CO2排出量推計手法を巡る 課題 小根山 裕之 (首都大学東京).

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CO2排出量推計手法を巡る 課題 小根山 裕之 (首都大学東京)

地球温暖化(CO2排出量)の問題 CO2排出量は観測できない 身近な指標・体感への置き換えも困難 (いかなる方法にせよ)推定によるしかない 身近な指標・体感への置き換えも困難 身近なCO2排出量 ~ 身近なCO2濃度 ~ 身近な気候変動           (大きなGap)     (大きなGap) 環境問題そのものとしては”気候変動”が重要な問題であるが,政治的・政策的は,”CO2排出<量>”(又は,その削減<量>)そのものが関心事項 → 地球温暖化問題にとって,CO2排出量の推計手法は極めて本質的な問題

「地球温暖化対策の推進に関する法律」 による排出係数 燃料法による ガソリン: 2.32[kg-CO2/l] 排出係数0.0183[kg-C/MJ]×発熱量34.6[MJ/l] 軽油: 2.62[kg-CO2/l] 排出係数0.0187[kg-C/MJ]×発熱量38.2[MJ/l] 運輸部門の燃料消費量が分かるのであれば最も紛れのない方法. あくまでも“排出量の結果”であり,施策評価との結びつきは困難

「物流分野のCO2排出量に関する 算定方法ガイドライン」 (経済産業省・国土交通省) 燃料法 CO2排出量=燃料使用量×CO2排出係数 燃費法 CO2排出量=輸送距離/燃費×CO2排出係数 トンキロ法 CO2排出量=輸送トンキロ×トンキロ法CO2排出原単位 など (いずれも改正省エネ法で採用された考え方) マクロな集計では十分だが,交通施策評価には不十分なのは明らか

「道路建設事業における 温室効果ガス排出量算定技術ガイド」 (平成19年3月,環境省総合環境政策局環境影響評価課) 国総研CO2排出係数式を提示 EF=EF0×HV×FC EF :CO2排出係数 (g-CO2/km又はg-CO2/(km・t) ) EF0 :発熱量あたりCO2排出量 (g-CO2/MJ) HV :平均発熱量 (MJ/L) FC :燃料消費率原単位 (L/km又はL/(km・t) ) FC=a1/V+a2V+a3V2+a0 V :平均走行速度 (km/h) a1,a2,a3,a0:回帰パラメータ

国総研排出係数の課題 平均旅行速度はトリップ単位→区間平均速度には対応せず 元々高規格道路(高速,一般道BP)のアセスを対象→車種構成を考えると大型車はかなり大きめ 平均的な交通状況を対象→特定の状況には適合しないかも ・・・といったことを何も考えずに漫然と用いている事例が余りにも多い

「交通安全施設の効果測定」報告書 (平成19年3月,警察庁委託調査) 複数交差点を含む路線での燃料消費量減少量 Y=aX+bの関係から,所要時間短縮による燃料節約量を算出 Y:1km当たりの燃料消費量[cc/km],X:1km当たりの所要時間[秒/km],a,b:回帰係数(乗用車の場合:a=0.30) 単独交差点での走行費用節約便益 TF=SP×18.5cc+ST×13cc TF:一日あたり燃料消費節約量[l/日],SP:総停止回数節約量[回・台/日],ST:総停止時間節約量[分・台/日],18.5cc:乗用車の発進1回当たりの燃料消費量[cc/回],13cc:乗用車の停止1分当たりの燃料消費量[cc/分] 交差点周辺の走行改善を簡便に評価するための推計手法は,未整備も甚だしい

JCAP2モデル 適切な走行挙動なんて求められるの? オーバースペックであり,活用場面は限られるか?? 出典:JCAP2技術報告書

排出量モデルの分類 排出量モデルの入力(=交通モデルの出力) 空間の詳細度 1m 10m 100m 1km 10km エンジン挙動,ギヤ挙動 速度プロファイル 区間集計量 遅れ時間停止回数 平均速度 Level 0: エンジン挙動モデル 1m 空間の詳細度 Level 1: 速度加速度モデル 10m Level 2-1: 速度変動要素モデル 小区間 Level 2-2: 4モードモデル 100m リンク Level 2-3: 停止回数モデル 1km Level 3: 平均速度モデル トリップ 10km

排ガス(CO2含む)モデル研究・開発の 大きな分類 JPN US EU Macro/Meso JEA TMG COPERT MOBILE PWRI(NILIM) MODEM JSCE, NILIM,IBS CMEM COST319(w/ MEET) Micro JCAP COST346(w/ ARTEMIS) MOVES ? × × 関係なし

エネルギーITS推進事業 (NEDO,H20~H24) 以下の課題を実施 研究開発項目(1)「協調走行(自動運転)に向けた研究開発」 研究開発項目(2)「信号制御の高度化に向けた研究開発」 研究開発項目(3)「国際的に信頼される効果評価方法の確立」 CO2排出量推計のためのハイブリッド交通流シミュレーション、リアルタイム交通情報を活用したCO2排出量モニタリングシステム、および車両メカニズム・走行状態を考慮したCO2排出量推定モデルに関する基本検討を実施

国際的に信頼される効果評価方法の確立 意義   CO2低減効果の推計精度をモデリングのレベルに応じて定量化し,評価方法の国際的合意に向けた実証データの一つとする. 実施内容 交通流シミュレーションの推計精度の検証 プローブによるCO2モニタリング技術の検証 CO2排出量モデルの検証 交通流の推計結果がCO2排出量の計算精度に及ぼす影響の調査 CO2排出量推計技術全体の精度の確認 →技術的な課題についてはこの中でいろいろと検討する予定

制度面(技術面以外)での課題 様々な分野が関係する学際的領域 多様な関係者・所管官庁 推計手法の開発者(研究者?)とユーザ(実務者?)の乖離 他分野に対する無理解(交通←→排出) 多様な関係者・所管官庁 環境省,国土交通省(道路/運輸),警察庁,経済産業省(自動車産業,石油産業)・・・対応がバラバラ 推計手法の開発者(研究者?)とユーザ(実務者?)の乖離 ニーズと技術がずれている 適切なものを選択する方法論がない 評価対象と選択すべき方法論の関係が整理されていない 適切な選択肢も提示されていない 専門家集団の手中にのみある? → 本質的な部分なのに問題多すぎ  ・技術情報の蓄積・活用/人的・組織的ネットワークの構築/  ・技術的手続き(verification, validationプロセス,PDCAプロセス)の確立  ・施策への活用の観点から,中立・公的な組織が技術的な整理の必要性

主な質疑・討議 他のケースでも学際的な分野のものはある(c.f.航空).そういう分野のものも参考になる. 最近は車両に燃費計がついており,それらのデータを活用することでCO2排出量も把握できるのではないか. ITSは必ずしも環境に大きな役割を果たすとは思えない.→ むしろモニタリング・計測技術としてのITSは有効 天気予報のように,CO2予報というのをやれば有効なのではないか. バイオ燃料,プラグインなど代替燃料車両の扱いが今後の課題. 単なる技術的な問題に留まらず,方法論全体に渡って整理していくことが必要.