岡田安弘(KEK,素核研) 2005年8月3日 加速器セミナー TeVの物理、Planckの物理 岡田安弘(KEK,素核研) 2005年8月3日 加速器セミナー
目次 素粒子のスケール 電弱対称性の破れと標準模型を超える物理 ニュートリノの質量と標準模型を超える物理 宇宙論と標準模型を超える物理 まとめ
素粒子のスケール 1 GeV :陽子の大きさ、質量 =強い相互作用(QCD)のスケール 100 GeV – 1 TeV: =強い相互作用(QCD)のスケール 100 GeV – 1 TeV: 弱い相互作用のスケール= 電弱対称性の破れのスケール = ヒグッス場の期待値 v = 246 GeV W粒子 10^19 GeV ( Planck スケール) 重力とゲージ力が同じぐらい強さになると期待されるスケール
1 GeV スケールの理解 パートン模型 ~1970’s SU(3)フレーバー対称性 ~1980’s QCD ~1960’s
TeV スケールの物理 現在の加速器のエネルギーフロンティア 電弱対称性の破れのダイナミックスを解明することが目標 (弱い相互作用のスケールを理解する) 直接的には ヒッグス粒子の物理 ヒグッス粒子の発見とヒッグス粒子と他の素粒子の結合定数の測定 LHC mh=130 GeV ILC mh=120 GeV
標準模型を超える物理の動機 原理的な動機 標準模型には重力が含まれていない。 重力とゲージ相互作用は統一されるか。 標準模型には重力が含まれていない。 重力とゲージ相互作用は統一されるか。 Planck スケールと電弱スケールの関係は? 理論的には 二つのスケールが非常に離れていることが大きな問題。 標準模型を超える物理を考える最も大きな動機。 (階層性の問題) ヒッグス場が電磁場と同じような基本的な場だと思うと二つのスケールが同じ 程度なのが自然。
いろいろな解決法 (1)新しい対称性=超対称性 ヒッグス粒子は超対称フェルミオンのパートナー (2) 新しい強い力 ヒッグス粒子は複合粒子 (1)新しい対称性=超対称性 ヒッグス粒子は超対称フェルミオンのパートナー (2) 新しい強い力 ヒッグス粒子は複合粒子 (3)重力理論が変わる。余分な空間次元が存在するために TeV スケール 重力とゲージ理論の統一がおこる。 (4)別の可能性。まだ考えついていない解決法。 (5) 良くわからない。未解決の問題として残る。
TeV 物理に対するインパクト 複合粒子 超対称性(SUSY) a ~10 TeV 余分な次元 SUSY 粒子の存在。 ゲージ力 重力 ゲージ力 余分な次元 SUSY 粒子の存在。 それぞれのシナリオでTeVスケール を超えたところでまったく違ったことが起きる。
どうやって区別するのか ヒッグス物理で違いがでる。 いくつあるか。ヒッグス粒子の質量は。 ヒッグス粒子の結合定数は。 同時に何が見つかるか。 いくつあるか。ヒッグス粒子の質量は。 ヒッグス粒子の結合定数は。 同時に何が見つかるか。 超対称粒子? 余分なゲージ粒子? 重い t’ 粒子? 重い重力子? 何が見つかるかによって、LHC/ILCで決着がつくかもしれないし、方向性がわかるだけかもしれない。
ニュートリノの質量 ニュートリノに質量があることは 最も単純な標準模型に修正が必要な証拠。 ニュートリノに質量があることは 最も単純な標準模型に修正が必要な証拠。 どのスケールにニュートリノの質量の原因があるかはいろいろな説がある。 eVスケール 不自然だか単純 Dirac neutrino GUT スケール 自然で単純 Seesaw neutrino TeV スケール 複雑な機構 量子補正、余分なヒッグス粒子 TeV スケールの物理のシナリオと相性の良し悪しがある。 いろいろな物理に対するインパクトはそれぞれの場合で異なる。
Dirac n Seesaw n New TeV Interaction ○ ◎ × SUSY 複合ヒッグス 余分な次元 ニュートリノの質量生成の機構とTeV物理のシナリオの関係 ニュートリノ TeVシナリオ Dirac n Seesaw n New TeV Interaction SUSY ○ ◎ LFV, FCNC, EDM Leptogenesis 特殊な場合 LFV 複合ヒッグス × 余分な次元 ヒッグス粒子ひとつだけ leptogensis
宇宙論との関係 宇宙のエネルギー組成 暗黒エネルギー 73% 暗黒物質 23% バリオン 4% 三つとも素粒子物理にインパクトがある。
暗黒エネルギー 宇宙項の問題 観測的には 理論的には どうしたらよいかわからない。 重力の正しい定式化まで先送り?
