第3回 物権法総説(物権と債権;所有と占有);所有権(所有権の意義;物権的請求権;所有権の取得原因);占有権(占有の意義;占有と取得時効)

Slides:



Advertisements
Similar presentations
2014 年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権( 2 ) 4. 共同債務関係にある債務者 5. 在外財産からの満足.
Advertisements

不動産鑑定士 近藤亮太. 不動産鑑定とは 不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。) の経済価 値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。 第三者に不動産評価に関する文書が提示できるのは「不動産鑑定士」のみ 不動産の一物三価 時価 路線価 時価の80% 固定資産税評価.
1 平成18年度 商法 Ⅰ 講義レジュメ No. 2  商法の特色  企業の活動に関する特色  企業の組織に関する特色 テキスト参照ページ:新商法講義 14~21p プライマリー 14 ~17p.
2013年度 破産法講義 13 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産財団の管理 財産状況の調査 否認権 法人の役員の責任追及.
LS会社法 社債 会社の資金調達 1 社債 テキスト参照ページ:323~337p.
法律行為(契約) 民法上の法律行為の代理 商法行為の代理
秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然として知られていないもの(不2Ⅳ)
特殊の不法行為 1.特殊の不法行為の種類分け 2.責任無能力者の監督者の責任 3.使用者の責任 4.共同不法行為
債権者代位権とその転用 名古屋大学大学院法学研究科 加賀山 茂.
2012年度 民事訴訟法講義 11 関西大学法学部教授 栗田 隆
バックホー盗難事件 明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂.
第4回 商事関係法.
「営業・事業」とは何か?① 商法15条:商号は営業とともにする場合に譲渡できるのはなぜ?
【表Ⅲ‐1】 子法人等・関連会社と連結計算書類の対象
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
「事 務 管 理」 の 構 成 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
講義レジュメNo.13 組織再編(2) 合併(吸収合併・新設合併) 会社分割(吸収分割・新設分割) 株式交換および株式移転
2016年度 破産法講義 6 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産手続開始の効果(4) 未解決の法律関係の解決 共同所有関係 双方未履行契約
2005年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆.
大阪大学大学院国際公共政策研究科 教 授 大久保 邦彦
2013年 民事訴訟法3 関西大学法学部教授 栗田 隆 第6回 (目次) 訴訟承継 任意的当事者変更.
2012年度 民事訴訟法講義 秋学期 第12回 関西大学法学部教授 栗田 隆
2016年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
2005年度 民事執行・保全法講義 第2回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
債権 債 権 法 の 構 造 (不法行為法:条文別) 第709条 不法行為の要件と効果 第710条 非財産的損害の賠償
企業法I(商法編)講義レジュメNo.07 商業使用人 会社の使用人
企業法Ⅰ(商法編)講義レジュメNo.06 営業(事業)譲渡の意義(15~18、会社21~24、467~470)
交通事故 1.交通事故の発生状況 2.自動車損害賠償責任保障法 3.中間責任主義 4.運行供用者 5.運行支配と運行利益
2014年度 破産法講義 7 関西大学法学部教授 栗田 隆 取戻権 別除権.
2016年度 民事訴訟法講義 秋学期 第11回 関西大学法学部教授 栗田 隆
請求権競合論 1.請求権競合論とは 2.問題点1,2 3.学説の対立 4.請求権競合説 5.法条競合説 6.規範統合説
2013年度 破産法講義 12 関西大学法学部教授 栗田 隆 財団債権.
2008年度 倒産法講義 民事再生法 4a 関西大学法学部教授 栗田 隆.
第7回 法律行為の有効性①-a(心裡留保;虚偽表示;94条2項の類推適用)
2005年度 民事執行・保全法講義 秋学期 第7回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
第20回 商事関係法 2005/12/ /11/8.
2018/11/8 民 法 の 構 造 (編別) 事務管理・不当利得・不法行為.
2006年度 破産法講義 13 関西大学法学部教授 栗田 隆.
法教育における アニメーションの効用 明治学院大学法科大学院 加賀山 茂 2018/11/8 法教育におけるアニメーションの効用.
2008年度 倒産法講義 民事再生法 7 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2008年度 倒産法講義 民事再生法 8 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2006年度 破産法講義 第8回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2005年度 民事執行・保全法講義 秋学期 第5回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2005年度 民事執行・保全法講義 秋学期 第1回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
企業法Ⅰ(商法編)講義レジュメNo.2 商法の特色 企業の活動に関する特色 企業の組織に関する特色
2018年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
第4回 商法Ⅰ.
2012年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
第14回 法人(法人の意義と種類;法人の対内的・対外的法律関係)
2018年度 破産法講義 12 関西大学法学部教授 栗田 隆 財団債権.
第4回.
2015年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
第13回 法律行為の主体②-b(無権代理、表見代理)
2006 民事執行・保全法講義 秋学期 第15回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
会社法資料 千葉大学2015.
2013年度 民事訴訟法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆
2018年度 民事訴訟法講義 秋学期 第12回 関西大学法学部教授 栗田 隆
「不 当 利 得」 の 構 造 債権 第一章 総則 第二章 契約 第三章 事務管理 第四章 不当利得 第五章 不法行為.
民事訴訟法 基礎研修 (1日目) 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2008年度 破産法講義 9 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2017年度 破産法講義 12 関西大学法学部教授 栗田 隆 財団債権.
1.詐害行為取消権の法的性質 2.詐害行為取消権の要件 客観的要件 主観的要件
2008年度 倒産法講義 民事再生法 9 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2017年度 民事訴訟法講義 8 関西大学法学部教授 栗田 隆
2014年度 民事再生法講義 3 関西大学法学部教授 栗田 隆
2016年度 破産法講義 10 関西大学法学部教授 栗田 隆 破産債権(2) 共同債務関係にある債務者 在外財産からの満足.
企業法I(商法編)講義レジュメNo.08 代理商
2009年度 破産法講義 13 関西大学法学部教授 栗田 隆.
2006年度 民事執行・保全法講義 第5回 関西大学法学部教授 栗田 隆.
基礎商法2_ /11/18 基礎商法2 第7回.
Presentation transcript:

