脳とこころ:認知神経科学 ネットワークと新しい視点

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脳とこころ:認知神経科学 ネットワークと新しい視点 http://cognitivens.web.fc2.com/ 神経・臨床心理 脳とこころ:認知神経科学 ネットワークと新しい視点 http://cognitivens.web.fc2.com/

ヒトの脳機能を2つに分ける:自己の内部、外部とインタラクトする系 前者は情動・動機づけと記憶の系を持ち、後者は感覚と運動の系を持つ INTERNAL ENVIRONMENT Memory System EXTERNAL ENVIRONMENT Motor System Sensory System Control System EXTERNAL ENVIRONMENT Emotion System ヒトの脳機能を2つに分ける:自己の内部、外部とインタラクトする系 前者は情動・動機づけと記憶の系を持ち、後者は感覚と運動の系を持つ その2つが交わるところに認知的制御の系を考える 全体が自己Self

Ⅶ.再び認知的制御 1.認知的制御機能の単純化、 汎用性

認知的制御機能の問題点 前頭葉の認知的制御機能(実行機能)にはどのようなものがあるのか 様々な実行機能がどのように実現しているのか それら実行機能は「局在」するのか 上の問いに関係して、なぜ一般に前頭葉損傷は大きな影響を持たないか 実行機能の機能的構造はどのようなものか 実行機能を基本的な要素に分けることは可能か 実行機能を要素の組み合わせとして捉えられるか

認知的制御機能と単位的行動 思いつくままに

実行機能の単純化 対象 対象の所在 ワーキング メモリ 長期記憶 上位の階層に行くほど 個々の対象から離れ 抽象的、汎用的になる ただし、fMRIの空間分解能 は常に問題になるだろう また、decoding研究が重要 対象       対象の所在

単位的機能の可能性 いくつかの例 この例から予測されること すべてで共通に活性化する領域があるだろう  この例から予測されること   すべてで共通に活性化する領域があるだろう   注意と記銘の活性は似ているだろう   想起とイメージ生成は似た活性があるだろう なお、今後decoding研究が行われるべきだ

2.認知的制御機能(実行機能) の単純化の実例 Ⅶ.再び認知的制御 2.認知的制御機能(実行機能) の単純化の実例

空間的注意は空間的ワーキングメモリ のリハーサル(維持)と同じ? 空間的注意は空間的ワーキングメモリWMのリハーサルと同じだと考えてよいのでは WMは貯蔵の側面が強調されて来たが、top-downの制御(実行)機能面を考えるべき  それは、Baddeleyのモデルの中央実行系の弱さを指摘していると考えられる  Awh, Jonides, TICS01

注意 = 維持(リハーサル)? リハーサル 注意 P1 antN1 postN1 左よりP1, antN1, postN1 いずれもよく似たERP反応 Awh, Jonides, TICS01

記銘、想起の制御機能は長期記憶LTMと ワーキングメモリWMで使われる WMではdelay中に1つの 顔を7s覚えていればよい LTMでは複数の顔を数分 間覚えている必要がある Ranganath et al., NP03

WMとLTMで重なる 重なり Ranganath et al., NP03

WMとLTMで類似の活性 白:WM、青:LTM記銘、紫:LTM想起 青と紫のグラフを重ねると 左の白いグラフと似る 領域はPFCのいろいろな場所 Ranganath et al., NP03

維持の実行機能は材料contentで差なし What then where, Where then what 背側系where 上頭頂葉 前頭葉 腹側系what 紡錘状回 2つの次元:位置(where)、図形(what)   左上:腹外側前頭前野   右上:上頭頂葉   右下:紡錘状回 前頭葉は材料で差がない 差はbufferの方で出る Postle, D’Esposito, JCNS99

注意に関する共通のtop-down 機能 Searchの対象は空間的なものか、色 脳内のいろいろなtop-downの領域ではこの2つの対象に対し共通のsearch systemが働く それぞれの対象に異なるシステムが機能するのではない Egner et al., JNS08 下前頭皮質/島皮質前部 空間も 色も 同じ活性 他領域も

実行機能:選択 指定 自由 色 行為 色Cか行為Aの選択 自由Fに反応するか指定Eされるか ・色と行為で前頭葉には差なし 指定        自由  色 行為 色Cか行為Aの選択 自由Fに反応するか指定Eされるか ・色と行為で前頭葉には差なし ・前頭葉と色、行為関連領野との 機能的結合が異なる 閾値低い F > E Rowe et al., CC05

前頭葉の機能結合 対象別の制御機能があるのではない これらの結果は、前頭葉の制御機能は、刻々と変化する事態に対応して、感覚系などの他のシステムとダイナミックな機能結合を形成することにより実現されるのではないか 同じことが前頭葉内でもあり、要素的、単位的な機能が結合することにより、問題としている制御機能が実現されるのではないか         機能は要素・単位に分解できる

課題各時期のネットワーク (FFA & PFC) Gazzaley et al., CABNS04 右FFAと一緒に活動していた前頭前野領域 MFG, IFGは中前頭回、下前頭回   →機能的結合性

Ⅶ.再び認知的制御 3.機能構造

前頭葉のWMの機能分化 Gazzaniga et al., Cognitive Neuroscience, 2002 空間課題(右) 非空間課題(左) Content-based 情報の維持(腹) 情報の維持+(背) Process-based

