Clusters ‘07 会議出席報告 基礎物理学研究所 研究機関研究員 高階 正彰

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Clusters ‘07 会議出席報告 基礎物理学研究所 研究機関研究員 高階 正彰 高階 正彰 原子核クラスターの国際会議「Clusters’07」に出席してきましたので報告します。基礎物理学研究所の高階です。 Shakespeare’s birthplace 21世紀COE外国旅費補助•成果報告会    13. Sep. 2007

国際会議「Clusters ‘07」の概要 開催期間:2007年9月3日 − 9月7日 開催期間:2007年9月3日 − 9月7日 開催地:イギリス、Stratford-upon-Avon           (シェークスピア生誕の地)  トピックス:原子核におけるクラスター現象を軸に、安定核、不安定核の        構造•反応、宇宙核物理、超重元素などの領域をカバーしている  シリーズ:4年ごと。今回で9回目。  1969年:ドイツ(Bochum) 初回    : 1999年:クロアチア(Rab) 2003年:日本(奈良) まず、この国際会議の概要から始めますが、開催期間は9月3日から7日、開催地はイギリス、ストラトフォードアポンエイボンということろで、地図で言いますと、ここがロンドンで、ここがバーミンガムなんですが、このバーミンガムから少し下がったあたりにあります。シェークスピア生誕の地として知られているところです。トピックスとしては、‥ この会議はシリーズで行われているんですが、1969年にドイツ、ボーフムで行われたのが最初で、その後、ほぼ4年ごとに開催されています。今回で9回目です。ちなみに前々回99年にはクロアチアで行われまして、これが私が初めて参加した海外の国際会議です。この会議の時に京大名誉教授の堀内先生と、Schuckらによって、原子核のα凝縮模型が誕生しています。また、前回は奈良で行われました。 今回の参加者数は89名で、国別で見ますと、まずイギリスからは15名、日本からは28名、開催国であるイギリスの倍近い人数でありまして、日本では原子核クラスター研究が、他の国よりも盛んに行われているということを表していると思います。あとは、フランス、ドイツ、ベルギーなどで、全部で19カ国からの参加がありました。以上が概要です。 α 凝縮模型 生誕の地(堀内、Schuck など)  参加者数:89名   (イギリス:15、日本:28、フランス:8、ドイツ:5、ベルギー:4 など、19カ国) 

セッション Experimental development Interplay between cluster and mean-field GCM - Weak clusters BEC Neutron rich Superheavies Clusters in space Exotic cluster decays

原子核におけるクラスター構造 独立粒子模型(殻構造) 核子のサブグループ 集団運動、変形 クラスター間の運動 平均場的構造 クラスター構造 次に、この会議の主題になっております、原子核のクラスター構造について述べておきます。原子核は平均場的な構造をしていまして、この一体場の中でそれぞれの核子が独立に運動する独立粒子模型的な描像がよく成り立っているということはよく知られていると思います。この原子核が励起する時は、一粒子が上のシェルにあがって、one-particle-one-hole, two-particle-two-hole的な励起や、平均場の表面が振動したり、変形した一体場が回転したりして励起するモードがあります。一方で、これらの平均場的な描像とは別に、ある励起エネルギーを与えると、一つの原子核だったものがいくつかの塊、クラスターに分かれて、そのクラスター間の運動が励起されるという現象が起こります。

典型的な例 12C 16O 安定核の低励起状態 α α α α 02 + 21 + 31 - 02 + 21 + 01 + 01 + 最近では凝縮状態 と解釈されている 12C 16O α α α α 02 + 21 + 7.65 MeV 6.92 MeV -12C cluster 3a cluster 31 - 02 + 6.13 MeV 6.05 MeV 21 + 4.44 MeV 典型的な例を挙げておきますと、これは、安定核である12C と16Oの低励起状態を描いたものですが、まず12Cを見てみますと、基底状態と第一励起状態はshell-model的な構造を持っているのに対して、2つ目の0+状態は、3αのクラスター的な構造を持っていることが知られています。最近では先ほども少しだけ触れましたが、この状態は3αの凝縮状態として解釈できると言われています。また16Oでは、第一励起状態である0+の状態が、α+12C的な構造を持っていることが知られています。他にも、安定核に限っても多くのクラスター状態が存在することが知られていますが、最近では不安定核のクラスター構造が理論的にも実験的にも盛んに研究されています。 01 + 01 + g.s. g.s. shell model like shell model like 最近では、不安定核のクラスター構造が盛んに研究されている

