KEKB 加速器の紹介 - 加速器の歴史の中で -

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KEKB 加速器の紹介 - 加速器の歴史の中で - 菊谷 英司 高エネルギー加速器研究機構(KEK) 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

衝突実験の歩み 1909 a 粒子の金箔による散乱 1927 原子核の人工的変換 1952 加速器による最初の原子核変換 1954 反陽子の生成 1972 J/y の発見 1983 W,Z の発見 1995 top quark の発見 : :     :    :   2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

加速器のエネルギーの変遷 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

京都大学のサイクロトロン 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

加速器の分類 加速する粒子による分類 形状による分類 加速場による分類 用途による分類 電子(陽電子) 陽子 原子核 線形加速器(linac)、 円形加速器(狭い意味の加速器と蓄積リングがある) 加速場による分類 静電場 交流電磁場 用途による分類 素粒子/原子核の実験研究 放射光の利用(電子リングのみ、物性、生物) 実用(医学など) 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

加速器による素粒子実験 静止ターゲットによる実験 衝突型の蓄積リングによる実験 衝突型の線形加速器による実験 一般に高いターゲット密度 高い衝突周波数 比較的低い加速器のエネルギーで高いエネルギーの反応 衝突型の線形加速器による実験 高いエネルギー向き 衝突周波数は高くない 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

衝突型蓄積リングとは‥‥ 蓄積リング:加速しないか、非常にゆっくり加速する機能をもつ。真空度をきわめて高くし、ビームの寿命を長くする。素粒子実験や放射光実験 衝突型蓄積リング:ひとつまたは二つの蓄積リングを用い、その中に蓄積されたビームを衝突させ、素粒子反応を調べる 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

衝突型蓄積リング 同じエネルギー、同じ質量どうし 同じ質量、違うエネルギーどうし 違う質量、違うエネルギー CESR (Cornell)、DAFNE(Frascati)、LEP(CERN)、TRISTAN、PEP(SLAC)、SppS、TEVATRON 、RHIC,VEPP-2000,BEPC,など 同じ質量、違うエネルギーどうし KEKB, PEP-II 違う質量、違うエネルギー HERA (DESY) 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

電子陽電子衝突型リングのエネルギー KEKB, PEP-II、CESR LEP DAFNE SPEAR,BEPC TRISTAN 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

衝突型蓄積リングの重要パラメータ 重心エネルギー ルミノシティ どんな物理を目指すかで決まる 設計値は勿論存在する。しかし、それを実現するには搾り出すような努力が必要 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

Y=L s ルミノシティとは何か 反応の断面積 1秒当たりの反応の数 ルミノシティ 反応断面積は物理法則で決まっている。高い反応レートは高いルミノシティによって得られる。 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

ルミノシティを表す式は‥‥ 両ビームの粒子数 衝突の周波数 水平、垂直方向のビームのサイズ 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

ピーク・ルミノシティの変遷 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

KEKB とは 電子、陽電子の二つのリングを備えた衝突型蓄積リング エネルギーは非対称、 3.5 GeV の陽電子と 8GeV の電子 電子、陽電子をこのエネルギーまで加速することのできる線形加速器からビームを入射 測定器はひとつ (Belle)のみ 非常に高い蓄積電流 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

なぜエネルギー非対称なのか? 二つの B 中間子の飛跡を見極めるため 加速器を2本つくらなければならない。 加速器の運転は従来の2倍以上複雑 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

KEKB 模式図 リング一周 3018 m 入射 linac 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

入射線形加速器のすぐ下流 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

KEKB の具体像 KEKB のトンネルの中 ビームパイプが2本見える。左が陽電子リング。右が電子リング 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

リングコライダーで世界最小のビームサイズ KEKB 衝突バンチの様子 平面交差角1.3度 リングコライダーで世界最小のビームサイズ 電子5×1010個 陽電子7×1010個 高さ2.3 mm 長さ7 mm 横幅110 mm 各バンチは1秒間に10万回衝突 各リングに1284バンチずつ蓄積 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

コントロール室の様子 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

KEKB の歴史 1989年 デザイン開始 1994年 計画が認められる、建設開始 1995年6月 デザインレポート完成 1989年 デザイン開始 1994年 計画が認められる、建設開始 1995年6月 デザインレポート完成 1997年9月 入射 linac 改造完成 1998年12月 電子リングから運転開始 1999年1月 陽電子リングも運転開始 1999年5月 Belle 測定器装着 1999年6月 Belle 測定器素粒子反応を初キャッチ 2001年4月 PEP-II のルミノシティを追い越す 2002年10月 積分ルミノシティ 100 1/fb に到達 2003年5月 ルミノシティ10の34乗を達成 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

PEP-II との熾烈な戦い 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

なぜ世界一になれたか? 世界最高の革新的な加速器設計 有限交差角に基づく衝突点配置、特殊超伝導・常伝導電磁石 最大の柔軟性、最小の非線形性を持つ新型ビーム光学系とそれを可能にした高精度電磁石群 大電流を安定に加速するARES空洞 世界最高蓄積電流をほこる超伝導空洞 大電流に耐える超高真空システムとビームパイプ 高精度ビーム診断・安定化装置群 世界標準EPICSを世界最大規模で実現した制御系 陽電子2バンチ入射をも可能にした強力なJ-Linac入射器とビーム輸送系 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

なぜ世界一になれたか? 4年間の不屈の努力 予想外の困難=「陽電子リングにおける光電子雲不安定性」の克服 ソレノイド磁場の半手巻きによる追加、全長2300m ビームパラメータの変更による対応 大電流(LER 1.5 A, HER 1.1 A)の蓄積に伴う発熱・放電・破壊との闘い 真空チェンバーの発熱、溶解(放射光、ビームエネルギー直撃等) 可動コリメーターの破壊(ビームエネルギー直撃、放電、高次モード電磁場等) ベローズ内部の破壊(放射光、放電、高次モード電磁場等) 衝突点ベリリウムチェンバーの破損 初代Belleシリコンヴァーテックス測定器の損傷(放射光) 1日24時間週7日日曜も休日もない連続運転、年間数十週間 停止期間は修理と改造で休みなし 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --

まとめ 原子物理学、原子核物理学そして素粒子物理学の実験の歴史は、ほとんど「衝突実験」の歴史である。 この衝突実験の歴史は、ごく初期を除外すると、加速器の歴史とタブっている。 実験は静止ターゲットの方法から、衝突型の加速器のものが登場した。 KEKB のその衝突型の加速器で重要なパラメータであるルミノシティで世界1の性能を持って稼動している。 2019/4/18 E. Kikutani -- 北大 --