『モデリング・シミュレーション入門』 井庭 崇 第8回 シミュレーションによる分析

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『モデリング・シミュレーション入門』 井庭 崇 第8回 シミュレーションによる分析 Keio University SFC 2004 『モデリング・シミュレーション入門』 第8回 シミュレーションによる分析 いば  たかし 井庭 崇 慶應義塾大学総合政策学部 専任講師 iba@sfc.keio.ac.jp http://www.sfc.keio.ac.jp/~iba/lecture/

授業スケジュール 第1回(10/1) イントロダクション 第2回(10/8) モデリングとは 第3回(10/15) 数理モデリング 第1回(10/1) イントロダクション 第2回(10/8) モデリングとは 第3回(10/15) 数理モデリング 第4回(10/22) 非線形とカオス 第5回(11/5) オートマトン(状態機械) 第6回(11/12) オブジェクト指向モデリング (三田祭休み) 第7回(11/26) オブジェクト指向モデリングとプログラミング 第8回(12/3) シミュレーションによる分析 第9回(12/10) 自律分散協調システムと自己組織化のシミュレーション 第10回(12/17) 成長するネットワークのシミュレーション 第11回(12/18) 補講:ゲストスピーカー講演 (冬休み) 第12回(1/7) ニューラルネットワークによる学習のシミュレーション 第13回(1/14) 遺伝的アルゴリズムによる進化のシミュレーション

UMLにおけるいくつかのビュー 静的モデリング 動的モデリング モデル管理 クラス図 ユースケース図 コンポーネント図 配置図 復習 UMLにおけるいくつかのビュー 静的モデリング クラス図 ユースケース図 コンポーネント図 配置図 動的モデリング アクティビティ図 シーケンス図 ステートチャート図 コラボレーション図 モデル管理

復習 状態機械(オートマトン)と状態遷移図 状態機械(オートマトン)とは、トリガーとなるイベント(影響を及ぼすさまざまな出来事)を受け取ると、現在の状態に応じたアクション(動作)を行い、次の状態へ遷移するというシステム。 状態機械のすべての状態の見取り図は、ステートチャート図(状態遷移図)を用いて表現することができる。 内部状態 A B TimeEvent システム 内部状態 A システム 内部状態 B

ステートチャート図 ステートチャート図は、システムやオブジェクトの状態の変化(状態遷移)を記述するための図。 復習 ステートチャート図 ステートチャート図は、システムやオブジェクトの状態の変化(状態遷移)を記述するための図。 外界のイベント(オブジェクトに影響を及ぼすさまざまな出来事)が発生すると、オブジェクトの状態が変わる。 状態 遷移 イベント (トリガー) アクション

モデル駆動開発 (Model-Driven Development) 復習 モデル駆動開発 (Model-Driven Development) Model-Driven Development Conceptual Model Simulation Model Component Builder Source Code of Simulation Compiler Executable Program of Simulation

『モデリング・シミュレーション入門』 井庭 崇 第8回 シミュレーションによる分析 Keio University SFC 2004 『モデリング・シミュレーション入門』 第8回 シミュレーションによる分析 いば  たかし 井庭 崇 慶應義塾大学総合政策学部 専任講師 iba@sfc.keio.ac.jp http://www.sfc.keio.ac.jp/~iba/lecture/

シミュレーションは思考を支援する

シミュレーションとは 与えられた初期条件の下で、モデルを時間的に展開させること。 それを通じて、モデルの特徴について経験的な知見を得ることができる。

計算科学(Computational Science) 実験 実験物理学 実験化学 実験経済学 ・・・ 検証 解析 発見 条件設定 理論 理論物理学 理論化学 理論経済学 組織論 ・・・ 計算 計算物理学 計算化学 計算経済学 計算組織論 シミュレーション 発見 田子精男, 「計算の、計算による、計算のための科学」, 『シミュレーション科学への招待』, 日経サイエンス社, 2000 をもとに改変

ハーバート・A・サイモン, 『システムの科学』, 第3版, パーソナルメディア, 1999 新しい知識の源としてのシミュレーション 「いったいシミュレーションは、いかにしてわれわれに未知の事柄を教えることができるのだろうか」(ハーバート・サイモン) ① すでにわかっている前提から、結論を導き出す。 ② 内部の仕組みについて理解を深める。 ハーバート・A・サイモン, 『システムの科学』, 第3版, パーソナルメディア, 1999

因果関係をどうやって把握するか? 現実世界 思考世界 原因 (ある状況) ? 既知 既知 ? 結果 (その帰結)

ナレッジスキル (Knowledge Skills) 実世界、およびインターネット世界の両者を対象とした、知を操作するスキル 5つのグループ データ獲得 データ編集 データ分析 モデリング・シミュレーション 数理科学

因果関係をどうやって把握するか? 「データ分析」 のアプローチ 原因 既知 ? 結果 ? 既知 現実世界 思考世界 (ある状況) (その帰結) ? 既知

因果関係をどうやって把握するか? 「シミュレーション」 のアプローチ 原因 既知 ? 結果 ? 既知 現実世界 思考世界 (ある状況) 可能性 原因 (ある状況) 可能性 既知 ? 可能性 可能性 可能性 可能性 結果 (その帰結) 可能性 ? 既知 可能性 可能性

