暗黒加速器とパルサー風星雲 --HESSJ1616-514とPSR1617-5055-- 松本浩典
目次 TeVガンマ線未同定天体=暗黒加速器 TeVガンマ線パルサー風星雲 HESSJ1616-508のすざくX線観測 PSR1617-5055のすざくX線観測
宇宙線: 宇宙を飛び交う高エネルギー粒子 最大の謎: どこで生まれる? 宇宙線フラックス(流束) 粒子一粒のエネルギー (eV; 1eV=1.6e-19J)
宇宙線の故郷を観測するには? 宇宙線:磁場で曲がる 電磁波:まっすぐ届く
TeVガンマ線放射 エネルギー = 1012 eV ~ kT=1016 K 非熱的な世界のトレーサー Cf. X-ray ~ 1keV (103 eV) ~ kT = 107K 非熱的な世界のトレーサー 熱的な発生は無理。 1016 Kの天体!? 非熱的な過程が、宇宙現象に多様さをもたらす。
TeVガンマ線の検出 通常の観測機器は突き抜ける。地球大気が検出器。 チェレンコフ光のピークは紫外域 ©H.E.S.S. 10~20km ~1° ~300m
TeVガンマ線天体 http://tevcat.uchicago.edu/ より。2011年6月現在
TeVガンマ線銀河面サーベイ H.E.S.S.望遠鏡による銀河面サーベイ Chaves et al. 2009 arXiv:0907.0768v1 H.E.S.S.望遠鏡による銀河面サーベイ ガンマ線天体多数発見。しかも多くは広がっている。(角度分解能~2分角) 2010年2月3日 松本浩典 U研コロキウム
銀河系内TeVガンマ線天体 正体がわかっているもの 正体不明=TeVガンマ線未同定天体 (28) 暗黒加速器とも呼ばれる。 http://tevcat.uchicago.edu/ より。2011年6月現在 正体がわかっているもの X線・ガンマ線連星系 (7) 激変星 (白色矮星連星系) (1) 大質量星団(4) 超新星残骸(22) 星形成領域(1) パルサー、パルサー風星雲 (33) 正体不明=TeVガンマ線未同定天体 (28) 暗黒加速器とも呼ばれる。 2010年2月3日 松本浩典 U研コロキウム
暗黒加速器が注目を浴びるわけ 陽子起源説 電子起源説 磁場 加速陽子 加速電子 π0 π0 TeVガンマ線 TeVガンマ線 星間雲 低エネルギー光子 加速陽子 加速電子 π0 π0 TeVガンマ線 TeVガンマ線 シンクロトロンX線 星間雲 他波長で暗い高エネルギー陽子の存在宇宙線の故郷!
+ すざく衛星 日本で5番目のX線天文衛星 硬X線検出器 (HXD) 2005年7月10日打ち上げ X線望遠鏡 (XRT) X線CCD (XIS) +
すざく衛星の特徴: 高感度 UX+NASA/GSFC 驚異の反射鏡枚数(~1400枚) 低バックグラウンドな衛星軌道 画像より集光能力を重視 低バックグラウンドな衛星軌道 広がった暗いX線天体の研究に最適。 暗黒加速器の研究に理想的 その他 高エネルギー分解能CCD ワイドレンジ (0.3—600keV; 3桁!)
