烏骨鶏のミトコンドリア 全長塩基配列について 和田康彦1,2, 山田義之1,上平熊亘1, 西堀正英3,西堀奈穂子3,都築政起3, 安江 博4 1佐賀大学農学部、 2BIRD,科学技術振興事業団 3広島大大学院生物圏科学, 4生物資源研ゲノム研究
要旨 【目的】烏骨鶏は鶏の1品種であるが、その形態は他の品種とは大きく異なっているとともに、中国ではその肉が漢方薬として珍重されてきた。近年、わが国においても烏骨鶏の卵と肉は健康食品としての需要が高まってきているが、烏骨鶏の起源や他の鶏種との系統関係は明らかではない。そこで、烏骨鶏のミトコンドリアDNAの全長塩基配列を決定し、分子系統学的な解析を行った。 【方法】広島大学で維持されている烏骨鶏1羽の全血からDNAの抽出を行い、LA-PCRを用いて全長に近い長さのミトコンドリアDNAを増幅し、LA-PCR産物を用いてアガロース電気泳動を行い、ミトコンドリアDNAの位置のバンドを切り出して、DNAの精製を行った。精製したミトコンドリアDNAを鋳型にして24組のPCRを行い、PCRダイレクトシーケンス法を用いて烏骨鶏のミトコンドリアDNAの全長塩基配列を求めた。烏骨鶏、白色レグホーン、白色プリマスロック、ラオス在来鶏、日本ウズラのミトコンドリアDNAのD-loop領域の塩基配列から近隣結合法により分子系統樹を作成した。さらに、キジ科に属する6種7個体のCytbおよびND2遺伝子の塩基配列を対比較して、サイト当たりの非同義置換数(dN)と同義置換数(dS)を推定した。 【結果】烏骨鶏のミトコンドリアDNAの全塩基数は16,784塩基で白色レグホーンより9塩基多い結果となった。ミトコンドリア全塩基配列における烏骨鶏と白色レグホーンの間の相同性は99.8%であった。近隣結合法により作成した分子系統樹において、今回シーケンスした烏骨鶏のD-loop領域の塩基配列は白色レグホーンときわめて近縁であることが示された。キジ科鳥類間のdN/dS比はcytb、ND2ともに0.1未満と小さく、シーケンス間の遺伝距離の増加とともにわずかに増加する傾向が認められた。
方法 烏骨鶏の血液からDNAを抽出 2組のプライマーペアでLA-PCR ミトコンドリアDNAのバンドを切り出し 2組のプライマーペアでLA-PCR ミトコンドリアDNAのバンドを切り出し ミトコンドリアDNAを鋳型に24組のPCRプライマーを用いたPCR 確認されたPCR産物の精製とPCRダイレクトシーケンス反応 精製したPCR産物の塩基配列の決定 各PCR産物の塩基配列のアセンブル D‐loopの塩基配列のデータを用いた分子系統樹の作成 CytbおよびND2の塩基配列データを用いたdN/dS比の推定
DNAサイト当たりの非同義置換数と同義置換数の推定 アミノ酸配列のアライメント 分子系統樹の作成方法 近隣結合法、ブートストラップ1000回 DNAサイト当たりの非同義置換数と同義置換数の推定 アミノ酸配列のアライメント アミノ酸配列にもとづく塩基配列のアライメント 対比較による推定 (PAML3.13 codeml )
烏骨鶏のミトコンドリアDNAの遺伝子構造とプライマー
D‐loop 領域の塩基配列による分子系統樹 (近隣結合法、ブートストラップ1000回) 日本ウズラ 白色プリマスロック ラオス在来鶏 995 烏骨鶏 949 白色レグホーン
サイト当たり非同義置換数と同義置換数の割合(dN/dS) (ND2遺伝子領域、対比較) ML法 NG法 白色レグホン 烏骨鶏 NA コジュケイ 0.026 0.072 ヨーロッパヤマウズラ 0.061 0.114 コウライキジ 0.034 0.073 日本ウズラ 0.040 0.105 アメリカホシハジロ 0.003 0.136 0.025 0.060 0.113 0.033 0.039 0.137 0.049 0.111 0.041 0.099 0.029 0.081 0.145 0.059 0.092 0.122 0.018 0.147 0.058 0.103 0.057 0.148 0.150
遺伝距離とdN/dS比との散布図(ND2)
遺伝距離とdN/dS比との散布図(Cytb)
系統樹の枝ごとのdN/dS比の推定値(Cytb) 0.021 アメリカホシハジロ 0.011 日本ウズラ 0.042 コジュケイ 0.005 白色レグホン 0.008 烏骨鶏 0.031 0.050 ヨーロッパヤマウズラ コウライキジ 0.014 0.005
系統樹の枝ごとのdN/dS比の推定値(ND2) 0.036 アメリカホシハジロ 0.038 日本ウズラ 0.035 コジュケイ 0.025 白色レグホン 0.056 烏骨鶏 0.211 0.078 ヨーロッパヤマウズラ 0.077 0.046 コウライキジ