非対称リンクにおける ジャンボフレームの性能評価 著者:塩津 達郎 発表:河野 真也 それでは、発表を始めさせていただきます。 選んだテーマは、塩津さんの卒論 非対称リンクにおけるジャンボフレームの性能評価 です
研究の目的 非対称リンクでは上りの帯域と下りの帯域には大きな差がある 上りの帯域が少ない状況において、 ジャンボフレームの性能を評価する 例 ADSL 上り 8Mbps(12Mbps,40Mbps) 下り 1Mbps 上りの帯域が少ない状況において、 ジャンボフレームの性能を評価する まず研究の目的から説明させていただきます。 非対称リンクでは下りの帯域に重点がおかれていて、上りと下りの帯域に大きな差があります。 例えばADSLの場合、上りの帯域は8Mbpsや12Mbps、40Mbpsとなっていますが、下りの帯域は1Mbpsとなっています。 そこで、この研究では上りの帯域が少ない状況において、下りのスループットを向上するための技術としてジャンボフレームを用いて、その性能を評価します。
ジャンボフレーム イーサネットのフレームサイズを拡大 処理すべきパケット数の減少 高速な転送が可能になる ノーマルフレーム:MTU 1500byte ジャンボフレーム:MTU 9000byte 処理すべきパケット数の減少 高速な転送が可能になる ジャンボフレーム技術とは 高速な転送にともなうマシンの負荷を軽減し、 転送の効率化と端末の処理低減を実現することで、 スループットを向上させる技術です。 通常のイーサネットのMTUは1500byteですが、 ジャンボフレーム技術を利用すると、MTUは9000byteまで拡大されます。 それによって、同じ量のデータを送信する場合に、 単位時間当たりに処理すべきパケットの数が減少し、 高速な転送が可能になります。
ジャンボフレームの問題点 輻輳時には必ずしもスループットが高くなるわけではない コネクションを確立するまでを含めるとスループットが低下する場合がある 解決策 初期RTO 時間をコネクションごとに設定する コネクション確立用のタイムアウト時間を新しく設ける SYN を多重に送信する ジャンボフレーム技術の問題点として、 ネットワークが輻輳状態にある場合は必ずしもスループットが高くなるわけではないことがあげられます。 また、コネクションを確立するまでを含めるとスループットが低下する場合があります。 この問題の解決策として、 初期RTO時間をコネクションごとに設定する。 コネクション確立用のタイムアウト時間を新しく設定する。 SYNパケットを多重に送信する。 などがあげられますが、これらの問題点に対する解決策については研究の範囲外とします。
実験内容 上り帯域の制限を変化させた際の スループットの測定 上りのネットワークを輻輳させた状態でのスループットの測定 下り帯域:1000,100,200,300,400,500 Mbps 上りのネットワークを輻輳させた状態でのスループットの測定 下り帯域:1000 Mbps 上り帯域:10,50,100 Mbps DBSを用いて上りのネットワークを輻輳させる 測定に利用するプロトコルはHTTP つぎにこの研究で行った実験の内容を説明します。 今回の研究では2つの実験を行いました。 実験1では、下りの帯域を固定し、上りの帯域を変化させていった際のスループットを測定します。 下りの帯域は1000Mbps、100Mbps、200Mbps、300Mbps、400Mbps、500Mbpsのそれぞれについて実験を行いました。 実験2では、上りと下りの帯域を固定し、上りのネットワークの帯域幅に対するJAMパケット率を変化させていった際のスループットを測定します。 下りの帯域は1000Mbpsに固定で、上りの帯域が10Mbps、50Mbps、100Mbpsのそれぞれについて実験を行いました。 JAMパケットはDBSを用いて送出しています。 どちらの実験でも、wgetを用いてHTTPコネクションを確立して、そのスループットを測定しています。
実験環境 実験の環境はこのようになっています。 3台のPCを利用し、1台をルータ、残りの2台を測定用マシンとして利用します。 ルータとなるPC2でdummynet(ダミーネット)を用いて帯域を制限します。 そして、PC3でWebサーバを起動し、PC1からwgetを実行し、HTTPコネクションを確立して、そのスループットを測定します。
実験結果(1) 実験1の結果はこのグラフのようになります。 このグラフは下りの帯域を1000Mbpsに固定した場合の結果ですが、 下りの帯域を変えてもだいたい似たようなグラフになりました。 ジャンボフレームの場合、上りの帯域が8Mbps付近で十分なスループットが得られているのに対し、ノーマルフレームの場合、13Mbps付近まで十分なスループットが得られていません。 これは、受信側が単位時間当たりに送信しなければならないACKパケットの数が、 ジャンボフレームを利用した場合のほうが少ないので、 スループットを引き出すのに必要な上り帯域が、 ノーマルフレームを用いた場合よりも小さくてすむためです。
必要上り帯域の比較 下り帯域 必要上り帯域 (ジャンボ) (ノーマル) 100 0.7 2.5 200 1.3 5.0 300 1.9 7.0 400 2.7 9.0 500 3.6 11.0 同様に、下りの帯域を変えていった場合の実験結果から、 それぞれの下り帯域でスループットを十分に引き出すのに必要な上り帯域を求めると、 この表のようになります。 この表から、ジャンボフレーム技術を用いることによって、 HTTPコネクションにおいて必要な上り帯域を、 ノーマルフレームを用いたときの1/3から1/4に削減できることが分かります。 単位:Mbps
実験結果(2-1) つぎに、実験2の結果です。 これは、下りの帯域を1000Mbps、 上りの帯域を10Mbpsに固定し、 JAMパケット率を変えていったときのグラフになります。
実験結果(2-2) そしてこちらが、上り帯域を100Mbpsに固定したときのグラフになります。 それぞれの図において、上りの帯域に占めるJAMパケット率が50%を超えた時点で、 急激にスループットが低下していることが分かります。 また、JAMパケット率が40%以下の状態においては、 上りの帯域が狭いほどジャンボフレームの効果が顕著に現れています。
まとめ 上りの帯域幅が下りと比べて極端に狭い際に、上りの帯域削減にジャンボフレームが有用である 受信側から送信側に送信されるACK パケットの数を減らせるため HTTP コネクションにおいてはジャンボフレーム技術を使用することにより、上り帯域をほぼ1/3 から1/4 に削減できる 以上の実験により 上りの帯域幅が下りと比べて極端に狭い際に、上りの帯域削減にジャンボフレームが有用であること。 そしてそれは、受信側から送信側に送信されるACK パケットの数を減らせるためであること。 また、HTTP コネクションにおいてはジャンボフレーム技術を使用することによって、上り帯域をほぼ1/3 から1/4 に削減できること が分かりました。これらのことからジャンボフレーム技術の有効性が分かりました。 以上で発表を終わります。