核図表 クラスター構造が顕著に現れる領域 6Li 7Li 9Be 6He 8Li 8He 8Be 7Be 10Be 9Li 11Be 12C 13C 14C 15C 16C 17C 18C 17B 11C 10C 9C 8C 14N 15N 16N 17N 18N 19N 13N 12N 11N 12O 13O 14O 15O 16O 17O 18O 19O 20O クラスター構造がどの辺りの質量領域で重要かということについて、触れておきますと、これは核図表と呼ばれる図で、横軸が中性子数、縦軸が陽子数を表していまして、原子核が存在する点をプロットしたものです。これらの原子核のうち、天然に存在するものは安定核と呼ばれまして、黒で表してあるんですが、安定線と呼ばれる線上に存在しています。それ以外の部分というのは、天然には存在していない、作ってもすぐにベータ崩壊してしまう原子核で、不安定核と呼ばれています。理化学研究所のRIビームファクトリーが完成しまして、もうすぐ最初の実験が始まるのですが、そのRIビームファクトリーではこの広い領域の不安定核の高精度の実験が行われる予定で、不安定核物理は飛躍的に進歩すると期待されています。この核図表の中で、クラスター構造が顕著に現れるのは、不安定核を含むこの軽い領域です。今回の私の発表は、ここをちょっと拡大して、安定線から少し離れた12Beに関する研究に関して発表しました。 クラスター構造が顕著に現れる領域

Proton inelastic scattering and nuclear structure of 12Be 発表タイトル Proton inelastic scattering and nuclear structure of 12Be M. Takashina and Y. Kanada-En’yo YITP, Kyoto Univ. 発表のタイトルは、‥ 基礎物理学研究所の延與准教授との共同研究です。

発表の様子の写真です。

12Beの構造 12Be α shell model One-neutron removal reaction experiment sd-shell (20) d5/2 p-shell closed p1/2 エネルギーレベル p3/2 p-shell (8) s1/2 s-shell (2) 励起状態 shell model 基底状態 α (N=8の魔法数の消失) クラスター構造 このクラスター状態が、通常のshell-model的な p-shell まで詰まった配位を持つ状態よりも、エネルギー的に低いところに出てきまして、こちらの方が基底状態となります。魔法数は基底状態に対するものですので、この12Beの場合は、N=8であるにもかかわらず、魔法数としての条件が満たされていないことになりまして、この領域で魔法数が破れていることになります。 これは実験的にも調べられていまして、12Beの基底状態から1中性子を引き抜いた時の、残りの11Beがどのような状態で放出されるかを調べることによって、引き抜いた1中性子がどの軌道にいたかを調べることができるんですが、結果は、基底状態でp-waveの成分が小さいという結果が出ています。 One-neutron removal reaction experiment 9Be(12Be, 11Be+) A. Navin et al., Phys. Rev. Lett. 85, 266 (2000) 12C(12Be, 11Be+&Be+n) S.D. Pain et al., Phys. Rev. Lett. 96, 032502 (2006) 基底状態で p-wave 成分が小さい

α 実際には、2つの配位は混合している。 “CL” “SH” 小  大 弱 励起強度 強 クラスター状態 p-shell closed 実際には、2つの配位は混合している。  クラスター状態 p-shell closed α 変形している。 励起強度は強い。 球形。 励起強度は弱い。 (回転励起を仮定) “CL” “SH” “CL” (もしくは変形状態)がdominant であることは、既に確立されつつある。 次のステップとしては、この混ざり具合がどれくらいであるかを調べること。 実際には、このクラスター状態と shell-model的な状態とは混合しておりまして、基底状態や励起状態の波動関数はこのように重ね合わせで書かれます。それぞれ、CL, SH とラベルしておきます。基底状態では、先ほど説明しましたように、こちらのCLの成分の方がドミナントであることは既に確立されつつあります。次のステップとして、この混ざり具合がどれくらいであるかを調べることにします。どうやって調べるかと言いますと、12Beが励起するメカニズムとして回転励起を仮定します。そうしますと、このクラスター状態は変形していますので、励起強度は強くなります。一方、こちらのshell-model的な構造の方は、ほぼ球形をしていますので、励起強度は弱くなります。このことから、この混ざり具合、例えばαの値が小さくなれば、励起強度は弱くなりますし、大きくなれば励起強度は強くなります。つまり、12Beが第一励起状態へ励起する強度を調べてみればよいということになります。 小             大  弱    励起強度   強 励起強度を調べれば分かる。 陽子非弾性散乱を分析する

12Be の波動関数 α 最新の核構造理論計算に基づいて分析する “CL” “SH” 双方の構造を記述することができるAMD を用いる (Antisymmetrized Molecular Dynamics) 3種類の波動関数を用意した。 No mixing (no diagonalization) 1.00 15 74 stronger ただ、ガイドラインが何も無いと信頼性の高い計算ができませんので、最新の核構造理論計算に基づいて分析を行います。 今回は、これらのクラスター構造、shell-model的な構造の双方を記述することができる、AMD、Antisymmetrized … の計算による波動関数を用います。まず3つの波動関数を用意しました。一つ目は、混合がおこっていない場合、要するに、CLの方だけの場合、次は、AMDのオリジナルな結果の場合、これは、今回の研究とは関係なく、全くの核構造研究のみを目的とした場合の結果で、すでに2003年にpublishされたものです。CLとのoverlap integral は0.84となっています。3つ目は、このオリジナルなものを少し変更しまして、overlap integral の値が少し小さくなるようにしたものです。それぞれの波動関数の、第一励起状態への遷移の強さを、陽子、中性子の成分に分けてここに書いています。陽子側はあまり変更を受けないのですが、中性子側は、混ざりの度合いが大きくなるに従って弱くなっていることが分かります。これは前のスライドで説明した通りです。 (ii) Original result 0.84 13 52 [Y.Kanada-En’yo et al., PRC 68, 014319 (2003) ] (iii) Modified 0.70 14 37 weaker 陽子側  中性子側    励起強度

