CERN反陽子減速器における 反水素を用いたALPHA実験

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CERN反陽子減速器における 反水素を用いたALPHA実験 石田 明 東京大学 平成28年3月2日 22nd ICEPPシンポジウム

目次 反物質(反水素)を用いた研究: CPTの検証 反陽子減速器(AD; Antiproton Decelerator)@CERN 陽電子蓄積装置 ALPHA実験 反水素の生成と閉じ込め、検出 ALPHA-2 実験の現状 反水素の電荷に対する新しい制限 まとめ 興味のある方は、高エネルギーニュース Vol. 33, No. 4, p. 258 も ご高覧願います。

反物質(反水素)を用いた研究 CPT対称性の検証 物理法則のもっとも基本的な対称性の一つ:  CPT (荷電共役・空間反転・時間反転) 対称性の検証 「局所場の理論」自体の検証であり、  他の対称性検証とは一線を画す。 量子重力理論では、  プランクスケールで CPT  を破る可能性→プランク  スケール物理のプローブ 反物質の重力 CPT変換 電子 反陽子 陽子 陽電子 = ? 水素原子  (物質) 反水素原子  (反物質) 反水素の性質 (質量、エネルギー準位、電荷、、) を精密に測定し、水素と比較 (モデルに拠らない。 K, νと相補的)

反陽子減速器(AD; Antiproton Decelerator) @CERN フランス LINAC → BOOSTER → PS → AD ジュネーブ CERN Meyrin site

反陽子減速器(AD; Antiproton Decelerator) 3.5 GeV PS (陽子シンクロトロン) 26 GeV 陽子 金属 ターゲット 世界で唯一、反物質研究  のための低エネルギー反陽子を  作れる装置 PS 加速器で 26 GeV 高エネルギー  陽子を作って、金属に当てる  →その反応で出てくる中に、ごく僅か  ~10-6 だけ、高エネルギー (3.5 GeV) 反陽子  →減速 (~1/1000エネルギー) 5.3 MeV →約 2分に1回、 3x107 個のパルス 現在、ALPHAをはじめ、ASACUSA(東大、理研など)、ATRAP, AEgIS, BASE, ACE の 6実験 (GBAR 実験も承認済み)。 将来、ELENA というアップグレード (建設中。2017年運転開始予定)によって   より低エネルギー (100 keV) の反陽子ビームを作る予定。 この中を回しながら減速

陽電子蓄積装置 (Positron accumulator) 反水素生成には、反陽子と陽 電子が必要。 高密度・低温な陽電子を供給 200秒で108個の陽電子を蓄積 速い e+ 遅い e+ 22Na 窒素ガスとぶつけて減速する 静電ポテンシャル 放射性同位体 陽電子線源 0~550 keVの 陽電子 固体ネオン モデレータ (減速材) 窒素ガス圧力 溜まった陽電子を、反水素閉じ込め装置に 送り出し、反陽子と混ぜる

ALPHA実験 Antihydrogen Laser PHysics Apparatus 現在、8ヶ国、16機関、約50人の国際共同実験 (2005年~) 前身のATHENA実験を引き継ぐ フェーズ1では、反水素を定常的に閉じ込めることが目的 石田は 2013.12-2015.11 の間、海外学振で参加 主な成果 世界初の反水素の閉じ込め (2010年, Nature 468, 673)

ALPHA実験 Antihydrogen Laser PHysics Apparatus 現在、8ヶ国、16機関、約50人の国際共同実験 (2005年~) 前身のATHENA実験を引き継ぐ フェーズ1では、反水素を定常的に閉じ込めることが目的 石田は 2013 年より海外学振で参加 主な成果 世界初の反水素の閉じ込め (2010年, Nature 468, 673) 1000秒間の閉じ込め (2011年, Nat. Phys. 7, 558)

ALPHA実験 Antihydrogen Laser PHysics Apparatus 現在、8ヶ国、16機関、約50人の国際共同実験 (2005年~) 前身のATHENA実験を引き継ぐ フェーズ1では、反水素を定常的に閉じ込めることが目的 石田は 2013 年より海外学振で参加 主な成果 世界初の反水素の閉じ込め (2010年, Nature 468, 673) 1000秒間の閉じ込め (2011年, Nat. Phys. 7, 558) マイクロ波による反水素スピン反転 (2012年, Nature 483, 439)

