4.5.異常気象は温暖化のせい? 気象学者の常套句 「個別の極端な気象イベントが、地球温暖化によるものかどうかを判断することは困難である」

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4.5.異常気象は温暖化のせい? 気象学者の常套句 「個別の極端な気象イベントが、地球温暖化によるものかどうかを判断することは困難である」 Event Attribution(EA)イベント・アトリビューション ある年に起きた特定の異常気象などの地域的気象イベントに関して人間活動の影響を評価する試み ある特定のイベントの発生が決定論的に人間活動に起因すると判断することはできない。しかし、地球温暖化が実際に起きた極端な気象イベントの発生リスクをどの程度高めたかを評価することはできる。 特定の異常気象にターゲットを絞って、過去120年間で人間が引き起こした1℃の気温上昇がなかった場合にも、それが起きた可能性が低いか高いかを気候モデルを用いて検証する。 “Human contribution to the European heatwave of 2003”, Stott et al.(2004) Nature,432,610 大気海洋結合モデルを用いた2種類の実験(すべての外部強制で駆動された20世紀気候変化の再現と、自然強制のみで駆動された気候変動実験)を比較することで、2003年にヨーロッパで観測された熱波を超える異常気象が発生するリスクが、人間活動によって少なくとも2倍になっていると推定した。

4.6.イベントアトリビューションとは? ある異常気象(たとえば2013年夏の日本の猛暑)の起こったときの条件下で、気候モデルによる実験を多数回(たとえば100回)繰り返す(アンサンブル実験)ことによって気象イベントの確率密度を作成することができる。 すべての強制を取り入れた再現実験と、人為起源の強制を除いた非温暖化実験の2種類のアンサンブル実験による確率密度を比較する。実際に観測された猛暑あるいはそれ以上の猛暑になる確率の、2種類の実験に対する差から、人間活動の影響が猛暑になるリスクを何%増加させたかを評価する。 (国立環境研究所公開シンポジウム2016,ポスター③地球環境研究センター塩竈秀夫)より (自然強制 人為強制     海面水温)

イベントアトリビューションの結果1 ● 2013年夏の日本の猛暑 Y.Imada, et al., EXPLAINING EXTREME EVENTS OF 2013 From A Climate Perspective,Bull.American Mateorological Society,vol.95,52(2014) 赤(ALL-run):2013年夏の条件下での100個の大気大循環モデルによるアンサンブル実験 青(NAT-run):海面温度と海氷への人間の影響を除いて、1850年の条件に固定した人為強制力の下での100個のモデルによるアンサンブル実験 緑(ALL-LNG):1979~2011年の過去33年の再現実験 2013年夏に日本で観測された平年値より1.2℃高い猛暑を超える確率は、ALLでは12.4%、NAT1では1.73%、NAT2では0.50%である。 温暖化が2013年夏の猛暑になるリスクを約10%(10.67~11.9%)増加させている。

熱波や干ばつなど、いくつかの異常気象は、人間活動によって発生確率が変わっていた。 イベントアトリビューションの結果2 熱波や干ばつなど、いくつかの異常気象は、人間活動によって発生確率が変わっていた。 2010年南アマゾンの干ばつを超える確率は、ALLでは15%、NATでは2%である。 (H.Shiogama, et al.,Atmos.Soc.Let., Vol.14,170,(2013)) 2010年8月に西部ロシアで観測された猛暑を超える確率は、ALLでは3.3%、NATでは0.6%である。 (M.Watanabe, et al.,SOLA, Vol.9,65,(2013)) 2013年6-7月にアメリカ南西部で観測された猛暑を超える確率は、ALLでは2%、NATでは0%である。 (H.Shiogama, et al.,SOLA, Vol.10,122,(2014)) (異常気象分析検討会2015,気象研究所今田由紀子)と原著論文から

4.7.これまでの気候変化の影響は? 環境省HPより 影響 世界 日本 気温 2000~2012年には気温上昇の停滞(ハイエイタス)が見られたが、2014年以降は上昇を続けている 年平均気温は長期的には100年あたり約1.19℃上昇。世界の平均気温の上昇率よりも高い 日本の猛暑日の日数は統計期間1931~2015年で増加傾向が明瞭 海面水温 長期的変化傾向は、100年あたり0.52℃の上昇 長期的変化傾向は、100年あたり1.07℃の上昇。世界の平均上昇率よりも高い 降水量 降水量の多い地域と少ない地域の差が大きくなっている 年降水量の長期的変化傾向はみられない一方、大雨の頻度が増える半面、弱い降水も含めた降水日数は減少する傾向 日降水量100㎜の年間日数は1901~2015年の115年間で増加。日降水量1.0㎜以上の日数は減少 海面水位 1901~2010年の110年間に世界の海面水位は、平均で約1.7(㎜/年)上昇 特に、1993~2010年では約3.2(㎜/年)上昇 最大要因は海洋の熱膨張で、次いで氷河・グリーンランド氷床・南極氷床の減少など 積雪・海氷 北半球の3~4月(春季)の積雪面積は減少傾向 北極域の海氷面積は1970年後半以降、顕著に減少