第3回 物権法総説(物権と債権;所有と占有);所有権(所有権の意義;物権的請求権;所有権の取得原因);占有権(占有の意義;占有と取得時効) 民法(1) 第3回 物権法総説(物権と債権;所有と占有);所有権(所有権の意義;物権的請求権;所有権の取得原因);占有権(占有の意義;占有と取得時効)

物権法総説 物権と債権 物権法定主義(175条) 物権=物に対する権利 債権=人に対する権利 所有権 / 占有権   物権=物に対する権利   債権=人に対する権利 物権法定主義(175条)  所有権 / 占有権  地上権 / 永小作権 / 地役権(→用益物権)  留置権 / 先取特権 / 質権 / 抵当権(→担保物権)

物権法総説 物権の取得方法 ・原始取得→ある物につき、それまでの権利関係を問わずに最初の物権取得者を定める方法   e.g. 時効取得(162条)、即時取得(192条) ・承継取得→ある物に関するそれまでの権利関係を承継することによって物権を取得する方法 特定承継→特定の物に関する権利の承継(e.g. 契約) 包括承継→ある人に帰属する財産関係全体の承継(e.g. 相続、会社の合併)

物権法総説 「物」の意義(85条) 不動産と動産 物=有体物 不動産(86条1項) ← 「土地及びその定着物」  *建物も、土地とは独立の不動産として理解されている(cf. 370条) 動産(86条2項) → 不動産以外の物、および無記名債権(←債権者名が証券上記載されていない証券的債権)

物権法総説 主物と従物(87条) 果実(88条) 物の所有者が、その物の常用に供するために付属させた、自己の所有に属する他の物  物の所有者が、その物の常用に供するために付属させた、自己の所有に属する他の物 e.g. 宅地上に設置された石灯篭;取り外しのできる庭石 果実(88条) 天然果実→物の用法に従い収取する産出物を天然果実 法定果実→物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物(e.g. 利息)

所有権 所有権の意義 所有権の内容に関する調整規定 所有権=物に対する直接的かつ排他的な支配権 相隣関係に関する規定(209条以下)  e.g. 囲繞地通行権(210~213条)

所有権 物権的請求権 物権的返還請求権 物権的妨害排除請求権 物権的妨害予防請求権 ←直接的な支配を内容とする物権(e.g. 地上権などの用益物権)であれば、所有権以外の物権でも物権的請求権が認められる   cf. 抵当権侵害における妨害排除請求権  →①423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使(最大判平成11・11・24民集53-8-1899)    ②抵当権に基づく妨害排除請求(最判平17・3・10民集59-2-356)