暗黒物質 暗黒物質の候補 WIMP (weakly interacting massive particle) 安定な中性粒子 安定な中性粒子 高温で熱平衡にあったWIMPは宇宙が冷えるとともに対消滅。ある温度で対消滅の相互作用が凍結する。 対消滅の断面積が大きいほどWIMPの残存量は少ない。 ちょうど 質量が数10GeV – TeV ぐらいにあるとうまく。 Axion や軽いgravitino などの例外的 な場合もある。
? SUSY 複合ヒッグス 余分な次元 ヒッグス粒子ひとつだけ TeV物理のシナリオと暗黒物質の候補 SUSY neutralino, sneutrino, gravitono, axion. 複合ヒッグス Heavy photon (Little Higgs Model with T parity) 余分な次元 Kaluza-Klein photon (Universal Extra Dim Model) ヒッグス粒子ひとつだけ ? 多くの場合何らかの対称性を課す結果として中性安定粒子が登場。 LHCでMissing energy のシグナルで探す。 LCでは暗黒物質の候補を同定してその性質を決める。宇宙の観測量と比較する。
LCにおける暗黒物質の候補の同定 neutralino smuon とKKmuon の区別 sneutrino KK photon M.Peskin
バリオン数生成 最も単純な標準模型では十分なバリオン数は作れない。(インフレーション宇宙では必ずバリオン数はどこかで作る必要あり) バリオン数生成には、(1)Bの破れ(2)CおよびCPの破れ(3)熱平衡からのはずれの3条件が必要。 GUTスケールでバリオン数かレプトン数をつくるシナリオと電弱相転移でバリオン数を作るシナリオがある。
Leptogenesis Seesaw neutrino model に於けるバリオン数生成機構 宇宙初期に重いニュートリノの崩壊によってレプトン数が生じ、電弱相転移の前にバリオン数に変化する。(高温ではB+L保存しない) Leptogenesisがうまくいくインフレーション再加熱温度と 重いニュートリノの範囲 G.F.Guidice, A.Notari, M.Raidal, A.Riotto,,A.Strumia
Electroweak Baryogenesis 電弱相転移の時にバリオン数が生成される。 ヒッグスセクターの拡張が必要。(強い一次相転移) 100GeV付近にヒグッスセクターに関連する新粒子、新しい相互作用があるはず。
△ ○ X? ○? X Leptogenesis Electroweak Baryogenesis SUSY 複合ヒッグス 余分な次元 TeV物理のシナリオとバリオン数生成機構 TeVシナリオ Leptogenesis Electroweak Baryogenesis SUSY △ (インフレーションの再加熱温度に制限) ○ (特殊なパラメータ 軽いstop) 複合ヒッグス X? ○? (特殊なヒッグスセクター) 余分な次元 ヒッグス粒子ひとつだけ X バリオン数生成
まとめ ヒッグス物理 Superstring ? ニュートリノ質量 暗黒物質 バリオン数生成 Planck の物理 TeVの物理
ニュートリノ質量、暗黒物質、バリオン数生成は、最も単純な標準模型を超える物理があるはずだという明らかな証拠である。 ただし、TeVスケールからPlanck スケールのどこのスケールに原因があるのかはわからない。 これらの問題の答えはヒッグスの物理つまり電弱対称性の破れの背後にある物理のシナリオに依存する。 1960代から80年代にかけて1 GeVの物理を理解したように、1TeVの物理を理解することが現在の素粒子物理の最大の課題である。それは、ヒッグス粒子の発見とその性質を明らかにするだけでは終わらない。