微視的チャネル結合法 AMD波動関数を取り入れて核反応分析を行う (非弾性散乱の場合) 核内有効核力 (JLM) AMD 波動関数 チャネル結合方程式 diagonal coupling single-folding 模型 核内有効核力 (JLM) Single-Folding Model (SFM) 以上のAMD波動関数を取り入れて分析を行うために、「微視的チャネル結合法」を用います。 波動関数を用います。これは、両方が同じ状態であれば、通常の核子密度分布となります。 AMD 波動関数 VNN 対角•遷移密度 r R

結果 12Be : 14 37 Integrated exp. AMD (i) (ii) (iii) 14 37 12Be : Integrated exp. AMD (i) (ii) (iii) : -- no diag. 0.84 0.70 : 27.0 ± 4.0 57.1 39.6 31.0

? 分析法のまとめ inconsistent 今回の分析 AMD 核構造論を基に した微視的手法 No mixing 15 74 15 74 (ii) Original 13 52 (iii) Modified 14 37 consistent 27.0 ± 4.0 inconsistent 安定核のデータに基づく Simple model 11 18 H. Iwasaki et al., PLB481, 7 (2000) consistent 現象論的手法 27.0 ± 4.0 ?

結果 Bernsteinの公式 陽子•中性子励起強度と断面積の絶対値の 関係を表す現象論的な式 比較的軽い安定核のデータを基に作られている (p,p’) : AMDによる 12Be の密度 陽子•中性子分布半径の違いが考慮されて いない 半径の違いを考慮しない場合を、 我々の手法でシミュレートする 結果 We think this discrepancy occurs because difference … This formula is derived for the nuclei in the vicinity of the stability line. 14 11.3 ± 1.7 cf. AMD (iii) 14 37

結論 不安定核における陽子•中性子分布半径の違いは、 核反応分析においては注意深く取り扱わなければ、 間違いに導く危険性がある。

質疑応答 セッション中2つ、終了後の休憩中3つの質問があった

質疑応答 12Cの陽子弾性、非弾性散乱をよく再現して 質問1(Khan):single-folded potential の虚数部分における 再規格化定数について、どう考えているか? single-folding 模型 核内有効核力 (JLM) 回答:再規格化定数についてはスタン ダードな値を使った。構造が知られている 12Cの陽子弾性、非弾性散乱をよく再現して いるので問題は無い。 JLMという有効相互作用、核構造理論による波動関数を用いると決めると、パラメータは全くないのですが、G行列理論によって核力を作る時の特性として、虚数部分を多少弱くしないといけないことが知られています。今回はスタンダードな値を使ったのですが、 exp. A.A. Rush et al., NPA166, (1971) 378. J.A. Fannon et al., NPA97, (1967) 263.

質疑応答 質問2(Neff):AMDで使っているスピン•軌道力が 強すぎるのではないか? (ii) Original result [Y.Kanada-En’yo et al., PRC 68, 014319 (2003) ] (iii) Modified 回答:(延與准教授より)今回のAMDで用いている中心力 (MV1)に対するスピン•軌道力としては、極端に強いという わけではない。

質疑応答(セッション終了後の休憩中) 質問3(Kawabata):陽子中性子分布半径が同じとした場合と、 AMDの結果を使った場合で、分析結果にこれほど違いが出る とは驚きである。角度分布も異なってくるのではないか? cf. AMD (iii) 14 37 14 11.3 ± 1.7 結果 回答:今回は角度分布で比較をしていないが、違いは現れる と予想している。ただ、現存する実験データは実験室系のもの であり、角度分解能もそれほど良くないので、そのデータと比較 することにそれほど意味があるかどうかはよくわからない。

質疑応答(セッション終了後の休憩中) 質問4(Khanとの議論) Khan:用いている核力に関して、安定核である12Cの陽子非弾性     散乱のデータを再現することはいいが、12Be+p 弾性散乱の     場合はどうか? 高階:12Be+p  弾性散乱のデータもよく再現している。 Khan:私自身も不安定核に関してはBernsteinの公式が破綻して     いると思う。14Beの陽子非弾性散乱の分析もこの公式を用     いて行われているが、意味のある結果は出ないだろう。     微視的な分析は行ってみたか? 高階:14Beの場合もAMD波動関数を用いた分析は行ってみたが、     実験データを再現しなかった。 Khan:それは興味深い結果だ。詳しく調べる必要がありそうだ。

質疑応答(セッション終了後の休憩中) 質問5(Horiuchi):16C+208Pb の非弾性散乱のデータが測られて いると思うが、この場合、現象論的な方法と微視的な方法で違い はあったか? 回答:比較はしてみたが、その差はそれほど顕著ではなかった。

聴衆の反応 早く論文にまとめた方が良い。 現象論的な手法の問題点をはっきりと示していて、良い仕事だ。 よくまとまっていた。 などと声をかけられ、手応えを感じた。