ALPHA実験 レーザーやマイクロ波を用いた精密分光実験へ Antihydrogen Laser PHysics Apparatus 現在、8ヶ国、16機関、約50人の国際共同実験 (2005年~) 前身のATHENA実験を引き継ぐ フェーズ1では、反水素を定常的に閉じ込めることが目的 石田は 2013 年より海外学振で参加 主な成果 世界初の反水素の閉じ込め (2010年, Nature 468, 673) 1000秒間の閉じ込め (2011年, Nat. Phys. 7, 558) マイクロ波による反水素スピン反転 (2012年, Nature 483, 439) 反水素の電荷に対する実験的制限 (2014年, Nat. Commun. 5, 4955) 反水素を、精密分光に必要な時間閉じ込め続けることに成功 →2012年より、フェーズ2 (ALPHA-2) 実験を開始 レーザーやマイクロ波を用いた精密分光実験へ

反水素の生成と閉じ込め e+ 低温・高密度な反陽子と陽電子を、電場を使って混ぜる できた反水素は中性 → 磁場で閉じ込め -μ・B (0.7 Kelvin/Tesla) 反水素は物質にぶつかると消滅 → 超高真空 反陽子 磁場(T) 1 Tesla 200 mm 磁場トラップの形 ミラーコイル(軸方向磁場) 八重極磁石  (動径方向磁場) 電極 シリコン検出器 e+ 静電ポテンシャル 位置z 反陽子をじわじわ 加熱して、必要最小限の エネルギーで陽電子と 混ぜる 混ぜたら、大きな電場で 荷電粒子(反陽子・陽電子)を 取り除いた後、電場はゼロに →中性粒子のみが磁場トラップに残る

反水素の検出 磁場トラップを瞬時に (~10 ms) ゼロにする。 反水素は、(物質でできた)壁に衝突 → 対消滅 反水素は、(物質でできた)壁に衝突 → 対消滅 対消滅で出てくる粒子(主に荷電パイ中間子)の飛跡を、  シリコン検出器で検出 壁で消滅し、多数の 粒子が生成 壁から離れた 一つだけの飛跡 反水素消滅事象 分解能: 動径及び方位角方向 65 μm       軸方向 253 μm 全60モジュール、計 30720 ストリップ 宇宙線 バックグラウンド

ビデオ(3分)

ALPHA-2実験の現状 2012年より、レーザー分光に向けて閉じ込め装置を刷新 2014年、暫定的に1試行あたり平均最大2.4個の反水素を閉じ込め   (フェーズ1に比べて3倍以上の向上) レーザー分光用のレーザー・キャビティーのテストを完了   → 実際に閉じ込めた反水素に照射した(原理実証実験) 今年中にも初精密分光予定

反水素の電荷に対する制限 2014年の Run の結果を解析→2016年1月、発表した。 Stochastic acceleration という技術を用いて、従来の制限より20倍厳しい制限を得た。 Nature 529, 373 (2016).

反水素の電荷に対する制限 時間変化 ポテンシャルの空間分布

反水素の電荷に対する制限 シミュレーションで、電荷の値によってどの程度生き残るかを見積もった

まとめ 反物質(反水素)を用いた研究は、物理法則の最も基 本的な対称性の一つである、CPT対称性の検証を目的 にしている。 欧州原子核研究機構(CERN)の反陽子減速器(AD)は、 世界で唯一、反物質研究に使える反陽子を供給して いる。 ALPHA実験は、世界初の反水素閉じ込めをはじめ、 数々の世界初の結果を連発してきた。 レーザーによる精密分光に向けたALPHA-2実験が進 んでおり、2014年の Run により、反水素の電荷に対し、 20 倍厳しい制限が得られた。 今年中にもレーザー分光を達成する予定。

バックアップ

ALPHA-1 における反水素の電荷に対する制限

ALPHA-2 実験装置全体図

ALPHA-2 Atom trap & laser path

ALPHA-2: 243 nm laser (Toptica)

水素原子と各種変換(スピン無視) CPT変換 水素 T変換 C変換 P変換 CP変換 反水素

ADの時間構造

八重極超伝導コイル

陽電子蓄積装置

ALPHA-1 反水素トラップの静電ポテンシャル

反水素消滅イベント分布 (ALPHA-1)

ALPHA-1 における反水素の閉じ込め

静磁場中における基底状態反水素のエネルギー準位(CPT仮定)

ゼーマン遷移曲線

マイクロ波:Disappearance mode

マイクロ波掃引に同期した、反水素消滅候補事象の分布