4.8.これまでの自然環境変化の影響は? 影響 世界 日本 食料:農林水産業 1960~2013年に観測された気候変動は、主要4農作物(小麦、大豆、米、トウモロコシ)の収穫にマイナスの影響を及ぼす方が多い。小麦が最もマイナスの影響を受け、米、トウモロコシもマイナスとなる。温帯地域、熱帯地域のいずれにおいてもマイナスの影響 自然生態系 1980年代ころからサンゴの白化現象が注目されるようになった。 白化の原因は水温の変化や強い光、紫外線、低い塩分など。 中でも水温の影響は大きく、30℃を超える状況が長く続くと褐虫藻を失い白化する。その状態が長く続くとサンゴは死んでしまう 1953年以降、サクラの開花日は、10年あたり1.0日の割合で早くなっている 健康 近年の熱波による大きな被害は、2003年の欧州で22,000人以上が死亡、2015年にインドの広範囲で42℃以上を記録し2,000人以上が死亡 日本の熱中症による死亡者数は、近年増加傾向 デング熱を媒介するヒトスジシマカの分布域は年平均気温が11℃以上の地域。日本での北限が1950年以降、徐々に北上

5.将来の地球温暖化への対応は? 5.1.温室効果ガスの排出量の代表的濃度経路(RCP)とは? 気候変動の予測を行うためには、放射強制力をもたらす大気中の温室効果ガス濃度やエーロゾルの量がどのように変化するか仮定(シナリオ)を用意する必要がある。 RCP(Representative Concentration Pathways代表的濃度経路)シナリオ シナリオ 21世紀末の放射強制力(工業化以前比) 作成 21世紀末のCO2等価濃度 2046~2065年の平均気温(1986~2005年平均比) 2081~2100年の平均気温(1986~2005年平均比) RCP2.6 低位安定 2.6 (W/m2) オランダ 450 ppm 0.4~1.6℃ 0.3~1.7℃ RCP4.5 中位安定 4.5 (W/m2) 米国 600 0.9~2.0℃ 1.1~2.6℃ RCP6.0 高位安定 6.0 (W/m2) 日本 800 0.8~1.8℃ 1.4~3.1℃ RCP8.5 高位参照 8.5 (W/m2) オーストリア 1,000 1.4~2.6℃ 2.6~4.8℃ 政策的な温室効果ガスの緩和策を前提として、将来の温室効果ガス安定化レベルとそこに至るまでの経路のうち代表的なものを選んだシナリオ 近年と比べて21世紀末の気温上昇を1℃以内に抑える可能性のあるシナリオはRCP2.6だけ これにより、例えば「気温上昇を0℃に抑えるためには」と言った目標主導型の社会経済シナリオを複数作成して検討することが可能となる。

複数のモデルのシミュレーションによる世界平均気温変化 (図中の数字はモデルの数) RCPシナリオとCO2排出量の変化 複数のモデルのシミュレーションによる世界平均気温変化 (図中の数字はモデルの数) RCP2.6シナリオは、21世紀末の世界平均気温の上昇が2℃を超える可能性は低い。 0.3~1.7℃ RCP2.6シナリオでは、2050年の温室効果ガス排出量が2010年に比べて40~70%低減し、2100年にはほぼゼロかマイナスになることを想定している。 「IPCC第5次 統合報告書政策決定者向け要約」2014より

5.2.将来の気候変化の予測は? (IPCC第5次報告書他を参照) 影響 世界 日本 気温 21世紀末(2081~2100年)には1986~2005年の平均より最小0.3℃、最大4.8℃上昇する 現在の排出を続けた場合、21世紀末には、現在より3.3~4.9℃高くなる。低緯度よりも高緯度の地域で気温上昇は大きくなる。21世紀末の真夏日の年間日数は全国的に増加する。 海面水温 現在の排出を続けた場合、2060年頃には現在よりも約1.4℃上昇する。 21世紀末に排出をほぼゼロにした場合でも、約0.6℃の上昇 現在の排出を続けた場合、2076~2095年平均でほとんどの海域で現在より上昇する。 降水量 21世紀末までに、湿潤地域(高緯度域・赤道域・中緯度域の湿潤地域)と乾燥地域(中緯度とあねったいの乾燥地域)で降水量の差が拡大していく。 21世紀末に、滝のように降る雨(1時間降水量50㎜以上)の発生回数が増加する。現在の排出を続けた場合、全国平均で2倍以上の回数。 海面水位 21世紀末には世界の平均海面水位は、45~82㎝上昇(現在の排出を続けた場合)あるいは26~55㎝上昇(排出をほぼゼロにした場合) 積雪・海氷 21世紀中に北極海の海氷は縮小し薄くなる。現在の排出のままでは、21世紀半ばで9月の北極域の海氷がほぼなくなる可能性

