受領権限がない場合(被裏書人Bの無権代理人の場合) Xに受領能力がない場合(Xが破産者であった場合) 通説が(仮にX→Yの裏書譲渡なら)善意取得を認める範囲 二段階創造説が(仮にX→Yの裏書譲渡なら)善意取得を認める範囲 支払免責は支払が強制されるので保護範囲は拡張されるべき 善意取得度同様、形式的資格の裏返しだからYは当然免責される ①~④のいずれも支払免責の対象
判例・多数説はa説に立つ(最判S33.9.11百69参照) 受戻なき支払 所持人(B)が手形を所持している場合 ⇒所持人に再度の請求を認める必要はない Yの支払で手形債権は消滅し、手形は紙切れに戻る 手形の消滅は受戻が要件であるから手形債権は存続し、YはBに支払済みの抗弁を対抗できるにすぎない 所持人が手形を(Cに)裏書譲渡した場合 手形債権は消滅しているので権利外観法理で処理 有効な手形が流通し、YB間の人的抗弁の切断の問題になる 支払 振出人Y A B C 振出 裏書 裏書 約束手形 判例・多数説はa説に立つ(最判S33.9.11百69参照)
BがAに遡求する場合 AはBに手形債務の消滅(前頁(a)説)またはYB間の支払済みの抗弁(前頁(b)説)を主張可 受戻なしで支払 振出人Y A B 振出 裏書 約束手形 遡求 BがAに遡求する場合 AはBに手形債務の消滅(前頁(a)説)またはYB間の支払済みの抗弁(前頁(b)説)を主張可 遡求に応じたAには手40Ⅲが類推適用され、(手40Ⅲにいう)善意・無重過失で遡求に応じた場合にはYに再遡求可
満期前の支払 満期前の支払の効力(手40Ⅱ) 満期前の支払をした者の保護(次のスライド) 満期前の支払も有効だが、「自己の危険において」行う=支払免責(手40Ⅲ)は適用にならない ※所持人は満期前の支払を受領する必要はない(手40Ⅰ) 満期前の支払をした者の保護(次のスライド)
経済的には同じ結果をもたらすのにYの保護がアンバランス 満期前支払 振出人Y A B Y 振出 盗取 裏書 約束手形 約束手形 Yは善意取得=善意・無重過失ならばBにだけ支払えば足りる Yは常にBとAの双方に支払が必要 経済的には同じ結果をもたらすのにYの保護がアンバランス 多数説・・・満期前支払についても善意取得の規定を類推適用して、Bが無権利であることについて善意・無重過失ならば免責 少数説・・・無権利者からの裏書を受けた者が振出人の場合には、手40Ⅱを類推適用して善意取得を認めない
支払呈示期間経過後の呈示 満期における支払との異同 付遅滞効については、呈示日から遅滞 時効中断効はある 遡求権保全効はない 支払場所の記載の効力は失われて、振出人の営業所・住所地に呈示(最判S42.11.8百67) 満期後の呈示に対する支払については一部支払を拒絶可(∵遡求義務者の利益を考慮せずともよい。通説)
支払猶予・手形書替 当事者の手形外の合意による支払の猶予 支払猶予の合意 振出人Y A B C 振出 裏書 裏書 人的抗弁 合意の当事者間では支払猶予の抗弁(人的抗弁)を対抗できるが、他の者には支払猶予の合意の効力は及ばない 時効の起算点は、合意の当事者間では猶予後の満期 合意外の遡求義務者との関係では当初の満期を基準に遡求権保全
当事者による満期の記載変更 合意の当事者間では記載の変更は有効で満期未到来の抗弁(物的抗弁)を対抗できるが、他の者にとっては変造になる 支払猶予の合意+満期記載変更の合意 振出人Y A B C 振出 裏書 裏書 約束手形 変造 変造 満期未到来の抗弁 H22.11.1 H23.11.1 合意の当事者間では記載の変更は有効で満期未到来の抗弁(物的抗弁)を対抗できるが、他の者にとっては変造になる 時効の起算点は、合意の当事者間では変更後の満期 合意外の遡求義務者との関係では変造前の満期を基準に遡求権保全
手形書替① 旧手形と引替に新手形を交付 書替の法的性質は代物弁済(通説) 手形書替① 旧手形と引替に新手形を交付 振出人Y A B 振出 裏書 新手形 満期 H23.2.1 旧手形 満期 H22.11.1 書替の法的性質は代物弁済(通説) 旧手形上の抗弁、旧手形取得時の善意・悪意の事情、担保・保証は新手形に引き継がれる 旧手形振出後の能力制限、新手形についての偽造の場合には、新旧手形は別の手形と考える
手形書替② 旧手形はそのまま新手形を交付 振出人Y A 振出 旧手形 満期 H22.11.1 新手形 満期 H23.2.1 手形書替② 旧手形はそのまま新手形を交付 振出人Y A 振出 旧手形 満期 H22.11.1 新手形 満期 H23.2.1 満期 H23.2.1 書替の法的性質は支払延期(判例)または旧手形の「支払のため」または「担保のため」の振出 ※AがYとの合意に反して旧手形を保有する場合には代物弁済と解する余地 旧手形の満期も新手形満期まで伸長される(ただし人的抗弁) 旧手形上の抗弁、旧手形取得時の善意・悪意の事情、担保・保証は新手形に引き継がれる 旧手形振出後の能力制限、新手形についての偽造については、新旧手形は別の手形と考える 所持人は新旧どちらかの手形の呈示で支払を受けられる(ただし新旧両方の手形の交付と支払いは同時履行)
振出人Y A B 振出 裏書 新手形 満期 H23.2.1 旧手形 // 切断 支払済みの抗弁 (人的抗弁) 手形書替に合意した所持人に一方の手形で支払を行った債務者は、もう一方の手形による請求を拒める(支払済みの抗弁)。ただし書替の合意は手形外の合意だから、抗弁は人的抗弁にすぎず、転得者には原則として対抗できない