Rostro前-caudal後 hierarchy:材料 左より 音韻、意味、視覚課題 FPC:前頭極皮質 DLPF:背外側前頭前野 PM:運動前野 aVLPF:前部腹外側          前頭前野 FG:紡錘状回 PM, aVLPFでは材料特異 的だが、FPC, DLPF では特異性が消失 PFCの活性化は各課題で PM, aVLPFの活性と相関 Sakai, Passingham, JNS06

Badre D’Esposito JCNS07 眺めるだけで 複雑さが増す ことは分かると 思います

前頭葉の吻側(前)-尾側(後)軸 domain 材料 control 制御 relational 関係 abstraction 抽象 Badre, TICS08

後方から前方に行くにつれて抽象度が増したり、複雑な事態のみで活性が起こる Badre, TICS08 済みません 細部は無視してください 後方から前方に行くにつれて抽象度が増したり、複雑な事態のみで活性が起こる

前頭葉の機能構造への疑問 このような吻側-尾側(r-c)の階層構造と冒頭で問題にした前頭葉の様々な制御機能の関係は? r-cの構造ですべてが決まっているのなら、ある機能が前頭葉のある領域に限局するのは、その機能の複雑さがr-c軸でその位置に相応しいから? 例えば、「想起」機能は前頭葉全体で実現されているが、「想起」の複雑さにより、前頭葉の前方や後方が活性化する? これでは「想起」そのものの神経機構が不明にならないか?

前頭葉の機能構造への疑問 さらに一般化すると、いろいろな認知制御(実行)機能間の区別が不明 pattern analysis? 半球差があった場合、それをどう説明するか 前-後軸の構造に代表される機能的構造の理論と個別的な制御機能の理解を統合する必要があるのではないか

ご清聴、感謝

追加資料

一つのモデル 課題(機能):意味の記銘、簡単な再認(K的)、深い再認(R的) 具象・抽象 快・不快 +、-は 要素機能 の有無 課題(機能):意味の記銘、簡単な再認(K的)、深い再認(R的) 要素機能:語彙・音韻アクセス/維持、意味の分析/手掛かりの特定化、深い想起の監視/評価

一つのモデル 左前頭葉に焦点 Source 中央 Item 右 Semantic 左 深い想起を含むすべての要素 語彙・音韻のみ 一つのモデル  左前頭葉に焦点 Source 中央  深い想起を含むすべての要素 Item 右  語彙・音韻のみ Semantic 左  語彙・音韻と意味分析 Dobbins et al., Neuron02

rostro-caudal hierarchy:関係 右の4つから 入れるものを選択 右中前頭回で 2-relationalで↑ 上から0-, 1-, 2-relational Christoff et al., NI01

rostro-caudal hierarchy:関係 Ruleの想起と維持 の脳活動 正 誤 右の課題で、cue, delayで つまりruleに対して活動した領域 Go 課題よりもMatchの方が複雑 MatchよりNon-machの方が複雑 Bunge et al., JNP03

rostro-caudal hierarchy:関係 Ruleの想起と維持の脳活動 腹外側前頭前野 手掛かり刺激 Cueに対する反 応は両方の領 域で類似する 遅延期delayの 反応は異なり FPCはmatchと non-machで 異なる反応  cue delay 前頭極皮質 Bunge et al., JNP03

rostro-caudal hierarchy:関係 analogical reasoning Bunge et al., CC05 FPC:前頭極皮質 aLIPC:左前下前頭前野 DLPFC:背外側前頭前野 Analogy:Pair 2の語はPair 1と同じ次元で互いに似ているか? Semantic:Pair 2の語はお互いに関連するか? Yes/Noの試行がそれぞれ半々ある related/unrelated, associative strengthも操作

rostro-caudal hierarchy:関係 analogical reasoning FPC:前頭極皮質 aLIPC:左前下前頭前野 DLPFC:背外側前頭前野 AnalogyとSemanticの差はFPCとaLIPCで Bunge et al., CC05

rostro-caudal hierarchy:関係 左 右 同じ形のペアはあるか? 同じテクスチャのペアはあるか? 下ペアは上ペアと同次元で同じ? 高次元の関係性が問題 処理要求のレベルに対応 関係性の統合に関係 Bunge et al., NI09

rostro-caudal hierarchy:representation BA10 BA9/10/46 C:tabletと同じアルファベットの順序か De:小文字を無視、大文字で同じ課題 Dt:Cと同じことをやり、文字のケース  変化があったら、それがT(t)かを判断 Br:Deと同じことをやりつつ、Dtと同じ  ことをやる PFCの前方に行くに従い高度の処理に対応 Br Dt De C Branchingのみで活性の高い領域 Koechlin et al., N99

rostro-caudal hierarchy:制御 次のスライドに課題がある (a)Sensory control i.左へ反応か、No-Go ii.左右へ反応か、No-Go (b)Contextual control i.母音/子音かNo-Go ii.母音/子音か大文字/小文字かNo-Go (c)Episodic control    i.色と反応が固定的関係    ii.ブロック毎に色と反応の関係が変わる Koechlin, Summerfield TICS07

固定 変動 R1:左反応 R2:右反応 T1:母音/子音 T2:大/小文字 Sensory Episodic Contextual Branching T1:母音/子音 T2:大/小文字 固定 変動

rostro-caudal hierarchy:制御 Koechlin et al., S03 緑:stimulus, 黄:context, 赤:episode