所有権 物権的請求権の内容 行為請求権か忍容請求権か e.g. 崖の上の土地Aにあった石像が、地震によって崖の下の土地Bに落下した場合  →土地Aの所有者による物権的返還請求権と、土地Bの所有者による物権的妨害排除請求権の競合 →行為請求権を原則としつつ、相手方の行為によらずに侵害が発生した場合には忍容請求権となると考えるべき

所有権 所有権の取得原因 ・承継取得 ・原始取得 ①取得時効(162条);即時取得(192条) ②所有者不存在・所有者不明の場合の所有権取得  ・承継取得  ・原始取得   ①取得時効(162条);即時取得(192条) ②所有者不存在・所有者不明の場合の所有権取得  →無主物先占;遺失物拾得;埋蔵物発見(239条以下) ③添付による所有権取得  →付合;混和;加工(242~248条) cf. 付合と加工の交錯(最判昭和54・1・25民集33-1-26)

所有権 共同所有関係 ・共有持分 持分割合→平等と推定される(250条) ・目的物の利用  持分割合→平等と推定される(250条) ・目的物の利用  使用→共有物の全部につき、持分に応じた利用が可能(249条)  管理→持分価格による過半数で決する(252条本文)   ただし、保存行為は単独で可能(252条但書)  変更→全員の同意が必要(251条)

占有権 占有の意義 ①ゲルマン法におけるゲヴェーレ(Gewere) ②ローマ法におけるポセッシオ(possessio)  占有に対する保護は、本権の表象たる表現形式に対して暫定的な保護を与えるものである ←占有の本権推定効(188条);動産の即時取得(192条以下)  ②ローマ法におけるポセッシオ(possessio)   占有に対する保護は、本権に対する保護から独立して事実上の支配状態そのものに対し法的保護を与えるものである ←占有訴権(197条以下);善意占有者の果実収取権等(189~190条);占有者による損害賠償(191条);占有者による費用償還請求(196条) →日本の民法典では、以上の2つの異なる起源に由来する占有に関する諸制度が混在している

占有権 占有の要件 占有の取得方法 占有の要件:占有意思(「自己のためにする意思」)+所持(180条) cf. 代理占有(181条)  ①現実の引渡し(182条1項)  ②簡易の引渡し(182条2項)  ③占有改定(183条)  ④指図による占有移転(184条)

占有の効力 即時取得等(192~195条) ・即時取得の要件 ・占有改定と即時取得 ・盗品・遺失物に関する特則(193~195条) ①取引行為による物権取得 ②平穏・公然・善意・無過失での占有開始 ・占有改定と即時取得   判例→否定(最判昭和35・2・11民集14-2-168) ・盗品・遺失物に関する特則(193~195条) 最判平成12・6・27民集54-5-1737 194条と占有者の使用収益権→肯定 占有喪失後における代価弁償請求の可否→肯定

占有と取得時効 所有権その他の物権の取得時効(162・163条) ・自主占有と他主占有 →「所有の意思」の有無による区別  ・自主占有と他主占有    →「所有の意思」の有無による区別  所有の意思=所有者としての意思 ←占有の取得原因や占有権限の性質によって客観的に決まる(e.g. 賃借人による占有)  ・悪意の占有者による時効取得(162条1項)    要件=20年間の占有;所有の意思;平穏・公然  ・善意の占有者による時効取得(162条2項) 要件=10年間の占有;所有の意思;平穏・公然;占有開始時における善意無過失

占有と取得時効 占有の承継(187条) 取得時効の目的物 ・相続と占有の承継  ・相続と占有の承継 →187条の適用あり(最判昭和37・5・18民集16-5-1073)  ・瑕疵ある占有の承継(187条2項) 承継者に瑕疵のあるとき→第一占有者基準説(最判昭和53・3・6民集32-2-135) 取得時効の目的物 ・自己の物の取得時効→肯定(最判昭和44・12・18民集23-12-2467)

占有と取得時効 他主占有から自主占有への転換(185条) ①所有の意思の表示 ②新権限による自主占有の開始 *相続が185条の「新たな権限」となるか   「相続人が、被相続人の死亡により相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであったときでも、相続人は本条にいう新権原により所有の意思をもって占有を始めたものというべきである。」(最判昭46・11・30民集25-8-1437)