現象は個別具体的、理論は抽象的 現実世界 思考世界 理論・仮説 クラスレベル (抽象的) 現象 インスタンスレベル (具象的) 人工的な現象

「予測」ではなく「理解」へ 「とくに注意したいのは、将来の特別な時点における 特定の事象の定量的な予測が、モデルの目的には含まれていないということである。 従来、有用なダイナミック・モデルならば、ある将来の時点におけるシステムの特定の状態を予測できなければならないということは自明である、と間違って考えられてきた。 これは望ましいことかもしれないが、モデルの有用性は、未来における特定の進路を予測する能力にかかっている必要はない。」 (J.W.Forrester,1961)

「予測」ではなく「理解」へ 「従来の社会科学の科学哲学では、説明と予測を過剰に関係づけてきたと言えるだろう。つまり、理論をテストするのに、その理論がうまく将来を予測できるかどうかで判断される傾向があるのである。これは非線形理論、特にミクロレベルにおいては、適切な判断基準であるとはいえない。」 (Gilbert and Troitzsch, 1999)

「予測」ではなく「理解」へ 特定の未来を予測するのではなく、その現象・モデルの周辺を探索して理解するためにシミュレーションを行う。

空港の待ち行列モデル

待ち行列モデル(Queuing Model) 起源 20世紀初頭:スウェーデン電話交換施設の回線の混み合い問題 応用分野の例 銀行の顧客、空港の乗客、コンピュータのジョブ、行政機関の書類 確率的な分布を与える 顧客が到着する間隔 サーバーが顧客にサービスを提供する時間 シミュレーション分析の目的 顧客の平均待ち時間とサーバーの平均空き時間を最小化したい

空港の待ち行列モデルにおける確率(1) 乗客の到着確率:指数分布 不特定多数のものが到着する間隔は、「指数分布」に従うことが経験的にわかっている。 ある時間内に起こる事象の回数は「ポアソン分布」に従う

空港の待ち行列モデルにおける確率(2) サーバーが顧客にサービスを提供する時間:指数分布

シミュレーションの初期設定 クラス別の割合 預ける荷物をもっている確率 サービス時間 各種カウンター数 カウンター間の歩行時間 など ファーストクラス=10% ビジネスクラス=30% エコノミークラス=60% 預ける荷物をもっている確率 ファーストクラス=70% エコノミークラス=70% サービス時間 各種カウンター数 カウンター間の歩行時間 など ※これらの初期設定は、 World Initializerで変更可能 BESPのメニュー [ツール]→[World Initializer]

今日とりあげた話題に関する解説は・・・ ( 「シミュレーションによる分析」、「待ち行列モデル」) 『社会シミュレーションの技法: 政治・経済・社会をめぐる思考技術のフロンティア』 (ナイジェル・ギルバート/クラウス・G・トロイチュ, 日本評論社, 2003) 第1章 シミュレーションと社会科学 第2章 手法としてのシミュレーション 第3章 システムダイナミクスと世界モデル 第4章 ミクロシミュレーションモデル 第5章 待ち行列モデル 第6章 マルチレベルシミュレーションモデル 第7章 セル・オートマトンモデル 第8章 マルチエージェントモデル 第9章 学習と進化のモデル Nigel Gilbert, Klaus G. Troitzsch, Simulation for the Social Scientist Open University Press, 1999

『モデリング・シミュレーション入門』 井庭 崇 第8回 シミュレーションによる分析 Keio University SFC 2004 『モデリング・シミュレーション入門』 第8回 シミュレーションによる分析 いば  たかし 井庭 崇 慶應義塾大学総合政策学部 専任講師 iba@sfc.keio.ac.jp http://www.sfc.keio.ac.jp/~iba/lecture/

宿題(授業第8回)内容 ①授業中の演習で用いた「空港の待ち行列モデル」を用いて、自分で設定と問題を考え、シミュレーションを行ってください。そのシミュレーション結果と考察・提案をまとめ、この空港に対してコンサルティングをしてください。 (例1)ビジネスクラスの乗客の割合を4割に変えた場合に、待ち行列ができなくなるか? (例2)カウンター間の距離を変えた場合に、待ち行列の解消につながるか? 3種類程度、設定・シミュレーション・考察を行ってください。 単に数値を変えるだけでなく、もっともらしい理由・解説を考えてください。 「機体のビジネスクラスの席数を増やすことになると、会社として利益アップが期待できるが、カウンターについても増設する必要があるか検討する必要がある。」 「エコノミークラスの乗客とビジネス以上の乗客の通路を変える(距離を変える)ことで、乗客の心理的な待ち時間を減らすことができるか?」 ②今日の授業で新しくわかったこと、考えたこと、感想。

宿題(授業第8回)形式 提出&締切:来週の授業開始時に教室で。 形式:A4用紙1枚(両面可) 宿題(第8回)と明記 学部・学年・学籍番号・メールアドレス・名前を明記 来週の授業までに、演習用のシミュレーション・プラグインをダウンロードしてもらいます。準備が出来次第、メールします。

鈴木 健 氏(PICSY(伝搬投資貨幣)プロジェクト) 中嶋 謙吾 氏(コミュニティエンジン株式会社代表取締役社長) 補講:ゲストスピーカー講演 12月18日(土)2限 鈴木 健 氏(PICSY(伝搬投資貨幣)プロジェクト) 中嶋 謙吾 氏(コミュニティエンジン株式会社代表取締役社長) 補講日・時限を予定に入れておいてください。 補講では、講演後、感想を書いて提出してもらいます。