自然独占 財政論 I/II No.4 麻生良文.

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自然独占 財政論 I/II No.4 麻生良文

内容 競争条件の分類 独占の原因 独占企業の行動 自然独占 自然独占企業に対する規制 限界費用価格規制と平均費用価格規制 伝統的規制の問題点 インセンティブ規制

競争条件の分類 完全競争 独占 (monopoly) 不完全競争 多数の生産者個々の生産者の行動が市場価格に影 響を与えない 単純化の仮定 完全競争市場  効率的な資源配分 独占 (monopoly) 財の生産者が一人 不完全競争 完全競争でも独占でもない場合 寡占(oligopoly) 少数の生産者 独占的競争(monopolistic competition) 多数の生産者が差別化された財を生産

独占の原因 資源が特定の1社に独占されている(ダイアモンド, ボーキサイト) 技術的優位性 政府の規制(安全性,品質保証を名目とした参入 規制) 規模の経済性に伴う自然独占 サンクコストの存在(既存企業を新規参入企業に 比べて競争上,優位に立たせる) 2.は一定期間のみ有効。1.は現代ではあまり重要 ではない。 3以下が重要。 intel やMicrosoftの「独占」の原因は?

Minimum efficiency scale 自然独占 費用逓減産業 固定費用が巨額 産出量の拡大につれ,平均費用が低 下 通常の産業 長期的には利潤=0(自由な参入・退 出) 各企業の最小効率規模(平均費用が最 小になる産出量)と市場全体の需要 の規模が参入企業数を決める 自然独占産業では,一つの企業 のMESが市場全体の需要規模を 超える 自然独占 最初にシェアをとった企業が独占を 維持 巨額の固定費用(sunk cost)が参入障壁 配電事業,水道事業etc. p 最小効率規模 MES Minimum efficiency scale AC D Q

完全競争市場 p p Si S D E p* p* D Q Qi 市場全体の需要曲線 個々の生産者の直面する需要曲線 市場全体の供給曲線 個々の生産者の供給曲線: 市場シェアは非常に小さい 個々の生産者はあたかも水平な需要曲線に直面している 個々の生産者の供給量の変更は市場価格に影響を与えない

独占企業の行動 p p D D Q0 Q1 Q Q p0 p1 独占企業の直面する需要曲線=市場全体の需要曲線 完全競争企業(個々の)の直面する需要曲線 市場で決まった価格を所与として行動

独占企業の行動(2) 利潤最大化 完全競争企業の場合 独占企業の場合 p=pQ −C(Q) 行動原理は完全競争企業と同じ 利潤最大化の条件: 限界収入=限界費用 完全競争企業の場合 水平な需要曲線に直面  pは所与 限界収入=p 利潤最大化の条件: p=MC(Q) 独占企業の場合 市場全体の需要曲線に直面 生産量の増加は価格の低下をもたらす

独占企業の行動(3) 生産量の変更が収入に与える影響 p 価格の下落減収効果 数量の増加増収効果 p0 p1 D Q0 Q1 Q

限界収入 総収入 𝑇𝑅 𝑄 =𝑝(𝑄)∙𝑄 限界収入 marginal revenue 総収入 𝑇𝑅 𝑄 =𝑝(𝑄)∙𝑄 TR: 総収入(total revenue), p(Q): 需要曲線(逆需要関数) 限界収入 marginal revenue ∆𝑇𝑅=𝑇𝑅 𝑄+∆𝑄 −𝑇𝑅 𝑄 = 𝑝+∆𝑝 𝑄+∆𝑄 −𝑝∙𝑄 =𝑝∆𝑄+∆𝑝𝑄+∆𝑝∆ したがって ∆𝑇𝑅 ∆𝑄 =𝑝+ ∆𝑝 ∆𝑄 𝑄+∆𝑝≈𝑝+ ∆𝑝 ∆𝑄 𝑄 𝑀𝑅 𝑄 =𝑝+ ∆𝑝 ∆𝑄 𝑄 MRの第1項:数量増加による増収効果 第2項:価格の下落による減収効果;  ∆𝑝 ∆𝑄 (<0)

需要曲線と限界収入曲線 p D Q MR 𝑀𝑅=𝑝+ ∆𝑝 ∆𝑄 𝑄 <𝑝 が成立 限界収入曲線は必ず需要曲線の下側に位置する 𝑀𝑅=𝑝+ ∆𝑝 ∆𝑄 𝑄 <𝑝 が成立 限界収入曲線は必ず需要曲線の下側に位置する 需要曲線が直線の場合 限界収入曲線は需要曲線と切片が同じで傾きが2倍の直線になる D Q MR

独占企業の価格・産出量の決定 p MC D Q MR N pM E M QM MR=MCで利潤の最大化 QM,pMが独占企業の産出量・価格 効率的な点Eに比べ,三角形NMEだけ社会的余剰が減少 N pM MC E E点が効率的な点(MB=MC) 独占の存在より高い消費者価格,少ない産出量  消費者余剰がE点に比べ大きく減少していることにも注意 M D Q QM MR