5.3.将来の自然環境変化の予測は? 影響 世界 日本 食料:農林水産業 20世紀後半より地域の平均気温が2℃以上高くなると、熱帯、温帯の作物の収穫量は減少し、4℃以上高くなると食料安全保障にとって大きなリスクとなる 現在の排出を続けた場合、日本の21世紀末におけるコメの収量予測では、全国的に現在と同じか増加する地域が大半 自然生態系 現在の排出を続けた場合、21世紀末(2082~2100年)には、サクラの開花日}が九州南部や太平洋沿岸域では遅く、東北や日本海側、標高の高い地域では早くなる。 現在の排出を続けた場合、海水温上昇でサンゴの分布可能域は北上するものの、酸性化によって北部海域ではサンゴの骨格形成に適さない。 健康 21世紀末に熱波が増加する可能性が非常に高く、それに伴い熱波による健康被害も大きくなる 現在の排出を続けた場合、日本における熱ストレスによる超過死亡者数は、現在のおよそ4~13倍に増加する可能性。 21世紀末では、北海道東部および高標高地を除き、広く日本でヒトスジシマカの生息が可能になる。蚊が媒介する感染症のリスクが高まる

5.4.パリ協定とは? パリ協定は、パリにおける第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、2015年12月12日に採択された気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意)である。 1997年に採択された京都議定書以来、18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みであり、気候変動枠組条約に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みとしては世界初である。 2020年以降の地球温暖化対策を定めている。 2016年4月22日のアースデーに署名が始まり、同年9月3日に温室効果ガス二大排出国である中国とアメリカが同時批准し、同年10月5日の欧州連合の法人としての批准によって11月4日に発効することになった。 主な内容 ① 世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えること。特に気候変動に脆弱な国々へ  の配慮から、1.5℃以内に抑えることの必要性にも言及。 ② そのための長期目標として、今世紀後半に、世界全体の温室効果ガス排出量を、生態系が吸収  できる範囲に収めるという目標が掲げられた。これは、人間活動による温室効果ガスの排出量を  実質的にはゼロにしていく目標。 ③ 各国は、既に国連に提出している2025年/2030年に向けての排出量削減目標を含め、2020年以降、  5年ごとに目標を見直し・提出していくことになった。

5.5.IPCC の「1.5℃特別報告」とは? パリ協定で合意された長期目標に対して、産業化以前の水準から1.5℃の温暖化でどのくらいの影響が出るのか、1.5℃に抑えるにはどれだけの対策がいるのか、についての評価がIPCCに依頼された。それを受けて、 2018年10月、40ヶ国91人の専門家が執筆作業に加わって「1.5℃特別報告書」が作成された。 内容(「政策決定者向け要約の概要」から) ① 世界平均気温は産業化以前に比べて現時点で約1.0℃(0.8℃~1.2℃)上昇しており、  このままのペースが続けば2030年から2052年には1.5℃上昇に達する。 ② 気候変動による悪影響のリスクは、1.5℃温暖化でも現時点よりも顕著に大きくなり、  2℃上昇すればさらに大きくなる。 ③ 1.5℃上昇に抑えるためには、2030年までに二酸化炭素排出量を2010年比で約45%削減し、  2050年前後に二酸化炭素の純排出量をゼロにすることが必要である。 ④ パリ協定の下で提出された世界の排出量削減では、1.5℃に抑制することはできないだろう。  2030年より十分前に世界の二酸化炭素排出量が減少し始めることが必要で、2030年以降では  遅すぎるだろう。 第24回締約国会議 (COP24) 2018年12月3日 - 14日 ポーランド カトヴィツェ

6.主な参考資料 1.「気候変動2013 自然科学的根拠 技術要約」,IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書       6.主な参考資料 1.「気候変動2013 自然科学的根拠 技術要約」,IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書 2.「気候変動2014」,IPCC第5次評価報告書統合報告書、政策決定者向け要約 3.環境省HP (http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/) 4.気象庁HP (https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html) 5.気象庁HP(http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwptext/nwptext.html)数値予報解説資料 6.森川 靖大, 石渡 正樹, 土屋 貴志, 山田 由貴子, 高橋 芳幸, 小高 正嗣, 堀之内 武, 林 祥介, DCPAM 開発グループ, 2007: 惑星大気モデル DCPAM, http://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/, 地球流体電脳倶楽部 7. 環境省HP「Stop the 温暖化 2017」 (http://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge/Stop2017.pdf) 8. 国立環境研究所 地球環境研究センターHP「ココが知りたい地球温暖化」  (http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/qa_index-j.html) 9. 「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018―日本の気候変動とその影響―」 ,2018年2月,環境省、文部科学省,農林水産省,国土交通省,気象庁 10. Explaining Extreme Events of 2013, Bulletin of the American Meteorological Society ,Vol.95,No9,2014 11. WMO温室効果ガス年報、第13号、2017年10月30日