南極サイト調査に用いるシーイング測定装置(DIMM)の開発 機器07b 2008年度 第38回天文天体物理若手夏の学校 南極サイト調査に用いるシーイング測定装置(DIMM)の開発 沖田博文、市川隆、Ramsey Lundock、村田千紘、谷口友一郎(東北大学) 南極は極低温の為、大気からの赤外線雑音が非常に小さく、また水蒸気量が極端に少ないことから赤外線からサブミリ波において大気の透過率が極めて高い場所であり、さらに高気圧帯にある内陸部のドームふじ(標高3810m) では安定した大気によって良シーイングサイトと考えられている。我々のグループは将来ドームふじに2mクラスの望遠鏡を設置する事を計画しており、試験観測用の40cm望遠鏡を開発している。この40cm望遠鏡に取り付けてシーイングを測定する装置としてDIMM(Differential Image Motion Monitor)の開発を行った。今回はこのDIMMの開発と仙台での試験観測ならびに広島大学の開発したDIMMとの比較観測に基づくDIMMの性能評価の結果について報告する。 南極天文学 DIMMの原理 昭和基地 DIMM(Differential Image Motiron Monitor)は対物プリズムのついた2つの開口を持つ、望遠鏡の先端に取り付けた観測装置。おおざっぱな原理はある程度離した2つの開口の結像の相対位置の揺らぎから波面の揺らぎを計算し、シーイングを推定するというもの。 詳しくはSarazin et al. (1990)を参照。 ドームふじ ドームふじ ・温度 年平均-58℃ ・湿度 <0.6mmPWV ・標高 3810m ・風速 平均3m/s 常に下降気流 ドームA ・赤外線で 高透過率 南極点 ドームC ・晴天率75%以上 ・良シーイング シミュレーション Kolmogorov乱流を仮定 Tatarskii Friedパラメータr0とシーイングの関係(数値計算) Dierickx(1988) Swain(2006) 天体からの光 ↓ 大気によって波面が乱れる DIMM板 2つの星像 相対位置の揺らぎを測定 シーイングに換算 透過率シミュレーション ドームC ≫ マウナケア山頂 Burton et al. (2005) 大規模大気シミュレーション ドームふじ ≧ ドームA ≫ ドームC 結論 ドームふじ → 南極のベストサイト? サイト調査 観測波長 λ 天頂角 γ 開口直径 D 開口間距離 d 星像の位置 σ 標高 シーイング 南極点 2900m 1.7" マウナケア山頂 4210m 0.6" ドームA 4050m ? ドームC 3250m 0.54" ドームふじ 3810m 装置固有値 シーイング 測定可能 ドームふじの観測条件を 実際に調べたい! 観測量 観測・結果 Travouillon et al. (2003), Miyashita (2003), Aristidi et al. (2005) 2008年1月13日 ピクセルサイズ測定(M42、仙台) 2008年1月16日 DIMM観測(β Gum、10分、仙台) 2008年2月10日 DIMM観測・寒冷地試験(β Gum、20分、陸別) 2008年2月14日 DIMM観測・寒冷地試験(β Aur、1時間、陸別) 2008年7月14日 DIMM観測・比較観測(α Lyr、4時間、仙台) ハードウェア・ソフトウェア 東北DIMM は東大TAO 計画サイト調査のUT-DIMMとほとんど同じ ハードウェアの特徴 ・開口が2 つでなく4つ(情報量2倍) ・市販のCCD カメラ、パソコンを使い比較的安価 今回は2008年7月14日の観測について報告する。 この観測はシーイングの測定と得られたシーイング値が妥当かどうかの検証観測である。 東北DIMM 陸別での観測風景 ソフトウェアの特徴 約10m 広島DIMM ・本原顕太郎氏(東大天文センター)らの開発したデータ取得・解析ソフトを使用 ・東北DIMMに合わせてデータ補正、解析用のソフトを新たにC言語で作成 広島DIMMとの比較観測 観測結果。上図が東北DIMM・下図が広島DIMMから得られたシーイング値。 東北DIMMで0.3~1.3時の間、広島DIMMの1.6時までの値が離散的なのは薄雲の為測定が正しく行われなかった結果と考えられる。東北DIMMの観測結果からこの日のシーイングは時間変動するもののほぼ一定であったことがわかる。 Ave. 2.11[arcsec] Med. 2.06[arcsec] 南極40cm望遠鏡 口径 400 [mm] 焦点距離 5190 DIMM板 開口間距離d 250 開口口径D 74 頂角 30 [arcsec] ピクセルサイズ 長辺 0.3903 ["/pix] 短辺 0.4553 薄雲 UT-DIMMと本原顕太郎氏 (http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kmotohara/seeing/index.html) なお図中では東北DIMMと広島DIMMとで薄雲に影響されていた時間が異なるがこれは開口直径の違い(74mm、50mm)によるものだと考えられる。開口の小さい広島DIMMの方が薄雲に影響されやすいことがわかる。 Ave. 2.24[arcsec] Med. 2.13[arcsec] 薄雲 薄雲の影響を除外した結果から得たヒストグラム。東北DIMMと広島DIMMは長時間の観測では同じ傾向のシーイング値を示す。(左図) 観測中のディスプレイ まとめ ドームふじのサイト調査用40cm望遠鏡に取り付けてシーイングを測定するDIMMの開発を行い、仙台・陸別にて試験観測を行った。ハードウェア、ソフトウェア共に順調に動作し、安定して観測出来ることがわかった。広島DIMMとの比較観測からシーイング値は統計的には妥当な結果が得られているが、同時刻の2つのDIMMのシーイング値に相関があるかは今回の観測からはわからない。 同時刻の東北DIMMと広島DIMMのシーイング値の比較。データ点が青線に乗っていれば両者のシーイング値は等しい。この図からは相関があるかどうかわからない。(右図) これから ・広島DIMMとの比較観測を十分行い、シーイング値の相関に関して結論を出す ・長時間、長期間の観測を行い問題点を洗い出す ・寒冷地での観測を考慮したシステムの改善(-20℃で液晶・HDDは凍る 等の対策) 2010年~ ドームふじで観測 南極で 新しい天文学 背景:すばるディープ・フィールド(http://subarutelescope.org/Gallery/j_pressrelease.html)