確かにX線はいなかった HESSJ1616-508 すざくX線画像 Matsumoto et al. 2007 TeV image Matsumoto et al. 2007 X線対応天体無し (ぼうっと見えるのは銀河面X線放射) F(X) < 3e-13 erg/s/cm^2 F(TeV)/F(X) > 55 … TeVガンマ線の陽子起源示唆
ところが… パルサー、パルサー風星雲 (33) 正体がわかっているもの 暗黒加速器=TeVガンマ線未同定天体 (28) X線・ガンマ線連星系 (7) 激変星 (白色矮星連星系) (1) 大質量星団(4) 超新星残骸(22) 星形成領域(1) パルサー、パルサー風星雲 (33) 暗黒加速器=TeVガンマ線未同定天体 (28) 暗黒加速器のそばには、パルサーがいる場合が多い。 暗黒加速器は、オフセットパルサー風星雲では? 2010年2月3日 松本浩典 U研コロキウム
パルサー風星雲(Pulsar Wind Nebula) 典型例かに星雲 高速回転中性子星による、電磁場の竜巻 中性子星の磁場 ~1012G
オフセットPWN 周辺物質の非対称性を反映。中性子星とPWNがずれてもよい。 Blondin et al. 2001
暗黒加速器=オフセットPWN説? 高エネルギー電子~10^14eVシンクロトロンX線 中性子星 中エネルギー電子~10^12 eV 逆コンプトン散乱 TeVガンマ線 低エネルギー電子~10^9eV シンクロトロン電波
HESSJ1616-508の場合 高エネルギーX線源PSRJ1617-5055が存在 しかし、PSRJ1617にはPWNが発見されていない INTEGRAL 18-60keV XMM-Newton 0.5-10keV PSRJ1617 PSRJ1617 SNR RCW103 Landi et al. 2007 しかし、PSRJ1617にはPWNが発見されていない
教訓:PWN TeV天体の典型例HESS J 1825-137 Spin-down luminosity ~ 2.8×1036 erg s-1 Characteristic age 21.4 kyr (Clifton 1992) D~4kpc 30arcmin~30pc @4kpc HESS J1825-137 Aharonian et al. 2006 H.E.S.S TeV γ excess map PSR J1826-1334 Photon Index Γ softening Distance from Pulsar (deg)
すざく以前のX線観測 (XMM-Newton) PSR J1826-1334 (B1823-13) XMM-Newton 0.5-10keV Pulsar PWN 1arcmin~1pc@4kpc H.E.S.S TeV γ excess map なぜこんなにX線は小さい? Gaensler et al. 2003 Photon index ~ 2.3 NH~1.4×1022/cm2 LX~3×1033 erg s-1 XMMの感度では見つからないだけ? すざくの高感度なら何か見つかるか?
すざく観測: ものすごく広がったPWN XIS 3F 1-9 keV Uchiyama, H., Matsumoto, H. et al., PASJ, 2009, 61, S189 TeV image XIS 3F 1-9 keV HESSJ1825 bgd 6arcmin ~6pc@4kpc source 2006/9 50ksec すざく衛星は、XMM-Newtonで検出できなかった広がったX線の存在を実証
X-ray spectra A B C D Region A Region B Region C Region D Γ=1.78(1.68-1.88) Γ=1.99(1.91-2.08) Γ=2.03 (1.95-2.14) =pulsar+PWN HESSJ1825 少なくとも17pc(15分角)まではphoton indexに変化なし。電子は冷えていない。
HESSJ1825のSpectral Energy Distribution TeVもX線も電子起源とすると、B~7μG 2keVのX線を出す電子のシンクロトロン冷却時間 T~2000yrs (B/7uG)^(-3/2) この時間に15pcを進む V~9000km/s (B/7uG)^(3/2) そうではなく、PWNのあらゆる場所で電子加速?
PSRJ1617にPWNはあるのか? XMM-Newton衛星によるX線イメージ TeVガンマ線位置 パルサーPSRJ1617-5055 Landi et al. 2007 超新星残骸RCW103 すざくの高感度ならパルサー風星雲が見えるのか?
HESSJ1616&PSRJ1617を再度すざくで観測 TeVガンマ線画像 2005年の観測 2009年の観測 PSRJ1617
X線画像 0.4—3keV band 3—10keV band SNR RCW103+ダスト散乱 PSRJ1617-5055
画像解析: PWNは発見できず 点源と考えて矛盾なし。 赤:データ点 白: PSF
スペクトル解析 PSRJ1617の RCW103の熱的スペクトル べき型スペクトル NH=3.5(+/-1.6)e21cm-2 kT=0.61(+/-0.3)keV NH=4.50(+/-0.65)e21cm-2 Γ=1.72(+/-0.14)
結論 HESSJ1616-508近傍のパルサーPSRJ1617-5055は、確かにエネルギー天体。しかし、PWNは発見できなかった。HESSJ1616-508とは無関係ではないか。 暗黒加速器の一部はPWNかもしれないが、そうでないのも存在するのではないか。