限界収入と需要の価格弾力性 1 1− 1 𝜖 𝐷 : マークアップ率,限界費用の何倍の価格 をつけるか (完全競争の場合には1) 𝑀𝑅 𝑄 =𝑝 𝑄 + 𝑑𝑝 𝑑𝑄 𝑄=𝑝 𝑄 1+ 𝑄 𝑝 𝑑𝑝 𝑑𝑄 =𝑝(𝑄) 1− 1 𝜖 𝐷 需要の価格弾力性  𝜖 𝐷 =− 𝑑𝑄 𝑄 𝑑𝑝 𝑝 =− 𝑝 𝑄 𝑑𝑄 𝑑𝑝 価格の1%の変化が何%需要量を変化させるか 一般的には,需要曲線上の位置によって需要の価格弾力性は異なる。 独占企業の価格設定 𝑀𝑅=𝑀𝐶 より 𝑝 1− 1 𝜖 𝐷 =𝑀𝐶   𝑝= 1 1− 1 𝜖 𝐷 𝑀𝐶 1 1− 1 𝜖 𝐷 :  マークアップ率,限界費用の何倍の価格 をつけるか        (完全競争の場合には1)

需要曲線と限界収入曲線(3) p D MR Q 需要の価格弾力性が一定である場合の限界収入曲線 𝑀𝑅(𝑄)=𝑝(𝑄) 1− 1 𝜖 𝐷  より 需要曲線の高さ p(Q) と限界収入曲線の高さMR(Q)の比は常に一定 D MR Q

需要の価格弾力性と独占価格 独占企業は市場全体の需要曲線に直面(右下がり) 利潤最大化 p=p(Q)Q-C(Q) 利潤最大化の条件 完全競争企業は水平な需要曲線に直面(価格は所与) 利潤最大化 p=p(Q)Q-C(Q) 利潤最大化の条件 マークアップ率  価格は限界費用にマークアップ率を乗じて設定される eD=1.5 markup ratio=3.00 eD=2.0 markup ratio=2.00 eD=3.0 markup ratio=1.50 eD=5.0 markup ratio=1.25 eD=∞ markup ratio=1.00 需要の価格弾力性が高いほど,独占企業は高い価格をつけられなくなる  何故か?

自然独占企業に対する規制 限界費用価格規制(E点),平均費用価格規制(F点) F点:赤字を発生させないという制約のもとでの社会的余剰最大化点 E点:効率的。しかし,赤字発生(E点は平均費用逓減中  AC>MC のため) 平均費用最小化点で平均費用曲線と限界費用曲線は交わる

自然独占企業に対する規制 限界費用価格規制 赤字の発生 平均費用価格規制 独立採算のもとで社会的余剰 最大 伝統的な規制の問題点 限界費用価格規制 赤字の発生 平均費用価格規制 独立採算のもとで社会的余剰 最大 伝統的な規制の問題点 規制当局が真の費用関数を知っているという前提 効率的な経営のためのインセンティヴが無い X非効率性 レント・シーキング活動 新しい規制の方法 免許入札制(一定期間だけ独占権を与える) プライスキャップ規制 ヤードスティック競争 (他地域の同様な企業と比較)

独占の原因 政府の規制 自然独占 intel やMicrosoftの「独占」の原因は?Amazon や Googleは? 郵便サービス 電波の利用 自然独占 電気・ガス・水道 鉄道事業 高速道路事業 intel やMicrosoftの「独占」の原因は?Amazon や Googleは? 技術的優位性,ネットワーク外部性 独占はまもなく終焉?

政府の失敗 消費者保護,安全性の確保,その他の理由による (非合理的な)参入規制 非規制企業に超過利潤の発生 非規制企業は,政府による参入規制が独占的利潤 をもたらすことを知っている 政府に対する働きかけのインセンティヴ レント・シーキング(rent seeking)活動 レント・シーキングに最大限,独占によって獲得 したはずの超過利潤に等しいコストをかけも,レ ント・シーキングはペイする。

レント・シーキング活動の弊害 p MC AC D Q MR N pM E M QM 独占企業の獲得する超過利潤 自然独占性の無い産業(この図では2社がシェアを分かち合う方が効率的) 政府による参入規制独占利潤 被規制企業は,獲得できるであろう独占利潤まではレントシーキングに費用を投下 資源の濫用は大きい 無駄な資源の利用(最大:独占者の超過利潤)+死重損失NME MC N pM AC E D M Q QM MR

独占の弊害 死重損失 分配の問題 自然独占 政府による参入規制 消費者側に発生するはずの利益が生産者側に吸い上 げられる 非規制企業の真の費用関数を政府は知らない  何らかのインセンティヴ規制 自然独占性があるようにみえても潜在的競争が有効 に機能する場合あり 政府による参入規制 レントシーキング活動に伴う資源の浪費 規制当局と被規制企業の癒着

まとめ 電力自由化 郵便事業 電波の利用 発電事業と電力の供給事業を分離 発電事業に規模の経済性が失われてきた? かつては規模の経済性 宅配事業と違いはあるか 電波の利用 限られた周波数帯の利用 「公共性」による参入規制,放送内容の規制 デジタル化によって多チャンネル化希少性が失 われる 誰がどの周波数帯を使用するかの交通整理は必要 利用する周波数帯の競争入札制度